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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その218
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「劫殺の間の襖が開いた。そして、この通路に舞い込んだそよ風の動き…。汗と金属の混じった臭い。お前はこの間を抜け出した。私の見る目がないんか、よくわからないけど。魔獣の牙から逃れるなんて」
シブの奴、俺がこの通路にいる事の予測がついている。だけど、俺はお前との距離は5mくらいはある。すぐに刀を振ったところで俺には届かない。
もっと距離をつけて、俺の居場所をもっとわからなくしてやるぞ。
「手に入れていた情報だと、お前は消札を取りに来たんよ。それが天守層にあるなら、お前はこの上の階に向かうはず。だけど、それならハムカンデ様のいる場所まで行かなければならない。そうまでしなければ手に入らないのなら、お前の力量だと自殺行為、この城に侵入してはいないだろうね」
「でも、お前は劫殺の間に入り、そして死ぬ事もなく、この間から出る事ができた。それはとても不思議な事なんよなぁ」
「!?」
シブがゆっくりと歩き始めた。しかも、俺の方に向かって。どうして俺の場所がわかる?
「お前はどうにかしてこの階にある消札を手に入れたんよ。だから、お前が向かう所はこの城の外さ。用が済んだんだから、当然の事よなぁ?」
こいつ!適当言って、たまたま当たってるに過ぎないんだ。こんな奴なんかに、動きがわかってたまるかよ。
「もっと先に進んだんか?そよ風の通りが自然だ。それでもここからそう離れてなんかいなんよな。いいさ、もっと行きなよ。そう、私達が襲った村の続き。私は、古球磨族らしくない、誤った行動をした。そこを、私はやり直したいんよ…」
何だって?襲った村の続き…?その村が俺に何の関係がある。誤った行動なんて、知った事じゃない。お前がいい加減だから失敗でもしたんだろ。襲った村の続きをやろうだなんて、どう考えても正気の言葉じゃない。
お前は本当に…、人でなしだ。
シブがゆっくりと俺に近づいてくる。それ以上に俺が歩く速度を早めると、きっと鎧の金属音が鳴る。だからと言って、通路から身をかわすために窓の縁の上に立ったところで、またそよ風がどうのとか言って、俺の場所を特定されそうになるに決まっている。
もうこのまま城の外に出るために通路を歩き続けるしかない。
止まったら終わりだ。
急げ。
でも、音は立てない様に…。
下へ降りる階段に差し掛かった時、下の3階から扉を激しく叩く音が聞こえた。
パルンガだ。また何か気が立っている様だ。
もう俺には関係ない。俺を殺すって言ったんだから。
お前は、そのまま扉に入ったままだ。
入ったまま…。
それとも、シブと2人仲良く戦ったらどうだ?
お前達、殺すのが好きでたまらないだろうから。
「…!!」
俺の後からシブが階段を降りてくる足音が聞こえてくる。少しうめき声が聞こえたから後ろを振り向いてみたら、シブの傷口が以前みたいに深くなり、顔の包帯が鮮血に染まる。
ポタッ。
ポタッ。
「うゔ…」
シブ。血が顔から流れ出て、また包帯が緩み出す。顎に溜まった血の滴が地面にポタポタと落ちて、俺がシブから目を逸らしても、シブの血だらけの顔が頭に浮かんで離れない。痛々しいんだよ、お前。
エズアにやられた傷が致命傷で、それをハムカンデの彫魔法で時間を遡っては進み、それを繰り返して何とか生き延びているんだろう?
