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軽い刺激
迷い
しおりを挟む4月3日
閉じきった窓から漏れて聞こえる活気溢れる音を耳にしながら私は目を覚ました。
目覚めて真っ先にした事。
それは毛布を頭から被り丸まる事でした。
そして沢山の後悔の念が込み上げてきた。
本当、自分でも驚くほど馬鹿な真似をしたなぁ……
いくら大切でも何故あんな真似をしたのか……
私にとってセリスは大切な人だけど……これ程だなんて思ってなかった………
私はセリスの事が大好きだと理解しています。
けれど、私が思っていた大好きでは全然足りないほどセリスの事が大好きだと理解した。
それにしても、昨日は馬鹿にされてばかりの1日だったなぁ……
見廻りの兵にはドリーミーである事を馬鹿にされましたし、ダンジョン内でも内心魔法も使えないと思われてた感じがしましたし、トドメに親友のセリスの事を化け物呼ばわり………
はぁ……なんだか悲しくなりますね………
……今思い返せば昨日の私はやっぱりおかしかったです。
普段の私ならドリーミーである事を馬鹿にされたって気にしません。
いつもの様にヘラヘラと面白くもないのに笑って、その場が落ち着くのをじっと待つ。
それが私の知っている私だったはずなのに何で……
何で昨日の私はドリーミーだと馬鹿にされたくらいで軽い怒りを覚えて立ち向かったのだろう?
小手を着けた成人男性に殴られれば種族的に体の弱いドリーミーなら死んでしまってもおかしくは無いでしょうに何で?
私は考える。
何でこうなったのか、これ以上失敗しない為に。
切っ掛けは確実にセリスと出会ってからでしょう。
けれど出た答えはそこまで、私の欲しい答えは出てきません。
「メリル、起きてるかい?」
そう言いながらセリスが部屋に入ってくる。
「………おはようございます」
「どうしたんだい?そんなくるまって、髪がボサボサだよ?
とりあえずミルク入れてきたんだけど飲むかい?」
「はい、飲みます」
ベッドから出て、椅子代わりに座り直しセリスからミルクを受け取る。
「ありがとう」と言えば「どういたしまして」といつもの笑顔で返事をしてくれる。
その優しげな笑顔をもう少し回りの人にも見せられるようになれば良いのにと思いながら湯気の立つマグカップに口を付ける。
「それで、どうしたんだい?」
私の隣へ腰掛けて体を預けてくる。
身長差もあってセリスの頬が私の髪に乗っている。
「……昨日の私がした事を考えていました」
「昨日の事って……あれはもう終わっただろう?
私の為に怒ってくれてとても嬉しかった。私はそれで十分なのだけどメリルはそれじゃ駄目なのかな?」
「……その事だけではありません」
「そうなのかい?」
「……ところで、セリスはやけに気合いの入った服装をしていますね」
「祭りの最終日だからねぇ。
メリルとのデートだというのもあって少し気合いをいれてみたのだけど、どうだい?」
スカートを軽くつまみ全体を見せてくれる。
いつも着ている村娘の服装じゃなく、黒をベースにしたドレスのような感じで、腰のラインがしっかりと出ていてセリスのスタイルの良さが伺える服装。
何より一目で魔法使いだとわかる感じで格好いい。
「はい、良く似合っています」
「折角だしメリルもお洒落しようか。
髪をとかしてあげるね、気分を変えれば答えが出るかもしれないし」
「自分でできま…………お願いします」
ブラシを取り出したセリスに私が断ろうとすると、セリスの魔力がとても暗いものになっていきました。
なんと言うかズルいです。
セリスは靴を脱ぎベットに上がり私の背後に座る。
セリスの魔力を羽が感じ取り、魔力からしてセリスは機嫌が良いと言う事を教えてくれて、ついため息が出た。
「もしかしなくてもセリスは私が魔力を読んでいるのを知っていて都合のいいように魔力を変化させてますよね?」
「ん~?そんなことないよ~?」
私の髪をとかしながら機嫌良さそうに答えますが、魔力は急に平静なものになりました。
その反応がもう答えじゃないですか。
「本当にズルいです……私はセリスの口から直接そう言うことを聞きたいです」
「私は悪党で悪い魔法使いさんだからズルいのは当然だけどね」
「セリスは力を持ちすぎただけの良い魔法使いさんですよ」
「世の中それが問題なんだよ。
こっちの国じゃ英雄でもあっちの国じゃ大虐殺の殺人鬼で恐怖と憎悪の象徴さ」
「……例えそうでも私はずっとセリスの側に居ます。
セリスが不老で死なないなら、私もドリーミーを止める覚悟くらいあります」
その言葉を聞いたセリスの手が一瞬だけ止まる。
「馬鹿な事言ってるんじゃないよ、今は良くても後で絶対に後悔するよ?」
止まったのは本当に一瞬で何事も無かったかのように振る舞って手を動かす。
振る舞いは完璧だけど、動揺した心までは隠せていない。
セリスは私の言葉に喜んでいるのを必死に堪えている。
「このままだと絶対に後悔するのはセリスだって決まっていますけどね」
「う~ん……どうしたんだい?
