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29.帰路
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汽車の中でも、馬車の中でも、ヴィルは手を握ったまま離さなかった。
揺れる汽車の中で、隣に無理矢理くっついて座ったヴィルから聞かれた。
「あの時、ロルフは初めて転化したんですか?」
ロルフは、自分でも驚くくらい素直に頷いた。
「ああ、そうだよ」
少なくとも、そうだと思っていた。ロルフは転化――今となっては「転化」と呼ぶのも正しいのかわからない、何しろ元からオメガだったというのだから――については、最早半ば以上受け入れていた。祖母の例を思えば、生きている間にどこかでこうなっていたのは間違いない。少し早まっただけとも言える。
痛ましそうな表情を浮かべたヴィルは、握った手にかすかに力を込めて、ロルフを見下ろした。
「じゃあ、ロルフはすごく驚いてたんですね」
その言葉が初めてストンと胸に落ちた気がして、ロルフは静かに瞬きした。
「ごめんなさい……俺、何にも気づかなくて……」
視線を落としたヴィルが、落ち込んだ声を出す。ロルフは、ほんの少しだけ微笑んで、頷く。
「……そうだな」
驚いていた。混乱していた。自分を見失う恐怖と、ままならない身体への怒りと、変わってしまった周りへの苛立ちと。何もかもが混じり合ってしまった。
「何が起きたかわからなかった」
遠くを見つめる。何もわからなくて、何もわからないうちに全てが起きた。どうにもならなかった。一度にいろんなことが起きすぎた。
転化だけなら、不調と付き合いながら、あるいは誤魔化したままでも軍で働けたかもしれない。だが誤魔化しは長くは持たなかったかもしれないし、もっと不本意な形での退役を迫られていた可能性だってある。
つがいになった、というだけならもう少しだけ冷静さを取り戻す時間があっただろうか。発情期の仕組みを考えるに、こちらも長くは持たなそうだが。
考えても仕方ない事だとロルフは自嘲した。可能性についてを考えるのは得意じゃないのだ。条件を変えれば無限に選択肢がある。それを一つ一つ検討してもキリがない。
そうしたかったからした、とあまりに堂々言ってのけた若いアルファは、今も隣に座って手を離さないでいる。そもそもこいつのこの性格から言って、どれも実現可能性に乏しい気もしてくる。
ヴィルは、ロルフの答えにますます気落ちしたようだった。灰色の瞳に暗く影を落とし、俯いて、それでも言葉を探しておずおずと口を開く。
「……ごめんなさい……俺、」
「事故だよ」
一層気落ちした声を、ロルフは遮った。今更、罪悪感を背負わせたくなかった。
「あれは、事故だ。あんな風になるなんて俺は知らなかった。わからなかったし、わかるわけない。それは君も同じだろ?」
暗い顔のまま素直に頷くヴィルを見上げて、ロルフは苦笑した。
「なら事故だ。間違いなく。そうだな、悪いのは……オメガにアルファを受け持たせた上層部ってことになるな」
壮大な責任転嫁だが、あながち間違いでもない気がしてロルフは口端を上げた。
「でも……あの、俺、貴方に」
「もういいんだ」
繋いだままの手を握り込む。もう片方の手で、宥めるように手の甲を軽く叩いた。これで話は終わり、と示すように。
「……それでも、俺はロルフとつがいになれてうれしいです」
「君なぁ」
そういうことをはっきりしっかり宣言するところが、どうもいまいち反省の色がなく見えてしまう、とロルフは思う。けれども真剣そのものの顔を見ていると、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……あの、ロルフ」
躊躇いながらヴィルは言葉を探すように何度も口籠る。
「あの、その」
ごにょごにょ歯切れの悪いヴィルは、何が言いたいのか自分でもわからないまま、手探りで問いを組み立てるようだった。
「……つがいは、違う人の方が良かった? シュナイダー先生とか」
ようやく形になった質問にロルフは首を傾げた。
「シュナイダー……あぁ、軍医のことか。けど、なんであの人が出てくる? アルファだからって、そんな誰でもいいわけないだろ」
「じゃあ、」
縋るような視線を受けて、ロルフはちょっとだけ身を引く。ヴィルはかすかにためらった後、続きを口にした。
「……俺で良かった?」
必死な顔だ。いい加減に答えるのが悪い気がするくらい。
ロルフは、ヴィルでない相手とつがい関係になる可能性を少しだけ考えようとした。こいつ以外、例えば……誰? 後方勤めで会うのは軍医と、もう一人のアルファの医務官殿? あとは少将殿くらいか? ああ、でも、たまにくる参謀本部の人間まで入れたらもう収集つかなくなるな……。
可能性があるかもしれない相手を脳内で一通りあげたところでロルフは匙を投げた。
「わからん。仮定の話は苦手なんだ」
長考の間、息を詰めて見守っていたヴィルは、ロルフの答えにあからさまにかっかりした顔になった。わかりやすすぎる態度だ。胡乱な目を向けながらも、ここで突き放せないからダメなんだな、とロルフは内側でひっそりと自嘲した。
――もう良いじゃないか、こうしてここに居るんだから。それでわかるだろ。勘弁してくれよ。どうしても言葉にしないとダメなのか?
