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ギルドからの依頼
――最下層へ――
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「おはようございます皆さま」
「ん……」
ガイドさんに起こされる。
酒瓶を抱えたクロコダイルとイリアさんを起こすことに苦労しながらも、ガイドさんは全員を起こしてた。
もう朝かぁ。今日もクリア頑張らないとなー。
「今日は全員で攻略を進めていくようにとの王からのお言葉がございました。全員で入り、一刻も早くここのモンスターを駆除するように、と」
「はっはっは、そりゃ無茶言いやがる。大人数のパーティーでどれぐらいフレンドリーファイアが起こったと思ってるんだ」
『クロコダイル』の勇者ブレイズさんが笑う。
「魔法使いの貫通攻撃が敵の後ろにいた仲間まで貫通したり、剣と剣がぶつかって攻撃が一瞬遅れモンスターに食べられたり、これまでいくつも事故が遭ったことは王様がご存じないはずないでしょう!?」
ルカも声をあげた。
「ですが急激に邪悪な魔素が減ったから、一刻も早くというのが王様のお考えです」
「むちゃくちゃいいよるのぉ。ワシは全体攻撃が得意なんじゃが、味方が混じってちゃかなわん。4人が一番じゃぞ」
無詠唱のエロじいさんがまともなことを言う。
「先人の冒険者が多数犠牲になって決まった4人態勢、何が起こるかわからないダンジョン内でのレイド戦は無謀だ」
ハーヴェルさんまでも反対した。
「しかし王からの勅令です」
ガイドさんもちょっと困惑しているようだった。
ってかいるんだな王様! この世界に来てずっと雑用とか戦闘ばっかりしてたから知らなかった! そりゃいるよな!
「しょうがないのぉ、行くしかないか」
無詠唱のエロじいさんことロウスイさんが立ち上がった。
「戦闘経験の少ない者は外そう。目の前で仲間が死ぬと士気が下がるし隊列が乱れる」
ハーヴェルさんがそう告げた。反論する者はもちろん居ない。ルカのチームから二人と、消えたブラッドリーのパーティーだった女性三人に抜けてもらう。聖女さん率いる『死の癒し手』のパーティーは四人全員女性だったけどこちらは参戦だ。ブラッドリーのパーティーの女性たちとは気迫というか迫力というか存在感から違うんだよな。
「ルティナ様、扉を開いてください」
「わかったわ」
なぜかルティナさんが指名されてライオンの扉を開いた。
「あれ? 魔法陣がある」
昨日は無かったはずの魔法陣だ。ただっぴろかった一階は、六畳ほどの部屋まで小さくなっていた。
「その魔法陣は『終焉を告げる黒使』様が下られた26階まで続いております。皆さま、お入りください」
「やっと大物と戦えそうね」
シスター、マリアがまず入った。光の柱が伸び、すぐにその姿は消えてしまう。
「ユーチャ達も行くの!」
パタパタと子ども達が行こうとして「待て、一緒にいくぞ」レオンハルトさんが四人を抱きとめて一緒に魔法陣へ乗る。
「さぁ、ユイ様も魔法陣へ」
「はい」
魔法陣に乗る――と、「うわああああ」めちゃくちゃ早いエレベーターに乗ってるような速度で下り始めた。
ここの魔法陣ってこんななの!?
着地したら死ぬじゃない!?
と1人阿鼻叫喚してたけど、目的地に近付くとふわりと停止した。
「ユイ」
「これで全員集まったわね」
付いた場所は魔法陣があるだけの小部屋だった。皆のランプでかろうじて見える程度。これじゃ戦いに不利だ。
「『周りを照らす』!」
呪文を使うと狭い部屋が一気に明るくなった。
「な――――!」
「なんだこれは! こんな魔法見たことないぞ! 誰に教わった!」
ルカが怒ってるのか驚いてるのかわからない感じで俺に迫ってくる。相変わらず両手で包むような感じでメガネの位置を直しながら。
「む、昔からあった魔法だと思う。俺の両親から受け継いだから」
嘘だけど。
「こりゃ助かるぜ。ランプを持つ必要がないからな」
皆持っていた灯りをその場に置いた。
「良かったら俺が預かりましょうか? またここに取りに来るのはめんどうでしょ?」
「ん? あぁ、捨てるつもりで置いたんだけどな。そうしてもらえると助かるぜ。なにせインベントリが埋まっちまっててよ」
全員の灯りを集める。
続く扉を開くと――。
だたっぴろい真っ白の空間が広がっていた。
「敵も居ない……?」
「気を付けて、こういう場所には」
ルティナさんが何か言おうとしたが、バチン、と明かりが消えて、再び明かりがともった時には真っ白の霧に包まれていた。手の届く位置にいたはずの仲間の姿が全然見えない!
