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プロローグ
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突然、澱んだ空に、澱んだ笑い声が響きを渡った。
「ふははははは! 人間どもに愛などいらぬ! その愛すべて、この怪人アイナキー様が踏み潰してくれる!」
突如、池袋の街に現れた不気味な怪人。身体は割れた黒いハート出来ていて、その間から生えているのは、目元に大きな隈を作ったモヒカン男の顔。手足は異常に長く、怪人はそれで逃げ惑う人々を捕まえてゆく。
「ほー、キサマは恋人への愛が大事か? そんな物は捨ててしまえ! キサマは妻か? そんな物もいらん! ふははは、お嬢ちゃんは飼っているハムスターがそんなに可愛いか? そんな愛はトイレに流してしまえ!」
怪人に捕まった人々は、次々に愛を吸われて目を澱ましてゆく。
そんな時、わたしの心には響いてくるのでした。
「誰か……誰か助けて……」
「愛を失いたくない……」
「助けて……愛の魔法で……」
「アイカちゃん!」
やっぱりわたし。呼ばれたからには行くしかない。
いいえ、呼ばれなくっても行くしかない!
「そこまでよ! 怪人アイナキー!」
真っ赤なフリルの衣装を身に纏い、ツインテールをなびかせて、ハートのマジカルステッキを怪人アイナキーに突き立てるわたし。
「なんだぁ、キサマは……?」
誰かと問うのなら答えてあげましょう。
「どんなに小さな声だって、わたしの心に鳴り響く。世界は愛で回るから! ラブリィウィッチ・魔法少女アイカ。おまたせ!」
腰を捻って片足を上げ、ハートのマジカルステッキを頭上に高々と掲げるわたし。キマッた!
「キサマなど誰も待っとらんわーッ!」
雄叫びを上げて、その長い手足で襲いかかってくる怪人アイナキー。その攻撃をわたしはヒラリと身を翻してかわす。
「待たれてなくても、やって来るのがこのわたし、魔法少女アイカよ!」
わたしは、再びハートのマジカルステッキを怪人アイナキーに突き立てる。
「さあ、覚悟しなさい、怪人アイナキー! アナタの心を愛の魔法で満たしてあげる!」
「世界が愛で回っているなどとほざくバカに、俺様が負けるか! この世界は人の不幸で回っているのだからな!」
「そんな事はない! 世界は愛で回っているのよ!」
わたしの心が愛の魔法で満たされて、体がハート色の輝きを放つ。
「さあ、満たされなさい! ラブリィ・ハートフル・ビーム!」
ハートのマジカルステッキから放たれたハート型のビームが怪人アイナキーに命中する。すると、怪人アイナキーの割れたハートの体はくっついて、黒いハートは眩しいピンク色に変わる。ついでにモヒカン頭もピンク色。
「おおー、愛があふれてゆくー! 世界が愛に満たされるー!」
満たされた怪人アイナキーは、笑顔でクルクルと小躍りを始めてイイ感じ。
これでこっちは良しと。
次は愛を吸われてしまった人達を助けなきゃ!
「さあ、アナタ達もこれで元気を取り戻して! ラブリィ・ハートフル・シャワー!」
ハートのマジカルステッキの先端からピンク色の光が空高く上がり、シャワーになって愛を奪われてしまった人々に降り注ぐ。
「愛が……愛が降ってくる……」
「なんて暖かい……」
「心が愛でいっぱいになってくる!」
みんなは幸せそうな笑顔を浮かべている。
良かった。これで一安心だね。
「ありがとう、魔法少女アイカ」
「アイカちゃん、ありがとー!」
わたしは手を振り、笑顔で去って行くのでした。
……そこで、目覚まし時計に起こされた。
「夢か……まあ、夢だよね……」
半開きの目で目覚まし時計を止め、むくりと布団から体を起こす。
「戦闘系の魔法少女か……昨日は、わたしは戦闘系の魔法少女じゃないから、とは言ったものの……やっぱり、ちょっと憧れちゃうよねぇ……」
目覚まし時計を見る。早朝四時。
「さあ、急いで支度しよう」
