『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

アオミ レイ

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第一章 監獄に吹く新たな風

プロローグ『自由の果て』

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深く、冷たく、そして果てしない闇に満ちた海の底。

巨大な監獄船『ネプチューンズ・コフィン』は、その黒々とした水面をゆっくりと切り裂いてゆく。
その船内は鋼鉄の壁に覆われ、囚人たちが重い鎖で縛り付けられていた。囚人たちの表情はみな暗く、ただ諦めだけが彼らを包んでいる。


その中に、静かに目を閉じ、何かを待つように鎖に繋がれた魚人がいた。
彼の名はジル・レイヴン。トビウオ魚人の彼は、翼のような特徴的なヒレを耳元と頭部に持ち、鋭い眼差しと引き締まった体躯をしている。


【キャラクター紹介:ジル・レイヴン】
種族:トビウオ魚人
性格:冷静沈着、正義感が強いが独善的ではない、戦いにおいては直感と経験を重視する
能力:鋼鉄化する拳、圧倒的な跳躍力とスピード、気配を察知する能力が研ぎ澄まされている
備考:かつてブルータイドに所属していたが、政府の陰謀により仲間を失い、海底監獄アビスロックに収監される。派閥に属することを拒み、監獄内で独自の道を切り開こうとする。


世界は今や、海洋の覇権を握った魚人と、陸地を支配する獣人が主役となり、かつて栄えた人間は、少数が細々と暮らしているのみだった。

ジルはそんな世界の中で、『ブルータイド』という反体制組織の一員として活動していた。
ブルータイドは、差別と抑圧に抗い、真の自由と平等を目指して闘ってきた組織だった。しかし、その理想は政府軍の圧倒的な暴力の前にあっけなく砕かれた。組織は壊滅し、ジル自身も捕らえられてしまった。


彼に与えられた罪状は、「反乱罪」。判決は終身刑で、世界で最も恐れられる牢獄──『深海監獄アビスロック』への永久収監だった。


やがて船内に冷たいアナウンスが響く。
「間もなく深海監獄アビスロックに到着する。囚人ども、立て!」

囚人たちが立ち上がり、重い鎖を引きずりながら船の窓から外を見た。窓の外に は闇の中から巨大な影が浮かび上がった。海底の岩盤を掘り抜いて作られた要塞──深海監獄『アビスロック』がその禍々しい姿を現したのだ。


船が近づくと、監獄唯一の船着場にそびえる鋼鉄の巨大門『深淵の錠前』がゆっくりと開き始める。船はその中に吸い込まれるように入っていった。

アビスロックは三つの階層で構成されている。

第一階層:アビスロックの地上部に位置する、監獄への唯一の出入り口にして看守たちの支配拠点。鋼鉄の巨大門『深淵の錠前』によって封鎖されており、厳重に武装した精鋭看守が常に目を光らせている。
ここを通り抜けられる者は看守と新たな囚人のみ。海底監獄の威厳と恐怖を象徴する場所であり、すべての囚人たちが自由を奪われることを知る、絶望への入り口でもある。



第二階層:ジルたちがこれから送り込まれる、深淵のように広がる広大な階層。殺傷や暴動に関与した凶悪囚人だけでなく、政府にとって“危険思想”や“過剰な力”を持つ者たちも無数に収容されている。派閥や勢力争いが日常茶飯事の混沌の階層。
看守たちは意図的に干渉を避け、囚人同士が自由に争うのを黙認している。



第三階層:アビスロックの最下層。政府にとって特に危険とされ、絶対に外に出したくない最悪の囚人たちが収容されている特別牢獄。厳重に監視され、そこに収監された者は再び日の目を見ることは許されない。


船が第一階層に到着すると、囚人たちは荒々しく降ろされた。その前に立ちはだかったのは、監獄の絶対的支配者──シャチ魚人のギルバートだった。

【キャラクター紹介:監獄長ギルバート】
種族: シャチ魚人
性格: 冷徹で威厳に満ち、囚人たちを絶望と恐怖で支配する監獄の絶対的支配者。高い知性と冷静な判断力を備え、敵対者や反乱者には一切容赦せず、恐怖による支配を徹底する。
能力: 圧倒的な腕力を誇り、並の魚人ではまともに太刀打ちできないほどの破壊力を持つ。強靭な肉体に加え、敵の動きを瞬時に予測する鋭い洞察力も併せ持ち、あらゆる状況下で完璧な戦闘を展開する。
備考: 政府直属の任務で監獄長に就任。監獄を自身の王国のように統治しており、看守たちからの信頼も厚い。その存在自体が囚人たちの抵抗意志を削ぎ、絶望へと追いやるほど強烈な威圧感を放っている。



ギルバートが冷たく囚人たちを見下ろした。
「囚人ども、お前たちを拘束している鎖を外してやる。自由に動くがよい」

囚人たちはわずかに期待の表情を見せたが、ギルバートはすぐにそれを打ち消すように続ける。
「勘違いするな。この監獄の外壁は、超高密度の岩盤が五十メートルにわたって覆っている。ちょっとやそっとじゃびくともしない。
脱獄などは、不可能だ。お前たちが自由に動ける理由はただひとつ──お前たち囚人同士が勝手に争い、互いに潰し合うことが、我々看守にとって都合がいいからだ」
ギルバートは冷たく笑い、背を向けた。


周囲の囚人がざわつく中、ジルだけは冷静に拳を握りしめ、ギルバートの背中を睨んだ。
(絶望に屈するつもりはない。俺は必ずここから出る──)

第二階層への扉が開かれ、囚人たちは混沌の中に投げ込まれた。ジルは深く息を吐き、暗闇の中へ踏み出した。



──闇の扉が開かれた瞬間、世界の法則は狂い始めた。残酷なルール、強大な敵、謎めいた力
――だが、希望はいつだって──ひとつの小さな選択が、大きな一歩となった者から始まる。

これは、反逆者ジルが世界を変えるまでの物語だ。


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