覇王セリスの後日談

あかみみ

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軽い刺激

今後に向けて

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 荷馬車に乗り、商業ギルドの門を抜けて夕焼け色の外へ出る。

 聞き慣れた荷馬車の動く音と共に周囲の景色が少しずつ変わっていくけれど、意識の中に入らない。

 そんな中、私の頭に触れてきた暖かな魔力。
 触れられ慣れたその魔力はいつもは帽子越しに感じているのだけれど、今は直接触れられている。

「良く頑張ったね」

 その魔力の持ち主、手綱を握るセリスが私を抱き寄せるように頭を優しく撫でながらそう言ってくれた。

「はい……はい…………」

 取引は大成功と言える結果だ。

 しかしセリスの言葉は取引だけを言っているのではない。

 セリスやターニャと出会う前から努力し続けたその全てを認めて誉めてくれている。

 私は溢れ出る涙を流すのを止められなかった。

 まだ店を持てた訳じゃないし、これから更に細かな話し合いになるから完全に終わってはいないので度々ギルドへ向かう事になる。
 それに、たとえ店を持ててもようやくすスタートラインに立てただけ。

「ハンカチ。それとキャンディー舐めるかい?」

「はい……頂きます……ありがとう………」

 それでも今まで身を削り続けた成果が確かに実った。

 最後の最後でセリスの力を頼ったのも認める。
 けれどセリスはパートナーであり、頼る事もできずに何がパートナーだろうか。

 店を持つ事は私とセリス二人で持っている共通の目標で、私はこれ以上無いだろう好条件を引き出す事に成功した。

 行商人を始めて4年、その経験があったからこそ出てきたものであると、胸を張るべきだと私自身そう思う。

 セリスに貰ったキャンディーを口にし、心を落ち着かせるようにしながら語りかける。

「セリス……私……変だよ……自分でやった事なのに全然実感が持てない………私は他の行商人と比べて運が良いって自覚はあった。
 それでもオペットだし、女だからって取引そのものをしてくれない事も少なくなかった。
 旅の途中どうしても商品を捨てなくちゃいけなくなって大損した時もありました。
 何度もオペットなんだからお父さんと同じように魔力関連の仕事した方が良いって挫折してしまいそうになりました。
 辛いことばかりだった。
 それでも、楽しくて、私は商人として生きていきたいって、私……」

 うつ向いて所々泣き声混じりで聞きにくいかっただろうけど、セリスは真剣に聞いてくれている。

 本当に、私には勿体ない友達でパートナーだ。

 私はその後も不器用で下手くそな言葉選びをして、ポツリ、ポツリとセリスに語り続けた。

 宿屋に着いた頃にようやく私は泣き止んだ。
 もしかしなくても目元が赤くなって、ただでさえそばかすの目立つ顔なのにもっと酷い顔になっていると思う。

 セリスが馬小屋に馬を入れて戻ってくるのを見守る。

「メリル、今更だけど帽子で羽を隠さなくて良かったのかい?」

「あ~……うん、もう隠す必要は無いかな。寒いから帽子はいるでしょうけど。あと、男性の格好をするのも止めようと考えています」

「良いのかい?」

「はい。身分証等にはハッキリ女性と明記されていますし、いずれは避けて通れない道です。
 それに、商業ギルドへ行った時のセリスは凄く格好良かったです。
 それを見て私も今後はちゃんと女性としてもオペットとしても隠す事なく正面から向き合っていきたいと思いました。
 同じ白髪でもセリスの方がずっと綺麗ですし格好いいですけど、努力するのとしないのでは全然違います。
 ですから、いろいろ私に教えてくれませんか?」

 何度目になるか、セリスが直接私の頭に触れ撫でながら優しい声色でこう言った。

「それはもちろん。
 メリルは可愛いから色々着せてみたかったし、肩より長い髪だからもっと色々な髪型を試そうか。
 それとそのそばかす。
 他の人はどう思うか知らないけど私は可愛いと思うよ?」

「そばかすが可愛いって初めて言われたよ……」

「まあ、化粧や薬品で消せなくも無いけど」

「それは是非教えてください」

「勿体無い……まあメリルが望むなら仕方ないけど………
 とりあえず寒いし部屋戻ろうか」

「戻ってすぐの部屋程寒い所も少ないと思いますけどね」

 いつものペースに戻りつつあるけれど、部屋に戻ってからもやっぱり現実味が湧かない。
 それでも動き出しているのだから立ち止まっていられない。
 二人で今後の事を話し、ターニャに今日の出来事を報告して軽い打ち上げをして眠りにつきました。


