『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

アオミ レイ

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第一章 監獄に吹く新たな風

CHAPTER 13『第三階層への道』

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第二階層──蒼海の解放軍アジト

沈黙の牙の勢力が拡大し、監獄内の秩序は大きく変化しつつあった。
深海の狂気(ディープマッド)の壊滅により、監獄の支配権は沈黙の牙に集中しつつある。
しかし、もう一つの勢力──霧の幻影(ネブローミラージュ)は、未だ静かに力を蓄えていた。



レクスの配給

「おーい、食料調達してきたぜ!」
アジトの扉が開き、レクスが大きな袋を抱えて入ってきた。

「ったく、沈黙の牙が毎回ゴッソリ持ってくもんだからよ、こっちは残りもん拾うのがやっとだぜ……でもまぁ、何とかなるもんだな」
レクスは袋をテーブルに置き、乾燥魚肉や硬いパン、スープ用の乾燥野菜を取り出す。

「どんどん量が減ってるな…」
バレルが袋の中を覗き込みながら、腕を組む。
「沈黙の牙が物資を独占してるみてえなもんか…早いとこ何とかしねえとな!」



ヴォルグがパンをちぎりながら、静かに言った。
「…さっきとんでもない噂を耳にしたんだが…」

ジルがヴォルグに視線を向ける。
「……何かあったのか?」

ヴォルグは頷き、低い声で続ける。



バシリスクの逃走と看守長襲撃

「先日の抗争で大怪我を負った深海の狂気のボス、バシリスクが逃げる途中、看守長レヴィアスを襲撃した」
「複数の看守とレヴィアスは"生死の境を彷徨うほどの重傷"を負ったらしい」
アジトの空気が張り詰める。

「……あのレヴィアスが?」
バレルが眉をひそめる。

「俺たちも前に"旧管理区画"でアイツと戦ったよな……」
レクスが首を傾げる。
「そういや、あん時は"何かを守ってる"って感じだったな」


ヴォルグが地図を取り出し、指で監獄の一角を指し示した。
「問題は、バシリスクが"あの場所"を通ったことだ。バシリスクがレヴィアスに襲いかかったのは、レヴィアスが何かの邪魔になったからだろう」

ジルが僅かに眉をひそめる。
「……それってつまり?」

ヴォルグは静かに言葉を続ける。
「俺たちが前に訪れた"旧管理区画"……やはりあそこに、第三階層へ通じる秘密の通路がある可能性が高い」



ジルは静かに尋ねた。
「バレル、おまえ…看守時代に第三階層に行ったことはあるのか?」

バレルは肩をすくめ、淡々と答えた。
「いや、俺の持ち場は第二階層の巡回だった。下には降りたことがねぇ」



ヴォルグが続ける。
「監獄には"正式な移送ルート"以外に第三階層へ行く手段はないはずだ」
「だが、バシリスクは確信を持って"旧管理区画"を通り、レヴィアスを襲撃した……これが意味するのは、"奴は何かを知っていた"ということだ」


レクスが腕を組みながら言う。
「なるほどな……。俺たちが前に行った時にはレヴィアスに邪魔されて見つけられなかったが、"隠された道"があるってことか」

ジルは地図を見つめながら呟く。
「……バシリスクは知っていた?」

ヴォルグが頷く。
「可能性はある。レヴィアスが守っていたのは、本当に"ただの封鎖区域"だったのか?……バシリスクの行動を考えれば、そこには"行くべき理由"があったはずだ」
「そして、もし"秘密の通路"が本当にあるなら……俺たちにも第三階層へ向かう道が開ける」


ジルは静かに呟いた。
「…影虎もその通路から第三階層に入ったのかもしれない」


「……となると、もう一度"旧管理区画"を調べる必要があるな」
バレルが腕を組みながら言う。
「レヴィアスはまだ生きてるのか?」


ヴォルグが頷く。
「重傷だが、生存しているようだ」

レクスが考え込みながら呟く。
「でもよ、沈黙の牙がこの動きを知らないはずがねぇ。レヴィアスの件は大きな事件だったろ?」

ジルは静かに息を吐き、立ち上がる。
「なら、慎重に動く必要があるな」


ヴォルグが続ける。

「看守たちも動き始めてる」


ジルが目を細める。

「……レヴィアスが重傷を負った以上、看守たちも対策を考えているか」


ヴォルグが頷く。

「ギルバートはすでに動いているらしい。"旧管理区画一帯を閉鎖するかもしれない"という話もある。もし旧管理区画が閉じられたら、第三階層に入るのはほぼ不可能になる」


バレルがため息をつく。

「ってことは、急がねぇとな」




監獄の最深部へ

「……とりあえず、まずは"旧管理区画"の状況を探るところからだ」
ヴォルグが地図を広げ、監獄の構造を確認する。
「もし隠し通路があるとすれば、"旧管理区画"のさらに奥が怪しい」