「……」
逡巡の末、ロルフは口を開いて、閉じた。結局、初めに胸に浮かんだのとは違うことを言った。
「……そんなに気になるなら、君で良かったと思わせてくれ」
ヴィルはハッとした顔になった。
「……はい。そうします。絶対に」
はにかんで笑うと、歳よりも幼く見える。その顔がずるいんだよな、とロルフは思ったが口にはしなかった。
車窓に映る景色は、遥か遠くまで畑の広がるのどかな郊外だ。既に刈り込みの終わっているのは小麦畑だろうか。秋にここを通る時、穂が黄金色に光って揺れる様はとても素晴らしい眺めになる。ヴィルにそれを見せられないのは惜しいなとロルフは思った。
「ああ、そうだ。君に一つ言わなくちゃならない」
「はい」
すぐ隣のヴィルが、一気に緊張したのがわかった。あまりに身構えた様子にロルフは苦笑を浮かべ、スッと真面目な顔になった。
「君が未だ持ってる俺のシャツの件だが」
「えっ」
「いい加減返しなさい。あれは支給品なんだ」
「えっ……」
ヴィルが絶句した。みるみる顔色も悪くなる。思った以上に激しく動揺し始めたので、ロルフは首を傾げた。ヴィルは酷く焦った声を出す。
「で、でも代わりを渡したじゃないですか」
「あ? 本気で言ってるのか?」
「そんな……」
ぎゅうっと手を握られる。よほどショックを受けたらしい。だがロルフはこれに関しては引けない。
「あれは代わりにはならない。あんなのを返却したら窓口が困るだろ」
「……そ、それは、そう……です……ね……」
ヴィルはがっくりと肩を落とした。手から力が抜けていく。かろうじて握ってはいるが。
あまりに気落ちした様子だったので、ロルフはまた抱かなくてもいい罪悪感が湧いてきた。ヴィルから目を逸らし、そっけない口調で言った。
「……別に、何でも好きなの持って行けばいいだろ。支給品じゃなくて」
「!」
ヴィルが再びロルフのぎゅっと手を握る。ロルフは窓の外を見たまま、けれども少しだけ手に力を込めた。ヴィルが嬉しそうな、幸せそうな顔をしているのが車窓越しに見えた。
◇
長い長い道中、ヴィルは何度かうとうとしていた。丸二日も張り込んでいたせいだろう。駅が閉まったあとはホテルに帰った、と本人は言っていたが、いったい何時から何時までいたのやら。
帝都についたのは昼過ぎだった。駅を出たところで、隣のヴィルが弾んだ声を上げた。
「あ、迎えが来てる」
「は?」
二頭立ての、一見して辻馬車とは様相の違うそれに平気で近づいていくヴィルを慌てて追いかける。
御者席にいる男性が軽く帽子を上げて挨拶した。
「やあ、会えてよかった。お待ちしておりましたよ、お二人とも」
ロルフはたまらずヴィルの袖口を引いた。微かに傾いたヴィルの肩口に顔を寄せ、声を潜める。
「おい、いつの間に連絡したんだ? まさかと思うが、君の家には電話機が引いてあったりするんじゃないだろうな?」
「えっ? 連絡? してないです」
「じゃあなんでこの列車で来るって知られてる?!」
ヴィルは、何を聞かれてるのかまるでわからない、とでも良いたげな顔で首を傾げた。
「さぁ……」
「さぁ?!」
安心させるように、ヴィルはにこりと笑って胸を張る。
「よくある事なんで、気にしないでください!」
気にするに決まってるだろ! と喉元まで出かかったが、ロルフは飲み込んだ。ヴィルがやたらめったら図太い理由の一端を見た気がした。
「あ、あと、電話機ありますよ。お祖父様の書斎で見ました」
「……あるのか」
ロルフはますます憂鬱になった。
首都の、これまで一度も近づいたことのない地区に馬車が踏み入るのをロルフは苦い顔で眺めた。古い様式の集合住宅が並ぶ通りを過ぎると、いつしか優美な柵が連なる景色に変わった。
そのうちの一つで馬車は止まる。馬車の窓から門を見上げて、ロルフは呆然とした。どうせでかい家だろうな、というとこまでは覚悟していたが、門番がいるような家に来るのは初めてだ。
「……守衛? 個人宅で? 意味がわからん……」
ぶつぶつと口の中で呟くロルフの隣で、ヴィルは不思議そうに首を傾げた。
「居たら変ですか? 司令部にもいますよね?」
