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27.待機と試練
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寒空の下、ヴィルはベンチに座っていた。
ここだと駅に向かう人がよく見える。列車のないこの時間、人の姿はまばらだ。
待つようにと厳命された以上、ヴィルはただぼんやりと駅前の広場を眺めているしかできない。考える時間だけはいくらでもあった。
ロルフに選ばせろと祖父は言っていた。そうでなければ。
「嫌われる……」
きゅ、と膝の上の手を握る。これ以上、とも祖父は言っていた。そんなこと起きて欲しくない、考えたくない。けれど考えずにはいられなかった。
ロルフの、烟るような緑眼が沈んでいる事に、本当は気づいていた。また間違えたのかもしれないと思いたくなくて、きっと大丈夫なのだと思い込もうとした。
そうして見ないふりをした結果、空っぽの部屋を突き付けられた。
綺麗に片付いた部屋の中、ヴィルが渡したはずの「少佐のシャツ」が残っていたことが何よりもショックだった。見間違えだと思いたかった。けれど、渡した時のまま綺麗に畳まれたシャツの、他の支給品と比べて明らかに上等な生地の色味と艶はよく目立った。
置いて行かれてしまった。その上、袖を通したように見えなかった。
着てくれなかったんだ、ということに今更気づいてヴィルは余計に落ち込んだ。詰襟の制服だからわからないだけだと思っていた。
「ロルフ……預かっとくって……」
そうだ、あの時『預かる』としか言わなかった。唇を噛んで俯く。なら置いていったのは、預かったものを返すって事なのだろうか? ――それはもしかしなくても、『決別』の意思表示じゃなのか?
寒い中でぐるぐる考え続けると、結論が悪い方向にしか行かない。ヴィルは一度大きく息を吐いて、暗い想像を追い払った。
ふと、こちらにむかって近づいてくる足音に気づいた。顔を上げると、年嵩の駅員が近づいてくるのが見える。
「……軍人さん、昨日もここに居たな」
駅員は、ヴィルから少し離れたところで止まった。
「人待ちかい?」
じろりと制帽の下の目がヴィルを値踏みする。どこか刺々しい態度に戸惑いながら、ヴィルは頷いた。
「ええ、はい。ここにいたら会えるって言われて……その……」
口に出すと途端に自信がなくなっていく。会えるのか? 本当に?
「そりゃまた。余程大事な相手かね」
「……はい。大事な……大切な人なんです……なんですけど……」
「へぇ。それがなんで、こんなとこで待ちぼうけしとるんだい」
不信感をありありと滲ませた口調で尋ねられてしまったので、ヴィルは焦った。この状況、一体なんと説明したらいいのだろうか。
「あのー、本当は探したかったんだけど、でも待ちなさいって言われて、待つことが一番良くて、それで俺は勉強しなくちゃいけなくて、だからえっと、待たなきゃいけなくて……追いかけたら逃げるからダメで、嫌われたくなくて……だからその……選んで、もらわないと、いけなくて……」
しどろもどろに言葉を探す。口にすればするほど、自分の置かれた立場の歯痒さと不安が増していく。自然とヴィルの声は小さくなっていった。
「はぁ? よくわからんな……」
不信感を超え、呆れ果てたような声色で言われてしまった。とうとうヴィルはしょんぼりと俯いた。
駅員はヴィルの落ちた肩と頭を冷ややかに見おろしていたが、ぷいっと視線を逸らした。
「……さては痴話喧嘩だなこりゃ」
「ち、?!」
ヴィルは、思わず顔を上げた。制帽の下に手を突っ込んで頭を掻きながら、駅員はうんざりした顔をしていた。
「目立つ軍人が朝から晩まで駅前で張り込んで、こりゃてっきり軍の大捕物でもあるのかって、うちのもんが怯えてたんだよ。それがなんだ、蓋を開けてみりゃ……あぁ、しょーもない」
「しょーもない?!」
おうむ返しに大声を出してヴィルは思わず立ち上がった。長身を見上げた駅員は一瞬息を呑んだが、すぐに気を取り直したように鼻を鳴らした。
「どうせ、嫁さんあたりに逃げられて、そんでベソかきながら追っかけて来たってとこだろ。全く情けねぇ。若いのに何してんだ」
