流れ星と暮らすワンルーム

尾松傘

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エロのヴィーナス

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「正確にはUFOかあるいは知的生命体を乗せた隕石と噂されているわ。あれほど大きな火球なら、燃え尽きずに地上に落ちる確率が高いの。だから隕石を求めて落下した可能性のある地域を何人ものマニアが探したわ。それでも隕石が見つかることはなかった。だけどね、代わりに不可解なものが見つかったの」

 金森さんは棚からクリアファイルを取ると、そこから1枚のA4紙の束を抜き出した。
 それはどうやらブログ記事を印刷したようなもので、山中の写真が大きく載せられていた。

「ほら見て、この辺り一帯の木だけ倒れてるの。それに焦げたものもある」

 金森さんが見せた別の写真には焦げて墨になっている木が写っていた。

「つまり、ここに隕石かUFOが落ちたってことですか?」

 陽太がいぶかしげに尋ねた。
 俺もこれだけでは証拠としては弱いと感じた。木が倒れていたり、炭化しているだけならば嵐や雷で説明がつく。

「それだけじゃないの。肝心なのはここからよ。こっちの写真を見て。土の色が違うでしょ。しかもそれを落ち葉で隠している。明らかに人の手が加わった痕跡があるの。ここにはきっと重大な秘密を抱えた何かが落ちて、それを回収した後にクレーターを埋めたのよ」

 確かに人が土や枯れ葉を被せたように見えなくもないが、これだけでUFOや隕石が落ちた証拠だとは言えない。ましてやそこに地球外生命体が乗っていたとするのはもはや暴論だ。
 ステラのルーツについて早速核心に迫ったかと思ったが、正直に言うと期待したほどの情報ではなかった。

「他には何も無かったのか? 宇宙人を見たという者はいなかったのか……?」

 ステラが誰より早く口を開いた。
 彼女は知りたいのだろう、自分がどこから来た何者であるかを。
 俺はてっきり楽しそうだからという理由で付いてきたのだと思っていたが、どうやら彼女は俺の想像よりずっと真剣に自分のルーツを探し求めているようだ。

「残念だけどこれだけ。実際にUFOや宇宙人を見たという証言はないわ」
「実際にその場所に行って調べることは出来ないんですか?」

 俺は金森さんに尋ねた。
 確度の低い情報であっても他に手掛かりがない以上は、闇雲に情報収集するよりもこれを深堀した方が良いだろう。
 山を登って調べに行くのは骨が折れそうだが、やってみる価値はある。

「この記事に山の名前は書かれていないの。それにブログも消えて記事を書いた本人とも連絡は取れない」
「この写真じゃ流石に場所を特定するのも厳しいな。それに10年も経ってちゃ……噂の域を過ぎないけども、1日で情報を得られただけ良しとするか。ステラちゃんも分かってくれる?」
「ああ……」

 陽太に宥められステラが小さく頷く。
 悲しげな表情に思わず胸が痛んだ。

「ところで、君たちはどうして地球外生命体について探ってるのか聞いてもいいかな? やけに必死なようだけど」
「ステラの自由研究なんです。宇宙人を見つけることが目的で」
「それはそれは……なかなか将来有望だね」

 自由研究で宇宙人について調べるというのは俺自身の小学生の話だ。夜空を流れた光をUFOと信じて自由研究の題材は天体観測から宇宙人調査に変わった。
 夏が過ぎても数年が経っても俺はあの光に感じた不思議な感覚を忘れられず、どこかにいる宇宙人が自分を持っているのではないかと幾度も夢想してきたが、次第に現実を理解して馬鹿げた妄想の世界へ逃避することはなくなっていった。
 まさか本当に宇宙人がいて、しかもあの日見た光との関係性が浮上するなんて思いもしなかったが……。
 
「ステラちゃんはなんで宇宙人を見つけたいのかな?」
「ワタシは……仲間を見つけたいんだ」
「仲間、ね。この齢で宇宙的ヒューマニズムの域に至るとは、ますます末恐ろしい」

 よくわからないがステラの発言を都合よく解釈してくれたようでなによりだが、これ以上ステラへの質問が続くとボロが出るかもしれない。早々に話の流れを変えなくては。

「ところで、金森さんはどうして宇宙人の研究をしているんですか?」
「ほうほう、私にそれを聞くか……私が地球外生命体を求める理由、それはね、私の野望を叶えるためよ……」

 金森さんの目が眼鏡の奥でキラリと光るのを見て、余計な質問をしたと後悔した。

「あまり開けっぴろげにするような内容じゃないから、普通の人には話さないんだけど……君たちは同胞だからね。少しくらいは理解できる部分があるかも知れないわね」
「勿体ぶらないで聞かせてくださいよ」

 俺は「話したくないなら結構です」と断ろうとしたが、陽太の方が早かった。

「そこまで言うなら私の夢を語ろうではないか。ただしステラちゃんにはちょっと早いから、陽太っち、ステラちゃんの耳を塞いどいてくれる?」

 さらっとあだ名で呼ばれた陽太が、ステラの耳を手で塞ぐ。
 陽太は、俺と違って、面白そうな話が聞けそうだと期待しているようだった。
 ステラは耳を塞ぐ行為の意味がよく分からないのかポカンと口を開けている。
 金森さんは立ち上がり、わざとらしく咳払いをしてから演説を始めた。

「そう、私、金森茜がこのE.T.研で地球外生命体を探す理由……それは宇宙人とセックスするためよ!」
「「は?」」

 俺も、そしておそらく陽太も、金森さんのことは変な人だとは思っていたが、それにしてもあまりに衝撃的な発言に脳の処理が追いつかなかった。

「宇宙人は地球人のDNAを求めてやって来るとする説は昔から有力でしょ? 実際、宇宙人に誘拐されて宇宙人の子供を妊娠、出産したと証言する人は大勢いるの。凄いと思わない? まさに未知との遭遇、いやむしろ未知との挿入! 広大な宇宙に浮かぶこの青い星で、孤独を抱えたふたつの生命が種を超えて繋がるのよ! はああぁ~~❤︎ いったいどんなプレイになるのかしら! 火星人タイプだったらやっぱりぬるぬる触手かしら。いゃ~~ん❤︎ あと爬虫類形レプタリアンも捨てがたいわね、硬い鱗を触ってみたい、アッチもやっぱり硬いのかしら❤︎ 考えただけで涎が出そう! ていうか、やばい、出てる! あ~~ん❤︎ 早く会いたい! そしてヤリたい! 繋がりたい! 私はきっとエイリアンとセックスするために生まれて来たのよ! そうすることで私は初めて満たされるの! ビバ・ユニバース! ビバ・惑星間交流!」

 無論、ドン引いた。陽太も俺と同じ反応だ。
 凍りついた部屋の中、変態女だけはなぜかドヤ顔をしている。
 しばらく続いた静寂を壊したのは、耳を塞ぐ陽太の手を振り解いたステラの一言だった。

「セックスってなんだ?」

 丸聞こえじゃねぇか。
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