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東京黙示録
episode -1 夜明けの前①
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それは、なんの予兆もなく、俺らを襲った。十二月十三日、日本の中心都市、東京はその全ての機能を停止した。新宿、渋谷などの大都市を中心に半径30キロに及ぶ大規模な範囲で長期にわたる原因不明の停電が起きた。だが、それはただの停電ではなかった。それと同時に、その場に居た、人はおろかありとあらゆる生物、その全てが、東京、いや、この世から姿を消した。
───俺を除いて。
目が覚めると妙な空間にいた。目は見える。口も動く。手足は動かない、いや、そもそも腕ついてるのか。
「あ、起きた?」
目の前で少女が逆さまで顔を覗いている。驚くにも身体の自由が聞かず、口も上手く動かせない。
「いやーよかったよかった。うんうん。今の君の気持ちもわかるが後で聞きたいことは山ほどあるから、とりあえず今は落ち着きたまえ。なんせ生き残っているのは君だけなんだものね。」
少女はひと息ついた後、ハッと何かに気づいて指を鳴らした。途端、俺は天へ昇ってった、いや、落ちていき、床に頭をぶつけた。どうやら逆さまだったのは俺の方だったようだ。いてっと声をもらし、手をついて体を起き上がらせた。今は手も口も動く。
「あ、ごめん!身動き封じていたの忘れてた!そりゃ何も話せないわw」
少女はうっかりと言わんばかりに明るい声で言った。なんなんだこの子は。
「それでは律樹くん。どうしてこのようになってるのか、経緯を教えてくれない?」
淡々と話が進んでいくが、今はそれどころでない。なんなんだここは…。さっきまでは壁も天井もないような無重力の、無限の空間にいたような感覚だったのに、少女の指ひとつでそこはただのビルの一室、オフィスのような場所になっていた。かなりの広さはあるが、さっきの空間からして相対的に狭く見える。
「き、君は…、一体、…」
「おっと失礼。何も分かってないのに説明なんて無理よね。」
オフィスの机に座っていた少女はその場から降りて、俺の前に立ち止まった。7~8歳位の、とても綺麗な金色の髪をもった少女。青くも緑にも見える目、ゴシック?であっているか深い青緑のドレスを纏ったその姿。日本人ではないと言うことだけは間違いないだろう。
「そうね、私のことはシャーロット、と呼んで。よろしくね、常磐 律樹くん。」
何故か俺の名前を知っているシャーロットは無垢な笑顔を向けている。
「正直な話、私もどうしてこのようになっているのかよくわかってないのよね。今2022年であってるよね?」
何を言ってるのだろうか?
「ともかく、今日の出来事を覚えてる限りでいいから教えて貰える?」
「そんなこと言われても…。」
俺が今に至るまでに、ここで一体何が…?
遡ることそれは、事件の僅か十分前のことである。この日律樹は東京駅にいた。普段は学校と家からも遠いので余程の予定がなければ、基本出不精だった律樹は滅多に来ないような場所だった。だがこの日は、
「あ、お兄ちゃーん!」
「優里!久しぶり!」
地方に暮らす妹が初めて遊びに来る日だった。常磐優里。高二。律樹の三つ下の妹だ。彼の実家はこんな都会とはかけ離れた田舎にあった。大学進学のため、都内でアパートを借り、彼だけがこちらで暮らしていた。優里はまだこちらに来たことは1度もなく、連絡をとっては何度も遊びに行きたいと言っていた。そして今日がその日だったのだ。
出会ってその後、二人はすぐに荷物を持って動こうとしたその時だった。 ゴォーンという鈍い大きな音とともに、空が禍々しい色に染まった。その場にいた人はその異常な空間に皆声を出し、慌てていたが、暫くして、二度目のさっきとは違った別の轟音と共に急に辺りが静かになった。全ての人の動きが止まっていたのだ。
「なんだこれ!?おい、優里!」
勿論動かなくなっていた。
「動かない。い、いや…というか…、なんで俺だけ動くんだ…!」
すると、フシューと、なにか空気が抜けるような音がした。禍々しく染った空の上に更に薄暗い帳が降りてきた。そこから駅の上に濃い灰色の気体のようなものが集まり、次の瞬間羽を広げるように広がって巨大な化け物の顔が現れた。骨のような色で異形な顔と、それ以外、2本の大きな腕、体、その全てが霧のようなもので出来ていて、その全身は東京駅をまるまる覆い尽くせる位あった。
「うぁぁぁぁあ!!」
思わず叫び声が出た。そして律樹は確信した。ここに居るのは一人だけだ。この広い空間で、律樹の声だけが響いていた。
「ん?」
化け物が律樹を見た。そりゃ気づくだろうと思ったのと同時にさっきまで感じていた恐怖心が何倍にも膨れ上がった。今度は声すらも出ない。
「貴方は……。いつか……。」
なにかブツブツ呟いて、化け物はこちらに手を伸ばした。
(ヤバい!捕まる!)
