とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

sayure

文字の大きさ
409 / 548
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その294

しおりを挟む
俺の体の中で暴れるゼドケフラーの怒り、これはパルンガが吹き矢で打ち込まれた血と同じなんだろう。

ゼドケフラーの血。

平常心じゃいられない。

同じゼドケフラーであるパルンガ。

お前の方が、苦しそうに見えた。だけどそれは、幼獣の体の限界がきていたからでもあるんだよな?

この狂いそうになる怒り、沸き立つ鍋のフタを、跳ね飛ばされない様に必死に抑えながら、戦おうとしてるみたいだ。

気が散る。

俺が聖人みたいな人だったら、念仏でも唱えて心を沈める事もできたのかも知れないけど。



「だぁはっ!!」



小鈴ショウレイは力任せに槍を振ってくる。もう、そんなにお前に余力はないのかも知れない。

お前の魔闘石ロワは、壊れて、明らかに色を失くしている。

もう、そのでかい体に魔力を運んではくれないだろう。



ガキィィンッ!



俺は小鈴の槍の攻撃を、大剣で払い除けた。

今は俺の体の中に、東角猫トーニャ族の力が宿っている。

重い大剣を振るのも、普通の時と比べると、苦にはならない。

動体視力も上がっている。

大剣から伝わる槍の衝撃も、もうそこまで大きくはない。

ゼドケフラーの怒りが俺の邪魔をしても、それでも。

お前との戦いに、決着が着く…。

このままだと、俺はゼドケフラーの怒りのまま、お前を二度と起き上がれなくなるまで、叩き潰す事になる。



もう、メルシィーニの事を気にしてあげられない。

お前がされた事を考えると、ゼドケフラーの怒りで頭の中まで炎で焼きつきそうだ。

ハムカンデのお気に入りのお前を倒せば、きっとハムカンデは頭に血が昇って、俺に何かしてくるだろう。

今、この街で俺に仲間なんていない。

ハムカンデに手を出せば、きっと周りの奴らは俺に攻撃するだろうな。

まるで、ゼドケフラーのエズアがこの街でされたみたいに、この街にいるみんなから攻撃されて、俺は。



「ぅうぉおおっ!」



ガキィィンッ!



俺の大剣は小鈴の槍とかち合い、金属音が響く。

しぶとく槍を持ち続けているんじゃねえよ。

その槍を手放して、負けを認めろ!

そうじゃないと、俺は、



お前を殺しちまう。



それだけの事をお前はやったんだ、死んで当然だ。

だけど、お前に殺された奴が、それを望んでねえんだ。



「こんのぉぉっ!リョウマ族の分際で…!」



リョウマ族…の、分際。



リョウマ族の御影三叉みかげさんまた霧蔵きりぞうがまだこの世に存在していたとしたら、お前が戦って倒せる相手じゃない。

自分の力を過信してるんじゃねえよ。

身も心も、お前は彼と比べたら遥かに劣る。

リョウマ族をバカにするな。



「死ねえっ!リョウマ族ぅ!」



ビュンッ!



小鈴の槍のひと突きも、何の工夫もない突きだ。

もう俺に当たる事はない。

俺は小鈴の攻撃を苦もなくかわし、大剣を水平に構えた。



「リョウマ族が、てめえなんかに…負ける訳ねえだろうが!」



もう、ゼドケフラーの怒りを抑える事はできないんだ。

次元斬を食らって、終わらせてくれ。



次元斬の境界線が、小鈴の心臓の位置をなぞり、伸びていく。

小鈴は、槍の攻撃を俺にかわされて、防御の体制が間に合っていない。



うう…っ!



お前が!



お前が憎いって、ゼドケフラーが言っているんだ!!



お前は、メルシィーニを殺した!



お前は死ぬべきなんだよ!?



なあ…。



もう終わろう。



もう、疲れた。



お前なんかが生きているのを見るのが、つらいんだよ。



だからッ!



死んでくれよ…!?



俺は考える事を止めて、大剣をさらに引き、目の前に見える境界線に合わせて、力一杯に大剣を振る!!



そう。



振ろうとした、その瞬間。



俺の目の前に信じられない事が、起こった。





「!!?」





小鈴の前に…。



薄く見えるその姿。



両手を広げて、庇おうとしてるのか?



メルシィーニ…。



何で…。



お前は、こいつに殺されたんだぞ!?



お前は、もう死んだんだ。



お前の気持ちもわからずに、あいつはお前を殺した。



あいつはもう、お前の母親じゃないんだ!



…それなのに、どうして?



お前はバカだ。



あいつを庇っても、何もないのに…。



…。



本当は。



わかっていたんだ。



…。



ああ、そうだよ。



俺だって…。



母さんが過ちを犯しても…。



誰にも殺させやしねえよ…。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...