勇者パーティーの保父になりました

阿井雪

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とうとうダンジョンへ

――街へ帰ろう――

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「よぉ、無傷のようで何よりだ」
 ギルドに帰ると椅子に横に座ったイリアさんが酒瓶を振り上げて迎えてくれた。
「お帰り」
 奥の机で書類作業していたハーヴェルさんも挨拶をくれる。
「ただいま帰りました。スライムを倒したのはほとんどチビ達とレオンハルトさんですけどね……。あ、そだ、イリアさん、ここでアイテムの買い取りはしてもらえますか? 薬草とカラの瓶、ヒノキの棒、スライムの欠片もあるんですけど」
「ああやってるぜ。出してみろ」
「はい。まずは俺のインベントリから……」
 バサバサ音を立てて薬草が積みあがっていく。最終的に天井に付きそうなぐらいの量になってしまった。
「こんなにかよ」
「まだありますよ」
 子供を抱き上げて振ると、打ち出の小槌さながらに大量の薬草が出てきた。
「ちょっと待て、どれだけあるんだ」
「後千個ぐらいかな?」
「千個だと?」
「マーチャ、キーチャ、ケンチャ、向こう側にカラのポーション出して」
「はいですの」
 こっちもピラミッド状にポーション入れが溢れていく。
「待ちやがれ、ここに入りきれねえ。数えるのもめんどうくせえな」
「イリア、期待してるよ」
 ハーヴェルさんが笑う。
「お前も手伝いやがれ。いったんお前のインベントリに入れるぞ」
「はいはい」
「ハーヴェルさんもインベントリを持っているんですか?」
「ああ、まあね」
「こいつは元勇者様だからな」
「ええええ、勇者様だったんですか!?」
 でも言われてみれば見た目とか優雅な物腰とか、このボロギルドには似つかわしくない。勇者と言われて納得だ。
「昔の話だよ」

 山と積まれた薬草が一気に消えた。

「さぁ、アイテムを出してくれ」
「はい!」

☆☆――

「薬草7032個、カラのポーション1080個、ヒノキの棒180本。桁が違うな。採取しすぎだよ」
「すいません。スライムのドロップ品なんですよ。一万匹以上いたからなぁ」
「そんなにいたのかい? ならこの量も納得だ。イリア、錬金術師とレストランに連絡を。薬草とカラのポーションから回復ポーションが作れるし、サラダにもできるからね。ヒノキの棒は……、武器屋と木工師に引き取ってもらおうか」
「わかった。手配してくらぁ」
 椅子から立ち上がりギルドを出ていく。
「はい、これがダンジョン攻略の収入と、こっちが買取したアイテムの金額だ。どうする? 持ち歩くかい? 不安ならここで預かるけど」
「え、そんなこともできるんですか?」
「ああ。引き出すときは全国のどこのギルドでも引き出せるんだよ。便利だろう?」
「すっげー便利ですね。そうしてください。こんな大金を持ち運ぶのは怖いので……。レオンハルトさんはどうします? 持ち歩きます?」
「どういうことだ?」
「分け前は半分こにするからですよ」
「私は必要ない。自分の生活費ぐらい自分で賄える」
「そんなわけいきませんよ。はい、半額。レオンハルトさんは俺よりずっと役に立ってるんだからちゃんと受け取ってください」
「そうか……」

 庭掃除でもらった報酬だけでしばらくは楽に生活できるからな。

「ねーねーお兄ちゃ、次はどこのダンジョにするの? ユーチャこれがいいの。『ゴブブドゴブリンリン』Dランクからって書いてるの!」

「今日はもう休ませてくれよ……。お兄さんもう限界だからさ……」
「えー、もっと遊びたいの……」
 年寄りをいたわってくれ。俺のHPはお前らみたいに規格外じゃ無いんだ。

「じゃあ、お兄ちゃの防具を買いに行くの!」
「それがいいの! お兄ちゃ、雲さんみたいに柔らかフワフワだから、防具をつけてカッチコッチにするの!」
「賛成ー!」「の」

「あー、確かにそれはいい考えだ。皆でサシャの店に行くか」
「「「「はーいの」」」」
 二発でスライムに殺されたもんな。防具は絶対に必要だ。

「こんにちはー!」
「おじいちゃん、ユーチャ達がまたきたのよー」
「おうおう、勇者さまご一行のお出ましか。何を買いに来たんだ?」
「防具を……と思ったんですけど、ここ、武器しかなかったんですね。出直してきます」
 いろんな種類の武器はあれど、防具は一つも置いていなかった。
 ユーチャの頭を撫でているドワーフさんに一礼して、外に出ようとしたのだが。