――――
「おにたー! レオちゃー!!」
マーチャが咄嗟に防御壁を敷いていたので四兄弟ははぐれてはいなかったものの、真っ白な霧に視界は完全に塞がれていた。ユーチャが大声で叫ぶものの、どこからも返事は帰ってこない。
「みんな、どこに行っちゃったの……?」
「おにちゃもレオちゃも居なくなっちゃった……」
「かなちの……」「の……」
四人は生まれた時から四人で生きてきた。四人でいるのが当たり前だった。寂しいなんて思ったこともなかった。なのに今。ユイやレオンハルトが居ないことが心細くて溜まらない。
「みんな、ここに居たのか!」
「お兄ちゃ!」
ユイが霧をかき分けて走り寄ってくる。
キン、とケンチャの視線が光った。
「違うの。お兄ちゃじゃないの」
「どうした? ケンチャ?」
ユイがいつも見る笑顔のままで尋ねてくる。
「お兄ちゃじゃないの! 誰の!!」
「何を言ってるんだよ。俺だよ。お前たちの家族の」
ズキン、と四人の胸が痛む。『家族の』
やっとできた家族。安心できる家。温かい食事と寝床。ユイと出会ってからの思い出はどれも優しいものばかりだった。
「偽物の」
ケンチャは続けて言うが、目には涙が浮かんでボロボロとこぼれ始めた。
「でも、お兄ちゃを傷つけられないの」
「防御壁を解いてくれよ。これじゃ抱っこもできないだろ?」
「ケンチャ、マーチャはどうすればいいの?」
マーチャもボロボロ泣きながらケンチャに聞いた。
「ユーチャ!」ケンチャがユーチャの名前を叫ぶように呼ぶ。
「ユーチャにもわかんないの!!」
背中から見るだけだったが、ユーチャも涙を流しているのが分かった。ユーチャの手からドン、と剣が落ちた。
――――
「凛太朗」
遠い遠い昔に聞いた声がユイを呼んだ。
「立派に育ったな。見違えたぞ」
ユイ、いや、凛太朗は後ろを振り返り、声を震わせて言った。
「父さん、母さん」
遠すぎて、顔はたった一枚残った写真で見たものしか覚えていない。だけど、声が遠い思い出にあるものと同じだった。
三歳の頃に事故で失った両親が霧の中に立っていた。
「ずっとずっと凜のことを見守ってたの。そうしたら、神様が、私たちもこの世界に転生させてくれて」
「やっと追いつくことができた。一人にさせて悪かったな」
「父さん、母さん……! お、俺、家族が出来たんだ。チビだけど、一生懸命に生きてる子供たちで、それに頼りになる父さんみたいな人も傍にいてくれて、友達っていうのも変だけど、頼りになって信頼できる人たちも出来て」
レオンハルト、ハーヴェル、イリア、ルティナ、エルメイ。彼らの顔を浮かべながら今までの空白を埋めるかのように次々に言葉が出てきた。
「いいのよ凛」
「もうお前は子供に戻っていいんだ。父さんたちが守ってやる。もとの家族に戻って……、もう一度、私たちに子育てをさせてくれ」
「あなたをいっぱい甘やかして、今まで渡せなかった愛情を渡したいわ」
両親が手を伸ばしてくれる。
その手に飛び込めば、三歳の頃に戻ってやりなおせる。そう心のどこかが直感した。
――――
「イリア、この霧は危険だ。強力な魔力で作られている。皆の居場所が掴めない」
霧の中からハーヴェルがイリアに歩み寄ってきた。
「ち、お前でも無理なのかよ。じゃあ誰も抜け出せねえじゃねーか。ルティナかチビ達頼みになっちまう」
イリアは大斧を構えて振るが、霧は切り裂けもしなかった。
ズン!