「司令部と比べるな」
もう何を言っても噛み合わなそうなので、ロルフは口を閉じた。
市街地からそう離れていないというのに、家一軒分よりまだある前庭を抜け、その向こうにある宿舎並の大きさの家を見て思わず口を開け、慌てて引き結んだ。圧倒されすぎて落ち着かない。
兵站司令部にも負けない立派な誂えの玄関の扉前で、再び馬車が止まった。馬車の扉が開くまでの数秒間、ロルフはこのまま馬車が引き返しはじめないかな、と無意味な事を思った。
客間に通された途端、軍服が目に入ってロルフは思わず背筋が伸びた。赤のラインの入ったズボンは、参謀本部勤めの証だ。肩の階級章はこれまで直接目にしたことのない高位を示している。ロルフは敬礼すべきか迷った。
椅子に座った参謀総長は、じろり、とロルフを見上げた。
「挨拶はいい、かけたまえ」
「は、い」
ロルフの動揺と逡巡は一目で見抜かれてしまったらしい。まるで新兵のような狼狽えた返事をしてしまった。
ソファーの柔らかすぎるクッションに沈み込んでしまい、ロルフは腹が圧迫されるような居心地の悪さを感じた。
緊張のあまり顔があげられない。隣のヴィルは、相変わらずニコニコして、ロルフを連れてきました、などと呑気に報告している。ここまで図太いとかえって感心する。
「よくいらしてくれました」
参謀総長の隣、穏やかそうな老婦人が微笑んだ。
「道中疲れたでしょう。今お昼を用意させてますからね」
「わぁ、よかったですね、ロルフ」
「……お気遣い頂いて、ありがとう、ございます……」
声が震えていないか、自分でももうわからなくなった。何を言うべきか、ロルフは迷っていた。初めまして? 実家が大層お世話になりました? 不束者ですがどうぞよろしく? どれもこれも間抜けな気がしてならない。
「あ、あの……」
「ロルフ・ヴェルナー・フォン・ケラー少佐」
滅多に呼ばれることのない形式の名前だ。なぜ知ってる、などと思うのはもうやめた。
「はい」
ロルフはこれ以上なく背筋を伸ばし、真正面を向いた。目の前の参謀総長から、薄い灰色の目を静かに向けられ、知らず体がこわばる。
「……初めから後方勤務を希望したのは、賢い選択だったな。もしもお前が前線勤めになっていたなら、もっと早いうちに発露する羽目になっただろう」
「は……」
何を言われているのかわからず、ロルフは瞬きした。だがすぐに意味を察して、顔がこわばる。もしもロルフが前線の……それこそ高位のアルファだらけの場所に放り込まれていたらどうなったか。今より悲惨な事になっていたのは想像に難くない。
青ざめたロルフを確認するかのようにじっと見つめ、参謀総長は小さく頷いた。
「察しがいい。状況をよく見る目もある、想定通りの挙動だ。悪くない」
「……」
まるで訓練の講評のような口ぶりだった。完全に参謀総長の手のひらの上にいたとまざまざ感じざるを得ない。ロルフは胃の腑がますます重くなった。
「言いたいことはあるか?」
促され、ロルフはわずかに逡巡したあと、口を開いた。
「……閣下が、駅で御令孫を待たせていたと」
「そうだな」
「冬の最中に、何日も。さすがは閣下、お身内だろうとも情けは無用と。随分と厳しい方針だ。……確かに効果的ではありましたが」
半ば自嘲しながらもロルフは言わずにいられなかった。孫だろうと容赦なく駒として使う相手に、せめて皮肉の一つでも言わないと気が済まない。けれど、想像とは違う反応が返ってきた。
「……何?」
参謀総長は、片眉を上げた。それから厳かな声でヴィルの名を呼ぶ。部屋の冷え切った雰囲気などものともせず、にこにこ機嫌よさそうにヴィルは返事をした。
「ヴィルヘルム。お前はこの数日何をしていた?」
「えっ? 駅で待ってましたよ、お爺様の言った通りに」
「まさか、ずっと駅で……外でか?」
「ええ、はい。だって駅で待てって言ってましたよね」
「……」
何を言ってるんだろ、とばかりにヴィルは首を傾げる。参謀総長はわずかに目を見開いて、それから思いっきり顔を顰め、深くため息をついた。無言で成り行きを見守っていた夫人も、かすかに天を仰いだ。
