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揺れる帰路
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E.T.研へ入部すると言った傍から撤回はできず、俺たちは変な女が部長を務める変なサークルに所属することとなり、詳しい活動内容は追々説明するということで連絡先の交換だけして解散となった。
駅の改札をくぐり見送りに来た金森さんと別れた後、陽太と今後について軽く話したが、ひとつだけはっきり言えることがあった――あの部長にだけはステラの正体を知られてはならない。
ステラが宇宙人だということがバレてあの特殊性癖女の餌食になったらと想像すると震えが止まらないのは俺だけでなく、陽太も同じであった。
陽太は「あんな人が部長のサークルで平気か?」と心配されたが、不思議なことに嫌悪感はあまり感じなかった。もちろんドン引きしたが、あそこまで異常だともはや別の生物のように感じるのか、俺個人があの人と接することに対しての憂鬱よりもステラの身の安全に対しての心配が勝ったせいか、これまで感じてきたような苦手意識は感じなかった。
もしかすると、今はあまりの衝撃に感覚が麻痺しているだけという可能性もあるが、ひとまずは問題ないと陽太に伝えた。
それを聞いて、陽太は安心したようで「またな」と言って反対方面のホームへと向かっていった。
帰りの電車の座席に腰掛けると、大した運動はしていないはずなのにどっと疲れがのしかかってきた。
今日は図書館で調べものをするだけの予定が、一体どうして変態女の研究会に入部する羽目になったのか。
ぐったりとした俺とは対称的に、隣に座るステラはやけに満足気だった。
「お前はどうしてそんなに楽しそうなんだ?」
「ヒトがいっぱいいてとても面白かった」
「沢山いても別に良いことないよ。中には悪い奴だっている。それはステラも知っているだろう?」
「……たしかに、嫌なニンゲンにはいっぱい会った。でも今日はダレもワタシを傷つけなかった。ヨータは明るいし、アカネは、何を言ってるのかよくわからなかったが面白かった。みんないいヒトだ」
「そうか、ステラはそんな風に思うのか」
ステラの純粋さは心底羨ましく思えた。俺もこれだけ真っ直ぐな人間だったら、もっと楽に生きられただろう。
「レンは違うのか?」
「俺はステラのように他人を肯定的に捉えることはできない」
「どういうことだ?」
「すぐに自分と比べてしまうんだ。自分のことが嫌いだから、他人のことを批判的に見ないと自己肯定感を保てないんだ思う。いつも嫉妬して他人の美点を素直認められない。そのせいで昔から人付き合いが苦手なんだ」
俺は自分のことをあまり語りたがる性格ではないが、なぜだかステラには本音で話すことができた。
もしかすると、それは彼女が人間ではなく宇宙人であるせいかもしれない。人間という群れに馴染めない俺には、むしろ宇宙人の方が気を許せるように思える。
「ワタシにはレンの言ったことはあまりわからなかったが、でも、レンはいいヒトだと思うぞ」
「そんなことないよ」
ステラはきっと俺の歪みも孤独も理解できないだろうが、それでも構わなかった。
突き詰めれば自分の感情は自分にしか理解できないのだから、最初から他人に理解を求める必要などないのだ。
「レンも辛いんだな」
不意に、ステラが俺の頭を撫でた。
「この歳で子供扱いか」
二十歳手前にもなって自分より小さな女の子に撫でられるなんて恥ずかしくてたまらないが、ステラの手を払う気にはならなかった。
「こうすると心が落ち着くとワタシに教えてくれたヒトがいたんだ。リサと言ってな、言葉とか色んなことを教えてくれて、いつも優しくしてくれた。とっても大切なヒトだ」
ステラは普段の無邪気な笑顔と違った、懐かしい思い出に浸るような柔らかな笑みを浮かべた。
「そうか、悪い奴らばかりじゃなくて優しくしてくれた人もいたんだな」
「ああ。だから、リサには無事でいて欲しい……」
ステラの不穏な言葉に「え?」と聞き返したが、彼女は俺の頭から手を離し、その後は何も語らなかった。
訊きたいことは山ほどあったが、車窓の風景をぼんやりと眺める悲し気な瞳に、すっかり言葉を失ってしまった。
なんとなくステラの大切にする「リサ」という存在に触れる権利は、俺にはまだないように感じた。
すぐ隣に座っているはずのステラの存在がやけに遠くに感じる。
もし、10年前のあの光を見つけたらと伝えたら、この運命的な出会いに覚えた感動を打ち明けたら、この距離はどれだけ縮まるのだろうか。
「なあ、ステラ」
「……ん?」
ステラはここではないどこか遠くを眺めるような瞳のまま、こちらに顔を向けた。
「いや、なんでもない」
「そうか」
踏みとどまった理由は自分でもよくわからない。ただなんとなく今伝えるのは卑怯だという感覚があった。
