覇王セリスの後日談

あかみみ

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軽い刺激

共に歩む道

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 私とメリルは二人で同じ夢を目指している。

 元々私には具体的な夢などもう有りはしなかった。
 強いて言うなら……
『友達が欲しい』
 それ1つ。私の夢はただそれ1つだけだった。

 そんな私にできた可愛らしい友達。
 歳が10も離れているが、私にとって間違いなく友達であり信頼に値する存在。

 小さく可愛らしい友達であるメリルには夢があった。
 店を構えるというありきたりな夢ではあるけれど、当たり前な事ほど難しいというのは身に染みて理解している。
 当たり前な程難しいと理解した上で、私は友達を一人たりとも作れなかったのだからそれと同じくらいなのだと思う。

 私はメリルの努力をちゃんと見てきた。
 努力するメリルの姿はとても魅力的で堪らなくいとおしく感じる。
 それはメリルが弱いからこそ感じるのかもしれない。
 手には重い荷物を持ったりした時にできた傷跡やペンだこ、とても意識している男性のような振る舞い。
 それだけでなく、雪で本当に死んでもおかしくない体験までしている。
 私にはメリルの夢がその努力に見合う夢だとはとても思えなかった。

 けれど、風邪を治す間に話し合ったメリルの夢……

「メリル、何を書いてるんだい?」

「あ、セリス。
 流石にずっと寝ているのは退屈で、ほら、これ。どうですか?」

「これは……見取り図だね。上手いと思うよ」

「ありがとうございます。
 いずれ店を持つ時にどうするかと考えるのが凄く楽しくて」

「……この部屋を別けてるのは?」

「せっかくですし個室が欲しいじゃないですか。
 こっちが……」

「メリル?」

「すいません、当然のようにセリスも住むものだと考えて描いていました。
 セリスは私が店を持っても旅を続けるのですよね?」

 いくら深読みして空回りする私でも、今の言葉はメリルの中では既に『私が側にいる事が当たり前』になっていると理解するのに十分すぎるものだ。 
 それが私にとってどれだけ嬉しかったかメリルにはわかるだろうか?
 その頭の羽は冷静に私が喜んでいるとわかっても、それがどれ程の物だったかまでを……

 私は嬉しかったんだ。
 だからこそ私も同じ夢を持つ事にしよう。

 私は、私の本当の夢を見つけたから。

 私の夢は、私の居場所を手に入れること。

 心のどこかで私には居場所を作るなどできないと思い、無意識にその考えをしないようにしていた。
 例え居場所など無くとも友達が居てくれれば良い。
 他に何もいらないと思っていた。

 私がここに居て良いと心の底から思える場所。
 私を受け入れ、共に過ごしてくれる人と共に居続ける場所……

「……セリス?」

「ん……すまない、聞いていなかったからもう一度お願いできるかい?」

「セリスはどうするんですかって聞いたんですよ。
 私なりに考えてみたんですけど、私が店を持ったらセリスはミィさんって人を探しに行くのかなと思いまして、どうするんです?」

「店を持つと言っても先の話だろう?」

「あと2年以内には持って見せますよ」

「そうかい。………それで、その場所に私も居て良いのかな?」

「え……えぇ!もちろんです!」

 一瞬驚いた表情をしたあと、パアッと花が咲いたような笑顔を見せてくれるメリル。

 私はこの子の側に居ても良い、メリルの側に居るべきだ。

「その見取り図だけど、どうせなら地下室も作ってみたりしないかい?
 まあ、私が欲しいからなんだけどさ、私の魔法でチョチョイと作るとして入り口だけ用意してもらってさ、何処なら良いかな?」

「地下室ですか?盲点でした、倉庫に使えそうですね……」

「それもあるけど、地下室は葡萄酒を作ったり仕舞ったりとかとにかく便利だよ」

「葡萄酒を作るんですか?」

「趣味範囲だけどね」

「セリスの趣味範囲は規模が大きそうなんですけど」

「そんなことは無いよ。
 それより、地下室には他にも要点は多いよ?ハーブとか色々」

「それなら作るとして……」

 二人で沢山語り合った。

 私達の夢は店を持つこと。

 私は魔力付与や魔法具の作成を行いメリルに売ってもらう。
 メリルは幅広い商品を販売するというのが現状固まっている形である。

 店の構図を描きながらお互い語り合うのはとても楽しい。

 その夢は私の力なら叶える事は容易だろう。
 しかし、私だけの力ではメリルの為にならない。

 けっきょくのところ私はメリルの側に居られればそれで良いと思っているのも本心だ。

 だからこそ私はメリルの力になる。
 メリルの歩幅に会わせて、とびっきり弱い力でメリルと肩を並べて歩き、メリルの成長を助けるほんの少しの力だけあれば十分。
 そして、メリルが強大な何かを前にして剣を欲したならば、私はその剣として振るわれよう。
 私が力を使うのでなく、メリルが私の力を使う。