「そういう意味ではない……」
ヴィルの行動の突拍子もなさはヴィルの祖父に取っても予定外だったようだ。ロルフは胡乱な目で隣に座るヴィルを見上げ、額を抑える参謀総長を見た。生涯会うはずのなかった雲の上の存在に思えていたが、急に身近に感じてきた。わずかに溜飲下がったような気分になってロルフは喉の奥で小さく忍び笑う。じろ、と見られた気がした慌てて咳払いをした。
少なくとも、愚直に待機していたヴィルの行動は参謀総長の仕込みではなかったらしい。そのことは、ロルフの胸の奥にあった諦観をほんの少しだけ違うものに変えていった。
「あぁ……ヴィル……まったく、無事で良かった」
夫人がため息をついた。それについてはロルフも全く同感だった。繁華街も近い駅前で、夜更けまで貴族の坊ちゃんが一人フラフラして、よく無事だったものだ。スリにも暴漢にも通り魔にも、酔っ払いにも遭わずに。いくらヴィルが上背のある軍人であっても、見る人が見れば隙だらけで無防備な雰囲気はすぐわかる。
「――お昼の支度ができたみたいね。続きは昼食をとりながらにしましょう」
切り替えるように、夫人は明るい声を出した。
「お爺様ご機嫌でしたね、きっと気に入られたんですよ!」
「……はぁ」
夫妻が先に退室し、残された部屋でヴィルは言った。にこにこしたヴィルを見上げ、何を見てそう思ったんだこいつは、とロルフは思った。精一杯都合良く解釈しても、便利な駒扱いがせいぜいだろう。
それよりも、とロルフは駅で待ちぼうけしてたヴィルの姿を思い出す。あれが仕込みでもなんでもなく、ヴィルの純粋な奇行だったことがわかって、ロルフは気が楽になった。
「……君、あんなところに何日もいたら風邪ひくだろ。だいたい、田舎とはいえ駅前は暗くなったら危ないんだぞ。よく考えて行動しなさい」
まるきり子供にいうような口調になってしまった。訓練された軍人に言うべきセリフではない、と頭ではわかっているのだが、どうにもこの世間知らずで抜けてる雰囲気を見ていると口にせずにはいられない。
「えっ?! だから駅が閉まってる夜中はホテルに帰ってましたってば!」
「夜中……夜中ね。本当に、よく無事だったな……」
駅前のホテル、となれば街で一番の格式ある場所だ。そんなところに身なりのいい若い軍人がフラフラと出入りして、もはやカモであると宣伝しているようなものだ。あと一日でも遅ければどうなっていたかわからない……考えれば考えるほど空恐ろしくなってきたので、ロルフはもう深掘りするのをやめた。
「全く、普段八時就寝のやつが、遅くまで粘りすぎだ」
それでも何か言ってやらなければ気が済まなくて、皮肉を口にした。
「だって、いない時にロルフが来てたら嫌だったんです」
返ってきたあまりの素直な言い分に、ぐっと言葉に詰まってしまい、ロルフは目を伏せた。
あぁ、これだから。
「……そんな夜更けに駅に行くわけないだろ。寒いし、危ないし……」
ぶつぶつと文句をいいながらも、知らぬ間に口元が緩んでいた。
やっとヴィルの行動を純粋な気持ちで受け止められたような、絆される自分を許せたような、そんな気分だった。
揺れる汽車の中で、隣に無理矢理くっついて座ったヴィルから聞かれた。
「あの時、ロルフは初めて転化したんですか?」
ロルフは、自分でも驚くくらい素直に頷いた。
「ああ、そうだよ」
少なくとも、そうだと思っていた。ロルフは転化――今となっては「転化」と呼ぶのも正しいのかわからない、何しろ元からオメガだったというのだから――については、最早半ば以上受け入れていた。祖母の例を思えば、生きている間にどこかでこうなっていたのは間違いない。少し早まっただけとも言える。
痛ましそうな表情を浮かべたヴィルは、握った手にかすかに力を込めて、ロルフを見下ろした。
「じゃあ、ロルフはすごく驚いてたんですね」
その言葉が初めてストンと胸に落ちた気がして、ロルフは静かに瞬きした。
「ごめんなさい……俺、何にも気づかなくて……」
視線を落としたヴィルが、落ち込んだ声を出す。ロルフは、ほんの少しだけ微笑んで、頷く。
