とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その334

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そう、あの時。

記憶の景色で、東角猫トーニャ族の街にある屋敷の中、本当はそこにいるはずのない俺なのに。

その俺に気づいて、目を向けた東角猫族がいた。

あり得るはずがないと、不思議に思っていた。

でも、俺に視線を向ける事ができた理由がわかった気がする。

あの東角猫族が、俺に力を宿してくれたアンタの姿、記憶の景色を俺に見せた張本人…。



アンタが、あのクェタルド…か?



この星は同族でも、いがみ合う事が多いのに、東角猫族の中でも、一目置かれる存在で、成獣のゼドケフラー数人を一度に相手にできるほどの強さを持っている。



そして、この街で殺されたゼドケフラーにとても縁の深い人。



あの血の正体は、やっぱりそうだ。

俺が撃たれた吹き矢に塗られた、怒りに狂わされた、呪いとも感じる血。

その血の持ち主は、俺の中で力を宿してくれたアンタ、クェタルドとの関係を何度も感じさせた。

そう、この血は、まさにこの街で殺された獣の血。



エズアのものだ。



パルンガが憧れた、ゼドケフラーの神獣。



屋敷の外にある高木の枝に座り、視線を俺に向ける事ができた存在。

エズア。



エズアは、星の崩壊で衰弱して死ぬ寸前だったクェタルドを救うために、ハムカンデに従った。

全ては、何でも望みの叶う夢魔操エイジアを手に入れるために。

その夢魔操は、俺にとっても必要なものだった。エズアが嘘をつかれて、手に入れられなかったものだ。

夢魔操は偽物…。


エズアは信じてハムカンデに従って、大きな戦いに巻き込まれながらも、この場所まで来たんだ。

神獣と呼ばれた奴が、納得のいかない戦いに駆り出されたって事は、予想がつく。

信念を曲げてまで、救おうって…。

エズアにとって、クェタルドはそれほど、とても大切な仲間だったんだ。


それなのに、夢魔操は手に入らず、ハムカンデや、天守層にいた奴ら、そして、この下町にいた奴らに襲われ、殺された。

この場所について来なければ、少なくとも、エズアは惨めな思いをして死ぬ事はなかったのに。



…ただ、エズアは約束をしたからだ。


クェタルドが俺に見せてくれていた記憶の景色、ゼドケフラー達とクェタルドが戦う場面。

戦いの途中から景色に変な波紋が入って、偽りの結果を俺に見せた。

その後、誇闘会に戻ってからのメベヘとの戦いで、俺の中にいた幼獣のエズアは、力を貸してくれたな。

クェタルドが俺に期待をしているのを感じ、その事に苛立ったんだろう。

クェタルドが、俺じゃなく、本当はお前に期待して、頼って欲しかったんだな。

それは全て、あの場面が物語っている。

2人とも大人になって再会したあの時、クェタルドとエズアが交わした、再び繋いだ絆とも言うべき、約束。



2人の強い力を俺は使う機会があったのに、俺はそれをうまく活かす事ができなかった。



俺は、その程度の男だった。



それでも、ここまでやれたのは、2人のおかげだ。



俺がここから現実に戻された時、もう死ぬ事になるのは、もうわかっているんだ。



でも、最後に、俺の望んでいた真実を見る事ができた。

人と獣、子供の頃に仲のこじれた2人が大人になって再会して、違う種族でも、また手を取り合う事があるんだ。

この星では、あまりあり得ない事なんだろ?

こんな、最高な事はないよな…。



少し、心が救われた気がした。



俺とパルンガも、同じ様にできたら、どんなに良かった事か…。



俺の中で、2人は、少しでも心を通わす事ができたのかな。

正直、まだお互いにはっきりと気づいていない気がする。

それは、もう仕方がない事なのかも知れない。

2人とも、今はもう生きていない…。

それでも、いつか、別の場所で、また再会する世界があるといいな。



俺はもう行くよ。



俺は、最後の戦いがある。



そう…。



力をもらった。

ありがとう…。








…。








…。








景色が見えてきた…。








誇闘会ことうかいの舞台だ。



心臓が高鳴る。

そして、それに合わせて、傷口が破裂する様に痛い。

傷が甦る…。



「がはっ…!」



ボタタ…ッ!



ボタッ!



そうだ、こういう状況、だ。

魔闘石の男が、メベヘの死体を乗っ取って、俺に近づいて…いる。



おお…、よ。



来いよ。



ズズ…ッ。



ガタッ!



