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金星はいざなう
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情報収集をするにあたり、まずは三人で大学図書館へ向かう流れになった。
俺はステラを外に連れて行くのに反対だったが、「一緒に来てもらった方がわかることも増えるんじゃないか」と陽太が言い、ステラも付いていきたいと駄々をこねるものだから、根負けしてステラの同行を認めた。
陽太の姉のお古の淡い水色のワンピースを着せ、駅前の露店で買った麦わら帽子を深く被せて顔を隠したはいいが、俺は道中でステラがまた何かやらかさないかと気が気でなかった。
「あ、キリンさんだ!」
駅構内の通路の壁に貼られた動物園の広告をステラが指さした。
「ゾウさんもいるし、あれはライオンさんか? あの動物さんたちとはどこで会えるんだ?」
「動物園に行けばいくらでも見られる」
外見よりも明らかに幼稚なステラに、俺は周りの目が気になって仕方なかった。
それに対して、陽太は周囲の視線など気にする様子はなく、ステラと話を合わせていた。
「ステラちゃん、動物さんに詳しいんだね」
「ああ、絵本で知った」
「絵本読んだことあるんだ」
「ああ、それはな……」
「おい、いつまでも突っ立ってないで行くぞ」
人通りが多い場所にステラを置く時間を少しでも短くしたかった俺は二人を急かした。
「ちぇっ、せっかくステラちゃんと楽しくおしゃべりしてたのに」
「すぐに図書館に行こうと言ったのはお前だろ、しっかりしてくれ」
その後もステラは、通りすがりの人のお団子ヘアーや、駅前のハンバンガー屋であったりと、目についたものについていちいち質問を投げかけた。
慣れているはずの大学までの経路は嫌に長く感じ、強い日差しと相まって、俺は既に疲労困憊だった。
構内は夏季休暇のため人が少なく、ステラはその広さにはしゃいでいる。俺とはまるで対照的だ。
図書館に入ると冷房で少しだけ生き返ったような気になった。
陽太が受付で学生証を見せると、係員が俺たち三人を通した。代表者一人が学生証を出せば連れはチェックされずに入れるということを、陽太から聞くまで俺は知らなかった。
さて、何はともあれ、目的地についた。
この図書館は、膨大な論文と学術書のみならず各社の新聞や商業雑誌など、あるゆる情報が終結した、いわば叡智の集合体だ。
今朝は陽太の提案に反対したが、やると決まればとことんだ。
これだけたくさんの情報が集まっているのだから、何の成果も得られずに帰るわけないはいかない。
「……駄目だ、なんにも見つからない」
調査を始めて3時間。早くも俺たちの心は折れかけていた。
「俺とお前でそれぞれ上限の10冊まで借りるって話だったけど……今何冊だ?」
「2冊」
「こっちは1冊も見つかってない」
「正直……これについては俺も後悔してるわ」
「だから言ったんだ、時間の無駄だって……それで『月刊オカルティズム』はどうだった?」
「ここ5年くらいしかなくて、10年前の話なんて載ってなかったわ」
こんなことなら数件のスーパーを巡って、ステラを匿うのに必要な食材を特化で買い集めた方が、よほど有意義だったのではないかと思えてきた。
「なあレン、これは何だ? このトンボという虫はどうして二匹で繋がってるんだ?」
ステラが昆虫図鑑の写真を指差して尋ねた。
こちらの苦労など露知らず、ステラはずっと楽しそうにしている。
「それは交尾だよ。地球上のほとんどの動物はオスとメスが交尾しないと子供を作れないんだ」
「コービか、なるほど覚えた。じゃあ、人間もコービするのか?」
「その話はまだステラには早い。それと、もう少し声を小さくしてくれ」
この手の無邪気な質問に、世の好奇心旺盛な子を持つ親はどう答えているのだろう。コウノトリが運んで来ると定番の嘘をついて誤魔化せば良いのか。
「なあ、見ろよ。ビックフットのミイラだってよ」
陽太がオカルト雑誌の見出しを見せてきた。思わず溜息が漏れた。
「おい、今は宇宙人だ。ビックフットなんて関係ないだろ」
俺が呆れ交じりに言った直後、背後から聞き覚えのない女性の声が飛んできた。
「――異議あり!」
振り返ると、見知らぬ女性が、眼鏡の奥から真剣な眼差しをこちらに向けていた。
「ビックフットの正体は宇宙人だとする説はかなりメジャーよ。宇宙人のペットだという説もある。まあ私としてはホモ・サピエンスとは別の進化を辿った類人猿だとする説を推しているけど」
「えっと……」
俺と陽太そしてステラでさえも、ポカンと口を開けることしかできなかった。
その女性はスラっと伸びた長身にショートカットで、口元には黒子があり、外見だけなら美人で大人っぽい印象だが、オタクっぽい早口がそれら全てを台無しにしている。
「ごめんなさい、同志に会えたのが嬉しくて、つい興奮しちゃった」
「同志?」
この人は何を言っているのだろう?
