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とうとうダンジョンへ
――数千匹のスライムと大量のドロップアイテム――
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「ここがオレンジ洞窟か……!」
洞窟は扉で塞がれていた。
『いらっしゃい。ここはオレンジ洞窟です』
「うわ!」
扉が喋った!? しかも落書きみたいな顔が浮かび上がってきたぞ!
「わー、ドアさんお喋りできまつのねー。ユーチャでつ。よろちくの」
『よろしく。簡単なダンジョンだけど気を付けてね』
「は、はい」
ぎいいい、と扉が開き――――。
「ぎゃああああ!!!!!」
扉が開ききる前に思いっきり叫んでしまった!
だって床にも壁にも天井にも青いスライムが張り付いてんだもん!
想像していたような顔のあるスライムじゃなくて、単なる青いゼリーだけどきめえええええ!! あああ鳥肌があああ!!
「か、数が多すぎる……! 気持ち悪いいい……!」
思わずレオンハルトさんの後ろに隠れてしまう。だが、チビ達は違った。
「きゃー! スライムちゃん一杯のー!」
「潰すのー!」「ぷち!」「ぷち」「……ち」
ケンチャとキーチャが指先でつつく。それだけでスライムがポヨンと弾けて消えた。
薬草、や100ルド、ポーションなどこまごましたアイテムが宙に浮いている。スライムは魔石にはならないみたいだ。弱いからかな?
「あ、あれ? アイテムが勝手にインベントリに入ってくるぞ?」
目の前のアイテムが消えインベントリに追加された。拾ってないのに。そういや、薬草も勝手に入ってたっけ。
「ケンチャの魔法なの。傍を通るだけでアイテムがお兄ちゃに入ってくるの」
「そうなの!? 何でもありだなケンチャは。いやー便利便利」
「これはチビたちに任せていていいようだな」
レオンハルトさんが苦笑する。襲い掛かってきたスライムを手のひらで止めるとそれだけでスライムが弾けて消えた。
SSRが居るから感覚が麻痺してたけど、レオンハルトさんも充分強いんだな。さすがSランク。スライムに武器を使う必要もないとは。
よし、見てるだけじゃなくて俺も戦わなくちゃな。短剣を両手に構えて振り下ろす。
「……い、一発で死なない……」
なんてこった。チビ達は指でつつくだけで消し飛ばしてるしレオンハルトさんも触るだけで倒したのに、刃物を使って二発だなんて!
保父として恥ずかしいぞ、よし、頑張ってランクを上げよう! 明日は筋肉痛決定だ!
「スライムちゃんたのしー!」
四人とも楽しそうに宙に浮いてスライムを潰しまくってる。
「そんなに楽しいのか?」
「プチプチしてきもちーの!」
荷物の緩衝材に使われるプチプチを潰している感じなのかな。あれ、俺も子供の頃潰すの大好きだったなー。
ポヨン! スライムが一匹ユウチャに当たって弾けた。
「きもちーの。ぽよぽよの」
ポヨポヨポヨポヨポポポポポポン!
次から次にスライムがチビ4人に向かっていく。
アイテムが大量にドロップされてるぞ。
1つ1つは価値のないドロップ品ばっかりだけど、塵も積もれば山となるだ。
薬草、スライムの欠片、100ルド。ヒノキの棒。カラのポーション。
どんどん俺のインベントリに入ってくる! 数字の上がり方が半端じゃない!
ひゃふー、換金するのが楽しみだ!
でもどうしてスライムが――あ、これがスライムの攻撃か! ユーチャ達が強すぎてスライムのほうが死んじゃってるんだ!