 ・


 12月19日

「とまあ、こんな感じかな」

「はあ……凄い、セリスの知識には驚かされてばかりですよ」

 天空城で使ったトリートメント類無しでもできる髪の手入れをセリスから教えてもらいました。
 実際に私の髪でやってもらったのですが、お湯にレモンを絞った汁を少し入れて髪を馴染ませるようにして、そのあと何も入れてないお湯で落とすなど毎日やるのは大変だと思うことを色々教わる事になりました。

「………」

 自分の髪を撫でる。
 これだけ手間がかかっているだけあって手触りが良くて凄くサラサラして光っています。
 普通の魔法使いとしてもう少し強ければ手入れを減らしてもこの美しさが維持されるのでしょうか?セリスのように。

「気に入ってくれたようだね」

「はい。凄く綺麗で……」

「メリルは綺麗だよ?」

「そう感じるのはセリスくらいだと思うのですが……」

「ふふふ、それはどうだろうねぇ~。
 私には最早変装の時くらいしか使い道はなくなったけど、化粧って言うのは本来こう使うからね。いずれメリルも必要無いくらいには美人さんになると思うけど」

 強さに比例して肉体が最適化する……でしたっけ?

「魔法を習って……」
「こら、動かない」

 セリスにそう言われてしまっては頼んだ側としては動けないのでされるがままにする。
 やがて髪を結び始めたところで扉が開く音がした。

「ただいま……」

 髪の手入れを始める前から既に朝のトレーニングへ出たターニャが戻ってきて固まってしまう。

 セリスは私に触れていた手を止めてターニャに振り向いた。

「おかえり」

「えっと……おかえりなさい」

 現在私はセリスから借りた茶色のブーツに青いスカート、白の長袖の上に青の半袖のシャツ、白のケープといった服装で椅子に座り、髪の左側が三つ編みになっていて、右側はまだ結び終えていませんね。

 男性の格好ばかりしていた私がいきなりこのような格好をしていれば驚きですよね。
 私も少し恥ずかしい気がしますし。

「まだ途中だけど綺麗だろう?」

「そうだな、凄く綺麗で可愛いと思う」

 綺麗……ターニャなら空気を読んでそう言った可能性もありますが、たぶん違うでしょうね。
 それより可愛いって……

「あの、セリスみたいに格好いい感じが良いのですけど……」

 あのスラッとした姿に堂々とした風格。
 昨日見たセリスの横顔の格好良さときたらもうなんて頼もしかったか……

「格好いい……今後の成長にもよるけどメリルにはまだ早いかな。
 ただ、可愛くて綺麗だから自信持って良いよ。
 でしょ?ターニャ」

「……そうだね、綺麗だと思うぞ?
 意識しないとそばかすも気付き難いのに厚化粧って感じじゃないし」

「そうですか?
 自分の顔見れてないのでわからないですが、そばかすが消えるのは嬉しいですけど」

「それとね、確かにメリルはどうやって姿を見繕っても幼さが残るけど、それも商談と同じ、どれだけ幼く見えようがその仕草等で侮る強者はいなくなるだろうね。
 侮るようなら三流、侮らず意識しすぎるのは二流、侮らず実力を見極め余裕が持ててこその一流。
 一流相手にどれだけ見繕っても効果は薄い。
 それでも相手への礼儀として見繕うのは当然~……………なんだけどなんだかねぇ、わかってたけど口にすると女性の身は不利だし面倒くさいって実感するね。
 男は服装や髪はどうこうしても化粧までしないんだよ?
 冒険者とかの汗臭い職場意外はどこの世界もそんなもんだし、商人は特にその色が濃い。まったく羨ましいねえ……」

 途中まで力説してたのに段々と弱くなった口調に私もターニャも思わず苦笑し、ターニャが便乗する。

「冒険者でも気にする奴はいるけどやっぱり女だけだよな、男どもは女が素で綺麗だと本気で思ってる奴もいるっぽいし。
 その髪や肌の綺麗な奴は毎日……とは言わなくても二、三日に1回は洗っているんだって理解できてない」

