おいしいを探して

第1章

第5話

　両親のはじめての長い喧嘩を見たあと、ヒステリックに話す母と、暴言を吐く父。
　颯太は言いようもない不思議な感覚に苛まれた。「なんだこれ。こわい……」
　こわい？なんだそれ。感情だろうか。颯太は慌てて薬をとりだし飲み込む。感情はこわい。ある方がきっともっとこわい。言い表せない気持ち悪さがあった。背後に虫が無数にぞわぞわ這いつくばっているように。
　次の日の朝、ごく常識的な時間に感情抑制委員会が訪ねてきたらしい。颯太はいつもの時間に起きて、普段と同じように階段を降りた矢先、目の前で両親が2人とも扉の外に連れだって行ってしまった。
共有タブレットには、「颯太、すまない。ごめんね」という2人の異なる筆跡と、これからのことが書かれてあった。