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プロローグ※
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無防備に曝け出された項に、熱い吐息と柔らかな唇が這う。
「ふ、あっ……んっ」
拓海は全身を駆け巡る快感に怖気付き逃れようと身を捩るが、杉本は許してくれなかった。同じアルファであるというのに拓海は彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。杉本の体温はまるで発熱しているかのように高く、触れ合った場所から溶かされてしまいそうだと拓海は思った。
「俺の……俺の、運命……」
「い、っ……んんっ」
杉本がそう呟いた直後、想像を絶する痛みに襲われた。彼の鋭い犬歯が拓海の項の皮膚を食い破ったらしい。首筋を粘度の高い液体が伝ってきた。
滴り落ちたそれは、シーツに赤い小さな花を咲かせる。拓海の身体が高揚感で震えた。痛みですら今の拓海には愛おしくてたまらない。
しかし、それと同時に拓海は罪悪感に襲われる。
「誰にも奪わせない……」
そう言葉を漏らすと、杉本の腕に力が入り、それと同時に彼の体から濃いフェロモンが放出された。彼の腕の中に閉じ込められていたせいで呼吸をする度に、彼の匂いが肺を満たす。拓海は今にも蕩けそうになる理性を飛ばさないよう耐えるのに必死だった。
酩酊した状態で不用意な発言をしてしまわないように口元に力を入れ直した。
「そんなに強く唇を噛んだら、切れてしまう。力を抜いて……」
拓海の引き結んだ唇を人差し指でゆっくりと撫でながら杉本が耳元で低く甘い声で囁く。
「んっ……」
拓海がイヤイヤと首を振ると、杉本は耳の淵に唇を這わせながら聞き分けの悪い子供に言い聞かせるような優しい声で言う。
「ほら、いい子だから。愛しい俺の番、君の声を聞かせて欲しい……」
杉本の言葉は拓海の罪悪感を刺激する。
だからといって、彼の声に抗うことなど出来るわけもなく強ばった身体は弛緩していく。固く結んでいた唇が僅かに開くと、その隙を見逃さなかった杉本が最奥に剛直を押し進めた。
「ん、ああっ……だめ……っ」
「嫌だ……! 拒絶しないでくれッ」
拓海の否定的な言葉をかき消すように杉本は抽挿のスピードを上げる。今の彼にとって拒絶は途轍もない恐怖なのだということを拓海は思い出す。
「ぅん、あ……はや、いぃ……」
トントンと突かれるたびに、自分のものとは信じられないほど甘い嬌声が拓海の口からこぼれ落ちる。主導権は杉本にあった。彼は不安を掻き消すかのように、拓海のグズグズに解けた蕾を攻め立てる。
拓海に余裕などなかった。しかし不安がる杉本を安心させようと、シーツを握りしめていた手を緩めて、彼の頬に触れる。
「可愛い、俺の番……」
視線が絡むと杉本は嬉しそうに目を細め、唇を合わせてきた。熱を帯びた舌が差し込まれると、拓海も応えるように舌を絡ませる。
「んっ……ふ、ぁ……」
口の端をどちらのものともわからない唾液が伝うのも気にせず、互いを貪り合うような濃厚なキスは拓海の僅かに残っていた意識も溶かしてしまった。
脱力した拓海がベッドの海に沈むと杉本は再び項に牙を突き立てる。自分のモノである証を刻みつけるように、幾つもの痕を残す。
だが、その行為が無意味なのだ。ラットで意識が混濁している杉本は腕の中にいる人物が、自分が求めている相手ではないことにすら気がついていない。
杉本の本当の『運命の番』は、彼と結ばれることを拒絶したのだ。
自分の項に牙を立てながら杉本が「愛している」と呟くたびに、拓海は良心の呵責に苛まれた。
「ふ、あっ……んっ」
拓海は全身を駆け巡る快感に怖気付き逃れようと身を捩るが、杉本は許してくれなかった。同じアルファであるというのに拓海は彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。杉本の体温はまるで発熱しているかのように高く、触れ合った場所から溶かされてしまいそうだと拓海は思った。
「俺の……俺の、運命……」
「い、っ……んんっ」
杉本がそう呟いた直後、想像を絶する痛みに襲われた。彼の鋭い犬歯が拓海の項の皮膚を食い破ったらしい。首筋を粘度の高い液体が伝ってきた。
滴り落ちたそれは、シーツに赤い小さな花を咲かせる。拓海の身体が高揚感で震えた。痛みですら今の拓海には愛おしくてたまらない。
しかし、それと同時に拓海は罪悪感に襲われる。
「誰にも奪わせない……」
そう言葉を漏らすと、杉本の腕に力が入り、それと同時に彼の体から濃いフェロモンが放出された。彼の腕の中に閉じ込められていたせいで呼吸をする度に、彼の匂いが肺を満たす。拓海は今にも蕩けそうになる理性を飛ばさないよう耐えるのに必死だった。
酩酊した状態で不用意な発言をしてしまわないように口元に力を入れ直した。
「そんなに強く唇を噛んだら、切れてしまう。力を抜いて……」
拓海の引き結んだ唇を人差し指でゆっくりと撫でながら杉本が耳元で低く甘い声で囁く。
「んっ……」
拓海がイヤイヤと首を振ると、杉本は耳の淵に唇を這わせながら聞き分けの悪い子供に言い聞かせるような優しい声で言う。
「ほら、いい子だから。愛しい俺の番、君の声を聞かせて欲しい……」
杉本の言葉は拓海の罪悪感を刺激する。
だからといって、彼の声に抗うことなど出来るわけもなく強ばった身体は弛緩していく。固く結んでいた唇が僅かに開くと、その隙を見逃さなかった杉本が最奥に剛直を押し進めた。
「ん、ああっ……だめ……っ」
「嫌だ……! 拒絶しないでくれッ」
拓海の否定的な言葉をかき消すように杉本は抽挿のスピードを上げる。今の彼にとって拒絶は途轍もない恐怖なのだということを拓海は思い出す。
「ぅん、あ……はや、いぃ……」
トントンと突かれるたびに、自分のものとは信じられないほど甘い嬌声が拓海の口からこぼれ落ちる。主導権は杉本にあった。彼は不安を掻き消すかのように、拓海のグズグズに解けた蕾を攻め立てる。
拓海に余裕などなかった。しかし不安がる杉本を安心させようと、シーツを握りしめていた手を緩めて、彼の頬に触れる。
「可愛い、俺の番……」
視線が絡むと杉本は嬉しそうに目を細め、唇を合わせてきた。熱を帯びた舌が差し込まれると、拓海も応えるように舌を絡ませる。
「んっ……ふ、ぁ……」
口の端をどちらのものともわからない唾液が伝うのも気にせず、互いを貪り合うような濃厚なキスは拓海の僅かに残っていた意識も溶かしてしまった。
脱力した拓海がベッドの海に沈むと杉本は再び項に牙を突き立てる。自分のモノである証を刻みつけるように、幾つもの痕を残す。
だが、その行為が無意味なのだ。ラットで意識が混濁している杉本は腕の中にいる人物が、自分が求めている相手ではないことにすら気がついていない。
杉本の本当の『運命の番』は、彼と結ばれることを拒絶したのだ。
自分の項に牙を立てながら杉本が「愛している」と呟くたびに、拓海は良心の呵責に苛まれた。
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