「そう、君たちと私は同じオカルトを愛する同志! さっきから気になって見てたのだけど、君たち、宇宙人や未確認飛行体関連の文献ばかり漁ってるじゃない! 宇宙人の存在を信じてるんでしょ!」
「信じていると言えば、まあ……」
信じるも何も、実際すぐ横にいるのだ。
明らかに面倒そうな人だ。俺はこの人から早く離れる方法を考え始めたが、あろうことか陽太が女性の話に乗っかった。
「実はそうなんですよ! 俺たち宇宙人について研究しててるんです。それでお姉さん、UFOや宇宙人関連で国内の事件とか噂話を何か知りません? 出来れば10年くらい前のだと良いんですけど」
得体の知れない人間に臆することなく話しかける陽太に、俺は驚愕を隠せなかった。
しかし、この人はオカルトに精通しているようだから、もしかすると何か情報を持っているかもしれない。
「10年前……ええ、知ってるわ。ちょっとニッチだけど、信憑性のある噂」
「え、本当ですか?」
陽太やステラと顔を見合わせた。
偶然にも有力な情報筋を得たようだ。
「ただし、教えるのには条件があります」
「「条件?」」
俺と陽太の声が重なった。
どうも嫌な予感がした。
「君たち、E.T.研に入部しなさい。そうしたら、私の知ることを何でも教えてあげる」
「イーティー研?」
「そう、地球外生命体――Extra-Terrestrial研究会。略してE.T.研。そして私こそがE.T.研の部長、金森茜。それではヨロシク同志諸君。さあ、私たちの部室に行きましょう」
俺たちは勢いのままに、部室棟へと案内――否、連行された。
俺はステラを外に連れて行くのに反対だったが、「一緒に来てもらった方がわかることも増えるんじゃないか」と陽太が言い、ステラも付いていきたいと駄々をこねるものだから、根負けしてステラの同行を認めた。
陽太の姉のお古の淡い水色のワンピースを着せ、駅前の露店で買った麦わら帽子を深く被せて顔を隠したはいいが、俺は道中でステラがまた何かやらかさないかと気が気でなかった。
「あ、キリンさんだ!」
駅構内の通路の壁に貼られた動物園の広告をステラが指さした。
「ゾウさんもいるし、あれはライオンさんか? あの動物さんたちとはどこで会えるんだ?」
「動物園に行けばいくらでも見られる」
外見よりも明らかに幼稚なステラに、俺は周りの目が気になって仕方なかった。
それに対して、陽太は周囲の視線など気にする様子はなく、ステラと話を合わせていた。
「ステラちゃん、動物さんに詳しいんだね」
「ああ、絵本で知った」
「絵本読んだことあるんだ」
「ああ、それはな……」
「おい、いつまでも突っ立ってないで行くぞ」
人通りが多い場所にステラを置く時間を少しでも短くしたかった俺は二人を急かした。
「ちぇっ、せっかくステラちゃんと楽しくおしゃべりしてたのに」
「すぐに図書館に行こうと言ったのはお前だろ、しっかりしてくれ」
その後もステラは、通りすがりの人のお団子ヘアーや、駅前のハンバンガー屋であったりと、目についたものについていちいち質問を投げかけた。
慣れているはずの大学までの経路は嫌に長く感じ、強い日差しと相まって、俺は既に疲労困憊だった。
構内は夏季休暇のため人が少なく、ステラはその広さにはしゃいでいる。俺とはまるで対照的だ。
図書館に入ると冷房で少しだけ生き返ったような気になった。
陽太が受付で学生証を見せると、係員が俺たち三人を通した。代表者一人が学生証を出せば連れはチェックされずに入れるということを、陽太から聞くまで俺は知らなかった。
さて、何はともあれ、目的地についた。
この図書館は、膨大な論文と学術書のみならず各社の新聞や商業雑誌など、あるゆる情報が終結した、いわば叡智の集合体だ。
今朝は陽太の提案に反対したが、やると決まればとことんだ。
これだけたくさんの情報が集まっているのだから、何の成果も得られずに帰るわけないはいかない。
「……駄目だ、なんにも見つからない」