「最悪この季節に水ですからね……
 だからこそ魔法使いの方々は身なりが綺麗な方が多いですよね。
 お金使わないでお湯が作れますから」

 その辺は私も魔法を使える者としてかなり助けられています。
 体を綺麗にするのにお金がかからないですから。

「はい、話してても良いけど仕上げしちゃおっか」

「わかりました」

 セリスが作業に戻りあっという間に左右に三つ編みが増えていく。
 その後背後に回って作った三つ編みを纏められて……

「ほら、完成したよ」

 パチン…… と指を鳴らすと私の身長とほぼ同じくらいの鏡が出現する。
 この鏡、天空城にあった物と同じ………とここまでで私の姿を見て思考が途切れる。

「凄い………」

 髪がふんわりした感じに纏まっている髪は元々真っ直ぐな私の髪とはかけ離れていて、化粧もそうですけど髪型が違いすぎてもう誰だかわかんない。

「ハーフアップってやり方なんだけどやっぱり似合うね。
 おっと、最後の仕上げ忘れてた。はい、完成」

「わっ……帽子?」

 そう言って私に帽子を被せる。
 その帽子は私がいつも被っている帽子と似た形ですが、この帽子に使われている生地の良さは比べるのもおこがましい。

「うん、凄く似合う、可愛い。
 その帽子、私からの祝いのプレゼントで特別製だよ」

「…………そうなんですか?……セリス!」

 祝いの品……そんなの貰ったの初めて………
 嬉しさのあまり私はセリスに抱き付いた。

「う……うぅ………本当に……ありがとうセリス………ぐすっ」

 あれ?泣くつもりなんてこれっぽっちも無かったのに何で?
 嬉しい気持ちが溢れて、涙も溢れる。

「ちょっ………ちょっとメリル!?
 え………わ、私はどうしたら………こ、こうかい?」

 セリスがぎゅっと私を抱き締めて優しく撫でてくれる。

「………ありがとうございます、もう大丈夫です」

「なら良かった……」

 不器用だけれど優しさの感じるその行動によって落ち着くとことができて、リボンの着いたこの帽子も含めて改めて見直す。

「……うん、良く似合ってるよ」

「リボンが凄く可愛いな」

「そ、そうですか……へへ………」

 正直化粧中は自分では見えなかったのであまり面白くなかったのですが、いざ見えるとその変化が凄くて変なテンションになってしまっています。

 セリスが出してくれた異常なまでにでこぼこの無いクリアで大きな鏡を前に私はスカートを軽く摘まんでみたりと全体を見渡す。

「うん、綺麗だよメリル」

「ありがとうセリス。この帽子も気に入りました」

 何が良いって深く被らないと羽が隠れないのが良いです。
 逆に寒くて隠したい時は深く被れば隠せる。
 今後は見た目も気にしようと決めたのに、もっこもこな完全防寒といった服装だけというのは駄目な気がします。
 種族的な部分が大きいのでどうしても無理そうなら諦めて沢山着ますけど、セリスが魔力付与した服なのでまた遭難でもしない限りはたぶん大丈夫でしょう。

「そうかい、喜んでもらえて嬉しいよ」

「あ……でも私から渡せる物が………」

 良く考えたら貰ってばかりです。
 いくらセリスにとってそれだけの事をするのに十分な理由があったと言っても甘えっぱなしなのは………

「メリル。今回私はあまり頑張っていないから気にしないでおくれ。
 私から見てメリルはこれくらい頑張ったんだと、頑張った分だけ祝ってあげたかっただけ……なのと後は趣味かな。
 ほらピースして、ちゃんと写真に納めさせてもらうよ」

「え……?えっと………えへへ………」

 カシャッ、と光を浴びる。
 そんな風に言われたら撮られる意外無いじゃないですか。

「うん、この困ったようなぎこちない笑顔が実に良い……けど、やっぱりこの2枚が一番上手く撮れたね」

「なっ……いったいいつ撮ったのですか?」

「ふふ、秘密」

 セリスが見せてくれた2枚。
 1枚は私が椅子に座って窓の外へと目を向けた時の写真。
 外の喧騒が気になって見た一瞬で撮られたのでしょう。
 もう1枚は真剣な表情で三つ編みを編もうとしている私の姿。

「……この髪を触るメリルは大人びた雰囲気があって格好いいじゃん。
 私もこの写真は欲しいな」

「え?ターニャ?」

「それは増やせば良いとして、その前に休憩がてらターニャを捻るとしよう。
 体暖まってるでしょ?冷めないうちに軽く捻ってあげるよ」

「お、お手柔らかにお願いして良いか?」

「死人が出てないんだから平和だろう?」

 とても素敵な笑顔。
 けっきょくターニャは捻られてしまいました。
 ターニャ自身が望んで模擬戦をしているとはいえ本当に見事です。
 素人目ですが最近のターニャは頑張っていると思いますよ?

 剣を投擲し直ぐ様ナイフで突撃して避けられたのを確認して盾で凪ぎ払うなんて事、以前のターニャなら絶対にしません。
 今回の決着は一度セリスの手に渡った剣を回収したら軽い呪いが掛けられていて動けなくされたところを投げ飛ばされた事です。

 いつも通り必死なターニャと違ってセリスはとても余裕そうでした。
 平和ですねぇ……
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