とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その319

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ヒュゥゥウウンッ…!!



…!?



…。















「…ぐっ…はぁあっ!」



ガチャッ!



「カカカッ!」



「…片膝をついたな、小僧」



「それだけの血を吐いては、何処ぞを漂う死神も、さすがにお前を見つけ出す事だろうな」



「儂は血の匂いが好きだ。それは、生き死にの狭間にいる、快感の極みとも言える」



「相手が絶望し、青褪めた表情をした顔を覗くのが堪らんのは、儂が完璧に相手を凌駕したと自負できるからだ」



「この血の匂いは、わかるぞ?これは、明らかな死を意味する。カカカッ」



もう、手の感覚もなくなった。

手にまだ剣が残っているのか、それとも落としてしまったのか、わからない。

さっきの次元斬では終わらなかった、という事、か。

あいつは立ち続け、しっかりしゃべっている。

それなら、負けたのは…俺?



もう、これ以上は。



首や目を動かしたりする事すら、難しい。体がまるでヒビだらけの花瓶にでもなったみたいだ。

もう、限界を超えたんだ。

俺は今、どんな表情をしている?

少しは満足そうな顔をしているのか、それとも、迫る死というものに怯えているのか…。

でも、やれる事はやったんだ。

これ以上は、何も望めない。

でも、少しは自分を取り戻す事ができたか?

俺は、俺だ。

少なくとも、命乞いなんかせずに、やり切っただろう?

そう。

悪くはない…。





「小僧…。儂は前にお前と戦った時に、ちいっと、驕りが過ぎた故、刀を落とす醜態を晒した」



「その代償が、片腕だったが…」



「更なる力を得たこの腕を以って、お前に…儂の本気のひと振りを、見せてやったわ」



「それなのにだ、小僧…」



「お前、が…」



…。



「ぐぶぁっ…!」



「!?」



ポタッ…!



ポタタッ…!



「この儂の…上を、行った」



「片手で、あの速さで、その大剣を操る、とはな…」



「ぐはっ!」



「どうやら、命…取りになった…」



「先程、矢倉…郁人と、名乗ったな?」



「カカカッ…」




「ひと足先に…地獄で、待っている…ぞ」



「そこで、もう…ひと勝負…」



ザザンッ!



ガシャンッ!



「か、は…っ」



バタァンッ…。



「メベヘ…」



体が凍える様に寒くなってきた。

出血が止まらない。

自分が重傷なのは、明らかだ。

俺もまた、ここまでか…。



…。



周りが、ざわついている。

不安や怒り、そして歓声も混じっている。

もう、どうにもならない…。

ハムカンデは、どうなったんだろうな。

この街に、他の誰が上に立とうとも、もう破滅だろう。

ハムカンデが支配しても、睨みを効かせられる古球磨ごくま族は、多分、もう側にいない。

オーロフ族にだって…。

シブやゲルが、力のある、オーロフ族達を殺してた様な気がするから、もう、黒眼こくがん五人衆の代わりなんか、いないんじゃないのか…。

東角猫トーニャ族も、弱くはない。

きっと、大きな争いが始まる。

もう、元の街に帰れ…。

オーロフ族も、東角猫族も、それぞれが住んでいた場所へ、帰れよ。

お前達は帰れるだろう?

俺は…。

もう。

帰れないけどな。



「!?」



ゾクッ…!



何だ、この感じは…?



すごく、イヤな予感が…する。



俺から少し離れた場所で倒れている、はずの…メベヘから、か?

いや、倒れたまま…。

何だろう、このイヤな感じは。






ザッ!






「??」



まさか…?

倒れたはずのメベヘが、何事もなく、起き上がった?

そんな、バカな。

まだそんな余力を残していたなんて…。








「この体は、ようやく私のものとナッタ…」





「!!?」





「この体は隅々まで私ノ根を生やし、取り変ワルのも、時間の問題ダッタ。しかし、もう一つの、私用の心臓を生成してオイテ、正解だったナ」





「…まさ、か?」





「狭い魔闘石ロワの中でずっと顔を埋メテいるのも、モウ終ワリ。お前はワワ、私の存在を見抜いている様なところがあったガ、何ノ問題モない…」





やっぱり、魔闘石は、魔族の卵みたいなもんだったか。

オーロフ族の、バカ共…が。

はめられやがって。




「この体を試してミタイ。死に損ないダロウが、戦ってモラウゾ?顔の形は、些か変形もしたが、むしろイ、イ…イイ顔に変わったノダ。メベヘも喜んでイルダロウなぁ」





「この私ガ誕生した祝いとシテ、名前を付けようか?ソウダ!お前の技の名前から貰ってやる。夜叉やしゃ、それはイィィよナァアあ?」



こいつはメベヘよりタチが悪そうだ…。

でも、俺はもう何も、できねえ。



「お前を倒シテ、魔力をモラウ。そして、魔闘石をはずしタ屑共モ、動けないホドにまで切り刻ンデ、魔力をモラウ」



「我が魔族、デルアーガがこの星ヲ支配する事ハ、時間の問題ダ…」



どうして、次々と…悪い奴らが出てきやがる…。

誰が生き残っても、この星は…滅びる運命、なのかもな。



「今にも死にソウダナ。そのまま動けなくテモ、イイ。試し斬りを、するダケノ事ダ」



俺の目が焼けそうなほど、真っ赤に燃えている

口から流す血が、炎だったら、お前に吹きかけてやった…だろうな。

バカ…にしやがって。



「この刀ハ、斬りやすソウダ。デハ、いくゾ」



そんなもんを、取りつける、から。

こ、心まで、支配されて。



「ぐはぁっ!」



ポタタッ…!



自分の娘も、わかんなく…なっちまうんだ。

何だか、てめえが、元凶に…思えてきたぜ。



ぐぐぐっ…!



もう、何度も…立ち上がれねえって、思ってた、のに。



「ぐぅう…ッ!」



不思議と、てめえみたいな、胸くそ悪い奴、見る度に…。

急かされるんだよ。



早く立て…。



早く立てって、よ。



「お、俺はよ…」



グギギッ…!



数秒後には死んでるかも、知れねえ…けど。



この、一秒一秒に…。



「まだ、死んでねえ…ぞ」



グググッ!



「がはっ!」



まだ、この一秒、生きられる…なら。



「ぉぉ…お!」



「戦ってクレルノカ?」



おお…よ。

死ぬのなら、前のめりで…死んでやる。



矢倉郁人を、舐めるんじゃねえ、よ!









「何だ、あのリョウマ族…」



「やっぱり、リョウマ族には不思議な魂が宿るというのは本当だったのか?」



「あのリョウマ族は、ゼドケフラーの幼獣と小鈴ショウレイとの連戦の後に、黒眼こくがん五人衆のメベヘと戦ってんだぞ…?」



「化け物だ、リョウマ族は」



「…当然だ。だけどあいつはリョウマ族なんかじゃねえ」



「死ぬ間際のくせしやがって、何処にあんな根性見せるリョウマ族がいるかよ…」
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