弱っているかと思ったら随分強気だね?」
嬉しい気持ちを抑えながら困った様子を見せるというとても器用な事をしている。
私はそれを見て悲しくなった。
目の前の親友が私に求めた物を私は護れなかったから……
「セリス……ごめんなさい。
私はもしかしたら力を得た事で変わってしまったのかもしれません」
「それは……どうしてそう思うんだい?」
困ったと頬をかき苦笑するセリス。
セリスが今まで見せた困ったという表情は私を心配してどうしたら良いかわからないという必死さを全面に出したようなものが多かったですから今している表情はあまり見ない。
もっといろんなセリスの一面を見たい。
私はいつここまで変わったんだろう?
「セリスは前に、私が変わらないと思ったから側に居てくれると言ってくれました。
けれど、私はたぶん変わってしまいました。
昨日の私は今までの私と比べてとても変なんです。
兵が私の事をドリーミーと見下した事に内心では腹を立てて売り言葉に買い言葉をして、相手の様子からジルさんが居なければすぐにでも殴られていました。
当然そうなったら私の勝てる可能性なんて無いだろうに……
それがわかっていながら私は止めませんでした。
前の私ならヘラヘラと笑いながら媚びて場が静まるのを待っていたのに……
私がツァリーヌさんにビンタした時も同じです。
なんであんな事したんだろ私……」
語っているうちに涙が出てきた事に気付いて裾で拭いながら言葉を続ける。
「今だって、私はセリスの事が大好きでセリスに嫌われたくないと思っていて、私が変わってしまって嫌われるかもと思いながら、セリスなら絶対に嫌わないなんて余裕があるというか……
完全に甘えきっているというか……
どれもこれも私の力じゃなくて、セリスがくれた物なのに……」
「メリル」
髪をとかしていたセリスが後ろから抱き付いてくる。
「……セリス?」
私が不思議に思いセリスを見ると、セリスは優しい笑みで私の頬を撫でた。
「良かった、こっちを見れるだけの顔はしてるね。
泣いてしわしわになったメリルもかわいいかもしれないけど、目を腫らしていない方が素敵だよ?
ほら、とりあえずそれ全部飲んじゃって」
セリスに言われて私は少しぬるくなっているミルクを見ると既に膜のようなものができてしまっている。
確かにこれ以上ぬるくなるのはもったいないと思い私はミルクを飲み干す。
私がミルクを飲んでいるうちに正面に来て、目線を合わせ、私の両手に触れてくる。
「メリル、メリルは昨日何で兵の人相手に怒ったの?」
「……さっき言いましたよね?」
「もちろん聞いてたよ。
それでももう一度教えてくれないかい?」
「ドリーミーだと見下された事に腹を立てたからです……」
「何で腹を立てたんだい?」
「なんで……それは、誰だって自分を馬鹿にされれば苛立ちますよね?」
「うん、そうだね。
でも、なんで馬鹿にされて苛立ったんだい?
