流れ星と暮らすワンルーム

尾松傘

文字の大きさ
32 / 63

勇気を持って飛び込めば

しおりを挟む
 講義に集中できないまま1限と2限が終わり、あっという間に昼休みになった。
 大学の構内にあるコンビニに足早に向かったが、既にレジから店の外まで長い列ができていた。構外のコンビニに行こうとも考えたが、どうせどこも長蛇の列に違いない。運良く売れ残っていた唐揚げ弁当を手に取り列に並んだ。
 3限は元々空きコマで、4限は休講の連絡が届いていた。ステラを連れてすぐに帰ることもできるが、初日からさっさと帰るのは流石に気が引ける。それに、好奇心旺盛で人懐っこいステラのことだ、長居をしたがるに決まっている。金森さんも今日は2限が終われば、講義はないらしい。だから、今日はE.T.研の部室で長時間を3人と共に過ごすことになる。
 ステラと陽太が気がかりではやる気持ちと、他人と長時間共に過ごすという慣れない体験に緊張する気持ちが、ちょうど半々といったところだ。会計を終えて、弁当を電子レンジで温めずに早く部室へ向かおうかと一瞬考えたが、結局電子レンジを使い1分間立ち止まる選択をした。
 こんな些細なことで思い悩んで我ながら面倒な性格だと溜息が漏れたところに、背後から誰かが肩に手を乗せた。人前にもかかわらず「うわ!」と間抜けな声を上げて振り返ると、金森さんがそこにいた。

「驚きすぎでしょ。ホシミンは面白いね」
「誰だって突然背後から触れられたら驚きますよ」
「ごめんごめん。それにしても、どしたの? 溜息なんてついちゃって」
「別に……ただ久々の講義に疲れただけです」
「それなら良いんだけどさ。何か悩みがあるなら先輩に相談したまえよ」

 相変わらず金森さんは他人との距離が近い。悪い人ではないはずだが、どういうノリで接すれば良いのか掴めない。
 ――あのビッチ誰でも食うからさ。
 考えないようにと思っても、本人を前にするとどうしても歓迎会の後で聞いた話が過ってしまう。
 金森さんが、やや特殊な性癖を持っているのは違いない。けれど、誰とでも「する」ような、ましてや「食う」なんて言葉で表現される倫理観の欠如した行為に及ぶ人だとは信じたくない。もしかしたら距離の近さから軽い女だと誤解されたのかもしれない。むしろそうだと信じたい。

「そういえば、今日ステラちゃん来てるんだよね? ピュア成分補給できるの楽しみ❤︎」
「なんですかピュア成分って」
「なんか無知シチュが捗るっていうか……」
「ムチシチュ……?」
「いやいや、なんでもない。気にしないで」

 噂の真偽がどうであれ、この人の変態性がステラに悪影響を与えないように監視した方が良さそうだ。金森さんもステラの純粋さをわかっていて彼女なりに気を遣っているようだし、張り詰めるほどのことではないのかもしれないが。
 どうも俺は対人関係についてごちゃごちゃと考え過ぎて臆病になりがちなところがある。その性格が俺を生きづらくしているのだ。これからは余計なことを考えずにシンプルに生きよう。行く前はナーバスだった歓迎会も、最後に変なことを聞いたせいで台無しになったものの、それまでは楽しめていた。
 だから、今日はあまり考え込まずに、初めてのサークル活動を純粋に楽しむとしよう。初めての体験はなんだって緊張するものだが、大抵は想像したよりもなんてことないものだ。
 ステラも陽太も金森さんも、優しい心を持っている。俺だって他の人たちみたいに仲間や友達といった関係を築けるはずだ。普通の人よりも遅くなったが、俺だって進むことができる。この世界はきっと、俺が思っていたよりも綺麗な色をしているはずだ。
 金森さんと共にE.T.研の前に着いた俺は、張り切って戸を引いた。
 そして、言葉を失った。
 そこにいるのは当然、ステラと陽太の二人。問題はステラが手にした物体だ。ピンク色をしていて、円筒状の持ち手と卵形の先端部から成るそれは、静寂に包まれた部室にブーッという振動音を響かせている。だ。
 ただの健康器具と言えばそれまでだが、傍らに置かれた段ボール箱にマジックで書かれた「乙女の秘密道具♥ 見たら殺す♥」の文字列が、ステラの持つそれに危険な意味合いを持たせている。
 やはりここは危険地帯だった。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...