――と理解した途端、ボゴッと俺の腹にスライムが突っ込んできた。
「ぐふぅ……」
内臓が肺まで押し上げられ、息が一気に抜けていく。
「ユイ!?」
レオンハルトさんが驚いて俺の名前絵を呼ぶ。
悲鳴も上げられない激痛だった。
後ろからも頭突きをかまされ、背骨からボギッと嫌な音がした。
暗転。
「お兄ちゃ復活したー」「また死にかかってたのよー。ケンチャびっくりしちゃったの」「もよ」
「まさかスライムで死にそうになるとは…お前にダンジョンは早かったな」
レオンハルトさんの顔色が悪い。
「というか俺死にかかってたの!? スライムの一発で!? 俺どんだけ弱いんだよ!」
「お兄ちゃ、装備を付けてないからなの。やわやわなの。スライムちゃんは見た目は美味しそうだけどきびちいお相手なのでつ」
「そうか……。装備買わなきゃな。ありがとうケンチャ。もう油断しなグフゥ……」
「言った傍からなの」
「ユイは私の後ろに居ろ」
あああ、守られる羽目になるとは……。
痴態は晒したものの、これ以上皆に馬鹿にされるわけにはいかない。
薬草で回復して、今度こそはと向かってきたスライムを剣で叩き落した。
「きゃふー!」「きゃふふ」「きゃーの」「の」
四人がピンボールさながらに洞窟内を暴れまわる。その上、スライムまで四人に向かって飛んでいくのだから洞窟の中は大変な騒ぎだ。
「ゴロゴロの術!」
ユーチャが宣言して膝を抱え丸くなって洞窟の壁(床ではない)を転がっていく。
ポポポポポン! 転がるたびに壁に張り付いていたスライムが消し飛ぶ。
「マーチャもやるのー!」続いてマーチャとケンチャとキーチャまでも。
取りこぼしを俺とレオンハルトさんで潰していく。
アイテムがドンドコ入ってくるのが気持ちいい!
「おーい、そろそろ休憩しようぜ。お昼ご飯だ」
「はーいの!」
石の上に座って葉っぱに包まれた肉弁当を広げる。
「へぇ…!」
分厚い肉がご飯に挟まれてる。見た目ご飯のステーキバーガーだな。
「んー絶品! 元気が出るお肉なの」
「だなぁ。ん、なんだこれ?」
俺のインベントリに『ミクル』というアイテムが2つ入っていた。瓶に入った白い液体だ。
説明は『飲んでカルシウムいっぱい! 飲みすぎるとお腹が痛くなることも』
試しに取り出してみる。
「まっちろいお水なのね」
「これ、牛乳に似てるんだけど……」
匂いを嗅いでもやっぱり牛乳だ。
「ユーチャ飲んでみたいの!」
ユーチャが早速興味津々だが、
「待って、毒見をするから」
一口飲んでみるとやっぱりミルクだ。
「牛乳で間違いないみたいだな。毒もないみたいだし、はい、飲んでいいぞ。2つしかないから半分ずつな」
「はいの。 ……んきゅ、美味しい! これユーチャ大好きなの!」
「ほんとにおいち! ミクル大好きになっちゃった」
「おいちおいち」
「……いし」
「レオンハルトさん、ミクルは街に売って無いんですか?」
「売ってないな。レアドロップ品だ。腹を壊すこともあるから毒扱いされて、手に入っても大抵の冒険者が捨てていくぞ」
「え、そうなの? もったいない。チビ達は美味そうに飲んでるけどなぁ。お願いすれば売ってくれるかな?」
今まで5000匹ぐらいスライムを倒してるのにたった2個しかない。レアにもほどがある。チビ達が喜んでいるから多少高値でも買い取りたいんだけどな。
「あ、インベントリが全部塞がってる。しまったな、アイテム消失しちゃったかも」
一種類につき99個でいっぱいだった。ドロップ品は四桁に届きそうだったので焦ってしまうが。
「大丈夫なの。ユーチャのに入ってるのよ」
