481 / 548
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その356裏
しおりを挟む
この僕を目の前にして、背を向けた。
この上なく愚弄するお前は、あの…。
反吐の出る矢倉郁人と、同じ。
お前は命が惜しくはないのか?
無防備な背を向け、お前が向かう先にお前の…。
ゼドケフラー。
いつかそのゼドケフラーがお前の身に牙を向く事もあるだろう。
同族でさえ、争い、死に至らしめる事もあるのだから。
この先、利用価値があるから、救おうと思うのだろうか。
だが、自分が死んでしまっては何の意味もない。
お前は、あの矢倉郁人をも越える愚か者か?
そんなに死が欲しいのなら、くれてやる!
矢倉郁人がその様な甘い考えを浸透させて、本来生き残るはずの者が散っていった。
サイクロスは死ぬはずがなかった。
あいつは…。
あいつが、いたから。
僕は。
ビュゥウッ!
ザシュッ!!
吐き気のする思想ごと、あの世に持っていけ!
僕は、お前に勝った。
サイクロスの様に僕を殺しにきた悪魔め、これでお前の様な奴も現れまい!
毒を盛ろうとしたお前が、その毒によって死に至るのだ。
さあ、もがき苦しみ、死んでいくがいい。
「!?」
バカな、確実に僕の一撃を背に食らったはずなのに…。
お前は、何を。
それならば、いま一度、即死の斬撃を食らわしてやる!
食らえっ!
「…!!?」
矢倉郁人擬きの背に絶死の一撃をと接近した時、ゲルの顔が視界に大きく映る。
この目は、まだ灰色に染まったまま。
ゲルが鬼眼を使って、ゼドケフラーを斬ろうと息を吐いた瞬間だった。
その鬼眼は、古球磨族の血に流れる、妖悪鬼の力の源。
その鬼眼に、この目が、反応した。
殺せ…。
我ら灰葬楼族は、屈辱を受け、滅びた。
妖悪鬼の血と混じり、いつしか古球磨族と呼ばれ、それに従い、新たな種族として長らく生き延びてきた。
まさに生き地獄…。
気づけば、刀の切っ先は、矢倉郁人擬きではなく、ゲルに向けられていた。
灰壊呪斬。
相対して見極めれば、まともに受けはしない。
だが、一度食らえば、如何なる回復も間に合わず、細胞は次々と壊死し、死に向かう。
不意打ちの呪毒の一撃。
「…ゲルッ!」
僕もまた、サイクロスの様に。
あの矢倉郁人の毒にやられ、不甲斐ない弱き心に化かされた。
戦いを捨て、相手を見失い、僕の刃を受けて沈むゲルの元へ駆けた。
情けない。
何たる愚か者。
しかし、古球磨族は、残るは僕とゲルの2人。
もう、他に誰も生きてはいまい。
《冬枯れの牙》との抗争に破れた…。
「ゲル…!」
「ははは…、すまんなぁ。お前はまだ灰色の目のままじゃったなぁ」
「有り得ぬ失態をした…」
ゲルの肌は血色を失い、急速に死に向かっている。僕に凭れ掛かり、力が入らない状態。
もう…。
僕には。
「妹のハクナが呼んでいる。あいつは、淋しがりやだから、な…。早く、あいつの所に行ってやらないと、そう思っていたところだ…」
「ゲルッ!」
「俺は、もう助からん…」
「メカリエ…」
「古球磨を捨てろ…」
ゲルは俺の目を見て、小さく頷いて、少し笑った。
バカな事を。
「お前は死ぬな、メカリエ」
「昔話だ。俺達の血に混じる、妖悪鬼と灰葬楼族の関係…」
「灰葬楼族が、まさに今、妖悪鬼を討ち、復讐を…遂げた、か」
「!?」
「サイクロスが死んで、悲しかったろうが、古球磨族の看板が邪魔して、素直になれん…かっ、たな?」
「あいつは自業自得だ。サイクロスは、強者にはなれなかったのだ。古球磨族に相応しくない最期を迎えた」
「はは…。それでも、あいつは、賢い奴じゃった。お前も、気づいていたろうが。本当は、あいつも…灰葬ノ眼が使える…事を」
「!!」
「灰葬楼族の血の濃いお前とサイクロス…」
「その血に眠る、灰葬楼族の一面が、同じその血の色の濃かったサイクロスの死を…ずっと、嘆いていた…」
「サイクロスは、灰葬楼族の…血が濃い事を隠し、あいつは…」
「仲間のために戦っていた」
「そうは見えない様にしている、つもり…だったろうが、俺にはわかっていた」
「元々、あいつは古球磨族にしては、優しかったんじゃあ…」
そんな…。
あいつは、サイクロスは。
「…俺はもう死ぬ。だから、、、」
「俺と、妹の…ハクナ。シブ達のために、灰葬楼族の鎮魂歌を」
「最期に、安らぎっていう…ものが、欲しくなっ…た」
「…メ、カ…リエ」
「…」
僕の血に眠る灰葬楼族の意識が、僕の心に訴えかける。
そうだ、僕は鎮魂歌を知っている。
でも、最悪最強の古球磨族の誇り、決して失う訳にはいかない。
僕達は、その道を多くの屍を乗り越えて進んで来たのだから。
今さら変えるつもりなどない。
僕の頬に伝うものが落ち、ゲルの頬に落ちると、ゲルの目はそれに呼応するかの様に、目の色を灰色に変えていった。
この上なく愚弄するお前は、あの…。
反吐の出る矢倉郁人と、同じ。
お前は命が惜しくはないのか?