人の少ない休日の車内は他に会話をする者もなく、ガタンゴトンと揺れる電車の音と蝉の鳴き声が車内に寂しく木霊した。
駅の改札をくぐり見送りに来た金森さんと別れた後、陽太と今後について軽く話したが、ひとつだけはっきり言えることがあった――あの部長にだけはステラの正体を知られてはならない。
ステラが宇宙人だということがバレてあの特殊性癖女の餌食になったらと想像すると震えが止まらないのは俺だけでなく、陽太も同じであった。
陽太は「あんな人が部長のサークルで平気か?」と心配されたが、不思議なことに嫌悪感はあまり感じなかった。もちろんドン引きしたが、あそこまで異常だともはや別の生物のように感じるのか、俺個人があの人と接することに対しての憂鬱よりもステラの身の安全に対しての心配が勝ったせいか、これまで感じてきたような苦手意識は感じなかった。
もしかすると、今はあまりの衝撃に感覚が麻痺しているだけという可能性もあるが、ひとまずは問題ないと陽太に伝えた。
それを聞いて、陽太は安心したようで「またな」と言って反対方面のホームへと向かっていった。
帰りの電車の座席に腰掛けると、大した運動はしていないはずなのにどっと疲れがのしかかってきた。
今日は図書館で調べものをするだけの予定が、一体どうして変態女の研究会に入部する羽目になったのか。
ぐったりとした俺とは対称的に、隣に座るステラはやけに満足気だった。
「お前はどうしてそんなに楽しそうなんだ?」
「ヒトがいっぱいいてとても面白かった」
「沢山いても別に良いことないよ。中には悪い奴だっている。それはステラも知っているだろう?」
「……たしかに、嫌なニンゲンにはいっぱい会った。でも今日はダレもワタシを傷つけなかった。ヨータは明るいし、アカネは、何を言ってるのかよくわからなかったが面白かった。みんないいヒトだ」
「そうか、ステラはそんな風に思うのか」
ステラの純粋さは心底羨ましく思えた。俺もこれだけ真っ直ぐな人間だったら、もっと楽に生きられただろう。
「レンは違うのか?」
「俺はステラのように他人を肯定的に捉えることはできない」
「どういうことだ?」
「すぐに自分と比べてしまうんだ。自分のことが嫌いだから、他人のことを批判的に見ないと自己肯定感を保てないんだ思う。いつも嫉妬して他人の美点を素直認められない。そのせいで昔から人付き合いが苦手なんだ」
俺は自分のことをあまり語りたがる性格ではないが、なぜだかステラには本音で話すことができた。
もしかすると、それは彼女が人間ではなく宇宙人であるせいかもしれない。人間という群れに馴染めない俺には、むしろ宇宙人の方が気を許せるように思える。
「ワタシにはレンの言ったことはあまりわからなかったが、でも、レンはいいヒトだと思うぞ」
「そんなことないよ」
ステラはきっと俺の歪みも孤独も理解できないだろうが、それでも構わなかった。
突き詰めれば自分の感情は自分にしか理解できないのだから、最初から他人に理解を求める必要などないのだ。
「レンも辛いんだな」
不意に、ステラが俺の頭を撫でた。
「この歳で子供扱いか」
二十歳手前にもなって自分より小さな女の子に撫でられるなんて恥ずかしくてたまらないが、ステラの手を払う気にはならなかった。
「こうすると心が落ち着くとワタシに教えてくれたヒトがいたんだ。リサと言ってな、言葉とか色んなことを教えてくれて、いつも優しくしてくれた。とっても大切なヒトだ」
ステラは普段の無邪気な笑顔と違った、懐かしい思い出に浸るような柔らかな笑みを浮かべた。
「そうか、悪い奴らばかりじゃなくて優しくしてくれた人もいたんだな」
「ああ。だから、リサには無事でいて欲しい……」
ステラの不穏な言葉に「え?」と聞き返したが、彼女は俺の頭から手を離し、その後は何も語らなかった。
訊きたいことは山ほどあったが、車窓の風景をぼんやりと眺める悲し気な瞳に、すっかり言葉を失ってしまった。
なんとなくステラの大切にする「リサ」という存在に触れる権利は、俺にはまだないように感じた。
すぐ隣に座っているはずのステラの存在がやけに遠くに感じる。
もし、10年前のあの光を見つけたらと伝えたら、この運命的な出会いに覚えた感動を打ち明けたら、この距離はどれだけ縮まるのだろうか。
「なあ、ステラ」
「……ん?」
ステラはここではないどこか遠くを眺めるような瞳のまま、こちらに顔を向けた。
「いや、なんでもない」
「そうか」
踏みとどまった理由は自分でもよくわからない。ただなんとなく今伝えるのは卑怯だという感覚があった。
人の少ない休日の車内は他に会話をする者もなく、ガタンゴトンと揺れる電車の音と蝉の鳴き声が車内に寂しく木霊した。
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