「……そうだな」
驚いていた。混乱していた。自分を見失う恐怖と、ままならない身体への怒りと、変わってしまった周りへの苛立ちと。何もかもが混じり合ってしまった。
「何が起きたかわからなかった」
遠くを見つめる。何もわからなくて、何もわからないうちに全てが起きた。どうにもならなかった。一度にいろんなことが起きすぎた。
転化だけなら、不調と付き合いながら、あるいは誤魔化したままでも軍で働けたかもしれない。だが誤魔化しは長くは持たなかったかもしれないし、もっと不本意な形での退役を迫られていた可能性だってある。
つがいになった、というだけならもう少しだけ冷静さを取り戻す時間があっただろうか。発情期の仕組みを考えるに、こちらも長くは持たなそうだが。
考えても仕方ない事だとロルフは自嘲した。可能性についてを考えるのは得意じゃないのだ。条件を変えれば無限に選択肢がある。それを一つ一つ検討してもキリがない。
そうしたかったからした、とあまりに堂々言ってのけた若いアルファは、今も隣に座って手を離さないでいる。そもそもこいつのこの性格から言って、どれも実現可能性に乏しい気もしてくる。
ヴィルは、ロルフの答えにますます気落ちしたようだった。灰色の瞳に暗く影を落とし、俯いて、それでも言葉を探しておずおずと口を開く。
「……ごめんなさい……俺、」
「事故だよ」
一層気落ちした声を、ロルフは遮った。今更、罪悪感を背負わせたくなかった。
「あれは、事故だ。あんな風になるなんて俺は知らなかった。わからなかったし、わかるわけない。それは君も同じだろ?」
暗い顔のまま素直に頷くヴィルを見上げて、ロルフは苦笑した。
「なら事故だ。間違いなく。そうだな、悪いのは……オメガにアルファを受け持たせた上層部ってことになるな」
壮大な責任転嫁だが、あながち間違いでもない気がしてロルフは口端を上げた。
「でも……あの、俺、貴方に」
「もういいんだ」
繋いだままの手を握り込む。もう片方の手で、宥めるように手の甲を軽く叩いた。これで話は終わり、と示すように。
「……それでも、俺はロルフとつがいになれてうれしいです」
「君なぁ」
そういうことをはっきりしっかり宣言するところが、どうもいまいち反省の色がなく見えてしまう、とロルフは思う。けれども真剣そのものの顔を見ていると、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……あの、ロルフ」
躊躇いながらヴィルは言葉を探すように何度も口籠る。
「あの、その」
ごにょごにょ歯切れの悪いヴィルは、何が言いたいのか自分でもわからないまま、手探りで問いを組み立てるようだった。
「……つがいは、違う人の方が良かった? シュナイダー先生とか」
ようやく形になった質問にロルフは首を傾げた。
「シュナイダー……あぁ、軍医のことか。けど、なんであの人が出てくる? アルファだからって、そんな誰でもいいわけないだろ」
「じゃあ、」
縋るような視線を受けて、ロルフはちょっとだけ身を引く。ヴィルはかすかにためらった後、続きを口にした。
「……俺で良かった?」
必死な顔だ。いい加減に答えるのが悪い気がするくらい。
ロルフは、ヴィルでない相手とつがい関係になる可能性を少しだけ考えようとした。こいつ以外、例えば……誰? 後方勤めで会うのは軍医と、もう一人のアルファの医務官殿? あとは少将殿くらいか? ああ、でも、たまにくる参謀本部の人間まで入れたらもう収集つかなくなるな……。
可能性があるかもしれない相手を脳内で一通りあげたところでロルフは匙を投げた。
「わからん。仮定の話は苦手なんだ」
長考の間、息を詰めて見守っていたヴィルは、ロルフの答えにあからさまにかっかりした顔になった。わかりやすすぎる態度だ。胡乱な目を向けながらも、ここで突き放せないからダメなんだな、とロルフは内側でひっそりと自嘲した。
――もう良いじゃないか、こうしてここに居るんだから。それでわかるだろ。勘弁してくれよ。どうしても言葉にしないとダメなのか?
