勇者パーティーの保父になりました

阿井雪

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勇者パーティーとの出会い

――スキルは勇者――

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「おきるのおきるのおきるの」
 子供の声がして、頬をペチペチペチッと連打される感触があった。
 でも痛くない。掌が小さく力も弱いからだ。
 起きたくない。37連勤して我慢の限界だ。眠くて瞼が開かない。今日の仕事を残しっぱなしだ……始末書を書かなきゃいけないな。余計な仕事が増えてしまう……でもねむい……。

「おにちゃん!!!!」
「…………ん?」
 
 再び夢の中に落ちそうになった俺を幼稚な声が止めた。

 目の前にいたのはピンク色の髪と瞳をした子供だった。
「あ、おにちゃがおきたの!」

「こ、子供!? え? あれ? 俺、死んだんじゃなかったっけ?」

 俺の腹にまたがっていた子が転がらないよう、背中を支えながら起き上がる。
 スーツのままだし時計もつけてるし、何なら首からぶら下げた社員証まであるぞ?
「おはようございまつのー!」「ざーまつの!」「……」(ぺこりと頭を下げる)
 子供がわらわらと集まってくる。
 俺が抱いているこの子を合わせ、子供は四人も居た。全員が保育園の制服である黄色のスモック姿だ。

「お、おはよう……」

「目をさましてよかったの!」「おにちゃ、お寝坊さんだったの」「グーグーだったの」口々に騒ぐ。
「悪かったよ。お前たち四つ子か? 全員そっくりだな。」
 髪と瞳の色だけはピンク、緑、青、黄色と全然違うけど、体の大きさも顔もそっくりだ。
「よちゅごなのでつ」「なの」「の」「……」
 「のってなんだよ。イエスかノーかわかんねーよ」と笑い周りを見渡す。
 俺たちが居るのはさして広くもない草原で、周りには背の高い木がうっそうと茂っていた。
 道がない。
 そのくせ、広場の中央にはハートの形をした金色の岩に囲われた泉があった。
 中央から噴射している水は煌めく虹色だ。水が様々に色を変え、思わず魅入ってしまう。金色の岩のほうはよくよく見返すと本物の金だった。

「なんで……こんなお宝が盗まれてないんだ?」

 いくら道がない山奥だといってもこれだけの金だぞ。
 ざっと見積もっても10トンはくだらないだろう。象を10匹連れてきてでも盗みたいはずだ。この国では金に価値がないのかな?

「あ、あぁ……!!! よかったぁああ、救世主様でございますね!」
「え?」
 若い男の声が聞こえて、子供を支えたまま振り返る。

「――――うわ! ちょ、」
 そして慌てた。
 下半身は池の中に入っている物の、声をかけてきた人が全裸だったんだ! 肌も髪も水でできてるのかな。ぷるんとした質感で、後ろの景色も透けて見える。男同士だけどびっくりしてしまった。

「改めまして、私はこの『妖精の受け皿(フェアリー・パテラ)』の守り神であり、水の神でもある、アシュリーと申します」

「ど、ども、由井(ゆい)と申します」
 丁寧に頭を下げられ、俺も下げ返す。

「私の呼びかけに答えてくださってありがとうございます。もし、貴方が来なかったらこの子たちは飢えて死んでしまっていたかもしれません……!」
 水の神様が子供たちを抱き寄せ、ぽろぽろと涙を流す。

「あ、いや、呼びかけに答えたというか、無理やり押し込まれたというか……まあいいや、こんな小さな子供たちがどうしてここまで登ってこれたんですか? 道も民家もなさそうなのに」
 泉の周りは開かれているけど、周りはうっそうとした森だ。
 四人の子供たちはどう見積もっても五歳以下だろう。アウトドア用品も持たず、保育園御用達のスモック姿で上ってきたとは思えない。

 神様がそっと金の縁に指をかける。まつ毛が水の色で金を反射し美しく輝いている。

「ここ『フェアリー・パテラ』は、いわゆる秘境なのです。妖精たちの遊び場で、出現する場所も妖精の気分次第であちこちに移動しています」

 神様は続ける。

「どこで知ったのかはわかりませんが、ここに泉があることを知ったこの子たちがやってきました」
「この水を飲むと不老不死になるとか、傷が回復するとか特典があるんですか?」
「いいえ、とんでもない。妖精が見れるだけのただの泉です」

 そっと子供の頭を撫でる。

「この子たちには特別な力があるんです。妖精が見たいという好奇心だけでここまで来てしまいました」

「特別な力?」
「ええ……」
 ピンクが泉の中に入って、ふわふわ飛ぶ妖精たちと遊んでいた。

 とにかく、「風邪ひくからあがってこい」と無理やり水から引っ張り出す。

「もう半日も何も食べずに妖精と遊んでいるんです。そろそろ日も暮れてしまいます。どうしようと途方に暮れたときにあなたが来てくださって……! しかもスキルが保父だなんて、私にとって救世主以外の何者でもございません! 左の方向に村があるはずです。そこまで連れて行ってご飯を食べさせてあげてください」

「わかりました。不本意だけど、こんなちっちゃいのを置き去りにして飢え死にでもされたら一生後悔しますし」
「では……」

 手を握られてしまう。水なのに暖かい。

「水の神アシュリーの名において、救世主ユイ様に水の加護を」
「うわ……!」
 アシュリー神の体かららせん状に湧き出た水が俺の体を包む。そして、弾けた。
「私の水の力をお分けいたしました」
「まさか、これで、水の魔法が使えるようになったとか……!?」
「はい、その通りです。ご確認くださいませ」
「うん!」
 張り切ってウィンドウを開いたんだけど――。

新スキル「水」
センタ・クトフロ(念じるだけで体や服の汚れが落ちる! 便利!)
テ・カラジャー(お水は大事!)
スグニカ・ワク(濡れても安心!)

「……………………」
「どうしました?」
「1つ聞いていいっすか?」
「どうぞ」
「あなたはほんとに水の神様ですか? 家事の女神とかじゃなくて?」
「水の神です! 救世主様にお渡ししたスキルはどれもとっても大事なものですよ。体はいつでも清潔に。雨が降っても濡てもすぐに服を乾かせる。人間にとっては必需なはず。特にこんなに小さな子だとただの風邪が肺炎になるかもしれないでしょう?」
「そりゃそうだけど攻撃とかのほうがよかったよ……、あ、このテカラジャーってのが攻撃呪文なのか?」
「試してみればわかりますよ。掌を広げて、テカラジャーと唱えてください」
「テ・カラジャー」

 じょろろろろ
「ひぃい!!」

 じょうろから水が出る感じで俺の掌から水が流れた。痛くも痒くもないんだけど超気持ち悪い!! 全力で腕を振ってしまった。
「おみじゅー」「ちべたいのー」
 子供はきゃっきゃはしゃいでるけどこれは封印だな。掌に穴が開いてないか確認しちゃったよ。
「今はその程度ですが、ランクが上がれば覚えられるスキルも増えていきます。この子たちをよろしくお願いいたします」

「じゃ、暗くならないうちに村を探すことにするよ。じゃあ、また。アシュリーさん」
「はい!」

 早速『すぐに乾く』で子供たちを乾かし、歩き始めたのだった。いきなり便利だな、家事魔法。いやいや、水魔法。
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