膝が笑ってやがる。



それでも、俺は。



前に…。



前に、足を進め、ろ。





「!?」







ガシャンッ…。





もう、手も限界みたいだ…。



剣は、俺の手の指一本にすら、引っ掛かってくれねえ…。



俺の傷は、もう生きる事を、許してくれない。



だけど、この戦いは…。



この戦いは、勝ちてえ。



俺の戦う相手は、俺に迫ってくる、夜叉って、名乗りやがった魔闘石の、男じゃねえ、さ。



そう。



今の俺の敵は…。



この俺自身の心の弱さ、だ。



それが、今の俺の…敵。



一秒でも生きているなら、お前に向かっていって、やる。



《冬枯れの牙》ラグリェの、時みたいに、もう…命乞い、で。



名前を、なくさねえ…。



お、俺は。



矢倉郁人やぐらいくとだ。



や、ぐ…ら。



いく、と。



俺は…。



母さん、



と、父さん…。



矢倉、郁人だよ…。



俺は…。



そうだよな?






ザッ!





前に…。




進め…。



一歩、一歩、足を前に押し出して、進んで…行け!





…。





「いイ度胸だ、リョウマ族。お前が動けるのナラ、この体ヲどの様に試すか、考えモノだナ?」



見えない、圧力を感じる…。



こいつ、きっと…強い、んだ。



…。



弱く、ならないで。



もう、負けたくない…。



「がはぁっ…!」



バシャッ…!



ポタタッ…。



ポタッ!



もう、自分に、負けたくない。



…。



ない…。





ズズ…。





ズ…。





ボタタッ…!



ボタ…。



「お前の、頭から、真っ二つにするノモ、イイなぁア。リョウマ族!」



お…。



お。



「ははハハはぁあハッ!」



俺…。



「俺は」










「…」





「矢倉…」





ザッ…!





俺の名前は、矢倉…。





「郁人だ…」





ザッ!





ガチャッ!




…。





よくやった、死ぬ寸前まで、俺は。





…。






よく、やった…。






血溜まりの中に浮かんだ、俺の顔…。






こんな、悲しい顔じゃない。






そうさ…。





最後は、笑って…。





笑って…い…。






こう、ぜ。
















ガシャッ!!

















バタ…ッ。













…。














…。

















「クはハハ…」



「力尽きタか、リョウマ族」




「では、その体、いくら斬り刻んでも、惜しくはない…ナ」



「このメベヘの体が、魔族である私にうまく適合出来るカ、試させてモラオウ…」




「ククク…」




「ククク…」





「ク…」





「何だ…?」











「ここまで戦ったあのリョウマ族も、ここまでの様だね。さあ、行くなら今しかないよ。アンタらは死んでも、元々、価値がない様だから、ここに残るといいさ…!」



「ここで逃げて、ハムカンデが黒眼こくがん五人衆に殺されなかったら、逃げた私達、東角猫族が殺されるんだよ!?」



「あのリョウマ族も、やられちまったじゃないか。あの残忍な種族、古球磨ごくま族は、きっとハムカンデを殺す。ここに残ったら、ハムカンデよりも酷い決まり事を作るに違いないよ!逃げるしかない!」



「私は逃げるよ?こんな街に残って何があるのさ。私はまだ東角猫族の誇りをなくしたつもりはないんだからねぇ?」



「…?」



「倒れたあのリョウマ族。本当に、死んだの?」



「生きていて欲しかったのかい?あいつは、頭がイカれたとは言え、東角猫族の小鈴ショウレイを倒したんだ。次は、私達を殺していたのかも知れないよ」



「そうだったのかな…?何か途中から戦い方を変えていた様な気もしたけど。しかも、殺したのはメベヘだよ」



「敵討ちしたいのなら、行ってきな!東角猫族の面汚しが!アンタに東角猫族を名乗る資格はないよ!」



「待って…!あいつ、何か変だよ?」



「そうさ、リョウマ族は、変なのさ。もういいかい?死体の話にこれ以上、盛り上がっても仕方がないからねぇ?」



「何だか…」



「あいつから、懐かしいものを感じるんだよ…」



「アンタが昔、リョウマ族だったからじゃないのかい?大変だねえ、種族を変えてさ」



「そんな訳がないでしょう!?」



「私も街を出るわ!」






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