上 下
3 / 41

1-3 オイコラ!待てや!

しおりを挟む
そして、わたしは転生した。
体中が痛い。
暖かい羊水がなくなり浮力がなくなり重力が重い。
狭い苦しい。
生まれるってこんな大変なんだな。
思わず悲鳴をあげちゃったが、赤ん坊の仕事は泣くことだからいいよね?

『生まれました、女の子です!』

『女だと!?
よし、でかした!!』

男の人の声が私の誕生を喜んでくれる。
新しいお父さん・・・かな?
よく見えないや。

『血だらけではないか、それに母体も傷ついている。
だれかクリーンやヒールを使える奴はおらんのか?』

『は、ただいま』

私の周りに波みたいな何かが通り過ぎる。
表面を滑るような感じだし、これがクリーンかな。
目はよく見えないけど、不思議と私の表面を転がるベビーウインナーが見えた。

・・・は?!

うん、見間違えじゃない。
ちっちゃなウインナーがいくつも並んで私の体を転がってくる。
そして、ウインナーが汚れを巻き込みながら転がり、後は白く輝いている感じ?
目の焦点とかあっていないし、魔法を受けたイメージかな?
え~~~、クリーンの魔法ってこんなイメージなの?!

それに何か温かいものが流れこんでくる感覚とともに痛みが消えた。
これがヒールか。
こっちのイメージは・・・ローストハムのような巨大なウインナーが私の体に埋まっていく。
ううう・・・太りそう。
うまくピントが合わなくてよく見えないけど、お父さんは少し太っているみたい。
今の魔法効果による副産物ではないわよね?
ないと言ってお願い。

『よ~~しよしよし、早く元気に育てよ』

そういわれて抱っこされた。
すごい太い腕。
太っていると思ったけどお相撲さんみたいに鍛え上げた体だ。
すっごい太い。
私の体よりたぶん太いよね
その後、細い手に抱かれた。
これがお母さんの手かな。
まだぼやけてよく見えないけど金髪っぽいな。
顔の前におっぱいが来るととても美味しそうな匂いが漂ってくる。
我慢できずに口に含む。
嚙む力が足りないのか奥においしそうなものがあるとわかるのに一生懸命吸っても届かない。

あれ?ひょっとしてまずい?
母乳が吸えない?
未熟児とかかな?
まずいまずいまずい!!!
ちょっと焦ったが、手や足を使って力いっぱいおっぱいを押したら出てきた。
助かった・・・。

「よかった」

うん、本当によかったよ。

「女の子でよかった」

お母さんが私のことを抱きしめながらそう呟く。
そういえば、お父さん?も女の子と言われて『でかした』といっていたな。
なんでだろう?
ここって女系一族とか女性は巫女で特別な力を備えるとかいう一族なのかな?
まぁ、優遇されるのならいいけど・・・。

「ごめんね、こんなところで生んでしまって。
でも、本当に女の子でよかったわ。
これでまだしばらくは生きられるわ」

え?生きられる??
なに??
もしかして男だったら死んじゃうような状況だったの?
お家騒動とか?

「お母さんは多分無理だけど、あなたはまだ若いんだもの。
きっと幸せになるチャンスがいつか生まれるわ。
人として幸せな一生を過ごすチャンスがあなたにはまだあるわ。
幸せになってね、ヴァレンティーナ」

逃げる?
お母さんには無理?
・・・どういう・・・。

『人間の雌が出産可能になるのはいつごろだ?』

お父さんと思った人の声が聞こえるが話している内容が怖い。
まるで人間ではないみたいな・・・。

『そうですな・・・初潮が始まるのが10歳以降で出産に耐えられる肉体となると早くても15歳。
無理なく出産というのなら18歳まで待つことをお勧めします』

生まれたばかりの私がもう子供を産む話?
だってまだ生まれて10分も経っていないよ?!

『そんなにか?!
妊娠期間も10か月とわれらの3倍以上もかかったのに成人までもそんなにかかるのか!
我らなど半年で成人するぞ』

半年で成人ってどんな種族よ?!
私もしかしたら亜人ハーフなの?
人間の女の子って言っていたわよね?!フィリア。

『人間というのはそういうものです。われらオークとは違うのです。
その代わり、男女比は1対1ですし出産可能期間は15歳から35歳ごろまでの20年間もあります』

オーク!!
あの豚の?!
ゲームとかだと女の人をさらって孕ませることのあるあのオーク?!

『むぅ~~~、わたしですらまだ生まれて20年。
たしかにわれらとは全く異なる生物のようだな』

ぬぅ~と私を覗き込むように顔が出てくる。
私の眼はまだピントが合わないが距離を詰めてくることによって寄ってくる顔のほうがうまくピントの合う距離に顔が入った。
豚だった。
お父さんと思ったが豚だった。
ってこれってどういう状況なの!!
フィリア!!
転生先の人生次第では愚痴になるといったけど、もう愚痴決定よ!!
何なのよ!この状況は!!!
オイコラ!責任者出て来い!!!
火が付くように泣き出した私をかばうようにお母さんが豚との間に体を入れてくれる。

『どうしますか?肉にしますか?』

『質の悪い冗談はよせ。
われらの女不足は承知しておろう。
15年の無駄飯ぐらいを飼うくらい承認してやろう。
こんなに時間がかかると知っておれば早々に堕胎させたものを』

『それはしなくて正解でしたよ』

『ああ?!』

『下手な堕胎は妊娠能力を失います。
大事な母体を失うリスクを負う必要はないでしょう』

『は~~~そうだな。
まぁ、仕方あるまい。大人になるまで飼ってやれ。
いずれは貴重な母体になるのだ』

私の当面の安全はどうやら保障されたようだ。
フィリア・・・本当に深く深~く愚痴をこぼすことになりそうだけど覚悟しておいてね。
しおりを挟む

処理中です...