534 / 548
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その397裏
しおりを挟む
矢倉郁人と名乗る彼の体から放たれる仄かな気配は、私の知る者の気配とよく似ている。
しかし、悪魔のボルオロンに易々と心の穢れを植えつけられるあの様は、私の知るあの者の姿とはほど遠い。
貴方はやはり、もう存在していないのか。
裸眼の言う通り、あの矢倉郁人を名乗る者を救うべきではないのかも知れない。
星の住人に救済の手を差し伸べるこの星にとって最後の希望とも言える、あのラグザエフを殺めようとする行為は、神仏への冒涜であり、阿鼻地獄で永久の苦しみを味わうべき存在とも言える。
だが、その矢倉郁人という名に固執せず、その名を口にする事を恥じ、悔い改め、正しき道を模索するというのなら、私は手を差し伸べるつもりでいた。
しかし、その名を口にするのみならず、心の奥底から矢倉郁人という悍ましき名前を掲げ、唯一無二の存在として成り立たせようとする。
私の知る者と同一の存在であるのなら、私は全ての疑惑を忘れ、貴方の側に立つ事も考えたが。
悪魔であるボルオロンの言葉通り、多くの神仏侯はこの星を見限ったのは事実。
この星がその様な状態になれば、悪しき者達の標的になるのは至極当然の事。
それでも、神仏侯は戻る事はなかった。
懸命に守護する大地を平然と滅びへ向かわせる愚かな星の住人達に、救いの手など伸ばす理由など存在しないと、神仏侯は離れていった。
それでも、裸眼よ。
かつてはこの星を愛し、そしてそこに住まう者達を愛した。
慈悲の心は、未だ失われてはいない。
それは、私達を頼り、祈りを捧げ、正しき道を模索する者達の姿があったからこそ。
その者達の多くは、愚かな煩悩に支配された者共により攻め込まれ、殺められたが…。
遥か昔に、異次元の彼方から私達を誘う言葉により、禁断の扉が開かれた事があったな。
その異世界の光景。山に囲まれた小さな集落が大火の災厄に見舞われ、多くの命が失われる中で、元凶とも言える武将達が、多くの孤児が住まう館にまで火が回った事に絶望し、祈りを口にしていた。
平穏な生活を送る事を良しとはせず、群れを率いて他の者達の生活を奪い、己が欲を満たすその姿勢に、私は慈悲を抱くつもりもなく、その者達に死罰を与えるつもりでいた。
だが、武将はかつて関係を持った女の身籠った赤子が孤児として送られた事を知りながらも、醜い政の騒動に巻き込まれ、その事実から目を逸らし、主の命により戦に身を捧げた姿が、魂から浮かび出た。
私の姿を目にし、その武将は何度もひれ伏し、己が命と引き換えに孤児の館から孤児を救い出す様、願った。
そして、ひとりではなく、何人かの武将が現れ、その様な行為に出て、私達は呆れ果てたものだ。
だが、異世界の無垢な子らを救うべく、大火を鎮火させる事にし、そして最小の被害に留めた。
その後、愚かな武将達に罰を与えるつもりでいたが、彼らは刀を捨て、涙ながらに感謝を口にし続けていた。
その時に、私達は彼らに言葉を残し、二度と愚かな過ちを犯さぬ事を条件に、彼らの命を奪う事はしなかった。
「禍事に食いつかれも、穢れ負うも、祓い、己が心に清きを求め歩む身に、穢れなし…」
矢倉郁人を名乗る者が、その久しい言葉を、口にした。
そして…。
裸眼よ。
私達の名前を覚えているか?
かつてひとりとして存在したあの名前を。
何かの思い違いが万に一でもあるのなら、私達はそれを正すべきではないのだろうか。
裸眼よ。
少なくとも、私は迷いの霧は晴れた様に思う。
矢倉郁人は、この星の者ではないのではないか?