イリアの背中が鋭い刃で切り裂かれる。
背後に立ったハーヴェルがイリアに剣を振り下ろしていた。
だが、服を切っただけでイリアの体には薄い傷をつけたに過ぎなかった。
ハーヴェルが驚きに目を見開いている。
「オレを一撃で仕留められねぇとはな。誰だテメーは。ハーヴェルじゃねえな」
地を蹴り、宙で回転しながらハーヴェルに似た物を切り裂く。
あっさりと真っ二つになり霧に消えていった。
「胸糞わりい」
――――
(魔力でできた霧か……、精神系の魔法だな。こんな大人数を一気にかく乱できるとは、よほどの使い手か……いや、それは考えにくい。僕だけならまだしもSSのルティナやSSRのチビ君たちまで巻き込む使い手など存在しないだろう。この迷宮のトラップだな)
「ハーヴェル」
斧を手に構えたイリアが霧の中から現れた。
「やっと見つけたぜ。オレの所にお前の偽物が現れて攻撃してきたぞ。ってもかすり傷だけどな。服を切りやがって頭に来る」
ハーヴェルは答えようともしなかった。
目にも止まらぬ太刀でイリアを真っ二つに切り裂いた。
ざぁ、とイリアが霧に溶けていく。
「まったく趣味の悪いトラップだ。近しい者の偽物を作ってくるとは。皆、無事だといいけど」
――――
「母さん、父さん」
凛太朗はすぐにでも両親の腕に飛び込みたかったが、しなかった。
「俺、母さんや父さんよりも大事な存在が出来たんだよ。母さんが父さんを、父さんが母さんを大事にするみたいに、俺には俺の大事な家族ができたんだ。だから、戻れない」
すう、と息を飲んで、凛太朗はナイフを構えた。
「でも、会えて嬉しいよ。できれば本物であってほしい――――! 『暴嵐の渦』!!!」
風の神から授かった暴風を巻き起こす攻撃魔法を発動させる。
両親がスパッと切れるのがわかって咄嗟に目を閉じた。
――――
「お兄ちゃああああ!!!」
味方には当たらない暴風が収まると霧が一気に晴れ、涙を流したチビ達がタックルを仕掛けてきた。
「うわあああん、怖かったの、怖かったのーーー!!」
「よしよし、もう大丈夫だからな。って、レオンハルトさん!? 大丈夫ですか!? 皆も!」
「ああ、かすり傷だ」
レオンハルトさんが手のひらから血を流していた。イリアさんまで背中を切られて薄くだけど血がにじんでいる。 それだけじゃない。勇者のルカも腹から血を流してうずくまっているし、クロコダイルの人も地面に転がっている。ルカのパーティーの人だろうか、腕を落とされてる人までいた!!
