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伸ばせなかった手
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昼食を終えると動物園を後にした。気分転換として残りの展示を少し見たが、俺もステラも楽しむ気にはなれず、動物園を後にした。
「レン、ワタシはレンの元から離れる」
帰り道にステラがぽつりと呟いた言葉に、愕然として足を止めた。
「あいつの言葉になんて騙されるな」
「違う。ワタシがいるとレンが危ないからだ」
「そんなの百も承知だ」
「キリヤだけじゃない。ワタシは今日レンを傷つけた」
「こんなのほんのかすり傷だ」
左肩を叩いてみせた。皮が剥けて傷が沁みるように痛いが平気な顔をしてみせた。
「でも当たっていたら、レンはどうなっていたか……」
「そうはならなかったからいいじゃないか」
「なあ……レンはなんでああまでしてワタシを止めたんだ?」
「それは、お前を殺人犯にしないために決まっているだろ」
「でも、レンが死んでいたかもしれないんだぞ!」
物騒な言葉が続いたためか、気がついたら周囲の視線が集まっていた。
「とりあえず帰ろう。話は後だ。いや、その前に寄るところがあるけど、いいか?」
「ああ……」
ステラはそれっきり口を閉ざした。
電車で座っていると、脚が勝手に貧乏ゆすりをしていた。この苛立ちはどこからやってくるのだろうか。天王寺により日常を脅かされた不安か。ステラについて何も知らない自分に対する憤りか。ステラが出ていくと口にしたことへのショックか。他にも考えられる要因はいくらでもある。あらゆる負の感情が頭の中をかき乱す。
気がつくと降りるべき駅に着いていて、ステラの手を引っ張った。ステラは呆然としていたようで、驚いて声を出した。俺は「ごめん」と言いながらも足早にステラを連れていった。余裕のなさを自覚しながらも、いつものようには振舞えなかった。
やってきたのはホームセンター。そこで、ドアチェーンや窓ガラスにつけるストッパーなど防犯グッズの類をいくつか買った。天王寺は自分から接触しないと言ったが、その言葉を疑わないほど馬鹿ではない。かといって、逃げるあてもない。もし、ステラの体内に発信機でも付いていたらどこへ逃げたとしても無駄だ。天王寺相手に市販の防犯グッズが役に立つかはわからないが、気休めにはなるだろう。
買い物を終えて帰宅すると、緊張の糸が切れ、どっと疲れに襲われた。
「とりあえず、何か飲もう」
できるだけ普段通りの口調で言ったつもりだが、不自然に高い声が喉から出た。やはりどう振舞えば良いのか、わからなくなっている。
ステラをちゃぶ台の前に座らせ、グラスに氷を入れて冷蔵庫で冷えた麦茶を注いで持っていった。ステラは俯いたままそれを一口含むんだ後、数十秒押し黙った後にやっと口を開いた。
「話すことがある」
「俺もステラから話を聞かないといけない」
「なんだ……?」
「いや、そっちから先に頼む」
「……ごめん……ワタシはレンを騙していた。キリヤが言った通りこの姿は本当のワタシの姿ではないんだ」
「それで、元の姿には戻れるのか?」
「それがわからないんだ。ワタシも元の姿がどんなだったのかを知らないんだ」
ステラが自分のルーツを知りたがる理由がわかった。仲間がいるのか、どこから来たのか、それ以前に自分が何者かがわからないのだ。確かなのは自分が人間ではないということ。アイデンティティが根本から揺らいでいる不安がどれほどのものか、俺には想像もつかない。
「レンはこんなワタシと一緒に居たくないよな?」
「なんでそんな話になるんだ」
「だって、本当のワタシはどんな姿かわからないんだぞ。もしかしたら、カエルみたいにベタベタしているかもしれない。ワニみたいに大きな牙で噛みつくかもしれない。気持ち悪くて怖い姿かもしれない。いや、きっとそうだ! そしたら、レンは私が嫌いになるだろ?」
「馬鹿にするな。そんな見た目くらいで見捨てるほど、俺は薄情じゃない」
言いながら胸の奥がズキリと痛んだ。ステラのこの姿が本来のものでないと知ってショックを受けていたのに、どの口が言うのか。
それに、俺がカエルを気持ち悪いと言ったせいで、ステラはこんな不安を抱いているのだ。あのとき本能的に嫌だとか、触りたくないと言った。あのときステラはカエルに自分を重ねていたのではなないか。だとしたら、俺はとんでもないことを言ってしまった。わざとでないとはいえ、ステラの心を深く傷つけた。せめてもの罪滅ぼしをしなくてはならない。
俺は立ち上がるとちゃぶ台の向かいのステラの元へ寄って屈んだ。お前はカエルじゃない。こうやって触れると、肩を抱こうとした。
しかし、伸ばそうとした手が途中で止まった。
ひどい嫌悪感があった。それはステラに対するものではなく、自分に対するものだ。俺は彼女の弱みに付け込んで、己の欲望を満たそうとしているのではないか?