俺なら耐えられない。
1日に何回それを繰り返すんだよ。
イヤだ。
とても、耐えられない。
お前は辛抱強いな。
そんなお前が覚悟を決めたなら、その執念は凄まじいだろう。
俺はお前に見つかってはならないんだ。
まだ、俺にはやる事がある。
この世界でじゃない。
こんな世界なんかじゃない。
「ほ…らッ。何処にいる?名無しリョウマ族。わ、私の顔は…恐い、でしょう。キャハハッ。私は古球磨族。恐怖を植え付けて、その価値に磨きがかかるんよ…」
お、お前は完全に女を止めちまったみたいだな。その血塗れで見るに耐えない顔を、恐怖を植えつけるための道具にするとはな。
いかれてやがる。
早く逃げないと。
こんな奴と関わると、寿命が縮まって仕方がねえ。
3階だ。パルンガが扉を叩いたりしているおかげで、シブの気が少し散っているだろう。
それに、まだ時間が遡らずに傷口が塞がっていないため、シブの動きが鈍い。
今のうちにこのまま進んで、さらに2階に降りていこう。
バァンッ!
「ガルルルルッ!」
パルンガ。
唸りながら、扉の小窓に顔を押しつけて外を覗こうとしている。
鼻をヒクヒクさせているのは、もしかして俺の臭いで俺の存在を感じているのか?
残念だけど、俺はお前に殺されねえ。
お前はそこから出られないからだ。
残念だったな。
俺を殺そうなんて、そんな事言ってるからバチが当たったんだ。
「さぁ…。傷口は塞がったよ、名無しリョウマ族。ここからが、本当の勝負だ」
シブ!
ここはやっぱり、パルンガを閉じ込めている扉を開けてシブと戦わせるか?
いや、どういう形で決着がついても、気分のいいもんじゃない。
ここはパルンガにはそのまま扉の中で大人しくしてもらおう。
「ガルルルルアッ!!」
「フフッ。ゼドケフラーの幼獣が。お前達をすぐ様絶滅させてやりたいくらいなんよ。でも、お楽しみは後で取っておくとするよ。もうお前は逃げられない…」
しばらく2人で睨み合いでもしていてくれよ。その間に、俺は先に進むから。
「先約がいる」
「さあ、殺し合いの始まり、始まり…」
「私はお前の村を奪うんだ。そのために、お菓子をくれたり、遊んだりもしたお前を…」
お菓子を?俺はお前に何もあげていない。遊んでいるつもりもない。
何を言ってやがるんだ。
「何の躊躇いもなく、殺す!」
「!?」
「その隠れた姿を晒せ…」
「鬼眼!!」
シブの奴、俺がこの通路にいる事の予測がついている。だけど、俺はお前との距離は5mくらいはある。すぐに刀を振ったところで俺には届かない。
もっと距離をつけて、俺の居場所をもっとわからなくしてやるぞ。
「手に入れていた情報だと、お前は消札を取りに来たんよ。それが天守層にあるなら、お前はこの上の階に向かうはず。だけど、それならハムカンデ様のいる場所まで行かなければならない。そうまでしなければ手に入らないのなら、お前の力量だと自殺行為、この城に侵入してはいないだろうね」
「でも、お前は劫殺の間に入り、そして死ぬ事もなく、この間から出る事ができた。それはとても不思議な事なんよなぁ」
「!?」
シブがゆっくりと歩き始めた。しかも、俺の方に向かって。どうして俺の場所がわかる?
「お前はどうにかしてこの階にある消札を手に入れたんよ。だから、お前が向かう所はこの城の外さ。用が済んだんだから、当然の事よなぁ?」
こいつ!適当言って、たまたま当たってるに過ぎないんだ。こんな奴なんかに、動きがわかってたまるかよ。
「もっと先に進んだんか?そよ風の通りが自然だ。それでもここからそう離れてなんかいなんよな。いいさ、もっと行きなよ。そう、私達が襲った村の続き。私は、古球磨族らしくない、誤った行動をした。そこを、私はやり直したいんよ…」
何だって?襲った村の続き…?その村が俺に何の関係がある。誤った行動なんて、知った事じゃない。お前がいい加減だから失敗でもしたんだろ。襲った村の続きをやろうだなんて、どう考えても正気の言葉じゃない。
お前は本当に…、人でなしだ。
シブがゆっくりと俺に近づいてくる。それ以上に俺が歩く速度を早めると、きっと鎧の金属音が鳴る。だからと言って、通路から身をかわすために窓の縁の上に立ったところで、またそよ風がどうのとか言って、俺の場所を特定されそうになるに決まっている。
もうこのまま城の外に出るために通路を歩き続けるしかない。
止まったら終わりだ。
急げ。
でも、音は立てない様に…。
下へ降りる階段に差し掛かった時、下の3階から扉を激しく叩く音が聞こえた。
パルンガだ。また何か気が立っている様だ。
もう俺には関係ない。俺を殺すって言ったんだから。
お前は、そのまま扉に入ったままだ。
入ったまま…。
それとも、シブと2人仲良く戦ったらどうだ?
