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炎と竜の記録
孤独
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『我は寝ていたのか?』
山肌より首を上げてボンヤリと考える。
何か懐かしいものを見ていた。何か悲しいものを見ていた。
そんな気はするのに一向に自分が何を見ていたのか思い出すことがは出来ない。
『まあ、所詮は夢か』
そう思う事にして竜は立ち上がる。
大切な事を忘れたわけではないから別に何の問題もはない。
あの人間は何をしているだろうか?
ふとそう思っては翼を広げ、羽ばたこうとしたところではたと気がついた。
『これは――』と思わず目を丸くする。
それは無数の線だ。眠っていた場所はぽっかり空いているがそれ以外の場所には、岩の山肌に複雑怪奇に絡み合う線が引かれてる。
私は砂を舞い上げて消してしまわぬよう注意して飛び上がった。
そして人間を探しながら変貌している窪地に驚愕する。端から端まで、人の足で立てる範囲であれば隙間なく描かれた紋様に。
「あ、目が覚めたんですね」
見つけた人間の方へ寄っていくと、呑気に目の前の者はそう言った。
「かれこれ三日も眠り続けていたので心配しましたよ」
人間は手に持っていた不似合いに豪奢な槍、恐らくはこの都に残されていたであろうものの穂先を山肌に突き立てながら言った。
『我が?』
「ええ。私が決意を固めた後、やって見せろと言って見守ってくださっていたんですが、唐突に」
『記憶がない』
「きっと疲れが溜まっていたのでしょう」
『我は疲れなど知らぬ。他の竜とは違うのだ』
「うーん。でも私にはそう見えたので」
そう返答して、人間は再び地面に突き刺した歩先を動かしていく。
私は見守りながら次第に意識を失う前の記憶を思い出す。
そして目の前の男が以前よりも遥かにやつれている事、頭の毛はボサボサで目の下は黒ずみ、まとう衣装に隠された肉体は明らかに痩せているように感じられた。
何があったのだろうか?
理由を尋ねてみても人間は「今回は少し無理をしているだけです」と答えるだけだった。
私は止めろとは言わない。
一度は潰えた希望を、自らまだ終わらぬと言って見せた以上は、この人間には私に対しそれを示す責任がある。
だから私はただ見守る。
なんだか体の奥底の熱がザワザワと落ち着かないが無視をした。
倒れた時などは体が勝手に近寄ろうと動きかけたが、直ぐに立ち上がる姿を見て自分を押し止め、どうしてしまったのだろうと首をかしげる。
私の中で何かがおかしくなってしまっているのかもしれない。
成功するにしろ失敗するにしろ、全てが終わった後は一匹になってゆっくり休もう。
――いや、何を考えている。
一匹ではなく、父と共に休むのだろう?
私は苛立たし気に尻尾を振る。だが人間の描いた線を消さないため叩きつけるのは我慢した。
また日が暮れて、そして太陽が登った。
人間は休まず線を引き続ける。
再び太陽が下り、そして登った。
「よし!」
人間は槍を置き力強く頷いた。
『終わったのか?』
「ええ、これで準備は整いました」
『これから何をする?』
「それは、少し休んでからで構いません――か――――?」
人間が倒れた。どうやら体力の限界であったらしい。
私は溜息交じりに人間を運ぼうとし、止めた。
ただ片翼を広げて多い、ちょっとした暗がりを作ってやる。
少し、と言ったのだから直ぐに目を覚ますだろう。
そう自分に運ばなかった理由を説明する。
それにしても、人間とはなんと弱い生き物だろうか。
たかだか数日眠らず休まず、ただ動き続けただけでここまで消耗してしまうとは。
そう言えば人間に限らず多くの物は肉などを食わなければいけないのだったか。
難儀な物だ。
陽光のように何処ででも手に入るわけでもないのに、それを得続けなければいけないとは。
ある意味では呪いのようにも感じる。
そう思うと私は不思議と同情的な気持ちにもなった。
『……そう言えば父が言っていたか。“我々が特別である事を忘れるな”と。確かにその通りかもしれぬな』
そうまた暮れようとしている日を見上げながら呟く。
間もなく夜だ。
私は何気なしに歌をうたう。
それはかつて父が口ずさんでいたもので、私にはよく分からないものだったが何となく気に入って覚えたものだ。
空が燃え上がる 大地が赤く染まる
多くの翼は自由を求め 果ての世界へ旅立った
残っているのはただ一人
最後に生まれたお寝坊さん
慌てて後を追いかけて 気がつきゃ迷子の空の中
終わりの日を見て思い出す
赤き空の先の先 仲間が飛んでくその姿
長き長き時の間に 赤き翼を羽ばたかせ 一人寂しく空を飛べ
孤独な孤独な朱い世で ただただ愚かに空を飛べ
一人じゃ届かぬその果てに
いつか遂げる その日まで
山肌より首を上げてボンヤリと考える。
何か懐かしいものを見ていた。何か悲しいものを見ていた。
そんな気はするのに一向に自分が何を見ていたのか思い出すことがは出来ない。
『まあ、所詮は夢か』
そう思う事にして竜は立ち上がる。
大切な事を忘れたわけではないから別に何の問題もはない。
あの人間は何をしているだろうか?