 私からしてみればメリルはとても弱い。
 しかしそれは私を基準にしたならの話でメリルは強いと私は信じている。

 判断能力の早さ、即決できる大胆さ。
 そして、駄目な時は立ち止まり、考えて、それでも駄目な時にちゃんと頼る事ができること。

 かつての私は、弱虫で自信がないから誰にも頼る事ができなかった。

『弱いから人に頼る』と言う奴は多いし私もそうだった。
 だが私も含め、そう言う奴は本当に一人で生きられているのか?

 違うだろ、少なくともその側には誰かがいて共同で作業を行ったり、時には敵対したり何かしらの関係はあるはずだ。

 ピンチになった時に親しい者が居たとしても頼る事のしない……
 いや、できないのはその関係を壊してしまうと思い逃げているからだ。

 その友ならその状況を打破できるかもしれない。
 それでも頼る事ができない。

 だから私はメリルの事は弱いけど強いと思う。

「僕……いえ、私はセリスが構わないと言うならそれで良いと思います。
 私も、セリスの事を信じていますので」

 メリルは商業ギルドの責任者の前で帽子を外し、自分で意味嫌われていると言っていた羽をさらして私にそう言ってきた。

 まるで、私と共に歩んでくれないかと訪ねるように。

 メリルの聞き返してくるような言葉に私は一瞬驚いた。

 人生の大きな選択肢を提示し、共に歩んでくれと。

 そんな覚悟、とっくにできているが再び気を引き締めて誓う。

 私は、私の力の全部を使ってメリルを支え幸せにする。

 メリルの選んだ道はメリルを傷つける険しい道かもしれない。
 それでもメリルは自分の足でその道を進むと言った。私と共に。
 だから私はその隣に居続ける。


 ・


 用意させた鉄の剣にセリスが魔力を付与していく。
 鉄の剣は水色の淡い光を放ちだし、やがて光の色が濃くなっていき刀身も紺色へと変化した。

「はい、これでできたよ。
 ちゃんとこれ以上の変化は起こらないようにしたから大丈夫」

「これ以上の変化があるのですか?」

「あるよ。ただ、強すぎる変化は魂を構築してしまってね。
 ほら、前に勉強しただろう?魂とは?」

 確かに勉強しましたね。
 魂は生物以外にも存在していて……いえ、ここは必要ありませんね。

「魂とは肉体とは別に存在する魔力的な記憶の保管庫です」

「概ね正しいね。
 つまり魂がしっかりと器に馴染む事ができれば道具のような物なんかでも意思を持つようになってしまう。
 そうなった場合良い影響もあれば悪い影響もある。
 やたらアンデットの多い鉱山とかってどこか知らないかい?
 そう言う場所には『歪んだ魂を持った意思ある鉱石』なんかが埋まっている可能性が高いんだよ。
 自分の意思で産み出したアンデットに魂を回収させてより強い力を求める感じにね」

「なるほど……旨い話にリスクは付き物ですが、そのような恐ろしいリスクがあるのですか……」

「ま、私はそんな未熟者ではないから」

「素晴らしい……是非その技術を使った取引がしたいのですがよろしいでしょうか?」

「落ち着きな、この技術は初めから2年以内に一般的なものとして使う予定だったんだよね、メリル」

「はい、その予定ですね。ですがセリス?
 私はそれで性質変化が起こるとは聞かされてませんでしたよ?」

「ごめんよ、私もこんな事を起こすつもりは無かったんだよね。
 魂の構築だけは絶対にさせないから安心しておくれ」

 私とセリスは笑顔でそう確認し会う。
 店を出した時にお互い何をするか具体的に話し合っていたので直ぐに出たやり取りです。

「2年以内にとは……どのような意味なのでしょうか?」

「私が店を持った際に私のパートナーであるセリスも同じ店で働く事になる予定なのです」

「それで私は道具に魔力を付与する仕事をする予定だったんだよ。質量にもよるけど1回銀貨3枚でね」

「……この技術を銀貨3枚?」

 ミカエルさんはとても驚いていますね。
 私もセリスから話を聞くまで何を馬鹿なと、商人の私が否定しようとしましたがセリスの目的を達成しつつ儲けを出すにはこれが一番良いそうです。