「そっ、なっ……!」
あんまりな言い方に、さすがのヴィルも何か言おうと口を開き、ぱくぱくと開け閉めを繰り返して、閉じた。がっくりと肩を落としてヴィルは再びベンチに座った。
「そうなのかな……そうかも……に、逃げ……」
何よりも『逃げられた』の言葉が深く突き刺さって、ヴィルは激しく動揺した。
「………………どうしてぇ……?」
絶句し、青ざめ、わなわなと震えるヴィルを駅員は胡乱な目で見下ろした。
「なんでも良いさ。待つんなら邪魔にならんとこで頼むな」
呆れた口調を隠しもしないまま言いつけて、駅員は足早に駅に向かって帰っていく。途中、駅舎から恐々と覗く同僚に向かって首を振り、肩をすくめて見せた。
「うう……」
残されたヴィルはツンと痛む鼻を無理矢理に啜り、目尻の涙を拭った。
――ロルフ、逃げたかったのかな。
ヴィルは、ぐす、と鼻を鳴らした。
つがいになった事、後悔してるんだろうか。今のヴィルでは、ロルフがなにを考えてたのか、どこに行ったのかもわからない。
「俺は……ロルフの事、何にも知らない……」
今更のように思い至って、ヴィルはまた鼻を啜った。
ここで待てと言われてここにきたけど、どうしてここなのか、なぜここにいるとロルフに会えるのか、何もわからない。祖父から、ロルフの身柄は心配ないと言われたのを鵜呑みにしていたが、本当なんだろうか。ロルフは今どうしているのだろう。
あったかいとこにいるといいな、とヴィルは思った。ちゃんとご飯食べてるかな。体が辛くないといいな。
――もし、ロルフがここに来なかったら。
考えているうちに、沈めていた不安がまた浮き上がってきてしまった。
ロルフが居心地良い場所にいて、もう帰りたくないって思ってたらどうしよう。俺のことが嫌になっちゃってたら、どうしよう。
ヴィルは小さく身震いして、強く自分の腕を掴んだ。
◇
寒空の下で落ち込んでいる姿を哀れんだのか、夕方が近くなる頃から、ちらほらと駅員たちが寄ってくるようになった。年季の入った焚き火台まで持ち出し、そこで温めた飲み物を分けてくれた。……その代わりにあれこれと聞き出され、すっかり酒の肴扱いを受けた。
ほとんど初めて接する煙草の煙に、ヴィルは目を白黒させた。小柄な中年の駅員が、興味深そうにヴィルの様子を眺め、火のついた煙草の先から灰を落とす。
「貴族連中ってのは、煙草やらないってのは聞いたことあるが……。あんちゃんもそうなんか?」
濃い煙が目に沁みて、顔をくしゃくしゃにしたヴィルは頷く。
「全員ってわけじゃないんですけど、特異性がある場合は……えーっと、そうですね。アルファ体質だと、強い匂いが苦手な人多いです」
「ははぁ、そりゃあまた……」
何かを言いかけ、口ごもった駅員の隣で、ひょろりとした体躯の別の男が感心したように言った。
「へぇ~、そりゃつまり、鼻が利くってことかい? まさに狼憑きってやつだなぁ」
途端に男は両隣から勢いよく小突かれた。
「バッカ! そりゃお前、陰口だよ!」
「ごめんな、あんちゃん。こいつ悪気はないんだけど、迂闊でよぉ」
ヴィルは目を瞬かせ、すぐ隣の駅員に尋ねた。
「今の、陰口になるんですか?」
「いや、まぁ陰口っていうか……狼って言ったら貴族のことっていうか……」
「これ貴族のあんちゃんに説明してええの? 後で逮捕されたりせん?」
「大丈夫です、他の人には秘密にします」
恐る恐るな駅員たちに向かって、ヴィルは神妙な顔で請け負った。苦笑いされたが。
不思議だ、貴族にとって『狼』はむしろ名誉な呼び方なのに。ヴィルは内心で首を傾げた。家紋にあしらう貴族も多く、名付けに使われることもしょっちゅうだ。あぁ、ロルフという名もその一つだった。あの人は、名に恥じない素晴らしい軍人だった……ほんの数日前まで。
そのロルフが自ら退役を選んだことを思い返して、ズキ、と心が痛んだ。
「つまり何? 貴族の言う本当の『番』ってのは、アルファとオメガの組み合わせのことなわけ?」
「おお、そういや番婚だと司教の文言が変わるらしいぜ」
市井では『番』というのはそこまで重視されてないらしい、というのをヴィルは初めて知った。