ふとそう思っては翼を広げ、羽ばたこうとしたところではたと気がついた。
『これは――』と思わず目を丸くする。
それは無数の線だ。眠っていた場所はぽっかり空いているがそれ以外の場所には、岩の山肌に複雑怪奇に絡み合う線が引かれてる。
私は砂を舞い上げて消してしまわぬよう注意して飛び上がった。
そして人間を探しながら変貌している窪地に驚愕する。端から端まで、人の足で立てる範囲であれば隙間なく描かれた紋様に。
「あ、目が覚めたんですね」
見つけた人間の方へ寄っていくと、呑気に目の前の者はそう言った。
「かれこれ三日も眠り続けていたので心配しましたよ」
人間は手に持っていた不似合いに豪奢な槍、恐らくはこの都に残されていたであろうものの穂先を山肌に突き立てながら言った。
『我が?』
「ええ。私が決意を固めた後、やって見せろと言って見守ってくださっていたんですが、唐突に」
『記憶がない』
「きっと疲れが溜まっていたのでしょう」
『我は疲れなど知らぬ。他の竜とは違うのだ』
「うーん。でも私にはそう見えたので」
そう返答して、人間は再び地面に突き刺した歩先を動かしていく。
私は見守りながら次第に意識を失う前の記憶を思い出す。
そして目の前の男が以前よりも遥かにやつれている事、頭の毛はボサボサで目の下は黒ずみ、まとう衣装に隠された肉体は明らかに痩せているように感じられた。
何があったのだろうか?
理由を尋ねてみても人間は「今回は少し無理をしているだけです」と答えるだけだった。
私は止めろとは言わない。
一度は潰えた希望を、自らまだ終わらぬと言って見せた以上は、この人間には私に対しそれを示す責任がある。
だから私はただ見守る。
なんだか体の奥底の熱がザワザワと落ち着かないが無視をした。
倒れた時などは体が勝手に近寄ろうと動きかけたが、直ぐに立ち上がる姿を見て自分を押し止め、どうしてしまったのだろうと首をかしげる。
私の中で何かがおかしくなってしまっているのかもしれない。
成功するにしろ失敗するにしろ、全てが終わった後は一匹になってゆっくり休もう。
――いや、何を考えている。
一匹ではなく、父と共に休むのだろう?
私は苛立たし気に尻尾を振る。だが人間の描いた線を消さないため叩きつけるのは我慢した。
また日が暮れて、そして太陽が登った。
人間は休まず線を引き続ける。
再び太陽が下り、そして登った。
「よし!」
人間は槍を置き力強く頷いた。
『終わったのか?』
「ええ、これで準備は整いました」
『これから何をする?』
「それは、少し休んでからで構いません――か――――?」
人間が倒れた。どうやら体力の限界であったらしい。
私は溜息交じりに人間を運ぼうとし、止めた。
ただ片翼を広げて多い、ちょっとした暗がりを作ってやる。
少し、と言ったのだから直ぐに目を覚ますだろう。
そう自分に運ばなかった理由を説明する。
それにしても、人間とはなんと弱い生き物だろうか。
たかだか数日眠らず休まず、ただ動き続けただけでここまで消耗してしまうとは。
そう言えば人間に限らず多くの物は肉などを食わなければいけないのだったか。
難儀な物だ。
陽光のように何処ででも手に入るわけでもないのに、それを得続けなければいけないとは。
ある意味では呪いのようにも感じる。
そう思うと私は不思議と同情的な気持ちにもなった。
『……そう言えば父が言っていたか。“我々が特別である事を忘れるな”と。確かにその通りかもしれぬな』
そうまた暮れようとしている日を見上げながら呟く。
間もなく夜だ。
私は何気なしに歌をうたう。
それはかつて父が口ずさんでいたもので、私にはよく分からないものだったが何となく気に入って覚えたものだ。
空が燃え上がる 大地が赤く染まる
多くの翼は自由を求め 果ての世界へ旅立った
残っているのはただ一人
最後に生まれたお寝坊さん
慌てて後を追いかけて 気がつきゃ迷子の空の中
終わりの日を見て思い出す
赤き空の先の先 仲間が飛んでくその姿
長き長き時の間に 赤き翼を羽ばたかせ 一人寂しく空を飛べ
孤独な孤独な朱い世で ただただ愚かに空を飛べ
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