「やられたああ、誰かポーションくれええ」
「偽物だって全然見抜けなかったあああ」
「本物にしか見えなかったぜ……!」
「こんな、こんな」
「ケンチャ、回復魔法を頼む」
「はいの」
ぐじ、と袖で涙をぬぐってから「なーおれ!」と杖を振るった。
あっという間に全員の傷と防具の欠損が治っていく。
「ごめんな、泣いてるときに魔法を使わせて」
「いいの。でももっとなでなでするの!!」
「はいはい。みんなも辛かったな」
「お兄ちゃも辛かったの? かなちいかなちいのお顔してまつの」
「……うん、でも、お前たちがいるから……大丈夫だ。お前たちがいてよかった」
抱きついてくる四人を抱きしめ返す。
「『暴嵐の渦』を使ったのはおチビちゃんかしら? 助けてくれてありがとうね。私の魔法じゃ味方も傷つけてしまうから、何も出来なかったわ」
ルティナさんが横にしゃがみこんでチビの頭を撫でてくれる。
「違うの。お兄ちゃの」
「ユイだったの。……辛かったわね」
「いいえ、大丈夫です。俺にはチビ達が居るから」
ユーチャの髪に顔を埋める。
「皆の前には誰が現れたんだ? 俺はハーヴェル殿だったが」
完全に興味本位でブレイズさんが言った。
「僕もハーヴェル殿でした。敵になるとは思ってなかったから完全に油断して切られました」とルカ。
「実はオレにもハーヴェルさんがきたんだよねー」ティーノさん。
「俺も」「私も」
と、あちこちからハーヴェルさんが現れたと声が上がる。ほぼ全員だった。答えなかったのはレオンハルトさんぐらいだろうか。
「あきれた」と息を吐いたのはルティナさんだ。
「あんたたちどんだけハーヴェルに夢を見てるの。こう見えてハーヴェルは異常なぐらい寂しがりなのよ。冒険が終わった後も一人で暮らすのが嫌だと言って無理やりイリアを同居させたぐらいに」
「冒険中の宿でも四人部屋がいいと駄々をこねて面倒すぎて何度殺そうと思ったことか」
エルメイさんが首を振って吐き捨てる。
「エルメイが実践したのも一度や二度じゃなかったわね。秒で返り討ちになってたけど」
「僕も普通の人間だからね。欠点の一つや八百万あるよ」
「普通の人間にはヤオヨロズも欠点は無いのよ! というか一つの欠点がでかすぎるの! 自覚なさい!!」
「うう」
ルティナさんに怒鳴られてハーヴェルさんが反論できずにいる。
「はは、そうか、伝説の勇者様も人間だもんなあ。変に期待を背負わせすぎた俺たちも悪かった。兄ちゃん俺よりずっと年下だってのにな」
ブレイズさんがハーヴェルさんの背中をバンバン叩いている。
フルアーマーで大柄の男の人に叩かれてるのに微動だにしてないのはさすがと言うべきか。
「とにかくここは終わったんだ。さっさと先に進むぞ」
イリアさんが歩き出す。先にあったのは大きな扉だった。
「ん……」
ガイドさんに起こされる。
酒瓶を抱えたクロコダイルとイリアさんを起こすことに苦労しながらも、ガイドさんは全員を起こしてた。
もう朝かぁ。今日もクリア頑張らないとなー。
「今日は全員で攻略を進めていくようにとの王からのお言葉がございました。全員で入り、一刻も早くここのモンスターを駆除するように、と」
「はっはっは、そりゃ無茶言いやがる。大人数のパーティーでどれぐらいフレンドリーファイアが起こったと思ってるんだ」
『クロコダイル』の勇者ブレイズさんが笑う。
「魔法使いの貫通攻撃が敵の後ろにいた仲間まで貫通したり、剣と剣がぶつかって攻撃が一瞬遅れモンスターに食べられたり、これまでいくつも事故が遭ったことは王様がご存じないはずないでしょう!?」
ルカも声をあげた。
「ですが急激に邪悪な魔素が減ったから、一刻も早くというのが王様のお考えです」
「むちゃくちゃいいよるのぉ。ワシは全体攻撃が得意なんじゃが、味方が混じってちゃかなわん。4人が一番じゃぞ」
無詠唱のエロじいさんがまともなことを言う。
「先人の冒険者が多数犠牲になって決まった4人態勢、何が起こるかわからないダンジョン内でのレイド戦は無謀だ」
ハーヴェルさんまでも反対した。
「しかし王からの勅令です」
ガイドさんもちょっと困惑しているようだった。
ってかいるんだな王様! この世界に来てずっと雑用とか戦闘ばっかりしてたから知らなかった! そりゃいるよな!