ユーチャが自分のウィンドウを開く。確かに薬草やカラのポーションがそちらにストックされていた。
「へーなるほどなぁ。俺のがいっぱいになったらユーチャのところに行くのか」
「マーチャにもケンチャにもキーチャにも入ってるの」
俺がいっぱいになったら三人に公平に分配されていくんだな。ん? お金は俺のにしか入ってない。お金は俺が管理しろということか。
「ロボンタ美味しいな」「おいちいの!」
味は牛と豚の中間といったところか。確かに鼻血がでそうなぐらい力が湧いてくる。ドーピング剤でも飲んだみたいだ。飲んだことないけど。
「まだ暖かいな。できたてみたいだ」
「ですね。インベントリの中に入れたら時間が止まるんでしょうか」
お弁当は暖かく、水は冷たいままだ。なんともありがたい。
「おごちそーさまでしたーの!」
「はい。皆残さず食べたな。お利口さん。さ、下の階に降りるか」
階を降りてまたもやミッチミチにビッシリ洞窟内に張り付いているスライムを駆除していく。
そして、とうとう、血のように赤い色をした扉のある部屋へとたどり着いたのである。
「とうとうボス部屋か……! 皆、気を引き締めてやるぞ!」
「はいの!」
いくらスライムとは言えボスである。油断はできない。特に俺は。緊迫感が静電気のように走り、扉を手にして、開く――と。
「で、でけえ……」
広いドーム状の空間に、ちょっとした丘ぐらいにでかいスライムがいた。
これ、相手にするの? 俺の短剣でどれだけの傷をつけられるんだろう。
にょにょにょ、と音を立てスライムから丸い柱がいくつも生えてきた。
「うわ……!」
目視するのがやっとの速さで柱を振り下ろしてくる! 咄嗟に後ろにのけて耐えた。
が、でかいスライムことスライムキングは体中や口から何百ものスライムを吐き出した!
ドガッと俺に当たってくる。いてえいてえ!
「お兄ちゃとレオンちゃは、キーチャが守護するの。『完全なる魔法の鎧』」
「うわ!?」
視界が真っ白になったと思った次の瞬間に、キラキラと弾ける。キーチャが魔法で俺を強化してくれたようだ。
ドンドコ当たってくるスライムの傷みがほぼ無くなった。
「サンキュなキーチャ」
これで戦いに専念できる!
「すごいな。こんな完璧な防御壁初めてだ」
俺がちまちまと小物スライムを駆除している真っ最中に、ユーチャが剣を構えた。
「とどめなの! 『光の死を』」
ユーチャが剣を斜めに一振りした。光の板が天井からと壁側から大量に現れ、スライムキングの体を貫いた。体がサイコロ状になって崩れ落ちていく。
「すげえ、さすが勇者だな――――」
って、サイコロ状になった奴らがまた小型のスライムになった!!
「きゃープチプチさんになったの。まだまだ遊ぶの」
「ひー、千匹ぐらいいるんじゃねーのこれ!」
俺の声を聴いているのか聞いてないのか、またユーチャとマーチャが高速で転がってスライムたちを潰していった。
キーチャは腕を振るだけでスライムを大量に四散させてるし(衝撃波でも出てるのかな?)銃を構えたレオンハルトさんも一撃で大量に倒していくので、スライムの数は嫌になるほど多かったが、なんだかんだいいつつも晩御飯前にはしっかりと片付いてしまったのでした。
「ふー、いい汗かいたな……」
やせ我慢である。
汗どころか、手が震えて軽い短剣を持つのさえしんどい。体力の限界の向こうまで行っちゃった感じだ。
「大丈夫か? 肩を貸してやろうか」
「だ、だいじょうぶです」
「じゃ、ユーチャがだっこちてあげるのー」
「え?」
その言葉を把握するより先に、ユーチャにお姫様抱っこされてしまった。
やめて! 気持ちは嬉しいけど俺のプライドが木っ端みじんだ!