「お前さんの防具なら今サシャが作ってるところじゃよ」
「え、サシャが? マジで? 楽しみだなー、この剣の切れ味もいいし、どんなんができるんだろ」
「そろそろ出来上がる頃じゃないか?」
「え? こんなに早く?」
 まだ三時ぐらいだぞ。
「あいつは天才じゃからなぁ。ワシを追い越す日も近かろうて」
 え!? ドワーフって道具を作るのに一番優れた種族じゃなかったっけ?

 しかもここってこの国で一番いい武器屋なんだろ? そこの主人に天才と評価されてたなんて……。凄いぞサシャ。見直した。昨日、飲んでるさなかに唐突に始まった腕相撲大会で、サシャに負けた時は情けなくて死にそうになったけど、天才ならしょうがない!

 Bランクの『竜の牙』達も全然勝てなかったしな。岩みたいだったぞあいつの手。

「裏で作業をしておる。見に行ってこい」
「ありがとうございます! 行くぞ、皆」
 作業場を見れるなんて嬉しいな、ドワーフさんに案内され、作業場に入ると――。
 大きな金づちを手に熱した鉄を打っているサシャがいた。
 俺たちが入ってきたことに気が付きもせず、一心に振り続けている。

 凄い……な。これじゃ腕相撲で負けるのも当然だ。デスクワークしかしてなかった俺が勝てるはずない。

 そっとサシャのステータスを読み取る。
名前『サシャ』
スキル『戦闘用具錬成』ランクS。
魔法鎧錬成 ランク508
魔法盾錬成 ランク496
魔法武器錬成 ランク620

「つ、強い……。Sランクだったのか! しかも全部が三桁越え……!」
「そうじゃ。人は見かけによらんじゃろ」
 ふぉっふぉっふぉ、とひげをさすりながらドワーフさんが笑う。

 ガァン!

 最後の一発とばかりに大きな音が上がる。
 真っ赤だった鉄が一気に冷めていった。

「――――――――」

 キィィンと澄んだ音を立て、防具がサシャの手の中で浮かび上がる。
 まさしくそれは、鉄が防具として命を吹き込まれた瞬間だった。

「すげ……」

「え、え、あっあっ、ユイさま……!! どどどうしてこんな小汚い場所に!?」
「どこが小汚いじゃこの馬鹿垂れが!」と、ドワーフさんが怒り「ごぎごごめんなさいごめんなさいい」とまた残像が見せそうな連続お辞儀を繰り出す。
「サシャが仕事してるところ初めて見たけど、すっげーかっこよかったぞ」
「かっこよかったの! 凄かったの!」
 すごいすごいとチビ達が飛び回る。
「そ、そんな、僕なんかまだまだで……」
「謙遜するなって! 腕相撲で俺に勝ったんだぞ。もっと自信持ってくれ」
「ユイさまに!? そそんな馬鹿な! 夢でも見たんじゃ」
「夢じゃないって」
 俺としては夢だったほうが嬉しいんだけどさ。こうやって並ぶとサシャのほうが身長高いし。

「無駄話をしとらんと、早く防具を渡さんかい。朝っぱらから籠りっきりで店にも出てこなかったぐらいじゃからそれなりの物が出来てるんじゃろな?」
「ははははい!」

 サシャは大急ぎで鉄にベルトを通して俺に差し出した。
「ゆ、勇者さま失礼します!」
「だからため口でいいってば。俺のことはユイでいいから」
「す、すいませんユイ……さん、」
 防具は俺の心臓の上に装着された。形は×型だ。
「さんもいらないって」
「はうぅい」
 右肩の上でガチリとベルトが止まる。
 鉄なのに軽い。付けてるのか付けてないのかわからないぐらいだ。しかもデザインがカッコいい。

