『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

第一章 監獄に吹く新たな風

CHAPTER 12『深淵の支配者』

第二階層──深海の狂気の拠点


戦場の中心で、突如現れた首魁ドゥーム、嵐喰らいカイゼルとバシリスクの死闘が続いていた。
深海の狂気(ディープマッド)の囚人たちも 次々と倒れ、戦局は沈黙の牙の優勢へと傾いていた。

しかし、それでも バシリスクは屈しない。
目の前には 沈黙の牙のボス・ドゥームと嵐喰らいカイゼル。


バシリスクは、これまで戦ってきたどの相手よりも 圧倒的な敵と向き合っていた。
だが、彼の口元に浮かぶのは、怯えではなく、獣のような笑みだった。
「……てめぇら、強ぇな。だが、俺を狩るつもりなら……こっちも命を賭けるぜ」


ドゥームは 冷徹な目でバシリスクを見下ろす。
「命を賭ける？…なら、喰らってみせろ」

次の瞬間、ドゥームとカイゼルが同時にバシリスクへと襲い掛かった！


二対一の死闘

バシリスクは 咄嗟に地を蹴り、低姿勢でカイゼルに接近。
カイゼルが迎撃の拳を繰り出そうとした瞬間、バシリスクは 方向転換し、ドゥームへと跳びかかる。


ドガァン！！

ドゥームの喉元を噛み砕こうとする。
しかし──

バキィン！！

「……甘いな」
ドゥームは 両手でバシリスクの顎を受け止める。


ワニの圧倒的な顎の力が、ドゥームの手によって止められていた。
バシリスクは すぐに顎の力を強めるが、ドゥームはびくともしない。


次の瞬間、ドゥームはバシリスクの顎をつかんだまま、膝蹴りを叩き込む！

ドゴォォン！！！

バシリスクの巨体が 空を舞い、地面に叩きつけられる。
「グ……ッ！！！」

カイゼルが 倒れたバシリスクに向かって拳を振り下ろす。
「……終わりだ」


しかし──



ドロマの暗殺術

「ヒャハハ……そうはいかねぇぜェ！！！」
突然、 狂気じみた笑い声が響いた。

ドゥームとカイゼルの戦いに集中する その隙を突き、ドロマが後方から支援に入る。


彼の手には 鋭く輝く毒針。
「お前の目ェ……もらうぜぇ！！！」
ドロマは カイゼルの目を狙って毒針を突き刺そうと振りかぶる。


ズブッ！！！！


ドロマの胸を貫く鋭い刃。



「ッ……！！？」
ドロマは 驚愕の表情を浮かべ、ゆっくりと振り向く。



そこにいたのは──
重傷を負った包帯姿のローレンス。



ローレンスの復讐

ローレンスは 肩で息をしながら、ドロマの心臓を貫いたまま低く呟いた。
「……グリードの屈辱を味わえ！」

ドロマの瞳が 驚愕と痛みに歪む。
「て、めェ……が……ッ！！？」


ローレンスは 刃をさらに深く突き刺した。
「貴様に……"仲間"の痛みが分かるか？」

ドロマの口元から 血が溢れる。
「ク……ヒャ……ハ……ハ……俺は……死んで"終わり"じゃねぇ……」
「……血と狂気は……"連鎖"するんだよォ……」
最後の笑みを浮かべながら、ドロマは 力なく崩れ落ちた。