「あー、なんか身寄りなさそうなわけありっぽい若夫婦だと、そうなんじゃね? みたいな噂が立つことはあるな」
「えっ?! なんでですか?」
予想外の扱いに、ヴィルは目を見開いた。
「そりゃあ、運命による結びですっていやぁ少々面倒な事情があっても許してもらえるからなぁ」
例えば、駆け落ちとか……。最後の部分だけ、駅員はこそこそと耳打ちするように言った。
駆け落ち。それすなわち生家とのつながりをすべて放棄して行方をくらます行為である。貴族社会においては、家の都合を吹き飛ばす突発的な番婚よりもさらに忌避される、とんでもない行為である。ヴィルは思わずごくりと唾を飲んだ。
「んで、つがいになるってのは、もう結婚したってことになるのか?」
「いや婚約と同じ……あれ、それって結婚と同じなのかな……?」
「にいちゃんもよくわかってないんかい」
容赦のない指摘に、ヴィルはしょんぼりと肩を落とした。
初めて知る市井でのつがいの話は、ヴィルの中にあった『運命のつがい』論を根こそぎひっくり返すようなものばかりだ。もはや、自分とロルフの関係が何かすら自信がなくなってきた。
いくらか若い青年が、寒そうに両手でマグを抱えながら、実に軽い調子で、雑談の流れのまま口を開いた。
「けどさ、つがいにした相手に逃げられたってことはさ、これもしかして、相手は運命と思ってないんでは?」
「は、ぇ……」
まるで何でもないように言い放たれた恐ろしい可能性の前に、ヴィルの喉から間抜けな声が出た。
「だって兄ちゃんたちは運命ってのがわかるんだろ? それなのに結び逆らうって相当じゃね?」
「……」
ヴィルは言葉もなく、ぱくぱくと口を開け閉めした。
「そうでなくてもほぼ婚約者みたいな人が逃げたってことはさ、そりゃもう結婚が嫌だったからってことじゃん。他にある?」
ヒュ、とおかしな音を立てて息を呑んだヴィルが、蒼白な顔で沈黙した。
「あー核心ついちゃったか」
「かわいそーだろ、加減しろバカ」
「ほら飲めあんちゃん。忘れろ忘れろ」
バシバシと背中を叩かれながら、薄いワインのようなものを手の中のマグに注がれた。
「……」
礼を言おうにも、ヴィルの口からは、絞められ寸前の鶏みたいなヒュウヒュウした鳴き声しか出てこない。
「いやいや、こういう時は麦酒だろ。ほらほら元気出るぞ」
「おい混ぜんな、さすがに不味いわ」
反対側から別の酒を注がれてしまったが、それどころじゃない。ぶるぶる震える手をようやく動かし、一気に中身を呷った。ぬるい温度の液体が舌を通り過ぎていく。苦味と渋みと微かな甘みと、泡の弾けるじわじわした感触が口の中で広がった。もう何が何だかわからない。喉を焼きながら通り過ぎていった途端、頭がぐわんと揺れた、気がした。
「うわ飲んでる」
「おい大丈夫か? 無理に飲み込まなくていいぞそんなもん」
「いえ……だいじょうぶ、です」
どこか引き気味の駅員が背中を支えようと手を伸ばしてくるのを制しながら、ようやくヴィルは答えた。目には涙が浮いている。
若い駅員が気まずそうに、けれど聞かずにいられなかったようでおずおずと口を開く。
「でもさ、つがいだと絶対相手を好きになんのか?」
「……え?」
掠れた声で、ヴィルは聞き返した。
「いくら運命ってもさぁ、好みじゃないとか趣味じゃないとか、そういうことって起きないの? 心変わりとかさ」
「あ、わ……」
その可能性をまるで考えた事がなかった事に、今更ヴィルは気がついた。
――好きじゃない? ロルフが、俺を?
ヴィルの頭の中は、動揺だか酒精だかわからない何かでぐるぐる回って止まらない。
「それに、生きてりゃ別れたりとか死んだりとか、色々あるだろ、そんときゃどうなるんだ?」
「あぁ~、確かになぁ。再婚とかできんのか? どうなんだよ兄ちゃん?」
「…………わ、わかんない……」
離婚だの死別だの再婚だの、聞きたくない単語ばっかりだ。ぐらんぐらんの脳みそが溢れそうな気がしてきた。
「もうやめてください……」
震える声で懇願すると、さすがに同情混じりに慰められた。肩を叩かれたり頭をぐしゃぐしゃとかき回されるのにされるまま、ヴィルはぐずぐずと鼻を啜る。その情けない姿をじろりと睨みつけた年嵩の主任が、忌々しそうに鼻を鳴らした。