「ところでその子たちは何者なんだ? とても普通の人間だとは思えないが、本当に君の召喚獣なのか?」
「ああ、説明してませんでしたね。こいつらは勇者パーティーなんです」
「勇者パーティー?」
「ええ。ユーチャが勇者、そして賢者と魔法使いと騎士なんです。本人たちもあだ名で自分のことを読んでいて、本名がわからないんですけど」
「どういうことだ? そもそも君と子供たちの関係は?」
立て続けに質問を投げかけてきたレオンハルトさんに順をおって答える。
俺は死んでこちらに転送された違う世界の人間だというところから。
「にわかには信じられない話だな…」
「ですよね。俺もこんなことになるなんて自分でびっくりしてますもん。でも、こいつらと一緒に居れて楽しいんです」
ユーチャたちの頭をぐりぐりする。
「こいつらが立派な勇者パーティーに成長するまで見守っていくつもりです。俺は魔王討伐の旅にはついていけないだろうからその日が来るのが寂しいんですけど…」
「魔王?」
顎を手袋をつけた指でさすっていたレオンハルトさんが少し驚いたように言う。
「大魔王ガンダードのことなら、1年前に『神に愛されし勇者』に倒されているぞ」
「は???」
え????
「ちょ、ちょっと待ってください、神に愛されし勇者って、」
ピンクを抱き上げレオンハルトさんに突き付けてしまう。
「こいつのことですよ!?!?」
「…………………………」
二人の間に沈黙が流れる。
「どういうことだ?」
どういうことって…!
「ステータス画面を見てください! ちゃんと書いてますから!」
「ステータス画面?」
レオンハルトさんが不思議そうにおうむ返しにする。
「え、これのことです」
俺は自分のウインドウを出して見せるが、レオンハルトさんには見えていないようだった。
「そういう魔法なのか? 私に見ることはできないようだが」
「え、そうなの!?」
俺は思わずレオンハルトさんのウインドウを開いてしまった。
魔銃使い、ランクS、俺にはしっかり見れるのに。
「じゃ、じゃあこいつらが成長する前に魔王が復活するのかも……」
「いや、それはないな。大魔王は倒され、魔王が汚染していたこの世の最下層、『汚染された大魔層』は勇者が降臨させた無数の神々の手によって完全に浄化されたのだから」
「魔王が居ない……」
「いや、厳密には魔王という存在はいるぞ。だが魔王達もまた大魔王の放つ淀みによって国を汚され、国民を瘴気に狂わされ、大魔王討伐に向かっていた。勇者が降臨させた神の中には魔王も幾人か含まれていたはずだ」
「そ、そうなんですか…?」
「神に愛されし勇者と……そしてハーヴェル殿達のあの反応か……」
レオンハルトさんは一人納得したようにつぶやいた。
「レオンハルトさん?」
「……いや、何でもない。ここを抜けてギルドに行こう。アイテムを換金しないとな」
「はい……?」
無理やり話を打ち切られたのはわかるけど、納得するしかなかった。
今日はちび共が夜泣きしても目が覚めないかもしれないな。気を付けとかないと。
スライムに大苦戦した自分が情けないよ。一人だったら序盤で死んでた。
ん? なんだこれ……。
スライムキングのカード? と、魔石が落ちてた。
とりあえず両方拾っておこうかな。
「お兄ちゃ、こっちこっち」
来た道を戻ろうとした俺をユーチャが止めた。
「どうした?」
ボス部屋の後ろに小部屋があるのは知っていた。広場から丸見えだったからな。だけどその部屋にはなにもない。石畳に魔法陣が描かれているだけだ。
「この魔法陣に乗るとね、ピューってお外に出られるの」
「なるほど……。確かに歩いて帰るの面倒だもんな。助かるな」
全員が乗ると同時に光り、「おわっと」扉さんたちの前に戻ったのであった。
『スライムキングを倒してくれたみたいだね。ありがとうね、君たち』
扉さんが落書き顔で笑う。
「どういたちまちてでつ」
『かれこれ三年ぐらいギルドにお願いしてたんだけど、誰も来てくれなくてねえ。スライムがどんどんどんどん増えて、押さえておくのも大変だったんだよ』
「だからあんなにスライムが多かったんですね」
『ああ。だから、また、暇なときにでも駆除しに来てね』
「大丈夫ですよ。全部倒しましたし」
『お兄さんはダンジョンに慣れてないのかな? モンスターはね、大地の汚れを吸っていつの間にかどこからか沸いているもんなのさ』
『倒しても倒しても終わらない……それがダンジョンの厄介なところだよ。私たちが居なかったらスライムの大群が街まで押しかけてしまったかもしれない』
この世界のモンスターは無限湧きなのか……。
あのみっちりしたスライムたちを思い出してげんなりしてしまうが、ここならチビ達に怪我をさせることもないし、いい洞窟だな。うん。俺は瀕死になったけど。
洞窟は扉で塞がれていた。
『いらっしゃい。ここはオレンジ洞窟です』
「うわ!」
扉が喋った!? しかも落書きみたいな顔が浮かび上がってきたぞ!