……メリル、答えなんて案外シンプルな物なんだよ。
言い回しや誰がこうで、何が原因かなんて言うまどろっこしい計算式は全部無視しちゃって答えだけ見ちゃいなよ、ね?」
「…………」
セリスはとても優しくそう言った。
だから、セリスの言うように兵の人がどういう態度だったからとか、そう言うのを排除して私だけの世界で考えてみた。
その答えは案外簡単に見つかった。
「……私が、ドリーミーでいることに誇りを持っているから?」
「メリルが少しでもそう思ったならそれが正解だよ」
私の頭を撫でながら、私よりもずっと嬉しそうにそう言った。
「ほら、だから簡単に種族を止めるなんて言っちゃダメだよ」
「簡単なんかじゃありません!私なりに考えてそう言ったんです!
……ですが、まだまだ若いですのでもう少ししてからでも遅くないかもしれませんね」
「それも正解だよメリル!」
「わっ!」
ガバッと抱き締められそのまま押し倒されてしまった。
そのままわしゃわしゃとせっかくとかした髪をかき乱される。
「ちょっとセリス……」
「あのねメリル、メリルは変わったんじゃないんだよ?
それをちゃんと理解しているかい?」
セリスは耳元で私にそう言い、体を起こして見下ろしてくる。
「メリル、君は商人として怒ったのかい?
ちょこっと腕の立つ魔法使いとして怒ったのかい?
それとも……誇り高きドリーミーとして怒ったのかい?」
とても真剣な眼差しでそう言われ、私は考える。
けれど……
「……何故でしょう……どれも合ってるけど違う気がする…………」
「ほら、やっぱり変わってない」
笑顔でそう言い私を大事そうに撫でながら続きを語る。
「メリル。メリルはね、メリルになったんだよ。
商人でも魔法使いでもドリーミーでも無い。
今まで必要だから奥へ奥へと追いやり、削りに削った自分自身。
それをまた無理に追いやったら自分に嘘を付いてしまう。
時に嘘は必要だけど、曲げちゃいけない時がある。
あの程度の人種に躊躇する必要は無い、自分を否定してまで失う必要が無いから、だからメリルは怒ったんだよ」
「……私が私自身になった?」
「そう、心当たりは無いかい?
ドリーミーを馬鹿にされたから怒ったのは正解だろうけど、ギリギリ正解って言えるくらいじゃないのかな?
本当はドリーミーだと一括りにされメリル自身が馬鹿にされた気がして怒ったんだと思うよ?
いいかい、メリル。これは似てるようで全然違うんだ。
私もこの答を出すのに本当苦労した。
この答えに行き着かなければ私はこの世界に飛び込んだりしてないもの。
あ、飛び込むって文字通り飛び込んだんだよね。
次元の穴へ身投げしてね。」
苦笑するセリスに小さな笑が漏れた。
全部の疑問が解けた訳ではないけれど、それでも自分の中で折り合いを付けるには十分だったから。
「フフ……なんですかそれ?正直、意味わかりませんよ」
自分が自分になるって……初めから自分なのにどう変わるのでしょう?
「でも……何か吹っ切れた気がします。
セリス、ありがとうございます。
今なら次元の穴に飛び込めるような気もします」
「それはダメだよ、私が許さないって。
向こうにメリルが行ったらすぐ死んじゃうよ?」
「フフフ、冗談ですって。……セーリース」
私はセリスの名を呼びながらセリスの胸に顔を埋めます。
「その……できればもう少し撫でてもらえませんか?
セリスに撫でられると凄く落ち着きます」
「はいはい、満足したら朝御飯にしようか」
驚いた様子でしたが、とても嬉しそうに私を受け入れて撫でてくれる。
なんと言うか、私はセリスの影響をかなり受けてますよね。
自分が誰かにここまで甘える日が来るなんて思ったことありませんでしたよ。
甘えさせてもらい満足したので私達は朝食を済ませ、外へ出る支度をし祭りの活気に足を踏み入れる。
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