「鼻の利くお方にゃ運命なんざ手に取るようにわかるかもしれんがな、儂らのようなのにとっちゃ、後から振り返ってようやく、アレがそうかもしれんって思う程度のもんだ」
主任はどこかイライラした様子で蒸留酒を煽り、刺々しく吐いた。
「目に見えねぇもんに振り回されてるなんざ、お粗末な話だぜ」
ヴィルは、ますます肩を落とした。確かにその通りだ、鬱々とした胸の内で呟く。きっとそうだと、一目でわかるという言葉を信じすぎて、他の事を考えてなかった。その結果が今なのかもしれない。
あまりに深く落ち込んだヴィルに、苦笑いを浮かべた駅員がそっと耳打ちした。
「あんな偉そうに言ってるけどさ、あん人もいま女房に家追い出されちまってよ。だから兄ちゃんの事が人ごとに思えねぇのさ」
「はぁー? ちがうが?」
囁きを耳ざとく拾った主任が、憤慨し立ち上がる。
「儂があんな家内に愛想つかして出てってやっただけだが?」
「えっだから主任ってここ何日も駅舎の休憩室にずっと居座ってんの? 邪魔なんすけど……」
「駅長に見つかったら怒られるぞ」
「はよ仲直りしなー」
「うっせうっせ、今度こそ向こうが悪いんだわ!」
口々に捲し立てられ、完全に拗ねた主任は体ごと横を向いてしまった。隣の駅員は、そっとヴィルの肩を叩く。
「おう、兄ちゃんはあんな風になったらダメだぜ」
「はい……」
ヴィルは神妙な顔で頷いた。
「主任?! 先輩方も!! もう汽車きますよ?!」
駅舎から、一際若い駅員が顔を出して怒鳴った。
「おわっ! やべ」
「長居しすぎた」
「じゃあな、兄ちゃん! 風邪引くなよ!」
「いい事あっからよ! 元気出せよ!」
駅員たちは、次々と駅舎に向かって走っていく。羊飼いのように先輩たちを急かしていた若い、ほとんど少年と言って良いような駅員は、最後にヴィルに向かって叫んだ。
「今日はこの列車で最終だから! 列車出たらあんた宿に帰んなよ! 凍死するぜ!」
「うん……」
ヴィルが頷くのを確認し、少年は駅舎の中に消えた。
遠く汽笛が聞こえた。よく冷えた夜の中で、高音が尾を伸ばして綺麗に響く。
今日も会えなかった。本当に会えるのだろうか。……会いたいと思ってくれるのだろうか。
「会いたいなぁ、ロルフ」
ぐす、と鼻を啜る。冷えた空気のせいで鼻がますます痛んだ。
◇
夜が明けた。
まだ日も明けてない頃に、ヴィルはしょぼしょぼと眠い目を擦りながら駅前に来た。もうすぐ朝一番の汽車が出る時刻だ。今日こそロルフが来るかもしれない。……今日も、会えないかもしれない。それでも、部屋でじっとしていることはできなかった。
人の流れをいくら目を凝らして見つめていても、その中に待ち人を見出すことはできない。しんと冷えた空気の中では話す人も少ない。雑踏の音と汽車の機関室から漏れ聞こえる蒸気音だけが寒空に響く。
そうして、ヴィルはついにロルフを見つけた。
また見つけられなかった、と肩を落とし、ふと視線をずらしたヴィルは目を見開いた。
ほんの十メートルほど先の場所に、静かに立っている人がいる。間違いなくロルフだ。いつからいたのだろう。こんなに近くに来るまで気づかなかったなんて。
ぴくり、とロルフの肩が揺れる。後退るような仕草を見て、ヴィルは息を呑んだ。
「……っ」
それでも駆け寄っていきたいのをこらえて、ロルフを待った。
追いかけるなと散々言い含められたのだ、多分これも待たなきゃいけない……と思う、多分。立ち尽くしたままのヴィルは、人垣の向こうでこちらを見ているロルフを一心に見つめ続けた。頭の中で、彼が踵を返したらどうしよう、とそればかり考えていた。
もしそうなったら、言いつけも何もかも忘れて追いかけてしまうに決まっている。
見つめあったのはほんの数秒だったかもしれない。それなのにまるで何時間も経ったかのように感じていた。
お願い、行かないで。
それしか考えてなかった。
待つってなんて苦しいのだろう。待つしか出来ないのが、こんなにも耐えがたいなんて知らなかった。お爺様はこれを教えたかったのだろうか。胸の中で激しく渦巻く、今にも破裂しそうな焦燥に耐えてみせろという事なのか?