わたしは布団から出ると、押し入れに布団をしまって着替えを始める。それから荷物の詰まったボストンバッグを持って洗面所へと向かおうと、部屋の引き戸を開ける。
あれ? 開かない。
「そっか、昨日はカギ締めたんだっけ」
わたしは掛金を外して引き戸を開ける。そこはママの部屋。疲れて寝ているママを起こさないようにそっと歩き、ガラス障子の引き戸を開けて隣の台所に入る。
と、相変わらず散らかった床には、空き缶などのゴミに混じってキラキラと輝く物が落ちていた。見れば、食器棚のガラスが割れている。
「あーそっか。昨日やっちゃったんだっけ……」
わたしは、隅に立て掛けてあるホウキとチリトリで落ちているガラスの破片を片付けて、改めて洗面所へ向かった。
歯を磨いて顔を洗い、手早くブラシで髪を整えて髪留めで後ろにまとめる。
そして、散らかった台所の上をささっと片付け、早速のように朝食のお弁当作りを始めた。
「考えてみたらわたし、男の子にお弁当作るのって初めてだ。やっぱ男の子だし、食べるんだろうなぁ……」
冷蔵庫から取り出したのは、ハムに卵にツナ缶、レタスにキャベツにマーガリンとマヨネーズ。それから、昨日の帰りにコンビニで買った八枚切りの食パンが一斤。
「足りればいいんだけど……あっ、好き嫌い聞くの忘れてた。でも彼、田舎育ちだし、田舎の子って好き嫌い無さそうだよね?」
そんな独り言を言いながら、わたしは野菜を洗ったり、卵を炒めたり、パンにマーガリンを塗ったり――そうして出来上がるサンドイッチ二人前。
それをタッパに詰めて、水筒に麦茶も入れて、それらをボストンバッグに入れながら――
「彼、昨日は大丈夫だったかな……? あの場所なら見つからないし、注意しなきゃいけない事は全部伝えたし、オジサン達にも、気に掛けといてって一応言っといたし、問題は無かったと思うんだけどなぁ……たくましそうだったし、男の子だし、大丈夫でしょとは思ったけど、やっぱり気になっちゃうよね……」
さあ、出かける準備完了! わたしはボストンバッグを肩に担ぎ、
「昨日は守れて良かった……」
ちょっと思い出し、ホッと息を吐く。
「よし、行こう」
靴を履いて玄関を出る。
朝の風が肌に当たって少し身震いする。でも、朝焼けはスゴくキレイ。今日も良い天気になりそう。
それからわたしは目を瞑り、両手で自分の頬を挟んで、唱えるように言う。
「さあアイカ、今日も魔法少女活動がんばるよ!」
そうしてわたしは、彼の居る東池袋中央公園へと急ぎ足で向かった。
「ふははははは! 人間どもに愛などいらぬ! その愛すべて、この怪人アイナキー様が踏み潰してくれる!」
突如、池袋の街に現れた不気味な怪人。身体は割れた黒いハート出来ていて、その間から生えているのは、目元に大きな隈を作ったモヒカン男の顔。手足は異常に長く、怪人はそれで逃げ惑う人々を捕まえてゆく。
「ほー、キサマは恋人への愛が大事か? そんな物は捨ててしまえ! キサマは妻か? そんな物もいらん! ふははは、お嬢ちゃんは飼っているハムスターがそんなに可愛いか? そんな愛はトイレに流してしまえ!」
怪人に捕まった人々は、次々に愛を吸われて目を澱ましてゆく。
そんな時、わたしの心には響いてくるのでした。
「誰か……誰か助けて……」
「愛を失いたくない……」
「助けて……愛の魔法で……」
「アイカちゃん!」
やっぱりわたし。呼ばれたからには行くしかない。
いいえ、呼ばれなくっても行くしかない!
「そこまでよ! 怪人アイナキー!」
真っ赤なフリルの衣装を身に纏い、ツインテールをなびかせて、ハートのマジカルステッキを怪人アイナキーに突き立てるわたし。
「なんだぁ、キサマは……?」
誰かと問うのなら答えてあげましょう。
「どんなに小さな声だって、わたしの心に鳴り響く。世界は愛で回るから! ラブリィウィッチ・魔法少女アイカ。おまたせ!」
腰を捻って片足を上げ、ハートのマジカルステッキを頭上に高々と掲げるわたし。キマッた!