「しょうがないのぉ、行くしかないか」
無詠唱のエロじいさんことロウスイさんが立ち上がった。
「戦闘経験の少ない者は外そう。目の前で仲間が死ぬと士気が下がるし隊列が乱れる」
ハーヴェルさんがそう告げた。反論する者はもちろん居ない。ルカのチームから二人と、消えたブラッドリーのパーティーだった女性三人に抜けてもらう。聖女さん率いる『死の癒し手』のパーティーは四人全員女性だったけどこちらは参戦だ。ブラッドリーのパーティーの女性たちとは気迫というか迫力というか存在感から違うんだよな。
「ルティナ様、扉を開いてください」
「わかったわ」
なぜかルティナさんが指名されてライオンの扉を開いた。
「あれ? 魔法陣がある」
昨日は無かったはずの魔法陣だ。ただっぴろかった一階は、六畳ほどの部屋まで小さくなっていた。
「その魔法陣は『終焉を告げる黒使』様が下られた26階まで続いております。皆さま、お入りください」
「やっと大物と戦えそうね」
シスター、マリアがまず入った。光の柱が伸び、すぐにその姿は消えてしまう。
「ユーチャ達も行くの!」
パタパタと子ども達が行こうとして「待て、一緒にいくぞ」レオンハルトさんが四人を抱きとめて一緒に魔法陣へ乗る。
「さぁ、ユイ様も魔法陣へ」
「はい」
魔法陣に乗る――と、「うわああああ」めちゃくちゃ早いエレベーターに乗ってるような速度で下り始めた。
ここの魔法陣ってこんななの!?
着地したら死ぬじゃない!?
と1人阿鼻叫喚してたけど、目的地に近付くとふわりと停止した。
「ユイ」
「これで全員集まったわね」
付いた場所は魔法陣があるだけの小部屋だった。皆のランプでかろうじて見える程度。これじゃ戦いに不利だ。
「『周りを照らす』!」
呪文を使うと狭い部屋が一気に明るくなった。
「な――――!」
「なんだこれは! こんな魔法見たことないぞ! 誰に教わった!」
ルカが怒ってるのか驚いてるのかわからない感じで俺に迫ってくる。相変わらず両手で包むような感じでメガネの位置を直しながら。
「む、昔からあった魔法だと思う。俺の両親から受け継いだから」
嘘だけど。
「こりゃ助かるぜ。ランプを持つ必要がないからな」
皆持っていた灯りをその場に置いた。
「良かったら俺が預かりましょうか? またここに取りに来るのはめんどうでしょ?」
「ん? あぁ、捨てるつもりで置いたんだけどな。そうしてもらえると助かるぜ。なにせインベントリが埋まっちまっててよ」
全員の灯りを集める。
続く扉を開くと――。
だたっぴろい真っ白の空間が広がっていた。
「敵も居ない……?」
「気を付けて、こういう場所には」
ルティナさんが何か言おうとしたが、バチン、と明かりが消えて、再び明かりがともった時には真っ白の霧に包まれていた。手の届く位置にいたはずの仲間の姿が全然見えない!
――――
「おにたー! レオちゃー!!」
マーチャが咄嗟に防御壁を敷いていたので四兄弟ははぐれてはいなかったものの、真っ白な霧に視界は完全に塞がれていた。ユーチャが大声で叫ぶものの、どこからも返事は帰ってこない。
「みんな、どこに行っちゃったの……?」
「おにちゃもレオちゃも居なくなっちゃった……」
「かなちの……」「の……」
四人は生まれた時から四人で生きてきた。四人でいるのが当たり前だった。寂しいなんて思ったこともなかった。なのに今。ユイやレオンハルトが居ないことが心細くて溜まらない。
「みんな、ここに居たのか!」
「お兄ちゃ!」
ユイが霧をかき分けて走り寄ってくる。
キン、とケンチャの視線が光った。
「違うの。お兄ちゃじゃないの」
「どうした? ケンチャ?」
ユイがいつも見る笑顔のままで尋ねてくる。
「お兄ちゃじゃないの! 誰の!!」
「何を言ってるんだよ。俺だよ。お前たちの家族の」
ズキン、と四人の胸が痛む。『家族の』
やっとできた家族。安心できる家。温かい食事と寝床。ユイと出会ってからの思い出はどれも優しいものばかりだった。
「偽物の」
ケンチャは続けて言うが、目には涙が浮かんでボロボロとこぼれ始めた。
「でも、お兄ちゃを傷つけられないの」
「防御壁を解いてくれよ。これじゃ抱っこもできないだろ?」
「ケンチャ、マーチャはどうすればいいの?」
マーチャもボロボロ泣きながらケンチャに聞いた。
「ユーチャ!」ケンチャがユーチャの名前を叫ぶように呼ぶ。