お前達、殺すのが好きでたまらないだろうから。
「…!!」
俺の後からシブが階段を降りてくる足音が聞こえてくる。少しうめき声が聞こえたから後ろを振り向いてみたら、シブの傷口が以前みたいに深くなり、顔の包帯が鮮血に染まる。
ポタッ。
ポタッ。
「うゔ…」
シブ。血が顔から流れ出て、また包帯が緩み出す。顎に溜まった血の滴が地面にポタポタと落ちて、俺がシブから目を逸らしても、シブの血だらけの顔が頭に浮かんで離れない。痛々しいんだよ、お前。
エズアにやられた傷が致命傷で、それをハムカンデの彫魔法で時間を遡っては進み、それを繰り返して何とか生き延びているんだろう?
俺なら耐えられない。
1日に何回それを繰り返すんだよ。
イヤだ。
とても、耐えられない。
お前は辛抱強いな。
そんなお前が覚悟を決めたなら、その執念は凄まじいだろう。
俺はお前に見つかってはならないんだ。
まだ、俺にはやる事がある。
この世界でじゃない。
こんな世界なんかじゃない。
「ほ…らッ。何処にいる?名無しリョウマ族。わ、私の顔は…恐い、でしょう。キャハハッ。私は古球磨族。恐怖を植え付けて、その価値に磨きがかかるんよ…」
お、お前は完全に女を止めちまったみたいだな。その血塗れで見るに耐えない顔を、恐怖を植えつけるための道具にするとはな。
いかれてやがる。
早く逃げないと。
こんな奴と関わると、寿命が縮まって仕方がねえ。
3階だ。パルンガが扉を叩いたりしているおかげで、シブの気が少し散っているだろう。
それに、まだ時間が遡らずに傷口が塞がっていないため、シブの動きが鈍い。
今のうちにこのまま進んで、さらに2階に降りていこう。
バァンッ!
「ガルルルルッ!」
パルンガ。
唸りながら、扉の小窓に顔を押しつけて外を覗こうとしている。
鼻をヒクヒクさせているのは、もしかして俺の臭いで俺の存在を感じているのか?
残念だけど、俺はお前に殺されねえ。
お前はそこから出られないからだ。
残念だったな。
俺を殺そうなんて、そんな事言ってるからバチが当たったんだ。
「さぁ…。傷口は塞がったよ、名無しリョウマ族。ここからが、本当の勝負だ」
シブ!
ここはやっぱり、パルンガを閉じ込めている扉を開けてシブと戦わせるか?
いや、どういう形で決着がついても、気分のいいもんじゃない。
ここはパルンガにはそのまま扉の中で大人しくしてもらおう。
「ガルルルルアッ!!」
「フフッ。ゼドケフラーの幼獣が。お前達をすぐ様絶滅させてやりたいくらいなんよ。でも、お楽しみは後で取っておくとするよ。もうお前は逃げられない…」
しばらく2人で睨み合いでもしていてくれよ。その間に、俺は先に進むから。
「先約がいる」
「さあ、殺し合いの始まり、始まり…」
「私はお前の村を奪うんだ。そのために、お菓子をくれたり、遊んだりもしたお前を…」
お菓子を?俺はお前に何もあげていない。遊んでいるつもりもない。
何を言ってやがるんだ。
「何の躊躇いもなく、殺す!」
「!?」
「その隠れた姿を晒せ…」
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