心では分かっていたが、恐怖で腕も脚も動かない。ただ呆然と自分の終わりを眺めることしかできないと悟った。だが、化け物のその手は律樹に向かったものではなかった。その手は律樹の目の前で止まり、その目の前にいる優里だけをを包み込んだ。
「……おい!い、妹を返せ!」
無理やり振り絞った声は驚くくらい弱く、震えていた。化け物は何も言わず、体を今よりさらに広げ、この街を完全に覆いかぶさった。
「どうだい?何か思い出した?」
思い出すだけで震えてしまう。
「……そうだ!優里!」
「ユウリ?真っ先に妹の名前が出るなんて、妹思いのいい子ね。」
何様なのか。俺はシャーロットに覚えていることをできる限り細かく話した。それよりも、
「それより、なんでちょくちょく俺のこと知ってんだよ。だいたい、君は何者なんだ!?」
「うーん…。厳密には君のことは前々から知っていたんだ。そうね。どうせこれから知ることだし…。こっちも予想外の出来事があったから。私、シャーロットはある人から命を受けてここにやってきた。こことは少し違うところから来た者。私がここに来た目的はズバリ!常磐律樹、貴方を守る為よ!」
───俺を除いて。
目が覚めると妙な空間にいた。目は見える。口も動く。手足は動かない、いや、そもそも腕ついてるのか。
「あ、起きた?」
目の前で少女が逆さまで顔を覗いている。驚くにも身体の自由が聞かず、口も上手く動かせない。
「いやーよかったよかった。うんうん。今の君の気持ちもわかるが後で聞きたいことは山ほどあるから、とりあえず今は落ち着きたまえ。なんせ生き残っているのは君だけなんだものね。」
少女はひと息ついた後、ハッと何かに気づいて指を鳴らした。途端、俺は天へ昇ってった、いや、落ちていき、床に頭をぶつけた。どうやら逆さまだったのは俺の方だったようだ。いてっと声をもらし、手をついて体を起き上がらせた。今は手も口も動く。
「あ、ごめん!身動き封じていたの忘れてた!そりゃ何も話せないわw」
少女はうっかりと言わんばかりに明るい声で言った。なんなんだこの子は。
「それでは律樹くん。どうしてこのようになってるのか、経緯を教えてくれない?」
淡々と話が進んでいくが、今はそれどころでない。なんなんだここは…。さっきまでは壁も天井もないような無重力の、無限の空間にいたような感覚だったのに、少女の指ひとつでそこはただのビルの一室、オフィスのような場所になっていた。かなりの広さはあるが、さっきの空間からして相対的に狭く見える。
「き、君は…、一体、…」
「おっと失礼。何も分かってないのに説明なんて無理よね。」
オフィスの机に座っていた少女はその場から降りて、俺の前に立ち止まった。7~8歳位の、とても綺麗な金色の髪をもった少女。青くも緑にも見える目、ゴシック?であっているか深い青緑のドレスを纏ったその姿。日本人ではないと言うことだけは間違いないだろう。
「そうね、私のことはシャーロット、と呼んで。よろしくね、常磐 律樹くん。」
何故か俺の名前を知っているシャーロットは無垢な笑顔を向けている。
「正直な話、私もどうしてこのようになっているのかよくわかってないのよね。今2022年であってるよね?」
何を言ってるのだろうか?