バシリスク、撤退

バシリスクは ドロマの死を目にし、舌打ちをする。
「チッ……」

カイゼルとドゥームを 相手にするだけでも厳しい状況だった。
さらに ローレンスまで加わり、後ろにウルスが控えていることで、完全に勝ち目がなくなった。


「……逃げるのか？」
ドゥームが 静かにバシリスクを見下ろす。


「クク……違ぇよ」
バシリスクは ニヤリと笑い、後退しながら言った。
「"次"があるってだけさ。お前らの喉元に……また"喰らいついてやる"ぜ」

次の瞬間、バシリスクは 深海の狂気の残存兵たちを盾にしながら、暗闇へと消えていった。


ウルス、掃討戦

ウルスは 冷静にバシリスクの撤退を見届けると、沈黙の牙の兵士たちに命じた。
「深海の狂気の囚人は一人たりとも逃がすな」

深海の狂気の 生き残りはすでに満身創痍。
ウルスの号令で、沈黙の牙の兵士たちが 無慈悲に次々と囚人を始末していく。


「ギャアァァァ！！！」
「待て……待ってくれェ！！！」
血と悲鳴が 戦場に響き渡った。

バシリスクは 部下の死を気にも留めず、ただ一人、闇の中へと消えた。


こうして、深海の狂気は完全に壊滅。
この戦いを経て、 監獄の勢力図は大きく塗り替えられることとなる──。




深海監獄アビスロック 第二階層──沈黙の牙の進撃

深海の狂気(ディープマッド)が滅び、沈黙の牙の軍勢は監獄内での支配をさらに強めていた。
深海の狂気の拠点は完全に破壊され、生き残った囚人たちは沈黙の牙に吸収されるか、あるいは逃亡を試みるしかなかった。

しかし、すでに第二階層のほとんどのエリアは沈黙の牙の管理下に置かれ、かつての三つ巴のバランスは崩れ去っていた。

「支配」──それが沈黙の牙の意志だった。
霧の幻影（ネブローミラージュ）が未だ監獄の影の中に潜み続ける中、沈黙の牙は自らの力を誇示するかのように、勢力拡大を進めていく。


そして、監獄内において唯一、明確に沈黙の牙に従わない存在がもう一つあった。

「蒼海の解放軍 ブルータイドリベレーションズ」
ジルたちが霧の幻影と共に沈黙の牙の幹部ヴィクターを討ち、その影響で沈黙の牙の動きが一時的に鈍ったことも事実だった。
しかし、それ以上に問題だったのは、深海の狂気(ディープマッド)が消えたことで、第二階層の大部分が沈黙の牙の管理下に入ったという事実だった。

そして、ついに沈黙の牙のナンバー3(グリードの死で昇格)、ウルスがアジトに現れた。


沈黙の牙の警告

扉が開く音が響く。
ウルスが数人の部下を引き連れ、静かにアジトへと足を踏み入れる。
彼の目は鋭く、無駄な感情は一切浮かんでいなかった。

「……ジル・レイヴン」
ウルスは 淡々とした口調で言い放った。
「"深海の狂気"は滅んだ。もはや、ここは沈黙の牙の"支配区域"だ。お前たちは……それを理解して動いているのか？」


バレルが 腕を組みながら鼻を鳴らす。
「なるほどな……要するに、"俺たちも従え"ってことか？」

ウルスは冷徹な視線のまま答えた。
「従わねぇなら、監獄の底に沈める。それだけの話だ」


沈黙の牙の支配

「お前たちの動きが、どこに繋がるか……よく考えておけ」
ウルスは それだけ言い残し、背を向けた。
扉が閉まると、アジトには重い沈黙が残った。



ウルスが去った後、バレルがため息をつきながら腕を組む。
「……随分とはっきり言いやがったな」


ヴォルグが静かに言葉を続ける。
「ディープマッドが消えたことで、沈黙の牙の勢いは加速する。今のままで動き続けても、いずれ沈黙の牙に潰される」

「だが、ここで沈黙の牙に入るのも悪手だ。そうなれば"俺たちの自由"は完全に消える」


ジルは 静かに考え込んだ。
（沈黙の牙に従うつもりはない。だが、今のままでは確実に排除される。霧の幻影の動きも不明だ……。）

ヴォルグが ふと口を開く。
「……沈黙の牙が霧の幻影を潰すなら、それを黙って見ている手もある。逆に、霧の幻影が沈黙の牙に仕掛けるなら、それを利用する手もある。俺たちは……どう動く？」


ジルは 拳を握りしめ、静かに答えた。
「……ここで終わるわけにはいかない」

バレルが ニヤリと笑う。
「ま、ここで大人しくなるのは俺の性には合わねぇな」

レクスも微かに笑いながら頷く。
「……この監獄の覇権争い、本当の戦いはまだこれからだぜ！」


蒼海の解放軍 ブルータイドリベレーションズは、新たな決断を迫られていた。