うずうずと逸る気持ちをこらえるためにヴィルは胸の前で自分の手をギュッとにぎった。冷たい掌同士をくっつけたところで寒いままだ。けれども、そのしぐさを見たロルフは、硬直したような表情のまま、両手をポケットに入れた格好で、風を避けるように首をすくめ、人波を避けながら一歩ずつ近づいてきた。
「ロルフ……」
走って迎えに行きたい気持ちを抑えるのは大変だ。彼が一歩近づくたびにますますぎゅうぎゅうと手の甲に指を食い込ませる。
目の前にきたロルフは、目を合わせないままヴィルの手にそっと触れた。ポケットから出たばかりの、しっとりとしてほんのりと温かい手だった。そのことにヴィルは心底安堵した。大丈夫だ、熱っぽくない、大丈夫。どうしてか、それだけで涙が出そうになる。
何か言わなくちゃ。
会いたかった? 心配した? それとも、とにかくごめんなさいって言う? 昨晩の人たち、こういう揉め事はとにかく謝っとけば何とかなるって言ってたし……。
次々浮かんでくる言葉はどれもしっくりこなくて、悴んだ唇からは白い息ばかり出ていった。
「……何してるんだ、ここで」
――あぁ、ロルフの声だ。
ものすごく久しぶりに聞いた気がする。ヴィルはもうそれだけで嬉しくなってしまった。
ここだと駅に向かう人がよく見える。列車のないこの時間、人の姿はまばらだ。
待つようにと厳命された以上、ヴィルはただぼんやりと駅前の広場を眺めているしかできない。考える時間だけはいくらでもあった。
ロルフに選ばせろと祖父は言っていた。そうでなければ。
「嫌われる……」
きゅ、と膝の上の手を握る。これ以上、とも祖父は言っていた。そんなこと起きて欲しくない、考えたくない。けれど考えずにはいられなかった。
ロルフの、烟るような緑眼が沈んでいる事に、本当は気づいていた。また間違えたのかもしれないと思いたくなくて、きっと大丈夫なのだと思い込もうとした。
そうして見ないふりをした結果、空っぽの部屋を突き付けられた。
綺麗に片付いた部屋の中、ヴィルが渡したはずの「少佐のシャツ」が残っていたことが何よりもショックだった。見間違えだと思いたかった。けれど、渡した時のまま綺麗に畳まれたシャツの、他の支給品と比べて明らかに上等な生地の色味と艶はよく目立った。
置いて行かれてしまった。その上、袖を通したように見えなかった。
着てくれなかったんだ、ということに今更気づいてヴィルは余計に落ち込んだ。詰襟の制服だからわからないだけだと思っていた。
「ロルフ……預かっとくって……」
そうだ、あの時『預かる』としか言わなかった。唇を噛んで俯く。なら置いていったのは、預かったものを返すって事なのだろうか? ――それはもしかしなくても、『決別』の意思表示じゃなのか?
寒い中でぐるぐる考え続けると、結論が悪い方向にしか行かない。ヴィルは一度大きく息を吐いて、暗い想像を追い払った。
ふと、こちらにむかって近づいてくる足音に気づいた。顔を上げると、年嵩の駅員が近づいてくるのが見える。
「……軍人さん、昨日もここに居たな」
駅員は、ヴィルから少し離れたところで止まった。
「人待ちかい?」
じろりと制帽の下の目がヴィルを値踏みする。どこか刺々しい態度に戸惑いながら、ヴィルは頷いた。
「ええ、はい。ここにいたら会えるって言われて……その……」
口に出すと途端に自信がなくなっていく。会えるのか? 本当に?
「そりゃまた。余程大事な相手かね」
「……はい。大事な……大切な人なんです……なんですけど……」
「へぇ。それがなんで、こんなとこで待ちぼうけしとるんだい」
不信感をありありと滲ませた口調で尋ねられてしまったので、ヴィルは焦った。この状況、一体なんと説明したらいいのだろうか。
「あのー、本当は探したかったんだけど、でも待ちなさいって言われて、待つことが一番良くて、それで俺は勉強しなくちゃいけなくて、だからえっと、待たなきゃいけなくて……追いかけたら逃げるからダメで、嫌われたくなくて……だからその……選んで、もらわないと、いけなくて……」
しどろもどろに言葉を探す。口にすればするほど、自分の置かれた立場の歯痒さと不安が増していく。自然とヴィルの声は小さくなっていった。
「はぁ? よくわからんな……」
不信感を超え、呆れ果てたような声色で言われてしまった。とうとうヴィルはしょんぼりと俯いた。
駅員はヴィルの落ちた肩と頭を冷ややかに見おろしていたが、ぷいっと視線を逸らした。
「……さては痴話喧嘩だなこりゃ」
「ち、?!」
ヴィルは、思わず顔を上げた。制帽の下に手を突っ込んで頭を掻きながら、駅員はうんざりした顔をしていた。
「目立つ軍人が朝から晩まで駅前で張り込んで、こりゃてっきり軍の大捕物でもあるのかって、うちのもんが怯えてたんだよ。それがなんだ、蓋を開けてみりゃ……あぁ、しょーもない」