「ともかく、今日の出来事を覚えてる限りでいいから教えて貰える?」
「そんなこと言われても…。」
俺が今に至るまでに、ここで一体何が…?
遡ることそれは、事件の僅か十分前のことである。この日律樹は東京駅にいた。普段は学校と家からも遠いので余程の予定がなければ、基本出不精だった律樹は滅多に来ないような場所だった。だがこの日は、
「あ、お兄ちゃーん!」
「優里!久しぶり!」
地方に暮らす妹が初めて遊びに来る日だった。常磐優里。高二。律樹の三つ下の妹だ。彼の実家はこんな都会とはかけ離れた田舎にあった。大学進学のため、都内でアパートを借り、彼だけがこちらで暮らしていた。優里はまだこちらに来たことは1度もなく、連絡をとっては何度も遊びに行きたいと言っていた。そして今日がその日だったのだ。
出会ってその後、二人はすぐに荷物を持って動こうとしたその時だった。 ゴォーンという鈍い大きな音とともに、空が禍々しい色に染まった。その場にいた人はその異常な空間に皆声を出し、慌てていたが、暫くして、二度目のさっきとは違った別の轟音と共に急に辺りが静かになった。全ての人の動きが止まっていたのだ。
「なんだこれ!?おい、優里!」
勿論動かなくなっていた。
「動かない。い、いや…というか…、なんで俺だけ動くんだ…!」
すると、フシューと、なにか空気が抜けるような音がした。禍々しく染った空の上に更に薄暗い帳が降りてきた。そこから駅の上に濃い灰色の気体のようなものが集まり、次の瞬間羽を広げるように広がって巨大な化け物の顔が現れた。骨のような色で異形な顔と、それ以外、2本の大きな腕、体、その全てが霧のようなもので出来ていて、その全身は東京駅をまるまる覆い尽くせる位あった。
「うぁぁぁぁあ!!」
思わず叫び声が出た。そして律樹は確信した。ここに居るのは一人だけだ。この広い空間で、律樹の声だけが響いていた。
「ん?」
化け物が律樹を見た。そりゃ気づくだろうと思ったのと同時にさっきまで感じていた恐怖心が何倍にも膨れ上がった。今度は声すらも出ない。
「貴方は……。いつか……。」
なにかブツブツ呟いて、化け物はこちらに手を伸ばした。
(ヤバい!捕まる!)
心では分かっていたが、恐怖で腕も脚も動かない。ただ呆然と自分の終わりを眺めることしかできないと悟った。だが、化け物のその手は律樹に向かったものではなかった。その手は律樹の目の前で止まり、その目の前にいる優里だけをを包み込んだ。
「……おい!い、妹を返せ!」
無理やり振り絞った声は驚くくらい弱く、震えていた。化け物は何も言わず、体を今よりさらに広げ、この街を完全に覆いかぶさった。
「どうだい?何か思い出した?」
思い出すだけで震えてしまう。
「……そうだ!優里!」
「ユウリ?真っ先に妹の名前が出るなんて、妹思いのいい子ね。」
何様なのか。俺はシャーロットに覚えていることをできる限り細かく話した。それよりも、
「それより、なんでちょくちょく俺のこと知ってんだよ。だいたい、君は何者なんだ!?」
「うーん…。厳密には君のことは前々から知っていたんだ。そうね。どうせこれから知ることだし…。こっちも予想外の出来事があったから。私、シャーロットはある人から命を受けてここにやってきた。こことは少し違うところから来た者。私がここに来た目的はズバリ!常磐律樹、貴方を守る為よ!」
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