一瞬にして脳内を様々な記憶が走った。天王寺のニタリとした嫌みな笑顔。ステラが頬の涙を舐めとった柔らかな舌の感覚。それに反応を示した己の身体。精通を体験したときの異常な興奮と不安。母さんの侮蔑に満ちた冷たい目。
吐き気を喉で抑え、必死に平気な表情を作った。
宙に浮いたままになっていた手をちゃぶ台の上に置き、ステラに告げた。
「今日カメを見たろ?」
「見たが……なんの話だ?」
「よく縁日……えっと……お祭りで、小さなカメを売ってるんだ。だけど育てていると想像より大きくなって、そうすると逃がす人がいるらしい。俺はそういうのは許せないんだ」
「なにが言いたいのかわからないぞ?」
「つまり、面倒見るならちゃんと最後までってことだよ」
「ワタシをカメと同じにするな」
ステラは口だけで笑った。絵にかいたような苦笑い。目はまったく笑っていない。むしろ失望したり悲しんでいるように見えた。
後悔と羞恥心、罪悪感が胸を黒々と満たす。何がカメだ。ジョークにすらなっていない。ステラがかけて欲しかった言葉はこんなものでないのはわかりきっていることだろう。真剣に彼女に向き合わなければいけないタイミングだった。優しく包み込むような温かい言葉をかけてうらないといけなかった。
今からでも謝ってやり直そうか。そう考えたのに、口がへらっと笑ってような形から動かず、言葉を出そうとしても肺からひゅうひゅうと空気が漏れ出るだけだった。
「レン、この姿はな。リサから貰ったものなんだ」
俺は言葉を出せず、相槌をした。
リサ。ツキシマリサ。ステラのコピー元の人物。ステラに教育を施し、脱走を助けた人物。ステラにとってかけがえのない存在――きっと俺よりもずっと。
「ワタシ、全部話すよ。覚えていること。ワタシのこと、リサのこと、全部。聞いてくれるか?」
「ああ」
やっと俺の口から出た音は、やけに情けなく聞こえた。
「レン、ワタシはレンの元から離れる」
帰り道にステラがぽつりと呟いた言葉に、愕然として足を止めた。
「あいつの言葉になんて騙されるな」
「違う。ワタシがいるとレンが危ないからだ」
「そんなの百も承知だ」
「キリヤだけじゃない。ワタシは今日レンを傷つけた」
「こんなのほんのかすり傷だ」
左肩を叩いてみせた。皮が剥けて傷が沁みるように痛いが平気な顔をしてみせた。
「でも当たっていたら、レンはどうなっていたか……」
「そうはならなかったからいいじゃないか」
「なあ……レンはなんでああまでしてワタシを止めたんだ?」
「それは、お前を殺人犯にしないために決まっているだろ」
「でも、レンが死んでいたかもしれないんだぞ!」
物騒な言葉が続いたためか、気がついたら周囲の視線が集まっていた。
「とりあえず帰ろう。話は後だ。いや、その前に寄るところがあるけど、いいか?」
「ああ……」
ステラはそれっきり口を閉ざした。
電車で座っていると、脚が勝手に貧乏ゆすりをしていた。この苛立ちはどこからやってくるのだろうか。天王寺により日常を脅かされた不安か。ステラについて何も知らない自分に対する憤りか。ステラが出ていくと口にしたことへのショックか。他にも考えられる要因はいくらでもある。あらゆる負の感情が頭の中をかき乱す。
気がつくと降りるべき駅に着いていて、ステラの手を引っ張った。ステラは呆然としていたようで、驚いて声を出した。俺は「ごめん」と言いながらも足早にステラを連れていった。余裕のなさを自覚しながらも、いつものようには振舞えなかった。
やってきたのはホームセンター。そこで、ドアチェーンや窓ガラスにつけるストッパーなど防犯グッズの類をいくつか買った。天王寺は自分から接触しないと言ったが、その言葉を疑わないほど馬鹿ではない。かといって、逃げるあてもない。もし、ステラの体内に発信機でも付いていたらどこへ逃げたとしても無駄だ。天王寺相手に市販の防犯グッズが役に立つかはわからないが、気休めにはなるだろう。
買い物を終えて帰宅すると、緊張の糸が切れ、どっと疲れに襲われた。
「とりあえず、何か飲もう」
できるだけ普段通りの口調で言ったつもりだが、不自然に高い声が喉から出た。やはりどう振舞えば良いのか、わからなくなっている。
ステラをちゃぶ台の前に座らせ、グラスに氷を入れて冷蔵庫で冷えた麦茶を注いで持っていった。ステラは俯いたままそれを一口含むんだ後、数十秒押し黙った後にやっと口を開いた。