しかし、悪魔のボルオロンに易々と心の穢れを植えつけられるあの様は、私の知るあの者の姿とはほど遠い。
貴方はやはり、もう存在していないのか。
裸眼の言う通り、あの矢倉郁人を名乗る者を救うべきではないのかも知れない。
星の住人に救済の手を差し伸べるこの星にとって最後の希望とも言える、あのラグザエフを殺めようとする行為は、神仏への冒涜であり、阿鼻地獄で永久の苦しみを味わうべき存在とも言える。
だが、その矢倉郁人という名に固執せず、その名を口にする事を恥じ、悔い改め、正しき道を模索するというのなら、私は手を差し伸べるつもりでいた。
しかし、その名を口にするのみならず、心の奥底から矢倉郁人という悍ましき名前を掲げ、唯一無二の存在として成り立たせようとする。
私の知る者と同一の存在であるのなら、私は全ての疑惑を忘れ、貴方の側に立つ事も考えたが。
悪魔であるボルオロンの言葉通り、多くの神仏侯はこの星を見限ったのは事実。
この星がその様な状態になれば、悪しき者達の標的になるのは至極当然の事。
それでも、神仏侯は戻る事はなかった。
懸命に守護する大地を平然と滅びへ向かわせる愚かな星の住人達に、救いの手など伸ばす理由など存在しないと、神仏侯は離れていった。
それでも、裸眼よ。
かつてはこの星を愛し、そしてそこに住まう者達を愛した。
慈悲の心は、未だ失われてはいない。
それは、私達を頼り、祈りを捧げ、正しき道を模索する者達の姿があったからこそ。
その者達の多くは、愚かな煩悩に支配された者共により攻め込まれ、殺められたが…。
遥か昔に、異次元の彼方から私達を誘う言葉により、禁断の扉が開かれた事があったな。
その異世界の光景。山に囲まれた小さな集落が大火の災厄に見舞われ、多くの命が失われる中で、元凶とも言える武将達が、多くの孤児が住まう館にまで火が回った事に絶望し、祈りを口にしていた。
平穏な生活を送る事を良しとはせず、群れを率いて他の者達の生活を奪い、己が欲を満たすその姿勢に、私は慈悲を抱くつもりもなく、その者達に死罰を与えるつもりでいた。
だが、武将はかつて関係を持った女の身籠った赤子が孤児として送られた事を知りながらも、醜い政の騒動に巻き込まれ、その事実から目を逸らし、主の命により戦に身を捧げた姿が、魂から浮かび出た。
私の姿を目にし、その武将は何度もひれ伏し、己が命と引き換えに孤児の館から孤児を救い出す様、願った。
そして、ひとりではなく、何人かの武将が現れ、その様な行為に出て、私達は呆れ果てたものだ。
だが、異世界の無垢な子らを救うべく、大火を鎮火させる事にし、そして最小の被害に留めた。
その後、愚かな武将達に罰を与えるつもりでいたが、彼らは刀を捨て、涙ながらに感謝を口にし続けていた。
その時に、私達は彼らに言葉を残し、二度と愚かな過ちを犯さぬ事を条件に、彼らの命を奪う事はしなかった。
「禍事に食いつかれも、穢れ負うも、祓い、己が心に清きを求め歩む身に、穢れなし…」
矢倉郁人を名乗る者が、その久しい言葉を、口にした。
そして…。
裸眼よ。
私達の名前を覚えているか?
かつてひとりとして存在したあの名前を。
何かの思い違いが万に一でもあるのなら、私達はそれを正すべきではないのだろうか。
裸眼よ。
少なくとも、私は迷いの霧は晴れた様に思う。
矢倉郁人は、この星の者ではないのではないか?
0
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
社畜をクビになった俺のスキルは「根回し」だけど、異世界では世界最強の裏方でした
cotonoha garden
ファンタジー
派手な攻撃魔法も、伝説級のチートもない。
社畜生活で身につけたのは、会議前の根回しと、空気を読みながら人と人をつなぐ段取り力――そして異世界で手に入れたスキルもまた、「根回し」だけだった。
『社畜の俺がもらったスキルは「根回し」だけど、なぜか世界最強らしい』は、
・追放・異世界転移ものが好き
・けれどただのざまぁで終わる話では物足りない
・裏方の仕事や調整役のしんどさに心当たりがある
そんな読者に向けた、“裏方最強”系ファンタジーです。
主人公は最初から最強ではありません。
「自分なんて代わりがきく」と思い込み、表舞台に立つ勇気を持てないままクビになった男が、異世界で「人と人をつなぐこと」の価値に向き合い、自分の仕事と存在を肯定していく物語です。
ギルド、ステータス、各国の思惑――テンプレ的な異世界要素の裏側で、
一言の声かけや、さりげない段取りが誰かの人生と戦争の行方を変えていく。
最後には、主人公が「もう誰かの歯車ではなく、自分で選んだ居場所」に立つ姿を、少しじんわりしながら見届けられるはずです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる