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初めての撮影

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 放課後。
 本日もまた琉夏と並んで高校から帰るのだが、なんと、琉夏の自宅に上がらせてもらうことになったのだ。はは、展開が早いな!

「お、お邪魔します」
「どうぞ、上がって」

 両親の帰りは二時間後らしい。それまでに一本目の動画を撮影したいと琉夏は言う。

 琉夏の自宅はマンションの十二階にある。両親と暮らす三人家族の、3LDKの間取りで、玄関に立っただけだが、ざっと見た感じ綺麗な内装で、いいマンションだなと思った。同級生の女子の自宅という手前、玄関に立つだけで緊張する。

「ほんと、俺なんかが上がっちゃっていいの?」
「別にいいって。あ、いかがわしいことをするつもりならもちろんダメだよ? 動画の撮影ってことを忘れないでね」
「わかってるよ」

 いかがわしいことをする勇気がゼロだから、堂々と入ることにした。
 廊下を辿り、琉夏に招かれて彼女の私室に入る。ぬいぐるみやかわいい小物が揃えられて、ザ・女子の部屋という印象を覚えた。

 白いテーブルに隣り合って座ると、琉夏はA4用紙を俺に見せてくれる。それはこれから撮る動画のシナリオだった。撮影したい内容が箇条書きで、琉夏の丸みを帯びた字で書かれている。企画から練ってみたいということで、シナリオの作成は琉夏に任せていた。

 ちなみに、Y-Tubeにカップル動画を投稿することは、高校には許可を取っている。経費を除いた収益は高校に寄付するように、という条件付きで。校則が緩い高校ではあるものの、撮影禁止と言われなくて助かった。

「昨日のラインでも伝えたけど、今日は二人の自己紹介を撮影するよ。まず二人で『かずルカチャンネル』と言って、チャンネルの概要をわたしから説明していきますね」

 シャーペンの先で、シナリオをなぞりながら俺に説明してくれる琉夏。距離が近くて、髪の甘い匂いが漂って気が気じゃないが、ミスがないように俺は内容を覚える。
 そして浅海のスマホをスタンドで固定し、記念すべき一本目の撮影が始まった。カメラを向けられると経験のない緊張が走る。シナリオに合わせて、琉夏がメインで進めていく。

「……――詳しいチャンネルの方針は動画を投稿しながら決めていきたいですが、特に高校生が楽しめるような動画をどんどん投稿していきたいですっ」

 自然な笑顔を見せる琉夏。かわいさは撮影中でも健在で、これならすぐに再生数が増えそうな気がした。
 そうして自己紹介する流れになり、

「ルカです。わたしは高校一年で、隣の一斗くんは彼氏です。好きな動物は猫さんだにゃぁ」

 琉夏は頭の上で、手と手で猫耳を作ってかわいく猫の真似。ちらっと彼女を見ると、半袖の隙間から腋のくぼみが見えたり、スカートから白い太ももが見え隠れしたりしていた。思わず見えた艶めかしい光景に、俺はすぐに視線を正面に向けた。“いかがわしい”は厳禁だからな。

 琉夏がかわいさ満点の自己紹介をしたあと、今度は俺の自己紹介になり、

「えー、一斗です。趣味は……ゲームです。それと……」

 カメラの前だと綺麗な発声ができない。素人のボソボソしゃべりは、地上波生放送なら放送事故扱いだろう。
 琉夏は苦笑いして、

「AIにしゃべらせたほうがおもしろいんじゃない……?」
「そ、んなこと……ない」

 しなびた野菜のような反応に、琉夏はやれやれと肩をすくめて、

「こんな素人のわたしたちですけど、成長を見守ってくれると嬉しいです!」

 カメラに向かって、苦笑いを浮かべながらもフォローしてくれるのであった。ああ、情けない……。
 五分動画の撮影なのに、カメラを回してから一時間近くを要した。お互い噛んでグダグダになったり(俺の割合が多いが)、シナリオと間違えたり、誤って高校の名前を出してしまったりと、最初だから仕方がないがハプニングが多かった。

「さて、残りは編集作業ですか。撮ったものはクラウドに入れとくからね」

 ふぅ、と疲れの色を帯びた息を吐いた琉夏。緊張の糸が切れ、俺も疲れを一気に覚える。

「大変なんだな、撮影って。たった五分の動画でもこれだけ時間がかかるなんて。それに加えて編集作業か……」
「わたしたちは部屋で済んでるけど、テレビ局なんか全国や世界を飛び回って、時間をかけて五分の釈を稼いでるらしいからね。改めて思い知らされたけど、動画づくりって大変だね」
「こりゃ一人じゃ無理だ」
「だね」

 ははっと笑い合う俺と琉夏。
 そろそろ両親が帰ってくるそうなので、編集は各々の自宅で作業することになった。最初の二分は琉夏が、残りの三分は俺が担当する。

 琉夏は玄関で俺をお見送りしてくれ、

「じゃあね、気をつけて。今日はありがと」
「うん、じゃあな。編集で困ったら連絡する」

 琉夏は手を振ってくれ、俺はマンションを後にした。
 帰り道。金網の柵を隔てて電車が通り過ぎてゆく中、

「青春してるんだな、俺」

 キモイと自覚しながらも、嬉しさがこみ上げ、口を緩めて思わず口走ったのであった。
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