奇妙な物語

海藤日本

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妙な女

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 これは、「リア」という一人の若い女性が体験した話である。
 リアは、とても内気な性格であった。
 故に、人と親しくなるには、多くの時間がかかってしまう。
 そんな彼女には、一人の親友が居た。
 名前は「キユリ」
 二人は大学生時代からの親友である。
 キユリはリアと正反対の性格で、誰とでも親しく出来る女性であった。
 それが逆によかったのか、リアもキユリには心を開いていた。
 リアは、キユリの事を心から尊敬しており憧れを抱いていた。
 そんなある日、二人はある喫茶店でこんな話をしていた。

「キユリは私と違って、人とのコミュニケーションも取れるし、明るくて、顔立ちもとても綺麗だから羨ましいなぁ。私もせめて、この内気な性格ぐらいは治す事が出来ればいいのに」

「リア。またその話? 皆、個性があるからいんでしょ? それに、内気な性格って別に悪い事じゃないと思うよ。後、リアだって顔が綺麗なんだから、気にする事はないと思うけどなぁ。私はね、内気なリアが私に心を開いてくれた時はとても嬉しかったんだよ。だから、私の事が羨ましいとか思わないで。私は私、リアはリア」
 
 それを聞いたリアは顔を赤くした。
「うん、ありがとうキユリ。」 
 しかし、心の中では「だから、憧れちゃうんだけどなぁ」と思っていた。
 喫茶店を出ると、リアはキユリにある話を持ちかけた。

「ねぇ、リア。今度の休みの日、温泉旅行でも行かない? まだ、私達泊まりで旅行した事ないからさ」
「温泉旅行か……うん! いいよ!」
「やったー! 楽しみ」
 
 そして、温泉旅行当日を迎えた。
 二人はある旅館に行く事になった。
 リアは、初めて親友と泊まりで旅行するのを凄く楽しみにしていた。
 その為、普段は内気なリアではあるが、キユリと一緒に居る時だけはむじゃきにはしゃいでいた。

「ねぇキユリ、先に温泉入ろ!」
「うん、そだね。……私、ちょっとトイレに行くから先に入ってて」
 
 こうして、リアは先に温泉に入る事になった。
 先に身体を洗い、それから温泉に浸かった。
 リアは、温泉に行くのは小学生以来だった為、懐かしさと、温泉の気持ちよさで、至福の時を過ごしていた。
 すると、リアを呼ぶ声が聞こえた。

「リアー! 何処ー?」  
「あっ! きっとキユリだ。ここの温泉、思った以上に広いから行かなくちゃ」 
 リアは「すぐ行くー!」と言い、声のする方へ向かった。
 
 しかし、何処を見渡してもキユリの姿は見えなかった。
「聞き間違えかな? 確かにリアって名前呼ばれた筈なんだけど……」
 そう思っていると「リア! こっちこっち!」と声が聞こえた。
 
 リアは後ろを振り向いた。
 しかし、そこに立っていた人はキユリではなく、別の女性であった。
 リアの頭は混乱した。

「……この人誰?」
 
 身体が固まっているリアに、その女性は歩み寄って来た。

「さぁ、早く入ろ」
 
 そう言われリアは手を掴まれた。
 先程も言ったが、リアはとても内気な性格である。
 故に、初見の人と話すのは大の苦手であり、何も言えなかった。
 こうして、温泉に浸かった二人。
 知らない女性は、親しげにリアに話しかけてくる。
 リアの頭は混乱していた。
 その為、話も声すらも、全く届いていなかった。

「キユリ、早く来ないかな……。お願い、早く来て! この妙な女は誰なの?」
 
 リアは心の中で強く願った。
 すると、肩を軽くぽんぽん叩かれ、それにびっくりした。
 相手はあの妙な女であった。

「ねぇ、リア聞いてる? さっきから、ずっと下向いて。……もしかして、のぼせちゃった? もう、身体も洗ったしそろそろ上がる?」
「え? ……私、また身体洗ったの?」
 