「わー、ドアさんお喋りできまつのねー。ユーチャでつ。よろちくの」
『よろしく。簡単なダンジョンだけど気を付けてね』
「は、はい」
ぎいいい、と扉が開き――――。
「ぎゃああああ!!!!!」
扉が開ききる前に思いっきり叫んでしまった!
だって床にも壁にも天井にも青いスライムが張り付いてんだもん!
想像していたような顔のあるスライムじゃなくて、単なる青いゼリーだけどきめえええええ!! あああ鳥肌があああ!!
「か、数が多すぎる……! 気持ち悪いいい……!」
思わずレオンハルトさんの後ろに隠れてしまう。だが、チビ達は違った。
「きゃー! スライムちゃん一杯のー!」
「潰すのー!」「ぷち!」「ぷち」「……ち」
ケンチャとキーチャが指先でつつく。それだけでスライムがポヨンと弾けて消えた。
薬草、や100ルド、ポーションなどこまごましたアイテムが宙に浮いている。スライムは魔石にはならないみたいだ。弱いからかな?
「あ、あれ? アイテムが勝手にインベントリに入ってくるぞ?」
目の前のアイテムが消えインベントリに追加された。拾ってないのに。そういや、薬草も勝手に入ってたっけ。
「ケンチャの魔法なの。傍を通るだけでアイテムがお兄ちゃに入ってくるの」
「そうなの!? 何でもありだなケンチャは。いやー便利便利」
「これはチビたちに任せていていいようだな」
レオンハルトさんが苦笑する。襲い掛かってきたスライムを手のひらで止めるとそれだけでスライムが弾けて消えた。
SSRが居るから感覚が麻痺してたけど、レオンハルトさんも充分強いんだな。さすがSランク。スライムに武器を使う必要もないとは。
よし、見てるだけじゃなくて俺も戦わなくちゃな。短剣を両手に構えて振り下ろす。
「……い、一発で死なない……」
なんてこった。チビ達は指でつつくだけで消し飛ばしてるしレオンハルトさんも触るだけで倒したのに、刃物を使って二発だなんて!
保父として恥ずかしいぞ、よし、頑張ってランクを上げよう! 明日は筋肉痛決定だ!
「スライムちゃんたのしー!」
四人とも楽しそうに宙に浮いてスライムを潰しまくってる。
「そんなに楽しいのか?」
「プチプチしてきもちーの!」
荷物の緩衝材に使われるプチプチを潰している感じなのかな。あれ、俺も子供の頃潰すの大好きだったなー。
ポヨン! スライムが一匹ユウチャに当たって弾けた。
「きもちーの。ぽよぽよの」
ポヨポヨポヨポヨポポポポポポン!