「じゃあ試してみようかの」
 ドワーフさんが剣を構えて俺に向かってきた!
 ええええ!? 咄嗟のことで何の反応もできなかった俺の腹に剣が刺さる――いや、刃は通ってなかった。
 まっすぐ突き立てられるはずだった剣は俺の腹の数センチ前で止まった。
「よし、合格じゃな」
「よしじゃねえ! 万が一にも刺さったらどうしてくれるんだよ! びっくりした!」
 防具を付けてるのは腹じゃなく胸だし!
「そのクロスは体全体を防御しておる。まぁゴブリン程度ならお前さんに傷1つ付けられないじゃろうな。が、過信しすぎるなよ」
「ぼ、僕自身もどこまでお役に立てるのかわかりませんが、気休めにはいいと思って……」
「気休めどころじゃないぞ。すっげー心強い。ありがとうな、サシャ」
「まったく、人間の才能には舌を巻くばかりじゃよ。いずれは我々は朽ち果てて人間だけの街になるかもしれんなぁ」
「そ、そんなのあり得ませんよ……僕なんか師匠の足元にも及ばない半人前なのに……」
 しょんぼりとうなだれた。
「当たり前じゃ! お前が半人前のままじゃ死ぬに死にきれんわ。種族は滅ぼうともワシは後百年は生きてみせるぞ」
 百どころか千ぐらいまで生きそうなドワーフさんが笑った。

「で、これいくらで売ってくれるんだ?」
「そんな、勝手に作ったので無料で」
「二十万ルドじゃ。格安だろうて」
「に、二十万!?!? そんな価値はとてもとてもありませ」
 かぶせて否定しようとしてくるサシャを横に二十万ルド払う。

「いやーいい買い物だったなぁ。お金は減ったけど心はホクホクだ」
「サシャ兄ちゃんかっこよかったのよー」
「な。俺も鍛冶屋をやりたくなっちゃったよ。絶対失敗するだろうけどさ」
「ダメ! お兄ちゃはユーチャ達のお兄ちゃんしか許さないの!」「なの」「なの」「の!」
 空を飛ぶ子供たちにシャツを引っ張られる。

「分かってるって。俺はお前たちの家族なんだからな」
「かじょく?」
 ぽかんとユーチャたちが俺を見上げてくる。
「ああ、家族だけど、駄目か?」
 うつ向いてぶんぶんと首を振る。
「駄目じゃないの。お兄ちゃとかじょく、うれちいの」
 ぽつん、とユーチャの足元にしずくが弾けた。涙を流していた。
「お、おい、どうしたんだよ。泣くな泣くな」
「泣いてないの」
「ないの!」「ないのー!」「の!」
 いつの間にか全員泣いていて、思わず四人一気に抱きしめた。
 暖かい。
 慰めるために抱きしめたはずなのに、俺の方がほっとしてしまった。
 死んで、誰も知っている人のいない異世界に来て、俺も俺で寂しかったんだと初めて自覚した。
 いつまでこいつらの保父でいられるのかな。
 ずっと、傍に居られればいいな。

 ぼす、と頭に手のひらが乗って撫でられる。
 レオンハルトさんだった。
 子供にするような手つきなのに、振り払えずに黙ったまま子供達を抱いていた。



「ふあああーの…」
 泣き疲れたのか、ユーチャがあくびをした。
「お兄ちゃ、ねむねむ」
 ケンチャまで俺の裾を引いてくる。
「そうか。じゃあお昼寝に帰るか」
 もう夕方でお昼寝と言うには遅いけど、スライムを倒した疲れも残っているだろうし少し眠らせた方がいいだろう。
「いったん家へ戻りましょう」
「あぁ、そうだな」
 あやすで浮かせている間に四人はぐっすりと眠りに入ってしまった。

 『洗濯と風呂』で体を清めてからベッドにいれてやる。

「すぷー」「すぴぴぴ」「すぽー」「……」

「ふふ、相変わらず寝顔は天使みたいだな」
 笑ってちょっかいかけそうになる指を止めた。

 なのに、レオンハルトさんは構わずほっぺたを撫でていた。
「レオンハルトさん、起きちゃいますよ」
 思わずじっとりと睨んでしまった。
「すまないな」

 おとなしく引いてくれる。大人である。

「今日はここに食事を運んでもらうか。疲れただろうからゆっくり休め」
 レオンハルトさんが装備を脱ぎ始める。
「あの、話が……」
 レオンハルトさんはユーチャ達のことを知っているふうだった。少しでも話を聞きたかったのだが。

「ユーチャ達のことだろう? 私から話すことは何もない。そうだな……ハーヴェル殿がいつか話すだろう。その時を待っていろ」
「ハーヴェルさんが?」
 そういえばハーヴェルさんも勇者だった。

 今すぐにでもギルドへ駆け込みたい気持ちはあったけど、我慢して体を休めたのだった。
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