「話すことがある」
「俺もステラから話を聞かないといけない」
「なんだ……?」
「いや、そっちから先に頼む」
「……ごめん……ワタシはレンを騙していた。キリヤが言った通りこの姿は本当のワタシの姿ではないんだ」
「それで、元の姿には戻れるのか?」
「それがわからないんだ。ワタシも元の姿がどんなだったのかを知らないんだ」
ステラが自分のルーツを知りたがる理由がわかった。仲間がいるのか、どこから来たのか、それ以前に自分が何者かがわからないのだ。確かなのは自分が人間ではないということ。アイデンティティが根本から揺らいでいる不安がどれほどのものか、俺には想像もつかない。
「レンはこんなワタシと一緒に居たくないよな?」
「なんでそんな話になるんだ」
「だって、本当のワタシはどんな姿かわからないんだぞ。もしかしたら、カエルみたいにベタベタしているかもしれない。ワニみたいに大きな牙で噛みつくかもしれない。気持ち悪くて怖い姿かもしれない。いや、きっとそうだ! そしたら、レンは私が嫌いになるだろ?」
「馬鹿にするな。そんな見た目くらいで見捨てるほど、俺は薄情じゃない」
言いながら胸の奥がズキリと痛んだ。ステラのこの姿が本来のものでないと知ってショックを受けていたのに、どの口が言うのか。
それに、俺がカエルを気持ち悪いと言ったせいで、ステラはこんな不安を抱いているのだ。あのとき本能的に嫌だとか、触りたくないと言った。あのときステラはカエルに自分を重ねていたのではなないか。だとしたら、俺はとんでもないことを言ってしまった。わざとでないとはいえ、ステラの心を深く傷つけた。せめてもの罪滅ぼしをしなくてはならない。
俺は立ち上がるとちゃぶ台の向かいのステラの元へ寄って屈んだ。お前はカエルじゃない。こうやって触れると、肩を抱こうとした。
しかし、伸ばそうとした手が途中で止まった。
ひどい嫌悪感があった。それはステラに対するものではなく、自分に対するものだ。俺は彼女の弱みに付け込んで、己の欲望を満たそうとしているのではないか?
一瞬にして脳内を様々な記憶が走った。天王寺のニタリとした嫌みな笑顔。ステラが頬の涙を舐めとった柔らかな舌の感覚。それに反応を示した己の身体。精通を体験したときの異常な興奮と不安。母さんの侮蔑に満ちた冷たい目。
吐き気を喉で抑え、必死に平気な表情を作った。
宙に浮いたままになっていた手をちゃぶ台の上に置き、ステラに告げた。
「今日カメを見たろ?」
「見たが……なんの話だ?」
「よく縁日……えっと……お祭りで、小さなカメを売ってるんだ。だけど育てていると想像より大きくなって、そうすると逃がす人がいるらしい。俺はそういうのは許せないんだ」
「なにが言いたいのかわからないぞ?」
「つまり、面倒見るならちゃんと最後までってことだよ」
「ワタシをカメと同じにするな」
ステラは口だけで笑った。絵にかいたような苦笑い。目はまったく笑っていない。むしろ失望したり悲しんでいるように見えた。
後悔と羞恥心、罪悪感が胸を黒々と満たす。何がカメだ。ジョークにすらなっていない。ステラがかけて欲しかった言葉はこんなものでないのはわかりきっていることだろう。真剣に彼女に向き合わなければいけないタイミングだった。優しく包み込むような温かい言葉をかけてうらないといけなかった。
今からでも謝ってやり直そうか。そう考えたのに、口がへらっと笑ってような形から動かず、言葉を出そうとしても肺からひゅうひゅうと空気が漏れ出るだけだった。
「レン、この姿はな。リサから貰ったものなんだ」
俺は言葉を出せず、相槌をした。
リサ。ツキシマリサ。ステラのコピー元の人物。ステラに教育を施し、脱走を助けた人物。ステラにとってかけがえのない存在――きっと俺よりもずっと。
「ワタシ、全部話すよ。覚えていること。ワタシのこと、リサのこと、全部。聞いてくれるか?」
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やっと俺の口から出た音は、やけに情けなく聞こえた。
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