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[18] 縦穴

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 取り残された3人はしばし呆然とする。
 それはそうだ。いっしょに探索してた仲間がいきなり底の見えない縦穴に飛び込んだんだから。いや飛び込むにしたってなんらかの準備をするのが当然だ。魔法を前もって発動させておくとか。
 りっちゃんのことをよく知ってる私でも相当の衝撃を受けた。他の2人の驚きはその比じゃないだろう。自殺行為。いきなり頭がおかしくなったのかと思われても不思議じゃない。
 いやまあ実際頭がおかしい部分はあると思うけど。

 私が一番先に我を取り戻した。衝撃が小さかった分だけ早かった。
 りっちゃんは縦穴の構造をまったく把握していない。それがどれだけの深さで、また落ちた先がどうなっているのか、全然知らないまま飛び込んでいった。
 普通、人間は命が惜しいのでそういうことはやらない。けれどもりっちゃんはやる。その場その場の計算でどうにかなると考えているから。実際のところ今も方法は知らないがなんとかやっていることだろう。
 しょうがない。私は2人に向かって頭を下げた。
「ここまでありがとうございました。こんな形の別れになるとは思ってませんでした。すみません。また出会うことがあればその時はよろしくお願いしますね。では!」
 それだけ言って穴へと飛び込んでいった。

 私はどちらかと言えば空気のコントロールに長けている。風を操り落下速度を調整する。並行して縦穴内の空気の流れからその形を計測した。
 結構深い。100Mあるかないかぐらい。何の対策もなしに落ちたらぐちゃぐちゃになって死ぬ。
 といってもりっちゃんのことは心配してない。天才だから。それよりあの2人には悪いことしたなあと思う。協力関係を結んだからには最後まで付き合いたかった。
 実力の一端を見た限りでは足を引っ張ったり引っ張られたりすることもなかったようだったし。むしろ解析結果だけ教えてもらって便利に使ったみたいになってしまった。
 別れるにしたってこっちもなんらかの形で役に立ってからのが気分がよかった。そんなことを考えていれば終着点は見えてきた。

 ふわりと地面に降りる。黒い水をたたえる地底湖の岸辺に私は立っていた。
「りっちゃんどこー?」
「スー来た!」
「あのね、今日は私たちだけじゃないんだから勝手な行動はだめだよ」
 無事りっちゃんと合流する。
 一応しかっておくが効果はあんまり期待していない。何というか、私の言うことを素直に聞くりっちゃんとかりっちゃんじゃない。

 さて、これからどうしたものか?
 ヘンリエッタによればショートカットにはなってはいるようだ。まあ近くまで来れているならあとは私でもりっちゃんでも、探索仕掛けつつ進めば辿りつけるだろう。坑道そのものに解析はかけられなくとも、水の流れを読むなり空気の流れを読むなりやりようはある。
 なんにしろ一休みしてからにしよう――と考えていたところ、頭の上からしゅーっと何かが滑る音が聞こえてきた。なんだろうと光をさし向けてみれば、縦穴の外壁をららせん状に滑り台に変形して降りてくる2人の姿が見えた。
 そんなこともできるんだと感心しているうちに2人滑り台を最後まで滑りきった。地面まで多少距離があったので、余計なお世話かもしれないが、衝撃を和らげるべく風のクッションを展開しておいた。
「ありがとう」
 ヘンリエッタに礼を言われる。どういたしまして。小さなことからでもいいので迷惑かけた分は、返していきたいところ。
 りっちゃんが駆け寄ってきた。
「何今の、すっげーおもしろそう。私もやりたかった!」
「人の話を聞かずに勝手に降りたのは君だろう……」
 まったくその通り!

 トラブルはあったが結局また4人で行動することになった。
 といっても魔力をそこそこ消費したので湖畔で小休憩をとる。翠蘭の持ってきてたあったかいお茶でほっと一息つく。ついでに携行してた羊羹って回復につとめる。
 不意にヘンリエッタが尋ねてきた。
「どうして冒険者になったんだ」
 思わず私は素で答えていた。緊張と緩和、あるいは閑話? しょうもないダジャレは置いとくとして、心の緩んだ瞬間に言葉を差し込まれてきた。要するに油断していた。
「りっちゃんが冒険者になるって言ったから」

 我ながら異質な解答だ。命をかける理由としては軽すぎる。少なくとも他人からそう思われても仕方がない。
 何も正直に答える必要なんてなかったのに。当たり障りのない理由ぐらいその場でいくらでもひねり出せた。あるいはそのぐらい用意しとけばよかった。
 いやそうすることが不誠実に感じられる何かが彼女の言葉にはあった。真摯に答えなければいけないような。その"理由"というものが彼女にとって非常に重要なもので、虚偽でごまかすことを許さないといったような。
 それを受け入れる程度には私は彼女のことを好ましく感じていた、とも言える。

 ヘンリエッタが私の答えをどう思ったのかわからない。そこで会話は途切れてしまって、その後もずっとそれに関して彼女が触れることはなかったから。
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