「しょーもない?!」
おうむ返しに大声を出してヴィルは思わず立ち上がった。長身を見上げた駅員は一瞬息を呑んだが、すぐに気を取り直したように鼻を鳴らした。
「どうせ、嫁さんあたりに逃げられて、そんでベソかきながら追っかけて来たってとこだろ。全く情けねぇ。若いのに何してんだ」
「そっ、なっ……!」
あんまりな言い方に、さすがのヴィルも何か言おうと口を開き、ぱくぱくと開け閉めを繰り返して、閉じた。がっくりと肩を落としてヴィルは再びベンチに座った。
「そうなのかな……そうかも……に、逃げ……」
何よりも『逃げられた』の言葉が深く突き刺さって、ヴィルは激しく動揺した。
「………………どうしてぇ……?」
絶句し、青ざめ、わなわなと震えるヴィルを駅員は胡乱な目で見下ろした。
「なんでも良いさ。待つんなら邪魔にならんとこで頼むな」
呆れた口調を隠しもしないまま言いつけて、駅員は足早に駅に向かって帰っていく。途中、駅舎から恐々と覗く同僚に向かって首を振り、肩をすくめて見せた。
「うう……」
残されたヴィルはツンと痛む鼻を無理矢理に啜り、目尻の涙を拭った。
――ロルフ、逃げたかったのかな。
ヴィルは、ぐす、と鼻を鳴らした。
つがいになった事、後悔してるんだろうか。今のヴィルでは、ロルフがなにを考えてたのか、どこに行ったのかもわからない。
「俺は……ロルフの事、何にも知らない……」
今更のように思い至って、ヴィルはまた鼻を啜った。
ここで待てと言われてここにきたけど、どうしてここなのか、なぜここにいるとロルフに会えるのか、何もわからない。祖父から、ロルフの身柄は心配ないと言われたのを鵜呑みにしていたが、本当なんだろうか。ロルフは今どうしているのだろう。
あったかいとこにいるといいな、とヴィルは思った。ちゃんとご飯食べてるかな。体が辛くないといいな。
――もし、ロルフがここに来なかったら。
考えているうちに、沈めていた不安がまた浮き上がってきてしまった。
ロルフが居心地良い場所にいて、もう帰りたくないって思ってたらどうしよう。俺のことが嫌になっちゃってたら、どうしよう。
ヴィルは小さく身震いして、強く自分の腕を掴んだ。
◇
寒空の下で落ち込んでいる姿を哀れんだのか、夕方が近くなる頃から、ちらほらと駅員たちが寄ってくるようになった。年季の入った焚き火台まで持ち出し、そこで温めた飲み物を分けてくれた。……その代わりにあれこれと聞き出され、すっかり酒の肴扱いを受けた。
ほとんど初めて接する煙草の煙に、ヴィルは目を白黒させた。小柄な中年の駅員が、興味深そうにヴィルの様子を眺め、火のついた煙草の先から灰を落とす。
「貴族連中ってのは、煙草やらないってのは聞いたことあるが……。あんちゃんもそうなんか?」
濃い煙が目に沁みて、顔をくしゃくしゃにしたヴィルは頷く。
「全員ってわけじゃないんですけど、特異性がある場合は……えーっと、そうですね。アルファ体質だと、強い匂いが苦手な人多いです」
「ははぁ、そりゃあまた……」
何かを言いかけ、口ごもった駅員の隣で、ひょろりとした体躯の別の男が感心したように言った。
「へぇ~、そりゃつまり、鼻が利くってことかい? まさに狼憑きってやつだなぁ」
途端に男は両隣から勢いよく小突かれた。
「バッカ! そりゃお前、陰口だよ!」
「ごめんな、あんちゃん。こいつ悪気はないんだけど、迂闊でよぉ」
ヴィルは目を瞬かせ、すぐ隣の駅員に尋ねた。
「今の、陰口になるんですか?」
「いや、まぁ陰口っていうか……狼って言ったら貴族のことっていうか……」
「これ貴族のあんちゃんに説明してええの? 後で逮捕されたりせん?」
「大丈夫です、他の人には秘密にします」
恐る恐るな駅員たちに向かって、ヴィルは神妙な顔で請け負った。苦笑いされたが。
不思議だ、貴族にとって『狼』はむしろ名誉な呼び方なのに。ヴィルは内心で首を傾げた。家紋にあしらう貴族も多く、名付けに使われることもしょっちゅうだ。あぁ、ロルフという名もその一つだった。あの人は、名に恥じない素晴らしい軍人だった……ほんの数日前まで。
そのロルフが自ら退役を選んだことを思い返して、ズキ、と心が痛んだ。
「つまり何? 貴族の言う本当の『番』ってのは、アルファとオメガの組み合わせのことなわけ?」
「おお、そういや番婚だと司教の文言が変わるらしいぜ」
市井では『番』というのはそこまで重視されてないらしい、というのをヴィルは初めて知った。
「あー、なんか身寄りなさそうなわけありっぽい若夫婦だと、そうなんじゃね? みたいな噂が立つことはあるな」
「えっ?! なんでですか?」
予想外の扱いに、ヴィルは目を見開いた。