「ユーチャにもわかんないの!!」
背中から見るだけだったが、ユーチャも涙を流しているのが分かった。ユーチャの手からドン、と剣が落ちた。
――――
「凛太朗」
遠い遠い昔に聞いた声がユイを呼んだ。
「立派に育ったな。見違えたぞ」
ユイ、いや、凛太朗は後ろを振り返り、声を震わせて言った。
「父さん、母さん」
遠すぎて、顔はたった一枚残った写真で見たものしか覚えていない。だけど、声が遠い思い出にあるものと同じだった。
三歳の頃に事故で失った両親が霧の中に立っていた。
「ずっとずっと凜のことを見守ってたの。そうしたら、神様が、私たちもこの世界に転生させてくれて」
「やっと追いつくことができた。一人にさせて悪かったな」
「父さん、母さん……! お、俺、家族が出来たんだ。チビだけど、一生懸命に生きてる子供たちで、それに頼りになる父さんみたいな人も傍にいてくれて、友達っていうのも変だけど、頼りになって信頼できる人たちも出来て」
レオンハルト、ハーヴェル、イリア、ルティナ、エルメイ。彼らの顔を浮かべながら今までの空白を埋めるかのように次々に言葉が出てきた。
「いいのよ凛」
「もうお前は子供に戻っていいんだ。父さんたちが守ってやる。もとの家族に戻って……、もう一度、私たちに子育てをさせてくれ」
「あなたをいっぱい甘やかして、今まで渡せなかった愛情を渡したいわ」
両親が手を伸ばしてくれる。
その手に飛び込めば、三歳の頃に戻ってやりなおせる。そう心のどこかが直感した。
――――
「イリア、この霧は危険だ。強力な魔力で作られている。皆の居場所が掴めない」
霧の中からハーヴェルがイリアに歩み寄ってきた。
「ち、お前でも無理なのかよ。じゃあ誰も抜け出せねえじゃねーか。ルティナかチビ達頼みになっちまう」
イリアは大斧を構えて振るが、霧は切り裂けもしなかった。
ズン!
イリアの背中が鋭い刃で切り裂かれる。
背後に立ったハーヴェルがイリアに剣を振り下ろしていた。
だが、服を切っただけでイリアの体には薄い傷をつけたに過ぎなかった。
ハーヴェルが驚きに目を見開いている。
「オレを一撃で仕留められねぇとはな。誰だテメーは。ハーヴェルじゃねえな」
地を蹴り、宙で回転しながらハーヴェルに似た物を切り裂く。
あっさりと真っ二つになり霧に消えていった。
「胸糞わりい」
――――
(魔力でできた霧か……、精神系の魔法だな。こんな大人数を一気にかく乱できるとは、よほどの使い手か……いや、それは考えにくい。僕だけならまだしもSSのルティナやSSRのチビ君たちまで巻き込む使い手など存在しないだろう。この迷宮のトラップだな)
「ハーヴェル」
斧を手に構えたイリアが霧の中から現れた。
「やっと見つけたぜ。オレの所にお前の偽物が現れて攻撃してきたぞ。ってもかすり傷だけどな。服を切りやがって頭に来る」
ハーヴェルは答えようともしなかった。
目にも止まらぬ太刀でイリアを真っ二つに切り裂いた。
ざぁ、とイリアが霧に溶けていく。
「まったく趣味の悪いトラップだ。近しい者の偽物を作ってくるとは。皆、無事だといいけど」
――――
「母さん、父さん」
凛太朗はすぐにでも両親の腕に飛び込みたかったが、しなかった。
「俺、母さんや父さんよりも大事な存在が出来たんだよ。母さんが父さんを、父さんが母さんを大事にするみたいに、俺には俺の大事な家族ができたんだ。だから、戻れない」
すう、と息を飲んで、凛太朗はナイフを構えた。
「でも、会えて嬉しいよ。できれば本物であってほしい――――! 『暴嵐の渦』!!!」
風の神から授かった暴風を巻き起こす攻撃魔法を発動させる。
両親がスパッと切れるのがわかって咄嗟に目を閉じた。
――――
「お兄ちゃああああ!!!」
味方には当たらない暴風が収まると霧が一気に晴れ、涙を流したチビ達がタックルを仕掛けてきた。
「うわあああん、怖かったの、怖かったのーーー!!」
「よしよし、もう大丈夫だからな。って、レオンハルトさん!? 大丈夫ですか!? 皆も!」
「ああ、かすり傷だ」
レオンハルトさんが手のひらから血を流していた。イリアさんまで背中を切られて薄くだけど血がにじんでいる。 それだけじゃない。勇者のルカも腹から血を流してうずくまっているし、クロコダイルの人も地面に転がっている。ルカのパーティーの人だろうか、腕を落とされてる人までいた!!