 リアは、自分が再び身体を洗った事すら忘れるくらい混乱していた。
 そして、妙な女に言われるがままお風呂から上がった。
 妙な女は、服を着ると「確か、この部屋だったよね?」とリア達の泊まる部屋まで把握していた。
 
 リアは、心の中で何度も自分と戦っていた。「言わなくちゃ言わなくちゃ! 人違いですって!」
 しかし、その声が出る事はなくあっという間にご飯が運ばれてきた。
「うわー、リア見て! めっちゃ豪華じゃん! 早く食べよ?」
 リアは、ずっと下を向いていた。
「リア、どうしたの? さっきからずっと下向いて。具合でも悪いの?」
 
 それを聞いたリアは「やばい! あんまり変な態度を取ったら、何をされるか分からない!」と思い、咄嗟に顔を上げた。
「ううん、ご、ご飯美味しそうだね。は、早くた、食べよ」
 リアは、焦りで呂律がうまく回らなかった。
 もう完全に、この空間は妙な女に乗っ取られていた。
 
 いくらリアが内気な性格であれ、流石にここまで来ると「人違いです」って言える筈である。
 しかし、この妙な女からは何とも言えないオーラを感じ、不思議と「言ってはいけない」
 そう思ってしまうのだ。
 普段は、あまり食べる事の出来ない食べ物がテーブルに並んでいるが、流石に手がでなかった。     

 だが、「少しくらいは食べないと、また怪しまれる」
 リアはそう思い、ただ無心に目の前の食べ物を喉に通した。
 しかし、味が全くしない。
「んーおいしい! こんなに美味い料理を食べるのは本当に久しぶり!」
 それとは逆に、妙な女は満足ぶりに食していた。
 その光景を見て、リアは心が折れた。

「駄目だ、言えないや……。キユリ、きっと怒っているだろうな。……いや、もうここまできて来ないって事は、もう気づいて帰っちゃったのかなぁ。唯一の親友だったのに。この妙な女のせいで、全て台無しじゃない!」
 
 リアの心は、徐々に怒りへと変わっていった。

「本当はキユリと温泉入りたかったのに。本当はキユリと美味しいご飯を食べたかったのに。この女……お前が今食べているのは、本当はキユリが食べる筈だったのよ。許せない。当たり前に話しかけてきて、当たり前に友達みたいな面をして、当たり前にご飯を食べて。……まさかこの女、キユリに何かしたんじゃ? 普通にキユリの性格からして、この光景を見たら絶対一言、言ってくる筈だ」
 
 怒りと共に、不思議とリアは少し冷静さを取り戻した。
 リアはとうとう決意した。
「あの!」
 
 その瞬間、妙な女は急に立ち上がった。
「ねぇ、リア……」
「な……なに?」
「気付いていたんでしょ?」
 
 リアの心拍数が上がる。
「う、うん」
「やっぱり……。私少し太ったよね?」 
「……え?」
「今日も食べすぎちゃったし、ちょっと散歩しない? 夜風も浴びたいし。ちょっと準備してくるね!」
 
 そう言い、妙な女は洗面台へと向かった。
 気付いたら料理は全てなくなっており、皿も全て片付けられていた。

「もしかしたら、キユリがトイレに居るかも!」
 
 リアは、急いでトイレへと向かった。
 しかし、トイレにキユリの姿はなかった。

「あの女……キユリを何処へやったの?」
 
 リアは急いで部屋に戻り、洗面台へ向かった。
 そして、とうとう妙な女にこう言った。

「ねぇ! あんた誰なの?」
 
 それを聞いた妙な女は、ゆっくりと顔を振り向かせた。

「どうしたの? 私……キユリだよ」

「……え? 嘘……」
 
 そこに立っていたのは、キユリであった。
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