 正直に言うとセリスのは趣味みたいなもので、働きもしないで私の側にいる事を望まなかったから選んだ方法です。
 無職は格好付かないですから働き、仕事も程々に私といる時間を増やしたいとの事。

 私もセリスとの時間が増えるのは喜ばしいです。
 それに、セリスが沢山時間余るようならこっちを手伝わせれば良い訳ですしね。

「そうすればDランク冒険者でも多少痛くとも無理せずできます」

「しかし……これ程の利益の出る物を……」

 ミカエルさんの様子と言い、セリスがくれた勇気のお陰もあり私は今とても流れに乗っています。
 流れに乗りながらも冷静な私の頭は1つ良いことを思い付き頬がつり上がりそうのを隠してそれを提案する。

「ではミカエルさん、1年程貴方の言うその利益を独占してみませんか?」

「……」

「……どの様な意味でしょうか?」

 セリスはどこまでも余裕に満ちた笑みを浮かべつつ目を瞑る。
 私に任せたと信用して背中を押されたような気がした。

「言葉通りの意味です。
 私達がこの町を出る雪解けのその時までセリスさんが生活するのに問題ない魔力……1日剣50本分くらいはできますよね?」

「それくらいなら問題ないね」

「だそうですので、それを私達が町を出るその時までセリスが毎日魔力付与を行う。
 その代わり、ミカエルさんには1年後、具体的な日数は後にするとしまして、私達の為にのレドランスの一等地を買い、店を改築しその権利を私達に譲って貰えないでしょうか?
 後日設計図を用意しますのでその形でお願いします。
 セリスが作業を行うのはこの町を出るその時までですが、その際に技術を使い作った分は私達が店を持つその時まで全て貴方達が独占する形でどうでしょう?」

「レドランスの一等地となるとそれだけでは……」

「ミカエルさん、お気付きでないようですけど……何もただの鉄だけに魔力付与を行う必要は無いのですよ?」

「っ!?」

 レドランスという町は冒険者の町とも呼ばれているくらい冒険者が多く、冒険者同士の喧嘩はありますが、それでも民間人としては城下町よりよっぽど治安が良く、同時に商人にとって夢のような儲けを出せる場所であり個人経営ができれば余程の事が無ければ一生安泰とまで言われています。
 その場所に店を構えるにはそれなりのコネクションと大金が必要。

 コネクションは少なくとも貴族か、貴族等を相手するような大物との関係が必要でお金でどうなるものではありません。

 そこで商売して後々得る利益を考えるならば、今回提示した条件である私達が町を出る雪溶け、今年は雪が異常に多いので長くとも3月後半まで。
 雑に計算して剣6000本分であり、私達が後々得る利益とミカエルさんが負担するリスクを考えればまだ足りないでしょう。
 普通よりも余程大変な筈です。
 何故なら私がドリーミーであるから。

 ただ、それも普通の鉄を性質変化させたらの話です。
 別に鉄だけである必要も無いですからね。
 これ程の物が契約を結ばれた瞬間から私達が店を開くまでは出回らず、付加価値も考えれば十分釣り合いは取れるはず。
 むしろ元々希少な金属を用意できれば国宝よりも優れた物が作れる可能性すらある。

 私にはコネクションも一等地を買える大金のどちらも無い。
 けれどパートナーであるセリスの力を借り、それ意外の全て、利益を引き出すのは全て私が引き受ける。

 これが私なりの答え。
 私を選んでくれたセリスと向き合って出した、セリスと一緒に歩く道。

「……わかりました。その話を飲みましょう。
 ただ、これからお互い話し合う必要が多そうですのでお付きあい頂きますよ?」

 ここからが私の戦いですね。

「当然です。そう言って頂けなければ今の話は取り下げていたところですよ」

 笑顔でそう答え、ミカエルさんも笑顔ですが笑っていない。
 格上の相手。
 けれど、側にセリスが居てくれて、流れに乗っている今なら不思議と負ける気がしません。
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