「……」
逡巡の末、ロルフは口を開いて、閉じた。結局、初めに胸に浮かんだのとは違うことを言った。
「……そんなに気になるなら、君で良かったと思わせてくれ」
ヴィルはハッとした顔になった。
「……はい。そうします。絶対に」
はにかんで笑うと、歳よりも幼く見える。その顔がずるいんだよな、とロルフは思ったが口にはしなかった。
車窓に映る景色は、遥か遠くまで畑の広がるのどかな郊外だ。既に刈り込みの終わっているのは小麦畑だろうか。秋にここを通る時、穂が黄金色に光って揺れる様はとても素晴らしい眺めになる。ヴィルにそれを見せられないのは惜しいなとロルフは思った。
「ああ、そうだ。君に一つ言わなくちゃならない」
「はい」
すぐ隣のヴィルが、一気に緊張したのがわかった。あまりに身構えた様子にロルフは苦笑を浮かべ、スッと真面目な顔になった。
「君が未だ持ってる俺のシャツの件だが」
「えっ」
「いい加減返しなさい。あれは支給品なんだ」
「えっ……」
ヴィルが絶句した。みるみる顔色も悪くなる。思った以上に激しく動揺し始めたので、ロルフは首を傾げた。ヴィルは酷く焦った声を出す。
「で、でも代わりを渡したじゃないですか」
「あ? 本気で言ってるのか?」
「そんな……」
ぎゅうっと手を握られる。よほどショックを受けたらしい。だがロルフはこれに関しては引けない。
「あれは代わりにはならない。あんなのを返却したら窓口が困るだろ」
「……そ、それは、そう……です……ね……」
ヴィルはがっくりと肩を落とした。手から力が抜けていく。かろうじて握ってはいるが。
あまりに気落ちした様子だったので、ロルフはまた抱かなくてもいい罪悪感が湧いてきた。ヴィルから目を逸らし、そっけない口調で言った。
「……別に、何でも好きなの持って行けばいいだろ。支給品じゃなくて」
「!」
ヴィルが再びロルフのぎゅっと手を握る。ロルフは窓の外を見たまま、けれども少しだけ手に力を込めた。ヴィルが嬉しそうな、幸せそうな顔をしているのが車窓越しに見えた。
◇
長い長い道中、ヴィルは何度かうとうとしていた。丸二日も張り込んでいたせいだろう。駅が閉まったあとはホテルに帰った、と本人は言っていたが、いったい何時から何時までいたのやら。
帝都についたのは昼過ぎだった。駅を出たところで、隣のヴィルが弾んだ声を上げた。
「あ、迎えが来てる」
「は?」
二頭立ての、一見して辻馬車とは様相の違うそれに平気で近づいていくヴィルを慌てて追いかける。
御者席にいる男性が軽く帽子を上げて挨拶した。
「やあ、会えてよかった。お待ちしておりましたよ、お二人とも」
ロルフはたまらずヴィルの袖口を引いた。微かに傾いたヴィルの肩口に顔を寄せ、声を潜める。
「おい、いつの間に連絡したんだ? まさかと思うが、君の家には電話機が引いてあったりするんじゃないだろうな?」
「えっ? 連絡? してないです」
「じゃあなんでこの列車で来るって知られてる?!」
ヴィルは、何を聞かれてるのかまるでわからない、とでも良いたげな顔で首を傾げた。
「さぁ……」
「さぁ?!」
安心させるように、ヴィルはにこりと笑って胸を張る。
「よくある事なんで、気にしないでください!」
気にするに決まってるだろ! と喉元まで出かかったが、ロルフは飲み込んだ。ヴィルがやたらめったら図太い理由の一端を見た気がした。
「あ、あと、電話機ありますよ。お祖父様の書斎で見ました」
「……あるのか」
ロルフはますます憂鬱になった。
首都の、これまで一度も近づいたことのない地区に馬車が踏み入るのをロルフは苦い顔で眺めた。古い様式の集合住宅が並ぶ通りを過ぎると、いつしか優美な柵が連なる景色に変わった。
そのうちの一つで馬車は止まる。馬車の窓から門を見上げて、ロルフは呆然とした。どうせでかい家だろうな、というとこまでは覚悟していたが、門番がいるような家に来るのは初めてだ。
