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序章
――死んだ日――
しおりを挟む「あれ?」
思わず独り言を呟いてしまった。
目の前にあったはずのパソコンのディスプレイが消え、手元にあったはずのキーボードも消え、 キラキラと輝くピンク色の空間に居たから。
ピンク色の……霧?
「え?」
もう一度呟く。どこまでも続きそうな霧の中でキョロキョロと見渡しながら。
ここ、どこだ? 俺、会社にいたはずなのに……。
『由井 凜太朗(ゆい りんたろう)じゃな?』
突然上空から声が降ってくる。
「うわ……!? 浮いてる……!?」
10歳ぐらいだろうか。金色の髪の男の子が、洋画のファンタジー系映画に出てくるような杖を手に浮いていた。軽々持ってる杖の長さは身長の倍はありそうだ。
「夢……だよな。すげぇ、夢の中で夢って自覚したの初めてかも。つか仕事! 26時までに仕上げないとダメな書類が残ってるのに……! 居眠りしてる場合じゃないぞ! 起きろ俺!」
バンバン頬を叩く。夢なのに結構痛い。なのに目が覚めない。
『けたたましい奴じゃのお。ここは夢ではないぞ。お前は死んでここに飛ばされてきたのじゃ』
男の子がまるで老人のような口調で続けた。
「えええええ!?!? 俺死んだの!? うっそだろまだ18歳だぞ! 今日だって絶好調で仕事してたのに」
「37連勤なぞするからじゃ。一種のトランス状態に陥って体の悲鳴に気が付いてなかったんじゃろ」
「し、仕事が終わらなくて……休めないのはしょうがないだろ! それより、ここはどこなんだ!? そして俺を現実世界に戻してください!」
『無理じゃ。というかお前の体はとっくに火葬されておる』
えええええまじで!? つかそんな情報いりませんから! 体がぞわぞわするわ!
「……ってことは、ここはあの世なのか?」
『いいや違う。ここはハブ空間じゃ。』
「? ハブ空間って何? ハブ空港なら知ってるけどさ。他の場所に行くための乗り継ぎの空港のことだったよな?」
『それと同じことじゃな。この空間は無限の時間と場所を繋いでおる』
「なら、君は神様?」
『近しいが違うぞ。わしは宇宙の概念アステリアじゃ。無量大数の宇宙を視る、どこにでも居てどこにも居ない存在の一つ』
難しくてよくわかんないなぁ。
『おまえにスキルを与えてやろう』
「スキル?」
アリステアと自己紹介した少年の横に巨大な文字版が浮き、くるくると回りだした。
『由井凜太朗のスキルは――――――『保父』じゃ!!!!!!!』
空中にも『保父!!!!』と文字が止まった。ジャジャーン! と効果音までついて。
『よかったな。次の人生はディスク仕事とは無関係じゃないか。全部忘れて次にいけ、次にな』
アリステアが杖を振り下ろすと、何もないはずの空間に波紋が広がり、一気に俺の足元に巨大な魔法陣が現れた!!
「ちょ――どういうことだ、もう少し説明を!! 『保父』って何!!!」
『うるさい。ワシも昼寝の途中に呼び出されて――じゃない、ここの管理を押し付けられて過労なんじゃ。まぁ、多重宇宙の一つ二つ消し飛んでもワシの上司がその分頑張れば構わん程度の事じゃがな』
それ上司さんが過労でお逝きになるパターンだからやめたげて!!! じゃない!
「全てにおいて意味がわかんねえよ!! 」
『名前をつけてくれた礼にたまには様子を見に行ってやるから心配するな』
「心配しか無い……。あ! 『不遇なスキルでも実はチート』って展開がテンプレだよな。 保父もチートなのか!?」
友達の家でそんなストーリーの本を読んで、めちゃくちゃ面白かった記憶がある。
次の休み(仮)に届くように通販で購入済だ。そう次の休み(仮)に。手にする前に死んだけど。
『ああ。チートじゃぞ。スキル技術として『なでなで』『あやす』『並んで歩く』『見つける』『保育ルーム』が初期から使える。保父として最強の布陣じゃ』
「チートの欠片もねえな!!!!」
『チートじゃぞ。園児を並んで歩かせるなどジャンガリアンハムスターを並んで歩かせるのと同じようなものだからのぉ。『見つける』に至っては何億人のお母さんたちが自分も欲しいと望んでいるか』
子供を並んで歩かせたり見つけることができるからって、その技術でどう生き抜けばいいんだよ。
それこそ保育園か幼稚園に就職して働くぐらいしかアイデアが出てこねえ。
異世界要素が皆無だ。
……。
…………。
………………。
は!!
「なぁ……」
「なんじゃ」
だらだらと汗を流しながら俺は口を開く。
「俺、前の世界で、何一つ特徴もないふっつーの人間だったんだけどまさか次でもそうだとか言わないよな……」
アステリアは腕を組んでうーんと唸った。
『そうじゃな……まあ、ハソター×ハソターで例えるなら、競技場の観客席で応援してる感じのキャラクターかのぉ……』
きゃあああ!!
死体さえ残さず消し飛ばされるタイプのモブだ!!!! やばい!!
「アステリアさん頼む、安らかに成仏させてください!」
んな修羅の国に生まれ変わるぐらいなら成仏した方がましだ!!
『社畜タイプの人間は世界が変わっても活躍してくれるから貴重なんじゃ。がんばれ』
「かみさまああああ!!!!!!!!!!!!!」
たすけてー!
叫ぶ俺などお構いなしにピンクの空間が遠くなっていく。
仕事もまだ途中だったのに……!!
――――でも死んだんなら仕事なんかもうどうでもいいのか……。
母さんも父さんも子供のころ亡くして天涯孤独の身だったし、仕事のせいで友達とも疎遠になってたしなー。
あー、でも最後に挨拶したかたったなー。
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