「やられたああ、誰かポーションくれええ」
「偽物だって全然見抜けなかったあああ」
「本物にしか見えなかったぜ……!」
「こんな、こんな」
「ケンチャ、回復魔法を頼む」
「はいの」
ぐじ、と袖で涙をぬぐってから「なーおれ!」と杖を振るった。
あっという間に全員の傷と防具の欠損が治っていく。
「ごめんな、泣いてるときに魔法を使わせて」
「いいの。でももっとなでなでするの!!」
「はいはい。みんなも辛かったな」
「お兄ちゃも辛かったの? かなちいかなちいのお顔してまつの」
「……うん、でも、お前たちがいるから……大丈夫だ。お前たちがいてよかった」
抱きついてくる四人を抱きしめ返す。
「『暴嵐の渦』を使ったのはおチビちゃんかしら? 助けてくれてありがとうね。私の魔法じゃ味方も傷つけてしまうから、何も出来なかったわ」
ルティナさんが横にしゃがみこんでチビの頭を撫でてくれる。
「違うの。お兄ちゃの」
「ユイだったの。……辛かったわね」
「いいえ、大丈夫です。俺にはチビ達が居るから」
ユーチャの髪に顔を埋める。
「皆の前には誰が現れたんだ? 俺はハーヴェル殿だったが」
完全に興味本位でブレイズさんが言った。
「僕もハーヴェル殿でした。敵になるとは思ってなかったから完全に油断して切られました」とルカ。
「実はオレにもハーヴェルさんがきたんだよねー」ティーノさん。
「俺も」「私も」
と、あちこちからハーヴェルさんが現れたと声が上がる。ほぼ全員だった。答えなかったのはレオンハルトさんぐらいだろうか。
「あきれた」と息を吐いたのはルティナさんだ。
「あんたたちどんだけハーヴェルに夢を見てるの。こう見えてハーヴェルは異常なぐらい寂しがりなのよ。冒険が終わった後も一人で暮らすのが嫌だと言って無理やりイリアを同居させたぐらいに」
「冒険中の宿でも四人部屋がいいと駄々をこねて面倒すぎて何度殺そうと思ったことか」
エルメイさんが首を振って吐き捨てる。
「エルメイが実践したのも一度や二度じゃなかったわね。秒で返り討ちになってたけど」
「僕も普通の人間だからね。欠点の一つや八百万あるよ」
「普通の人間にはヤオヨロズも欠点は無いのよ! というか一つの欠点がでかすぎるの! 自覚なさい!!」
「うう」
ルティナさんに怒鳴られてハーヴェルさんが反論できずにいる。
「はは、そうか、伝説の勇者様も人間だもんなあ。変に期待を背負わせすぎた俺たちも悪かった。兄ちゃん俺よりずっと年下だってのにな」
ブレイズさんがハーヴェルさんの背中をバンバン叩いている。
フルアーマーで大柄の男の人に叩かれてるのに微動だにしてないのはさすがと言うべきか。
「とにかくここは終わったんだ。さっさと先に進むぞ」
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アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
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