「……守衛? 個人宅で? 意味がわからん……」
ぶつぶつと口の中で呟くロルフの隣で、ヴィルは不思議そうに首を傾げた。
「居たら変ですか? 司令部にもいますよね?」
「司令部と比べるな」
もう何を言っても噛み合わなそうなので、ロルフは口を閉じた。
市街地からそう離れていないというのに、家一軒分よりまだある前庭を抜け、その向こうにある宿舎並の大きさの家を見て思わず口を開け、慌てて引き結んだ。圧倒されすぎて落ち着かない。
兵站司令部にも負けない立派な誂えの玄関の扉前で、再び馬車が止まった。馬車の扉が開くまでの数秒間、ロルフはこのまま馬車が引き返しはじめないかな、と無意味な事を思った。
客間に通された途端、軍服が目に入ってロルフは思わず背筋が伸びた。赤のラインの入ったズボンは、参謀本部勤めの証だ。肩の階級章はこれまで直接目にしたことのない高位を示している。ロルフは敬礼すべきか迷った。
椅子に座った参謀総長は、じろり、とロルフを見上げた。
「挨拶はいい、かけたまえ」
「は、い」
ロルフの動揺と逡巡は一目で見抜かれてしまったらしい。まるで新兵のような狼狽えた返事をしてしまった。
ソファーの柔らかすぎるクッションに沈み込んでしまい、ロルフは腹が圧迫されるような居心地の悪さを感じた。
緊張のあまり顔があげられない。隣のヴィルは、相変わらずニコニコして、ロルフを連れてきました、などと呑気に報告している。ここまで図太いとかえって感心する。
「よくいらしてくれました」
参謀総長の隣、穏やかそうな老婦人が微笑んだ。
「道中疲れたでしょう。今お昼を用意させてますからね」
「わぁ、よかったですね、ロルフ」
「……お気遣い頂いて、ありがとう、ございます……」
声が震えていないか、自分でももうわからなくなった。何を言うべきか、ロルフは迷っていた。初めまして? 実家が大層お世話になりました? 不束者ですがどうぞよろしく? どれもこれも間抜けな気がしてならない。
「あ、あの……」
「ロルフ・ヴェルナー・フォン・ケラー少佐」
滅多に呼ばれることのない形式の名前だ。なぜ知ってる、などと思うのはもうやめた。
「はい」
ロルフはこれ以上なく背筋を伸ばし、真正面を向いた。目の前の参謀総長から、薄い灰色の目を静かに向けられ、知らず体がこわばる。
「……初めから後方勤務を希望したのは、賢い選択だったな。もしもお前が前線勤めになっていたなら、もっと早いうちに発露する羽目になっただろう」
「は……」
何を言われているのかわからず、ロルフは瞬きした。だがすぐに意味を察して、顔がこわばる。もしもロルフが前線の……それこそ高位のアルファだらけの場所に放り込まれていたらどうなったか。今より悲惨な事になっていたのは想像に難くない。
青ざめたロルフを確認するかのようにじっと見つめ、参謀総長は小さく頷いた。
「察しがいい。状況をよく見る目もある、想定通りの挙動だ。悪くない」
「……」
まるで訓練の講評のような口ぶりだった。完全に参謀総長の手のひらの上にいたとまざまざ感じざるを得ない。ロルフは胃の腑がますます重くなった。
「言いたいことはあるか?」
促され、ロルフはわずかに逡巡したあと、口を開いた。
「……閣下が、駅で御令孫を待たせていたと」
「そうだな」
「冬の最中に、何日も。さすがは閣下、お身内だろうとも情けは無用と。随分と厳しい方針だ。……確かに効果的ではありましたが」
半ば自嘲しながらもロルフは言わずにいられなかった。孫だろうと容赦なく駒として使う相手に、せめて皮肉の一つでも言わないと気が済まない。けれど、想像とは違う反応が返ってきた。
「……何?」