次から次にスライムがチビ4人に向かっていく。
アイテムが大量にドロップされてるぞ。
1つ1つは価値のないドロップ品ばっかりだけど、塵も積もれば山となるだ。
薬草、スライムの欠片、100ルド。ヒノキの棒。カラのポーション。
どんどん俺のインベントリに入ってくる! 数字の上がり方が半端じゃない!
ひゃふー、換金するのが楽しみだ!
でもどうしてスライムが――あ、これがスライムの攻撃か! ユーチャ達が強すぎてスライムのほうが死んじゃってるんだ!
――と理解した途端、ボゴッと俺の腹にスライムが突っ込んできた。
「ぐふぅ……」
内臓が肺まで押し上げられ、息が一気に抜けていく。
「ユイ!?」
レオンハルトさんが驚いて俺の名前絵を呼ぶ。
悲鳴も上げられない激痛だった。
後ろからも頭突きをかまされ、背骨からボギッと嫌な音がした。
暗転。
「お兄ちゃ復活したー」「また死にかかってたのよー。ケンチャびっくりしちゃったの」「もよ」
「まさかスライムで死にそうになるとは…お前にダンジョンは早かったな」
レオンハルトさんの顔色が悪い。
「というか俺死にかかってたの!? スライムの一発で!? 俺どんだけ弱いんだよ!」
「お兄ちゃ、装備を付けてないからなの。やわやわなの。スライムちゃんは見た目は美味しそうだけどきびちいお相手なのでつ」
「そうか……。装備買わなきゃな。ありがとうケンチャ。もう油断しなグフゥ……」
「言った傍からなの」
「ユイは私の後ろに居ろ」
あああ、守られる羽目になるとは……。
痴態は晒したものの、これ以上皆に馬鹿にされるわけにはいかない。
薬草で回復して、今度こそはと向かってきたスライムを剣で叩き落した。
「きゃふー!」「きゃふふ」「きゃーの」「の」
四人がピンボールさながらに洞窟内を暴れまわる。その上、スライムまで四人に向かって飛んでいくのだから洞窟の中は大変な騒ぎだ。
「ゴロゴロの術!」
ユーチャが宣言して膝を抱え丸くなって洞窟の壁(床ではない)を転がっていく。
ポポポポポン! 転がるたびに壁に張り付いていたスライムが消し飛ぶ。
「マーチャもやるのー!」続いてマーチャとケンチャとキーチャまでも。
取りこぼしを俺とレオンハルトさんで潰していく。
アイテムがドンドコ入ってくるのが気持ちいい!
「おーい、そろそろ休憩しようぜ。お昼ご飯だ」
「はーいの!」
石の上に座って葉っぱに包まれた肉弁当を広げる。
「へぇ…!」
分厚い肉がご飯に挟まれてる。見た目ご飯のステーキバーガーだな。
「んー絶品! 元気が出るお肉なの」
「だなぁ。ん、なんだこれ?」
俺のインベントリに『ミクル』というアイテムが2つ入っていた。瓶に入った白い液体だ。
説明は『飲んでカルシウムいっぱい! 飲みすぎるとお腹が痛くなることも』
試しに取り出してみる。
「まっちろいお水なのね」
「これ、牛乳に似てるんだけど……」
匂いを嗅いでもやっぱり牛乳だ。
「ユーチャ飲んでみたいの!」
ユーチャが早速興味津々だが、
「待って、毒見をするから」
一口飲んでみるとやっぱりミルクだ。
「牛乳で間違いないみたいだな。毒もないみたいだし、はい、飲んでいいぞ。2つしかないから半分ずつな」
「はいの。 ……んきゅ、美味しい! これユーチャ大好きなの!」
「ほんとにおいち! ミクル大好きになっちゃった」
「おいちおいち」
「……いし」
「レオンハルトさん、ミクルは街に売って無いんですか?」
「売ってないな。レアドロップ品だ。腹を壊すこともあるから毒扱いされて、手に入っても大抵の冒険者が捨てていくぞ」
「え、そうなの? もったいない。チビ達は美味そうに飲んでるけどなぁ。お願いすれば売ってくれるかな?」
今まで5000匹ぐらいスライムを倒してるのにたった2個しかない。レアにもほどがある。チビ達が喜んでいるから多少高値でも買い取りたいんだけどな。
「あ、インベントリが全部塞がってる。しまったな、アイテム消失しちゃったかも」