調査を始めて3時間。早くも俺たちの心は折れかけていた。
「俺とお前でそれぞれ上限の10冊まで借りるって話だったけど……今何冊だ?」
「2冊」
「こっちは1冊も見つかってない」
「正直……これについては俺も後悔してるわ」
「だから言ったんだ、時間の無駄だって……それで『月刊オカルティズム』はどうだった?」
「ここ5年くらいしかなくて、10年前の話なんて載ってなかったわ」
こんなことなら数件のスーパーを巡って、ステラを匿うのに必要な食材を特化で買い集めた方が、よほど有意義だったのではないかと思えてきた。
「なあレン、これは何だ? このトンボという虫はどうして二匹で繋がってるんだ?」
ステラが昆虫図鑑の写真を指差して尋ねた。
こちらの苦労など露知らず、ステラはずっと楽しそうにしている。
「それは交尾だよ。地球上のほとんどの動物はオスとメスが交尾しないと子供を作れないんだ」
「コービか、なるほど覚えた。じゃあ、人間もコービするのか?」
「その話はまだステラには早い。それと、もう少し声を小さくしてくれ」
この手の無邪気な質問に、世の好奇心旺盛な子を持つ親はどう答えているのだろう。コウノトリが運んで来ると定番の嘘をついて誤魔化せば良いのか。
「なあ、見ろよ。ビックフットのミイラだってよ」
陽太がオカルト雑誌の見出しを見せてきた。思わず溜息が漏れた。
「おい、今は宇宙人だ。ビックフットなんて関係ないだろ」
俺が呆れ交じりに言った直後、背後から聞き覚えのない女性の声が飛んできた。
「――異議あり!」
振り返ると、見知らぬ女性が、眼鏡の奥から真剣な眼差しをこちらに向けていた。
「ビックフットの正体は宇宙人だとする説はかなりメジャーよ。宇宙人のペットだという説もある。まあ私としてはホモ・サピエンスとは別の進化を辿った類人猿だとする説を推しているけど」
「えっと……」
俺と陽太そしてステラでさえも、ポカンと口を開けることしかできなかった。
その女性はスラっと伸びた長身にショートカットで、口元には黒子があり、外見だけなら美人で大人っぽい印象だが、オタクっぽい早口がそれら全てを台無しにしている。
「ごめんなさい、同志に会えたのが嬉しくて、つい興奮しちゃった」
「同志?」
この人は何を言っているのだろう?
「そう、君たちと私は同じオカルトを愛する同志! さっきから気になって見てたのだけど、君たち、宇宙人や未確認飛行体関連の文献ばかり漁ってるじゃない! 宇宙人の存在を信じてるんでしょ!」
「信じていると言えば、まあ……」
信じるも何も、実際すぐ横にいるのだ。
明らかに面倒そうな人だ。俺はこの人から早く離れる方法を考え始めたが、あろうことか陽太が女性の話に乗っかった。
「実はそうなんですよ! 俺たち宇宙人について研究しててるんです。それでお姉さん、UFOや宇宙人関連で国内の事件とか噂話を何か知りません? 出来れば10年くらい前のだと良いんですけど」
得体の知れない人間に臆することなく話しかける陽太に、俺は驚愕を隠せなかった。
しかし、この人はオカルトに精通しているようだから、もしかすると何か情報を持っているかもしれない。
「10年前……ええ、知ってるわ。ちょっとニッチだけど、信憑性のある噂」
「え、本当ですか?」
陽太やステラと顔を見合わせた。
偶然にも有力な情報筋を得たようだ。
「ただし、教えるのには条件があります」
「「条件?」」
俺と陽太の声が重なった。
どうも嫌な予感がした。
「君たち、E.T.研に入部しなさい。そうしたら、私の知ることを何でも教えてあげる」
「イーティー研?」
「そう、地球外生命体――Extra-Terrestrial研究会。略してE.T.研。そして私こそがE.T.研の部長、金森茜。それではヨロシク同志諸君。さあ、私たちの部室に行きましょう」
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