「キサマなど誰も待っとらんわーッ!」
雄叫びを上げて、その長い手足で襲いかかってくる怪人アイナキー。その攻撃をわたしはヒラリと身を翻してかわす。
「待たれてなくても、やって来るのがこのわたし、魔法少女アイカよ!」
わたしは、再びハートのマジカルステッキを怪人アイナキーに突き立てる。
「さあ、覚悟しなさい、怪人アイナキー! アナタの心を愛の魔法で満たしてあげる!」
「世界が愛で回っているなどとほざくバカに、俺様が負けるか! この世界は人の不幸で回っているのだからな!」
「そんな事はない! 世界は愛で回っているのよ!」
わたしの心が愛の魔法で満たされて、体がハート色の輝きを放つ。
「さあ、満たされなさい! ラブリィ・ハートフル・ビーム!」
ハートのマジカルステッキから放たれたハート型のビームが怪人アイナキーに命中する。すると、怪人アイナキーの割れたハートの体はくっついて、黒いハートは眩しいピンク色に変わる。ついでにモヒカン頭もピンク色。
「おおー、愛があふれてゆくー! 世界が愛に満たされるー!」
満たされた怪人アイナキーは、笑顔でクルクルと小躍りを始めてイイ感じ。
これでこっちは良しと。
次は愛を吸われてしまった人達を助けなきゃ!
「さあ、アナタ達もこれで元気を取り戻して! ラブリィ・ハートフル・シャワー!」
ハートのマジカルステッキの先端からピンク色の光が空高く上がり、シャワーになって愛を奪われてしまった人々に降り注ぐ。
「愛が……愛が降ってくる……」
「なんて暖かい……」
「心が愛でいっぱいになってくる!」
みんなは幸せそうな笑顔を浮かべている。
良かった。これで一安心だね。
「ありがとう、魔法少女アイカ」
「アイカちゃん、ありがとー!」
わたしは手を振り、笑顔で去って行くのでした。
……そこで、目覚まし時計に起こされた。
「夢か……まあ、夢だよね……」
半開きの目で目覚まし時計を止め、むくりと布団から体を起こす。
「戦闘系の魔法少女か……昨日は、わたしは戦闘系の魔法少女じゃないから、とは言ったものの……やっぱり、ちょっと憧れちゃうよねぇ……」
目覚まし時計を見る。早朝四時。
「さあ、急いで支度しよう」
わたしは布団から出ると、押し入れに布団をしまって着替えを始める。それから荷物の詰まったボストンバッグを持って洗面所へと向かおうと、部屋の引き戸を開ける。
あれ? 開かない。
「そっか、昨日はカギ締めたんだっけ」
わたしは掛金を外して引き戸を開ける。そこはママの部屋。疲れて寝ているママを起こさないようにそっと歩き、ガラス障子の引き戸を開けて隣の台所に入る。
と、相変わらず散らかった床には、空き缶などのゴミに混じってキラキラと輝く物が落ちていた。見れば、食器棚のガラスが割れている。
「あーそっか。昨日やっちゃったんだっけ……」
わたしは、隅に立て掛けてあるホウキとチリトリで落ちているガラスの破片を片付けて、改めて洗面所へ向かった。
歯を磨いて顔を洗い、手早くブラシで髪を整えて髪留めで後ろにまとめる。
そして、散らかった台所の上をささっと片付け、早速のように朝食のお弁当作りを始めた。
「考えてみたらわたし、男の子にお弁当作るのって初めてだ。やっぱ男の子だし、食べるんだろうなぁ……」
冷蔵庫から取り出したのは、ハムに卵にツナ缶、レタスにキャベツにマーガリンとマヨネーズ。それから、昨日の帰りにコンビニで買った八枚切りの食パンが一斤。
「足りればいいんだけど……あっ、好き嫌い聞くの忘れてた。でも彼、田舎育ちだし、田舎の子って好き嫌い無さそうだよね?」
そんな独り言を言いながら、わたしは野菜を洗ったり、卵を炒めたり、パンにマーガリンを塗ったり――そうして出来上がるサンドイッチ二人前。
それをタッパに詰めて、水筒に麦茶も入れて、それらをボストンバッグに入れながら――
「彼、昨日は大丈夫だったかな……? あの場所なら見つからないし、注意しなきゃいけない事は全部伝えたし、オジサン達にも、気に掛けといてって一応言っといたし、問題は無かったと思うんだけどなぁ……たくましそうだったし、男の子だし、大丈夫でしょとは思ったけど、やっぱり気になっちゃうよね……」
さあ、出かける準備完了! わたしはボストンバッグを肩に担ぎ、
「昨日は守れて良かった……」
ちょっと思い出し、ホッと息を吐く。
「よし、行こう」
靴を履いて玄関を出る。
朝の風が肌に当たって少し身震いする。でも、朝焼けはスゴくキレイ。今日も良い天気になりそう。
それからわたしは目を瞑り、両手で自分の頬を挟んで、唱えるように言う。
「さあアイカ、今日も魔法少女活動がんばるよ!」
そうしてわたしは、彼の居る東池袋中央公園へと急ぎ足で向かった。
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