一種類につき99個でいっぱいだった。ドロップ品は四桁に届きそうだったので焦ってしまうが。
「大丈夫なの。ユーチャのに入ってるのよ」
ユーチャが自分のウィンドウを開く。確かに薬草やカラのポーションがそちらにストックされていた。
「へーなるほどなぁ。俺のがいっぱいになったらユーチャのところに行くのか」
「マーチャにもケンチャにもキーチャにも入ってるの」
俺がいっぱいになったら三人に公平に分配されていくんだな。ん? お金は俺のにしか入ってない。お金は俺が管理しろということか。
「ロボンタ美味しいな」「おいちいの!」
味は牛と豚の中間といったところか。確かに鼻血がでそうなぐらい力が湧いてくる。ドーピング剤でも飲んだみたいだ。飲んだことないけど。
「まだ暖かいな。できたてみたいだ」
「ですね。インベントリの中に入れたら時間が止まるんでしょうか」
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「はいの!」
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「うわ!?」
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ドンドコ当たってくるスライムの傷みがほぼ無くなった。
「サンキュなキーチャ」
これで戦いに専念できる!
「すごいな。こんな完璧な防御壁初めてだ」
俺がちまちまと小物スライムを駆除している真っ最中に、ユーチャが剣を構えた。
「とどめなの! 『光の死を』」
ユーチャが剣を斜めに一振りした。光の板が天井からと壁側から大量に現れ、スライムキングの体を貫いた。体がサイコロ状になって崩れ落ちていく。
「すげえ、さすが勇者だな――――」
って、サイコロ状になった奴らがまた小型のスライムになった!!
「きゃープチプチさんになったの。まだまだ遊ぶの」
「ひー、千匹ぐらいいるんじゃねーのこれ!」
俺の声を聴いているのか聞いてないのか、またユーチャとマーチャが高速で転がってスライムたちを潰していった。
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「ふー、いい汗かいたな……」
やせ我慢である。
汗どころか、手が震えて軽い短剣を持つのさえしんどい。体力の限界の向こうまで行っちゃった感じだ。
「大丈夫か? 肩を貸してやろうか」
「だ、だいじょうぶです」
「じゃ、ユーチャがだっこちてあげるのー」
「え?」
その言葉を把握するより先に、ユーチャにお姫様抱っこされてしまった。
やめて! 気持ちは嬉しいけど俺のプライドが木っ端みじんだ!
「ところでその子たちは何者なんだ? とても普通の人間だとは思えないが、本当に君の召喚獣なのか?」
「ああ、説明してませんでしたね。こいつらは勇者パーティーなんです」
「勇者パーティー?」
「ええ。ユーチャが勇者、そして賢者と魔法使いと騎士なんです。本人たちもあだ名で自分のことを読んでいて、本名がわからないんですけど」
「どういうことだ? そもそも君と子供たちの関係は?」
立て続けに質問を投げかけてきたレオンハルトさんに順をおって答える。
俺は死んでこちらに転送された違う世界の人間だというところから。
「にわかには信じられない話だな…」
「ですよね。俺もこんなことになるなんて自分でびっくりしてますもん。でも、こいつらと一緒に居れて楽しいんです」
ユーチャたちの頭をぐりぐりする。
「こいつらが立派な勇者パーティーに成長するまで見守っていくつもりです。俺は魔王討伐の旅にはついていけないだろうからその日が来るのが寂しいんですけど…」
「魔王?」
顎を手袋をつけた指でさすっていたレオンハルトさんが少し驚いたように言う。
「大魔王ガンダードのことなら、1年前に『神に愛されし勇者』に倒されているぞ」
「は???」
え????
