とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険！そして婚約破棄はあるのか(仮)

第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その298

学ラン…着てるよな？

あれ？

俺…。

まあこの際、どうでもいいか。



「元気そうな顔をしているな。まあ、いつまでも落ち込んでいても、仕方がないからな。矢倉、頑張れよ」



がんばれよ、か。

先生、よく俺のその顔を見てみろよ。

元気そうな顔じゃないんだぜ？

力が入らずに背中を丸めて、ただ愛想笑いして先生を遠ざけようと、口角を少し上げてみせただけだ。

目が死んでるじゃないか。

がんばれよ、だなんて適当な事を言っていれば教師ヅラできるとでも思ってんのかよ。

教師だけにはなりたくない…。

だけど、あの時の俺、こうして見ると。

教室の中で悪い気を発してるのがよくわかるぜ。

だから。

ほら、俺の周りには誰も近寄っていないだろ？

これは中3の時だよな？

まだ、この時は父さんは家を出ていっていない…はずだ。

こんな死んだ様な顔してるくせにさ。

俺、県でそれなりの高校に合格したんだぜ？

勉強、がんばったんだよ。

こんな俺がさ。

奇跡は起こせるんだって、勝手に思ったんだ。

合格なんかしても、

誰も喜んでくれなかったけどさ。

客観的に自分の姿を見てみると、何だか恥ずかしいな。

もっと元気出せよ、とか。

未来はいい様になるさ、とか。

曖昧な言葉をかけてくれる奴らはいたけどな。

何も心には届きはしねえ。

別にいいんだ。

俺の人生はそんなもんだ。

そんなもんなんだよ。



今、誰かが俺に話しかけたよな。

中3の俺にじゃなくて、今の俺に…。

誰にもこの姿が見えていないはずなのにな。

わかってるよ。

どうせ、この世界の死神か何かなんだよな。

俺が本当に死ぬ前に、自分と向き合えって言いたいんだろ？

ああ、そうだよな。

ゼドケフラーの怒りに振り回されていたまま、メベヘには勝てない。

メベヘは、剣豪だろう。

片腕しかなくても、そのひと振りは洗練されている。

どのタイミングかで、俺は斬られる。

例え、俺の体に東角猫トーニャの力が宿されていたとしても。

何となく、感じるんだ。

俺の中にいる東角猫族が、俺に力を宿してはいても、何処か遠くで俺の事、じっと窺っている。

こいつは、本当に信じてもいい奴なのか、ってさ。

そうさ、俺は大した奴じゃない。

そう。

どうでもいいんだよ。

それが俺の人生だ。

でも、もう一度人生をやり直させてくれて、ありがとうな。

少しの間だったけど、悪くないって、そう思えたよ。

俺が俺でいるための人生？

そんな難しい事でもないさ。

さあ、もうしばらくしたら、またあの誇闘会ことうかいに戻されそうだ。

それまで、しばらく自分のいじけた姿でも眺めていよう。

わかってるさ。

自分の事なんだからさ。

お前の気持ちは、俺自身がよくわかっているよ。

だから、せめて今は俺がずっと見ていてやるよ。

もう、何をしていれば良かったとか、そんな事を考えるのは止めよう。

すでに遅かった。

もう何もかも手遅れだったんだ。

今さら、何をやろうとしても…意味がない。



そうだ。

俺が死んだらさ、シブ。

お前の好きなお菓子でも作ってやろうか？

お前も死んで、もう暇だろ？

いや、お前は暇じゃないか…。

きっと、お前はハクマを探しにいく。

見つけても、そっとしておいてやれよ。

きっと、お前の気持ちは汲んでもらえない。



別に、孤独も悪くはないさ…。



イヤな自分が見えなくなっていくんだから。