とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

sayure

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その248

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「亀裂の入ったはずだがな、その魔闘石ロワは当たりだな。東角猫トーニャの分際で、まともな物を取り付けてもらえたか?」



「何を言っているんだ!?私の魔闘石に嫉妬なんて、お前のはよほど役に立たない魔闘石をつけられたみたいだねえ!古球磨ごくま族の分際で何を偉そうに!憎いよ、憎たらしい!今すぐに殺してあげるよ」



メベヘの目つきが刃物みたいに鋭い。もう相手の様子を見ながら弄ぶ気なんかないんだ。次の攻撃にでもミュルカを殺そうとでもしている。

ミュルカは少し息が上がっている様にも見えたけど、槍の構える仕草を見る限り、まだ闘える感じがする。

ミュルカはこの闘いに勝たないと自由の身にならないのなら、命を賭けてくる。

だけど、メベヘはこの闘いに勝たなくても、特に罰を受けたりはしないんだろう?

その温度差が勝敗に表れる事もあるんじゃないのか?

実際に、ミュルカは今も胸元は青白く光っている。それに対してメベヘは何もない。

歓声はどちらかと言うと、ミュルカの方に上がっている。

歓声の言葉を聞くと、やや勝ちにくいと思われているミュルカの方を応援している感じだ。メベヘは誇闘会ことうかいでは挑戦を受ける側だろうけど、その闘いを勝ち続けて、挑戦者の願いを摘み取ってきたんだろうな。

この周りにいる奴らは、別にどっちが勝ってもおもしろければそれでいい、ただそれだけなのかも知れない。

この街は外と中で大きく世界が隔てられている。

この街の全体を見ているのはハムカンデ。この街には、神仏候エンゲルシスの半身による空からの監視、黒眼こくがん五人衆による街中の監視、オーロフ族と東角猫トーニャ族による家中での主従関係がある。ただ、間違いなく、それぞれが同じ方向を向いていない。

いい加減で、まともに管理なんてできていない。

きっと、こんな街、誰もが息苦しいに決まっている。

そんな普段の鬱憤を晴らす最高の場所として、誇闘会があるんだ。

赤く染まる空の監視は、黒い灯籠の内側にあるこの場所へは手出しできない。

ただひたすら、思うままに闘いに没頭できるっていう場所。

この闘いの決まり事なんて、そんなものハムカンデのさじ加減ひとつだろうし。

どちらかが死ぬまで終わらせない闘いの場になったら。

この場所は冷静に考えると、恐ろしい場所なのかも知れない。



「ケケケ…!」



壇上の端にいるこけし君ちゃんが、人形みたいな無表情顔を無理に口角を押し上げて、不気味な声を漏らして笑おうとしている。気持ち悪い奴だ。その顔面麻痺は治らないのか?

こいつらはオーロフ族じゃない。他所からこの街に来て、ハムカンデに認められたのか?

太鼓六変人たいころくへんじん全員が天守層入りだなんて、よっぽどハムカンデが気に入る様な事をしたんだろうな。

こいつらも要注意だ。

ハムカンデに逆らえば、こいつらが替わりに何か姑息な手を使って仕掛けてきそうだからな。



ガキィィンッ!



「今のは簡単だ。儂の心臓を貫こうとした。お前の目、肩や胸の開き、足のつま先まで、全て何処を狙ったかを教えてくれたぞ。カカカッ!お前にやる心臓はないから、せめて己の胸を開いて、己の心臓を食らうがいいさ…!」



ビュンッ!



ガキィィンッ!



「遅いねえぇっ!その程度のひと振りなんかで、今の私に勝てると思っているなんて。何て憎らしい…!」



「魔闘石の魔力とは無限か?それなら最高の品だが、それは存在せんのだ。儂と渡り合うその力と引き換えに、その魔闘石に溜め込んだ魔力を今はひたすら失い続けているのだ。儂との闘いが長引けば、お前にとってその分、死に近づくだけの事」



そうか。この闘いは魔闘石の限界がきた時点で、力の差が元に戻る。そうなるとやっぱり、メベヘの勝ちか?

ミュルカは攻め急がないと、魔闘石の魔力が尽きてしまう。



「そうかい…!そんなに死にたいのなら、そうさせてやるさ。憎いお前のために、遠慮はいらないねぇえ?」



ダッ!



ダダッ!



ダッ!



速い!?ミュルカが不規則な動きで、メベヘの目を撹乱させようとしている。

魔闘石を使って動きが機敏になっているんだ、この動きは読みずらいんじゃないのか?

ミュルカはここで勝負に出たんだ。

でも、メベヘは動じずどっしりと構えている。

ミュルカの動きが読めているのか?



「カカカッ!少しずつ動きに衰えが見えるな!ならば終わるが良いぞ!?なあ、死ぬか?いっぺん!」



ミュルカはステップを変えて不規則な動きをしながら、メベヘに近づいていく。メベヘが刀を少し傾けて構え直した時に、ミュルカは槍で突こうとする牽制を入れながら、メベヘとの距離をさらにつめる。

ミュルカは少し飛び跳ねて、今度は先ほどよりさらに速い動作でメベヘの体勢を整えてさせない様にして…。



「くらぇえッ!両角佐天一点衝りょうかくさてんいってんしょう!!」



ビジュンッ!!



「!?」



ガキィッ!



「今一度見て思ったが、緩い技だな、これは。またクェタルドを思い出したぞ。実にくだらん奴だった…」



「何ぃいッ!?」



ミュルカの渾身の一撃を、メベヘが振った片手だけの刀で受け止めた!



ギリギリ…ッ。



パキィッ!



「お前はクェタルドの思い入れのためか、槍に愛着でもあるんだろう?ならば、その槍の全てをお前に埋め込んでやろう。カカカッ!儂は、優しいからな?」



パキパキッ!



槍から亀裂音がする?メベヘは槍を刀で受けただけじゃなくて、その槍自体に何かをしているのか?



「何て…力なんだぃ!?槍が、動かない…!」



「そうだ、儂とお前の力量はここまである。だが、儂の本気の力を知らずして他愛のないひと振りで死ぬ無念は、同情に値する。案ずるな、そうならぬ様、これから儂の力をちぃっとだけ見せて、終わらせてやるからなあ?」



「何だ…ってえ!?」



「さあ、終いの技だ。気が触れるほどに、喜ぶが良いぞ」



パキパキパキィッ!!



「鬼乱技、獄門反鏡呪千ごくもんはんきょうじゅせん斬りッ!!!」



パッギィィンッ!!



「!!?」



槍が粉々に砕けた!?



ビビビビビビビビビビビュンッッ!!!



ザクザクザクザクザクザクッ!!



そんなっ!?槍の破片が…!



「ぐわぁあっ!!?」



「カカッ!カカカッ!」



「う…うぐっ!お…ぉ」



ブシューーーーーーーーッ!



バシャバシャバシャッ!



ポタポタ…ッ。



ううっ、気持ち悪い。メベヘが手を少し内側に捻りながら放った豪快な一閃は、ミュルカとの重なっていた槍をバラバラに砕いて、そのたくさんの破片は全てミュルカの体に勢いよく飛び、突き刺さった。

体中に刺さった傷口から、血が噴水みたいに噴き出している。

うう…。ダメだ、もう見ていられない。



「これだ!生温い血が儂の体に降り注ぐ。実に心地良いな…!カカカッ!」


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