「そりゃあ、運命による結びですっていやぁ少々面倒な事情があっても許してもらえるからなぁ」
例えば、駆け落ちとか……。最後の部分だけ、駅員はこそこそと耳打ちするように言った。
駆け落ち。それすなわち生家とのつながりをすべて放棄して行方をくらます行為である。貴族社会においては、家の都合を吹き飛ばす突発的な番婚よりもさらに忌避される、とんでもない行為である。ヴィルは思わずごくりと唾を飲んだ。
「んで、つがいになるってのは、もう結婚したってことになるのか?」
「いや婚約と同じ……あれ、それって結婚と同じなのかな……?」
「にいちゃんもよくわかってないんかい」
容赦のない指摘に、ヴィルはしょんぼりと肩を落とした。
初めて知る市井でのつがいの話は、ヴィルの中にあった『運命のつがい』論を根こそぎひっくり返すようなものばかりだ。もはや、自分とロルフの関係が何かすら自信がなくなってきた。
いくらか若い青年が、寒そうに両手でマグを抱えながら、実に軽い調子で、雑談の流れのまま口を開いた。
「けどさ、つがいにした相手に逃げられたってことはさ、これもしかして、相手は運命と思ってないんでは?」
「は、ぇ……」
まるで何でもないように言い放たれた恐ろしい可能性の前に、ヴィルの喉から間抜けな声が出た。
「だって兄ちゃんたちは運命ってのがわかるんだろ? それなのに結び逆らうって相当じゃね?」
「……」
ヴィルは言葉もなく、ぱくぱくと口を開け閉めした。
「そうでなくてもほぼ婚約者みたいな人が逃げたってことはさ、そりゃもう結婚が嫌だったからってことじゃん。他にある?」
ヒュ、とおかしな音を立てて息を呑んだヴィルが、蒼白な顔で沈黙した。
「あー核心ついちゃったか」
「かわいそーだろ、加減しろバカ」
「ほら飲めあんちゃん。忘れろ忘れろ」
バシバシと背中を叩かれながら、薄いワインのようなものを手の中のマグに注がれた。
「……」
礼を言おうにも、ヴィルの口からは、絞められ寸前の鶏みたいなヒュウヒュウした鳴き声しか出てこない。
「いやいや、こういう時は麦酒だろ。ほらほら元気出るぞ」
「おい混ぜんな、さすがに不味いわ」
反対側から別の酒を注がれてしまったが、それどころじゃない。ぶるぶる震える手をようやく動かし、一気に中身を呷った。ぬるい温度の液体が舌を通り過ぎていく。苦味と渋みと微かな甘みと、泡の弾けるじわじわした感触が口の中で広がった。もう何が何だかわからない。喉を焼きながら通り過ぎていった途端、頭がぐわんと揺れた、気がした。
「うわ飲んでる」
「おい大丈夫か? 無理に飲み込まなくていいぞそんなもん」
「いえ……だいじょうぶ、です」
どこか引き気味の駅員が背中を支えようと手を伸ばしてくるのを制しながら、ようやくヴィルは答えた。目には涙が浮いている。
若い駅員が気まずそうに、けれど聞かずにいられなかったようでおずおずと口を開く。
「でもさ、つがいだと絶対相手を好きになんのか?」
「……え?」
掠れた声で、ヴィルは聞き返した。
「いくら運命ってもさぁ、好みじゃないとか趣味じゃないとか、そういうことって起きないの? 心変わりとかさ」
「あ、わ……」
その可能性をまるで考えた事がなかった事に、今更ヴィルは気がついた。
――好きじゃない? ロルフが、俺を?
ヴィルの頭の中は、動揺だか酒精だかわからない何かでぐるぐる回って止まらない。
「それに、生きてりゃ別れたりとか死んだりとか、色々あるだろ、そんときゃどうなるんだ?」
「あぁ~、確かになぁ。再婚とかできんのか? どうなんだよ兄ちゃん?」
「…………わ、わかんない……」
離婚だの死別だの再婚だの、聞きたくない単語ばっかりだ。ぐらんぐらんの脳みそが溢れそうな気がしてきた。
「もうやめてください……」
震える声で懇願すると、さすがに同情混じりに慰められた。肩を叩かれたり頭をぐしゃぐしゃとかき回されるのにされるまま、ヴィルはぐずぐずと鼻を啜る。その情けない姿をじろりと睨みつけた年嵩の主任が、忌々しそうに鼻を鳴らした。
「鼻の利くお方にゃ運命なんざ手に取るようにわかるかもしれんがな、儂らのようなのにとっちゃ、後から振り返ってようやく、アレがそうかもしれんって思う程度のもんだ」
主任はどこかイライラした様子で蒸留酒を煽り、刺々しく吐いた。
「目に見えねぇもんに振り回されてるなんざ、お粗末な話だぜ」
ヴィルは、ますます肩を落とした。確かにその通りだ、鬱々とした胸の内で呟く。きっとそうだと、一目でわかるという言葉を信じすぎて、他の事を考えてなかった。その結果が今なのかもしれない。
あまりに深く落ち込んだヴィルに、苦笑いを浮かべた駅員がそっと耳打ちした。
「あんな偉そうに言ってるけどさ、あん人もいま女房に家追い出されちまってよ。だから兄ちゃんの事が人ごとに思えねぇのさ」
