見えすぎる公爵令嬢は恋に堕ちるらしい

ロシキ

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後編

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 キーファス様の突然の行動に戸惑っていると、キーファス様は顔を顰めながら周りを見回していました。
 それから舌打ちをし、私を抱き抱えました。

「キ、キーファス様!?な、何を!?」

「これ以上、この場に留まるのは悪手だと判断した。アリアーノ嬢には悪いが、移動する」

 それからキーファス様は会場のあちこちから『万黒触』を出し、宣言しました。

「今すぐは取らせないが、近く俺の意向を無視し、アリアーノ嬢をこの様に貶めた責任は取らせる。

 特に公爵家以上の格の家は覚えておけ。元は俺達の分家の分際で、俺達に逆らったどうなるかを、歴史に刻んでやる」

 それだけ言うとキーファス様は私を抱き抱えたままで会場の外に歩き出し、建物の外に繋いでいた馬に私を座らせ、私の後ろから手綱を握りました。
 それから、ゆっくりと馬を走らせ始めたキーファス様は、苦笑いをしていそうな声で私に説明を始めました。

「急に移動して悪かったな、アリアーノ嬢。実は俺の異能は数を出す程制御が甘くなってしまう傾向にあるんだ。
多少甘くなっても、抜け出せるような拘束の仕方はしていないつもりだったが、絶対はないから、先に移動してしたほうがいいと判断したんだ。

それでアリアーノ嬢は、これからどうしたい?」

「どうしたい、とはどういう事ですか?」

「例えば国外に出たいなら、幾らかの金銭を持たせて国境までは家の騎士に護衛させよう。家に来てくれるなら、もちろん衣食住は保証するし、その他の選択肢でも良い。ただ国内で生活する場合には、家の騎士に護衛させる事は了承して欲しい」

「えっと、私が選んでよろしいのですか?」

「もちろんだ。異能持ちに強制なんて出来ないし、敵対関係になるなんて以ての外。それなら家に来てくれなくとも、友好的にしておきたい。

それでアリアーノ嬢は、今後どうしたい?」

私は『どうしたか』と問われて、何も言えませんでした。
元から今日死ぬと理解していた私は、明日のことなんて考えていなかったからです。

私がそんな理由から俯いていると、キーファス様が提案して下さいました。

「決まらないなら、1度家に来ないか?魔物が出てくる森に隣接しているから危険といえば危険だが、アリアーノ嬢の異能があれば、最悪の事態になっても事前に逃げられる筈だ。だから、家でゆっくりと今後を考えると良い」

「えっと、よろしいのですか?」

「もちろんだ。次期領主が言ってるんだから、誰にも文句は言わせないさ」

「あ、ありがとうございまー」

私がお礼を言った瞬間に、突然目の前の光景が変わりました。

その光景は暖かい日差しの中で、私とキーファス様、その他にも3人の方がテーブルを囲んでおり、みんなが素の笑顔で笑いあって居ました。

その光景を呆然と眺めていると、周りの景色が通常のものに戻りました。
私は景色が戻っても、呆然とし

今までは、未来が見えても誰かが死んだり、災害が起こったりといった誰かが不幸になる光景しか見えていなかったからです。
その筈が突如として誰も不幸になっておらず、逆に楽しそうに笑い合っている光景が見えました。

これまで、どれだけ足掻こうと変わることがなかった未来。
それの未来が、私の死という未来から変化したのだと理解するのに、数秒時間が掛かりました。

そして、それを理解すると自然に涙が出てきました。
今までは不吉な未来を見て、その未来を変えるために動き、失敗し、逆に私が不吉な未来を作り出したのではないかと疑われていました。

それがこんな簡単に、あっさりと、突然変わり、悔しかったのか、嬉しかったのか私でも分かりませんでした。
それでもキーファス様が来てくださらなければ、決して変わらなかっただろう未来。

そんな未来を変える力がキーファス様にあるなら、私はキーファス様の元で不吉な未来を変えたい。
例え、それがキーファス様に与えられた願いだとしても、私の願いは変わらない。

私は決意を伝えるために涙を拭い、前を向きながら言いました。

「キーファス様。私、やりたいことが出来ました」

「そうか、それでアリアーノ嬢のやりたいことは?」

「私はキーファス様の側で、未来を変えたいです」

「未来を?一体どうやって、いや、なるほど。いかに未来が分かる異能だとしても、他の異能持ちの人間になら、その未来が変えられるか」

「はい、私は見るしか出来ません。ですがキーファス様になら、私の見た未来が変えられるのは分かります。ですから、不吉な未来が見えてもキーファス様には、それを良い未来に変えて頂きたいのです」

「なるほどな。分かった。アリアーノ嬢が見た未来すべてを変えられるとは限らないが、俺が動ける限りは協力しよう」

「ありがとうございます、キーファス様」

「構わないさ。それじゃ、この先の街まで飛ばして、俺を追ってきている筈の騎士達と合流するか」

「追ってきている筈?それは近衛騎士ですか?」

「いや、家の騎士だ。アリアーノ嬢の死を、家の異能持ちが見たから、騎士達には後から追いかけるように言っておいたんだ」

「つまり、護衛を置いてきているということですか?」

「んっ!?ま、まあ、言い方を変えるなら、そうなる、かな」

「そうですか。キーファス様、いくら異能持ちとはいえ護衛を置いてきてはいけませんよ」

「え、ああ、悪かった。というか、急にグイグイ来るなアリアーノ嬢」

「ふふ、そうですか?」

私はキーファス様の問に誤魔化すように笑って答えました。

実は先程見た未来の中で、私はキーファス様と手が当たっただけで顔を赤くしている光景も見えていましたが、キーファス様は顔を赤くしていませんでした。
その時の私の顔は恋する乙女と言った感じの表情でしたから、きっと私はキーファス様に恋をするのでしょう。

それなら私は恋をする前の今からキーファス様に積極的に接します。
キーファス様に婚約者がいるかもしれませんが、それでも先程見た未来の先の光景をー、キーファス様と結ばれる光景を、それがどんな形でも良いから見たいと思ってしまいました。

私は諦めません。
異能持ちが私の見た光景を変えられるならば、今は見えていない私自身が私とキーファス様が結ばれる光景に変えてみせます。
※END
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