参謀総長は、片眉を上げた。それから厳かな声でヴィルの名を呼ぶ。部屋の冷え切った雰囲気などものともせず、にこにこ機嫌よさそうにヴィルは返事をした。
「ヴィルヘルム。お前はこの数日何をしていた?」
「えっ? 駅で待ってましたよ、お爺様の言った通りに」
「まさか、ずっと駅で……外でか?」
「ええ、はい。だって駅で待てって言ってましたよね」
「……」
何を言ってるんだろ、とばかりにヴィルは首を傾げる。参謀総長はわずかに目を見開いて、それから思いっきり顔を顰め、深くため息をついた。無言で成り行きを見守っていた夫人も、かすかに天を仰いだ。
「そういう意味ではない……」
ヴィルの行動の突拍子もなさはヴィルの祖父に取っても予定外だったようだ。ロルフは胡乱な目で隣に座るヴィルを見上げ、額を抑える参謀総長を見た。生涯会うはずのなかった雲の上の存在に思えていたが、急に身近に感じてきた。わずかに溜飲下がったような気分になってロルフは喉の奥で小さく忍び笑う。じろ、と見られた気がした慌てて咳払いをした。
少なくとも、愚直に待機していたヴィルの行動は参謀総長の仕込みではなかったらしい。そのことは、ロルフの胸の奥にあった諦観をほんの少しだけ違うものに変えていった。
「あぁ……ヴィル……まったく、無事で良かった」
夫人がため息をついた。それについてはロルフも全く同感だった。繁華街も近い駅前で、夜更けまで貴族の坊ちゃんが一人フラフラして、よく無事だったものだ。スリにも暴漢にも通り魔にも、酔っ払いにも遭わずに。いくらヴィルが上背のある軍人であっても、見る人が見れば隙だらけで無防備な雰囲気はすぐわかる。
「――お昼の支度ができたみたいね。続きは昼食をとりながらにしましょう」
切り替えるように、夫人は明るい声を出した。
「お爺様ご機嫌でしたね、きっと気に入られたんですよ!」
「……はぁ」
夫妻が先に退室し、残された部屋でヴィルは言った。にこにこしたヴィルを見上げ、何を見てそう思ったんだこいつは、とロルフは思った。精一杯都合良く解釈しても、便利な駒扱いがせいぜいだろう。
それよりも、とロルフは駅で待ちぼうけしてたヴィルの姿を思い出す。あれが仕込みでもなんでもなく、ヴィルの純粋な奇行だったことがわかって、ロルフは気が楽になった。
「……君、あんなところに何日もいたら風邪ひくだろ。だいたい、田舎とはいえ駅前は暗くなったら危ないんだぞ。よく考えて行動しなさい」
まるきり子供にいうような口調になってしまった。訓練された軍人に言うべきセリフではない、と頭ではわかっているのだが、どうにもこの世間知らずで抜けてる雰囲気を見ていると口にせずにはいられない。
「えっ?! だから駅が閉まってる夜中はホテルに帰ってましたってば!」
「夜中……夜中ね。本当に、よく無事だったな……」
駅前のホテル、となれば街で一番の格式ある場所だ。そんなところに身なりのいい若い軍人がフラフラと出入りして、もはやカモであると宣伝しているようなものだ。あと一日でも遅ければどうなっていたかわからない……考えれば考えるほど空恐ろしくなってきたので、ロルフはもう深掘りするのをやめた。
「全く、普段八時就寝のやつが、遅くまで粘りすぎだ」
それでも何か言ってやらなければ気が済まなくて、皮肉を口にした。
「だって、いない時にロルフが来てたら嫌だったんです」
返ってきたあまりの素直な言い分に、ぐっと言葉に詰まってしまい、ロルフは目を伏せた。
あぁ、これだから。
「……そんな夜更けに駅に行くわけないだろ。寒いし、危ないし……」
ぶつぶつと文句をいいながらも、知らぬ間に口元が緩んでいた。
やっとヴィルの行動を純粋な気持ちで受け止められたような、絆される自分を許せたような、そんな気分だった。
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