「はぁー? ちがうが?」
囁きを耳ざとく拾った主任が、憤慨し立ち上がる。
「儂があんな家内に愛想つかして出てってやっただけだが?」
「えっだから主任ってここ何日も駅舎の休憩室にずっと居座ってんの? 邪魔なんすけど……」
「駅長に見つかったら怒られるぞ」
「はよ仲直りしなー」
「うっせうっせ、今度こそ向こうが悪いんだわ!」
口々に捲し立てられ、完全に拗ねた主任は体ごと横を向いてしまった。隣の駅員は、そっとヴィルの肩を叩く。
「おう、兄ちゃんはあんな風になったらダメだぜ」
「はい……」
ヴィルは神妙な顔で頷いた。
「主任?! 先輩方も!! もう汽車きますよ?!」
駅舎から、一際若い駅員が顔を出して怒鳴った。
「おわっ! やべ」
「長居しすぎた」
「じゃあな、兄ちゃん! 風邪引くなよ!」
「いい事あっからよ! 元気出せよ!」
駅員たちは、次々と駅舎に向かって走っていく。羊飼いのように先輩たちを急かしていた若い、ほとんど少年と言って良いような駅員は、最後にヴィルに向かって叫んだ。
「今日はこの列車で最終だから! 列車出たらあんた宿に帰んなよ! 凍死するぜ!」
「うん……」
ヴィルが頷くのを確認し、少年は駅舎の中に消えた。
遠く汽笛が聞こえた。よく冷えた夜の中で、高音が尾を伸ばして綺麗に響く。
今日も会えなかった。本当に会えるのだろうか。……会いたいと思ってくれるのだろうか。
「会いたいなぁ、ロルフ」
ぐす、と鼻を啜る。冷えた空気のせいで鼻がますます痛んだ。
◇
夜が明けた。
まだ日も明けてない頃に、ヴィルはしょぼしょぼと眠い目を擦りながら駅前に来た。もうすぐ朝一番の汽車が出る時刻だ。今日こそロルフが来るかもしれない。……今日も、会えないかもしれない。それでも、部屋でじっとしていることはできなかった。
人の流れをいくら目を凝らして見つめていても、その中に待ち人を見出すことはできない。しんと冷えた空気の中では話す人も少ない。雑踏の音と汽車の機関室から漏れ聞こえる蒸気音だけが寒空に響く。
そうして、ヴィルはついにロルフを見つけた。
また見つけられなかった、と肩を落とし、ふと視線をずらしたヴィルは目を見開いた。
ほんの十メートルほど先の場所に、静かに立っている人がいる。間違いなくロルフだ。いつからいたのだろう。こんなに近くに来るまで気づかなかったなんて。
ぴくり、とロルフの肩が揺れる。後退るような仕草を見て、ヴィルは息を呑んだ。
「……っ」
それでも駆け寄っていきたいのをこらえて、ロルフを待った。
追いかけるなと散々言い含められたのだ、多分これも待たなきゃいけない……と思う、多分。立ち尽くしたままのヴィルは、人垣の向こうでこちらを見ているロルフを一心に見つめ続けた。頭の中で、彼が踵を返したらどうしよう、とそればかり考えていた。
もしそうなったら、言いつけも何もかも忘れて追いかけてしまうに決まっている。
見つめあったのはほんの数秒だったかもしれない。それなのにまるで何時間も経ったかのように感じていた。
お願い、行かないで。
それしか考えてなかった。
待つってなんて苦しいのだろう。待つしか出来ないのが、こんなにも耐えがたいなんて知らなかった。お爺様はこれを教えたかったのだろうか。胸の中で激しく渦巻く、今にも破裂しそうな焦燥に耐えてみせろという事なのか?
うずうずと逸る気持ちをこらえるためにヴィルは胸の前で自分の手をギュッとにぎった。冷たい掌同士をくっつけたところで寒いままだ。けれども、そのしぐさを見たロルフは、硬直したような表情のまま、両手をポケットに入れた格好で、風を避けるように首をすくめ、人波を避けながら一歩ずつ近づいてきた。
「ロルフ……」
走って迎えに行きたい気持ちを抑えるのは大変だ。彼が一歩近づくたびにますますぎゅうぎゅうと手の甲に指を食い込ませる。
目の前にきたロルフは、目を合わせないままヴィルの手にそっと触れた。ポケットから出たばかりの、しっとりとしてほんのりと温かい手だった。そのことにヴィルは心底安堵した。大丈夫だ、熱っぽくない、大丈夫。どうしてか、それだけで涙が出そうになる。
何か言わなくちゃ。
会いたかった? 心配した? それとも、とにかくごめんなさいって言う? 昨晩の人たち、こういう揉め事はとにかく謝っとけば何とかなるって言ってたし……。
次々浮かんでくる言葉はどれもしっくりこなくて、悴んだ唇からは白い息ばかり出ていった。
「……何してるんだ、ここで」
――あぁ、ロルフの声だ。
ものすごく久しぶりに聞いた気がする。ヴィルはもうそれだけで嬉しくなってしまった。
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