とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その177

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秒ごとに空の明るさが失われ、辺り一帯が暗く沈むと、人や道、家の境目がわかりづらいほど、視界が悪くなる。途端、たくさんの黒い家の中でぼんやりとした明かりがポツポツとつき始め、道や周りの家を弱い光で照らし合い、街の姿を浮かばせる。

東角猫トーニャ族達が街に戻り始め、主人の待つ家に追われる様に駆け足で戻るため、姿もよく確認できないほどの速度ですれ違い、風を巻き上げる。



「うわっ。危ねえな…。そんなに急いで帰らなくても、持ってくるもの持ってれば、そんなに怒られないだろうよ」



ほとんどの奴が、魔力を持ち帰るために外出してんだろうけど、何を相手に魔力を奪っているのか、考えたくもないから、敢えて聞く事もなかった。

以前の第2大陸みたいに、他の大陸とのやり取りでセプレピの実で魔力でも取れればいいんだろうけど。

ああ、ソライン族の事を思い出した。気分が悪い。

あのうさ耳オヤジも、《冬枯れの牙》ラグリェの策にはめられて、悪事を働く様になったんだよな。

元がどうなのかわからないけど、ただ、大陸を浮遊させる装置のゲルロブライザーに人を投げ込むバカをやり出したのは、ラグリェのせいだ。

…もう、会いたくねえな。

ラグリェは、恐い。

恐いよ…。

人を殺すのが心底楽しそうだったよな。性格が悪いにもほどがある。いつか、それが自分に返ってくればいい。それなら、ざまあみろだけど。

実際は、悪が勝つ世の中なのか?

どうしても、気になる。

もう1人の俺は、どうしてこの世界の人と人を繋ぐ様な最後の希望を、天使ラグザエフを殺しに行ったんだ。

心を汚されて、次第にこの世界の腐った考えに染まっていったのか?

だけど、お前は大きな力を手に入れたんだよな。俺がとても及ばない様な圧倒的な力。

はぁ…。

俺は、テテ?

俺は、サイクロス?

それとも。



「…!?」



「どうした?私の顔が包帯で巻かれて不気味だから、顔を引き攣らせたんか?それとも、昼間の私の重傷化した顔を見た事を思い出して、吐きそうとか?」



まずい!黒眼こくがん五人衆のシブ。今、ある意味一番会いたくない奴に会ったのかも知れない。誤解だけど、はいそうですかと俺が言う事を信じてもくれないだろう。どうすればいい?この場を、どうしのげばいい?



「女を恐れるんか?それはそうか。傷で醜く変形した顔は恐いよねぇ。まるで、お化けみたいじゃないか…」



「お、俺は別に…」



「そのうち、私がお前を殺しに行ってあげるからねえ?でも、今日じゃない…。良かったねえ、私が今、用事があってさあ…」



シブの目が血走っている。相当恨まれているんだ。何で、勝手に逆恨みするんだよ。俺は別に。

でも、あの傷は酷かった。

俺は、お前を傷で不気味だなんて。

むしろ、お前達の人を殺しまくるそっちの方が圧倒的に恐い。

そういう意味では、お前はメベヘやゲルと同じく、十分不気味だ。

俺から離れていく時も、首を俺の方へ回して睨みつけながら歩いている。女は執念深いっていうのは、間違いないな。しかも、誤解だしな。

気づけば、周りに誰もいない。

こいつら黒眼五人衆が歩くと、みんな逃げるんだろうな。

ヘタしたら、理由なしに殺されそうだからな。

まぁ、オーロフ族は、見境がなさそうなゲル以外なら、近くにいても平気で道を歩いてもおかしくはないだろうけど。

オーロフ族は魔闘石ロワを古球磨族に分けて、味方につけたんだよな。そして、東角猫トーニャ族に圧力をかけて、支配下に置いたとかだったよな。

多分、それだけで残忍な奴が義理堅く側にいる訳がない。多分、他に何か理由でもあるんだろうな。

《冬枯れの牙》からうまく逃れるためにオーロフ族は協力してくれていたとかかな?

それはあり得る。

生活するにはオーロフ族の手助けも必要だろうし。

魔闘石に魔力が十分に溜まるまでとか、考えていたりして。

力が《冬枯れの牙》を超えるほどまでに達すれば、もう誰も恐くはないよな。

あくまでも、俺の想像だけど。

ちなみに、あいつの言う用事って、何だろうな。

…。

元々、シブはハムカンデのいるあの天守層にいたんだよな?

ハムカンデから、お使いを頼まれているとか。もし、この街にお店とかがあるなら、少し知っておきたいな。

お金がないから、俺が直接何かを買うなんて事はないんだけど。

いや、危険な奴についていって何の得があるんだ。止めておいた方がいいな。

見つかった場合の後が恐いだろ、どう考えても。

よし、帰るか…。

 



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