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第4話
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「お待たせしました。クリームソーダです」
「ありがとうございます。おおっ! すげえ。見て、本当にグラデーションになってる」
注文していたクリームソーダが届き、柳川はキラキラと瞳を輝かせてグラスをあらゆる方向から眺めていた。
窓から差し込んでくる太陽光がグラスを照らし、テーブルにも青と紫の影を作る。その美しさに、ぼくもすっかり見惚れてしまった。
「本当にキレイだね」
「こちらホットのカフェオレです」
ぼくの目の前にも大きめのマグカップに入ったカフェオレとシュガーポットが置かれた。
「ありがとうございます」
「あの、コレ写真撮ってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。では、ごゆっくりどうぞ」
店主が立ち去ると柳川がショルダーバッグからスマホを取り出して、クリームソーダの写真を数枚撮って再びバッグの中に戻した。
「花原は写真撮らなくていい?」
「えっと、じゃあ一枚だけ……」
「どうぞ、どうぞ」
ぼくも柳川にならって一枚だけ写真を撮らせてもらった。ピントはグラスに合わせたけど、背景にはこちらを見つめる柳川が写っていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ぼくが写真を撮り終わると柳川は長いスプーンで上に乗っかったアイス掬って口に運ぶ。ぼくもカフェオレに口をつける。ミルクの優しい甘さとコーヒーのほろ苦さが口の中に広がる。
「花原ってこういう店来たことある?」
「うん……」
「ほほう、大人じゃん。オレはチェーンのカフェとかなら行ったことがあるけど、こういうところは初めてなんだよね」
控えめに頷くと柳川が感心したような表情をする。
けれど、この店に誘ってくれたのは要先輩だったのだから、大人なのは先輩なのであってぼくじゃない。けれどそれを口にするのは憚られた。
柳川はぼくが誰とこういう店に来たとか、そういうことにはきっと興味がない。そう思ったからだ。
「ぼくは、逆に駅前とかにあるようなカフェには行ったことないんだ……」
「そうなん? 今度行ってみる?」
「気にはなるけど……あの呪文みたいなメニューを注文できるか不安で……」
「カスタマイズとかなければ難しくないって。あ、でもせっかくなら自分好みのドリンクにしたいか」
「一度は挑戦してみたいなってだけだから」
「じゃあ、明日行ってみようか」
「あ、明日?!」
予想外の誘いに思わず大きな声が出てしまった。慌ててカウンターに向いて頭を下げる。店主も一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔に戻り頷かれた。どうやら怒られる心配はなさそうだ。
店内にぼくたち以外の客がいなくて本当によかった。
「もしかして何か用事ある? それなら明後日でもいいけど」
「あ、えっと、ぼくは予定ないけど……でも、柳川にはあるんじゃないの?」
柳川みたいな人気者が夏休みに友達と遊ぶ予定がないなんて思えない。
「ナイナイ。てか、予定があったら誘わないって」
「えぇ……」
その言葉を信用していいのか迷った。でも、柳川に予定があったとして、それを反故にしてまでぼくと遊ぶメリットもない。そう考えると、彼の言葉を信じていいのだろうか……。
「夏休みだし、今日と同じ時間だと混みそうだから……明日は一時間早くても平気?」
「う、うん。大丈夫だけど……」
「じゃあ、決まり」
柳川と出かけるのは今日限りだと思っていたのに、いつの間にか明日の予定まで決まってしまった。
「そろそろ行こうか」
追加で頼んだザッハトルテをぼくが食べ終わると柳川が言った。
「そうだね」
今日の朝まであんなにも億劫に思っていた柳川と過ごす時間を思いのほか楽しんでいたらしい。
帰る準備をしながらぼくは少し名残惜しく思っていた。
「お会計お願いします」
店主のご厚意で個別の会計をしてもらえることになり柳川が先に会計を終え、ぼくの番がきた。
トレーの上にぴったりの金額を並べる。レシートを受け取るときにぼくの顔を見た店主が話しかけてきた。
「お客さん、去年も来てくれた学生さんですよね。今年は違うお友達を連れてきてくれたんですね」
「え、あ……はい」
店主がぼくの顔を覚えていたことに驚いた。この店に来たのは去年の夏に二回だけ。店主さんとはほとんど話もしていない。
「もう夏休みが始まったんですね。そういえば、去年一緒に来ていた彼はお元気ですか?」
「えっと……その……」
その問いにぼくはすぐに答えを返せなかった。ぼくがもごもごと口篭っていると、柳川がその問いに答えた。
「実はオレもその先輩にこのお店を教えてもらったんです。先輩は県外の大学に進学したんですけどね、今年の夏はバイトが忙しくて帰ってこれないらしくて。代わりに一度来たことがあるコイツに付き合ってもらったんですよ」
「そうだったんですか。こうも古い店だから若いお客さんが来るのが珍しくて、つい声をかけてしまいました」
「今度オレの友達も連れてきたいです。こんなにもおしゃれなお店みんな喜ぶと思います」
「有難い話です。その時はサービスさせてもらいますよ」
「本当ですか? ラッキー! それじゃ、ご馳走さまでした」
「またのご来店お待ちしております」
柳川は唖然とするぼくの手を引いて店を出た。扉の閉まる音を聞いてぼくは思わず柳川に聞いてしまった。
「ねえ、アレってどういうことなの。先輩に教えてもらったって……!」
「ん? あー、店主さんの質問に花原が答えづらそうだったから適当なこと言っちゃった。……迷惑だった?」
「そんなこと……ない、けど……」
あの場でぼくがすぐに答えられなかったのは、先輩が亡くなったことを口にするのがイヤだったのもあるが、だからといって嘘を吐くのも憚られたからだ。
それなのに、柳川はあんなにも簡単に嘘を吐いて。
「あのさ、全部が全部本当のことを言わなくちゃいけないってことはないと思うよ」
「……え?」
まるでぼくの心を読んだかのように柳川がそう言った。
「言いたくないことは言わなくていいの。それに店主さんだって花原から何かを聞き出したくて聞いたわけじゃないと思う。だから、話したくないことなら多少の嘘ぐらい、後ろめたく思う必要なんてないってはなし」
「そうなのかな」
「そうなんだよ」
その後、特にどこかに行く予定もなかったから駅でぼくたちは解散した。
「ありがとうございます。おおっ! すげえ。見て、本当にグラデーションになってる」
注文していたクリームソーダが届き、柳川はキラキラと瞳を輝かせてグラスをあらゆる方向から眺めていた。
窓から差し込んでくる太陽光がグラスを照らし、テーブルにも青と紫の影を作る。その美しさに、ぼくもすっかり見惚れてしまった。
「本当にキレイだね」
「こちらホットのカフェオレです」
ぼくの目の前にも大きめのマグカップに入ったカフェオレとシュガーポットが置かれた。
「ありがとうございます」
「あの、コレ写真撮ってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。では、ごゆっくりどうぞ」
店主が立ち去ると柳川がショルダーバッグからスマホを取り出して、クリームソーダの写真を数枚撮って再びバッグの中に戻した。
「花原は写真撮らなくていい?」
「えっと、じゃあ一枚だけ……」
「どうぞ、どうぞ」
ぼくも柳川にならって一枚だけ写真を撮らせてもらった。ピントはグラスに合わせたけど、背景にはこちらを見つめる柳川が写っていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ぼくが写真を撮り終わると柳川は長いスプーンで上に乗っかったアイス掬って口に運ぶ。ぼくもカフェオレに口をつける。ミルクの優しい甘さとコーヒーのほろ苦さが口の中に広がる。
「花原ってこういう店来たことある?」
「うん……」
「ほほう、大人じゃん。オレはチェーンのカフェとかなら行ったことがあるけど、こういうところは初めてなんだよね」
控えめに頷くと柳川が感心したような表情をする。
けれど、この店に誘ってくれたのは要先輩だったのだから、大人なのは先輩なのであってぼくじゃない。けれどそれを口にするのは憚られた。
柳川はぼくが誰とこういう店に来たとか、そういうことにはきっと興味がない。そう思ったからだ。
「ぼくは、逆に駅前とかにあるようなカフェには行ったことないんだ……」
「そうなん? 今度行ってみる?」
「気にはなるけど……あの呪文みたいなメニューを注文できるか不安で……」
「カスタマイズとかなければ難しくないって。あ、でもせっかくなら自分好みのドリンクにしたいか」
「一度は挑戦してみたいなってだけだから」
「じゃあ、明日行ってみようか」
「あ、明日?!」
予想外の誘いに思わず大きな声が出てしまった。慌ててカウンターに向いて頭を下げる。店主も一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔に戻り頷かれた。どうやら怒られる心配はなさそうだ。
店内にぼくたち以外の客がいなくて本当によかった。
「もしかして何か用事ある? それなら明後日でもいいけど」
「あ、えっと、ぼくは予定ないけど……でも、柳川にはあるんじゃないの?」
柳川みたいな人気者が夏休みに友達と遊ぶ予定がないなんて思えない。
「ナイナイ。てか、予定があったら誘わないって」
「えぇ……」
その言葉を信用していいのか迷った。でも、柳川に予定があったとして、それを反故にしてまでぼくと遊ぶメリットもない。そう考えると、彼の言葉を信じていいのだろうか……。
「夏休みだし、今日と同じ時間だと混みそうだから……明日は一時間早くても平気?」
「う、うん。大丈夫だけど……」
「じゃあ、決まり」
柳川と出かけるのは今日限りだと思っていたのに、いつの間にか明日の予定まで決まってしまった。
「そろそろ行こうか」
追加で頼んだザッハトルテをぼくが食べ終わると柳川が言った。
「そうだね」
今日の朝まであんなにも億劫に思っていた柳川と過ごす時間を思いのほか楽しんでいたらしい。
帰る準備をしながらぼくは少し名残惜しく思っていた。
「お会計お願いします」
店主のご厚意で個別の会計をしてもらえることになり柳川が先に会計を終え、ぼくの番がきた。
トレーの上にぴったりの金額を並べる。レシートを受け取るときにぼくの顔を見た店主が話しかけてきた。
「お客さん、去年も来てくれた学生さんですよね。今年は違うお友達を連れてきてくれたんですね」
「え、あ……はい」
店主がぼくの顔を覚えていたことに驚いた。この店に来たのは去年の夏に二回だけ。店主さんとはほとんど話もしていない。
「もう夏休みが始まったんですね。そういえば、去年一緒に来ていた彼はお元気ですか?」
「えっと……その……」
その問いにぼくはすぐに答えを返せなかった。ぼくがもごもごと口篭っていると、柳川がその問いに答えた。
「実はオレもその先輩にこのお店を教えてもらったんです。先輩は県外の大学に進学したんですけどね、今年の夏はバイトが忙しくて帰ってこれないらしくて。代わりに一度来たことがあるコイツに付き合ってもらったんですよ」
「そうだったんですか。こうも古い店だから若いお客さんが来るのが珍しくて、つい声をかけてしまいました」
「今度オレの友達も連れてきたいです。こんなにもおしゃれなお店みんな喜ぶと思います」
「有難い話です。その時はサービスさせてもらいますよ」
「本当ですか? ラッキー! それじゃ、ご馳走さまでした」
「またのご来店お待ちしております」
柳川は唖然とするぼくの手を引いて店を出た。扉の閉まる音を聞いてぼくは思わず柳川に聞いてしまった。
「ねえ、アレってどういうことなの。先輩に教えてもらったって……!」
「ん? あー、店主さんの質問に花原が答えづらそうだったから適当なこと言っちゃった。……迷惑だった?」
「そんなこと……ない、けど……」
あの場でぼくがすぐに答えられなかったのは、先輩が亡くなったことを口にするのがイヤだったのもあるが、だからといって嘘を吐くのも憚られたからだ。
それなのに、柳川はあんなにも簡単に嘘を吐いて。
「あのさ、全部が全部本当のことを言わなくちゃいけないってことはないと思うよ」
「……え?」
まるでぼくの心を読んだかのように柳川がそう言った。
「言いたくないことは言わなくていいの。それに店主さんだって花原から何かを聞き出したくて聞いたわけじゃないと思う。だから、話したくないことなら多少の嘘ぐらい、後ろめたく思う必要なんてないってはなし」
「そうなのかな」
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