「ちょ、ちょっと待ってください、神に愛されし勇者って、」
ピンクを抱き上げレオンハルトさんに突き付けてしまう。
「こいつのことですよ!?!?」
「…………………………」
二人の間に沈黙が流れる。
「どういうことだ?」
どういうことって…!
「ステータス画面を見てください! ちゃんと書いてますから!」
「ステータス画面?」
レオンハルトさんが不思議そうにおうむ返しにする。
「え、これのことです」
俺は自分のウインドウを出して見せるが、レオンハルトさんには見えていないようだった。
「そういう魔法なのか? 私に見ることはできないようだが」
「え、そうなの!?」
俺は思わずレオンハルトさんのウインドウを開いてしまった。
魔銃使い、ランクS、俺にはしっかり見れるのに。
「じゃ、じゃあこいつらが成長する前に魔王が復活するのかも……」
「いや、それはないな。大魔王は倒され、魔王が汚染していたこの世の最下層、『汚染された大魔層』は勇者が降臨させた無数の神々の手によって完全に浄化されたのだから」
「魔王が居ない……」
「いや、厳密には魔王という存在はいるぞ。だが魔王達もまた大魔王の放つ淀みによって国を汚され、国民を瘴気に狂わされ、大魔王討伐に向かっていた。勇者が降臨させた神の中には魔王も幾人か含まれていたはずだ」
「そ、そうなんですか…?」
「神に愛されし勇者と……そしてハーヴェル殿達のあの反応か……」
レオンハルトさんは一人納得したようにつぶやいた。
「レオンハルトさん?」
「……いや、何でもない。ここを抜けてギルドに行こう。アイテムを換金しないとな」
「はい……?」
無理やり話を打ち切られたのはわかるけど、納得するしかなかった。
今日はちび共が夜泣きしても目が覚めないかもしれないな。気を付けとかないと。
スライムに大苦戦した自分が情けないよ。一人だったら序盤で死んでた。
ん? なんだこれ……。
スライムキングのカード? と、魔石が落ちてた。
とりあえず両方拾っておこうかな。
「お兄ちゃ、こっちこっち」
来た道を戻ろうとした俺をユーチャが止めた。
「どうした?」
ボス部屋の後ろに小部屋があるのは知っていた。広場から丸見えだったからな。だけどその部屋にはなにもない。石畳に魔法陣が描かれているだけだ。
「この魔法陣に乗るとね、ピューってお外に出られるの」
「なるほど……。確かに歩いて帰るの面倒だもんな。助かるな」
全員が乗ると同時に光り、「おわっと」扉さんたちの前に戻ったのであった。
『スライムキングを倒してくれたみたいだね。ありがとうね、君たち』
扉さんが落書き顔で笑う。
「どういたちまちてでつ」
『かれこれ三年ぐらいギルドにお願いしてたんだけど、誰も来てくれなくてねえ。スライムがどんどんどんどん増えて、押さえておくのも大変だったんだよ』
「だからあんなにスライムが多かったんですね」
『ああ。だから、また、暇なときにでも駆除しに来てね』
「大丈夫ですよ。全部倒しましたし」
『お兄さんはダンジョンに慣れてないのかな? モンスターはね、大地の汚れを吸っていつの間にかどこからか沸いているもんなのさ』
『倒しても倒しても終わらない……それがダンジョンの厄介なところだよ。私たちが居なかったらスライムの大群が街まで押しかけてしまったかもしれない』
この世界のモンスターは無限湧きなのか……。
あのみっちりしたスライムたちを思い出してげんなりしてしまうが、ここならチビ達に怪我をさせることもないし、いい洞窟だな。うん。俺は瀕死になったけど。
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