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カラクリ屋敷✨✨✨

清基✨✨✨

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『……諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色……』
 邸内に琵琶の音が流れている。何者かが、『平家物語』を詠まれていた。

 分家の長男、清基も婚礼の儀に本家の屋敷へと招かれていた。しかし、いくら歩けどもいっこうに到着しない。
 道案内をしていた女中も途中、厠へ行くと云い戻ってくる気配がない。
 しびれを切らし、ひとりで迷宮を歩き出したが同じような所をグルグルと回っているみたいだ。

 まるで迷宮に迷い込んだような錯覚を受ける。
「ぬうぅ、まだ着かぬのか。いったいこの屋敷はどうなっておるんじゃ……」
 さすがに、清基も苛立ってきた。

「ン……!」
 その刹那、背後に殺気を感じた。
 ゆっくりと暗い廊下を何者かが近づいて来るようだ。
 闇に隠れて相手の顔はまったく見えない。

「フフ、どうした。お互いかくれんぼで遊ぶ歳でもなかろう」
 清基は、肩越しに睨んで背後の男に笑いかけた。

『フフゥン、いつからワシに一人前の口がきけるようになったのだ』
 なおも影がゆっくりと近づいてきた。
 頭巾を頭にかぶった闇御前の格好をしている。

「お主は闇御前……。まさか父上か」
 清基は目を凝らした。

 闇御前は途中の旅籠で首を斬られて亡くなったと聞いていた。
 徐々にお互いの距離が縮まっていく。
 ようやく闇御前の顔を確認した。

 顔には怖ろしい夜叉羅刹の面をかぶっている。
 だらりと下げた両腕には大小各々の太刀が握られていた。只者ではない。妖気が漂っている。

 もちろん父親、清継ではなかろう。もっとずっと若く活力がみなぎっている。

 この偽の闇御前の正体は察しがついていた。
 これだけの剣豪は、日本じゅうを探しても十人とはいないだろう。
 
「フフゥン……、なかなか凝った歓迎だな」
 分家の清基が、ゆっくりと刀の柄に手を差し伸べた。

『……』まだお互い間合いではない。

「どうした。もったいつけないで、夜叉の面を外したらどうだ。面の所為で負けたと言い訳されても面白くない」

『フフ、結構。負けた時の言い訳など無用……』
 まるで闇御前の声が幽鬼のように聞こえてくる。


 お互い真っ正面から対峙していた。







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