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第3話
しおりを挟む「えっと、なに?」
「四月に二週間くらいいなかったけど、アレってなんだったの?」
ようやく話を切り出した柳川はそんな質問をしてきた。正直、柳川がそんなことを覚えていたことに驚いた。
今年の四月、正確にいえば始業式の翌日――ぼくは盲腸で入院していた。
「も、盲腸で入院してて……」
新学期早々、十日間も入院することになったのはぼくにとってかなりの痛手だった。春休み明けの宿題テストは受けられなくて追試になったこともそうだし、一番はクラス替え直後にそうなってしまったことだ。
元々、人付き合いが得意ではないぼくが、すでに完成されたグループに割って入れるハズがなかった。入院してなくてどこかのグループに所属できたという保証はないけど……日常会話をする相手くらいならできたと思う。
結局、進級早々に盲腸になったぼくはクラスに馴染めないまま夏休みを迎えてしまったというわけだ。
だから、いくら席が隣とはいえぼくのことなんて眼中にないと思っていた柳川がそんなことを覚えていたのは意外だった。
「盲腸ってそんなに入院期間長いっけ? 中学の時の担任も盲腸で入院したけどめっちゃ復帰早かった気がするんだけど」
「それは、症状にもよるみたい」
「そうなんだ。担任が『お前らも盲腸になったら、腹腔鏡で手術してもらえよ。一瞬で退院できるからな』って一ヶ月くらい騒いでたから、そんなもんなんだーと思ってたわ」
「面白い先生だね」
「いや、アレはただのやかましいおっさんよ。今どき熱血教師とか流行んねーのにな。入院なんてオレたちにしてみたら、ぶっちゃけ学校サボれてラッキーくらいにしかならんのよ」
(柳川みたいに友達がたくさんいたら、クラスに馴染めないなんて悩みとは無縁なんだ……)
「でも、ベッドでずっと寝てるのも退屈だったよ」
「あー……確かにそれは退屈だわ」
「しかも固くて寝心地が悪い。」
「マジ? オレ硬いベッド苦手なんだよなぁ。アレっしょ、保健室のベッドみたいな感じ?」
「そんな感じ」
「二週間、よく耐えたなぁ」
えらいなぁ、えらいなぁと柳川はぼくの肩を励ますように叩いた。たったそれだけの事で、あんなにも遠くに感じていた柳川が身近な存在のように思えるようになってしまった。
「おー、あったあったココだ」
途中何度か地図アプリを開いてたどり着いたのは、ちょっとレトロな外観の小さな喫茶店だった。
駅前にあるカフェとは違って少し敷居が高そうに思えるその店を、ぼくは知っていた。
「……柳川が探してたお店ってここだったの?」
「そうそう。結構雰囲気よくね? 初めて来たけど、こういう店って一度は来てみたかったんだよな」
「そ、そうなんだ」
喫茶店に初めて訪れたのは去年の夏休みのこと。日付けも、ちょうど今日と同じくらいだったと思う。
その時一緒にいたのは要先輩だ。
「ちょっと緊張する」
なんて言いながら入り口の扉を引く柳川の後ろでぼくは必死に動揺を隠そうとしていた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
店の奥から中年の男性店主の声が聞こえてきた。
「二人です」
「では奥のテーブルへどうぞ」
店主の案内に従って奥のテーブル席に座る。去年来た時もこの席に案内された。柳川と一緒にいるのに要先輩のことを思い出してしまい涙腺が少し熱を持つ。
今泣いたりなんかしたら柳川に変に思われそうだから必死に涙が出ないように堪える。
「花原はどっち座る?」
「え、えっと手前の方」
柳川が聞いてきたので、ぼくは咄嗟に要先輩が座っていた方を選んだ。
ぼくたちが席に着くと店主のおじさんがすぐに冷たいおしぼりとグラスにたっぷりと注がれた水、それからメニューを持ってきた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お声がけくださいませ」
そう言ってカウンターに戻る店主の背中を見ていると、柳川に声をかけられた。
「花原は何にする? オレはこれかな。こんなんめっちゃ映えるじゃん」
柳川が選んだのは『期間限定メニュー』と書かれたクリアファイルに入っている青と紫のグラデーションになっているクリームソーダだった。
「ぼくは……ホットのカフェオレにしようかな」
去年、今の柳川のようにはしゃぎながら同じメニューを頼んでいたことを思い出す。初めて見るメニューに興奮していたぼくを先輩はどんな気持ちで見守っていたのか知りたくて、先輩が頼んでいたメニューを今度はぼくが頼んだ。
「アイスじゃなくていいのか?」
「うん、店内結構涼しいから」
「そっか。すみません、注文いいですか?」
柳川はスマートにぼくの分の注文までしてくれた。人から好かれる人間はこういうさり気ない気遣いができるから好かれるのかと思わず納得してしまった。
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