「そこを調べるしかなさそうだな……」
ジルは静かに決意を固めた。
「行くぞ。バシリスクってやつが何を企んでいるか確かめるためにも、この監獄の秘密を暴くためにも、俺たちは第三階層へ向かう」




第二階層──旧管理区画


「旧管理区画は普段はほとんど囚人が近づかない場所で、これから監視が厳しくなるはずだ。慎重に行こう」
ヴォルグがそう言うと、ジルたちは静かに影を縫うように進んだ。
通路の角から様子を伺うと、そこには数人の看守が立っていた。

「確かに動きが活発になってるな……」
バレルが低く呟く。

奥を見ると、一人の男が設計図を広げ、看守たちに指示を出している。


キャラクター紹介:新看守長 ルードヴィヒ
名前:ルードヴィヒ
種族:アカエイ魚人
役職:新看守長
性格:冷静沈着で合理主義者。飄々とした性格で、無駄を嫌う。
能力:身体がしなやかで動きが読みにくい。戦闘時には筋肉を膨張させる。鋭い突き攻撃を得意とし、尾には毒針を持つ。
特徴:細身の体躯と整った顔立ちだが、その瞳は冷たく、感情をあまり表に出さない。
備考:副監獄長グレンダルにより抜擢され、レヴィアスの後任として監獄全体の管理を任された。




「あれが新看守長ルードヴィヒか」

ルードヴィヒの瞳は冷徹な光を宿している。

「封鎖作業は遅れるな。最優先で進めろよ」
新看守長の命令で、看守たちが道具を手にし始める。

「やっぱり封鎖するつもりか」
ジルたちは顔を見合わせた。
「急ぐぞ。通路を見つけるなら、今しかない」



旧管理区画はかつて看守たちが使用していたエリアだったが、今ではその多くが封鎖されている。


「この区域には、元々いくつかの地下道があったはずだ」
ヴォルグが地図を見ながら言う。
「問題は、それがまだ使えるのかどうか……とにかく、手分けして探そう」
ジルたちは静かに散開し、それぞれ通路を調査し始めた。


しかし、看守たちも動いていた。
「このエリアの封鎖は慎重に進めろ。万が一にも囚人に利用されることのないようにだ」
ルードヴィヒの命令のもと、看守たちは壁や床を慎重に調べていた。


「もし秘密の通路があるとすれば、すぐに見つかる可能性が高い」
ジルたちは、看守に気づかれないようにしながら探索を続ける。


「おい、こっちに来い!」
レクスが小声で呼ぶ。

ジルたちが駆け寄ると、そこにはかすかに浮き上がった地面に空気の抜ける穴があった。
「これ……下に何かあるんじゃねぇか?」

バレルが床を拳で叩くと、中が空洞になっているような音がした。
「通路か……?」



しかし、その瞬間──

「おい!そこに誰かいるのか!?」
看守たちの声が響いた。

「クソッ、見つかったか!?」
ジルたちは素早く身を低くし、通路の影に隠れた。

「まずいぞ……このままじゃ、封鎖される前に抜けられなくなる」
ヴォルグが地図を見ながら、小声で言う。
「通路の入り口らしきものを見つけたのはいいが、どうやって開ける?」


バレルは地面をじっと見つめ、無言のまま数歩近づいた。
手のひらで冷たい表面を確かめながら、低く呟く。
「もともとこれは看守すら知らない"秘密の通路"だ、となると……強引にこじ開けるしかねぇな」


ジルは素早く考えた。
(このままでは封鎖される……だが、ここで逃げればもう二度と第三階層には行けなくなる。やるしかない……!)
「バレル、ぶち破れ!」

「言われるまでもねぇ!」
バレルが拳を振り下ろし、地面を粉砕する。
すると、岩肌に囲まれた洞窟のような通路が現れた。



第三階層へ!

「行くぞ!」
ジルたちは迷うことなく、その暗闇の通路へと飛び込んだ。

後ろから看守たちの怒声が響く。
「何者かが穴に潜ったぞ!追え!」


しかし、通路内は狭く、複雑に入り組んでいるため、看守たちも容易には追ってこられない。

「よし、第三階層へ向かうぞ!」


ジルたちは未知の領域──深海監獄アビスロックの最下層へと足を踏み入れた。


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