無防備な背を向け、お前が向かう先にお前の…。
ゼドケフラー。
いつかそのゼドケフラーがお前の身に牙を向く事もあるだろう。
同族でさえ、争い、死に至らしめる事もあるのだから。
この先、利用価値があるから、救おうと思うのだろうか。
だが、自分が死んでしまっては何の意味もない。
お前は、あの矢倉郁人をも越える愚か者か?
そんなに死が欲しいのなら、くれてやる!
矢倉郁人がその様な甘い考えを浸透させて、本来生き残るはずの者が散っていった。
サイクロスは死ぬはずがなかった。
あいつは…。
あいつが、いたから。
僕は。
ビュゥウッ!
ザシュッ!!
吐き気のする思想ごと、あの世に持っていけ!
僕は、お前に勝った。
サイクロスの様に僕を殺しにきた悪魔め、これでお前の様な奴も現れまい!
毒を盛ろうとしたお前が、その毒によって死に至るのだ。
さあ、もがき苦しみ、死んでいくがいい。
「!?」
バカな、確実に僕の一撃を背に食らったはずなのに…。
お前は、何を。
それならば、いま一度、即死の斬撃を食らわしてやる!
食らえっ!
「…!!?」
矢倉郁人擬きの背に絶死の一撃をと接近した時、ゲルの顔が視界に大きく映る。
この目は、まだ灰色に染まったまま。
ゲルが鬼眼を使って、ゼドケフラーを斬ろうと息を吐いた瞬間だった。
その鬼眼は、古球磨族の血に流れる、妖悪鬼の力の源。
その鬼眼に、この目が、反応した。
殺せ…。
我ら灰葬楼族は、屈辱を受け、滅びた。
妖悪鬼の血と混じり、いつしか古球磨族と呼ばれ、それに従い、新たな種族として長らく生き延びてきた。
まさに生き地獄…。
気づけば、刀の切っ先は、矢倉郁人擬きではなく、ゲルに向けられていた。
灰壊呪斬。
相対して見極めれば、まともに受けはしない。
だが、一度食らえば、如何なる回復も間に合わず、細胞は次々と壊死し、死に向かう。
不意打ちの呪毒の一撃。
「…ゲルッ!」
僕もまた、サイクロスの様に。
あの矢倉郁人の毒にやられ、不甲斐ない弱き心に化かされた。
戦いを捨て、相手を見失い、僕の刃を受けて沈むゲルの元へ駆けた。
情けない。
何たる愚か者。
しかし、古球磨族は、残るは僕とゲルの2人。
もう、他に誰も生きてはいまい。
《冬枯れの牙》との抗争に破れた…。
「ゲル…!」
「ははは…、すまんなぁ。お前はまだ灰色の目のままじゃったなぁ」
「有り得ぬ失態をした…」
ゲルの肌は血色を失い、急速に死に向かっている。僕に凭れ掛かり、力が入らない状態。
もう…。
僕には。
「妹のハクナが呼んでいる。あいつは、淋しがりやだから、な…。早く、あいつの所に行ってやらないと、そう思っていたところだ…」
「ゲルッ!」
「俺は、もう助からん…」
「メカリエ…」
「古球磨を捨てろ…」
ゲルは俺の目を見て、小さく頷いて、少し笑った。
バカな事を。
「お前は死ぬな、メカリエ」
「昔話だ。俺達の血に混じる、妖悪鬼と灰葬楼族の関係…」
「灰葬楼族が、まさに今、妖悪鬼を討ち、復讐を…遂げた、か」
「!?」
「サイクロスが死んで、悲しかったろうが、古球磨族の看板が邪魔して、素直になれん…かっ、たな?」
「あいつは自業自得だ。サイクロスは、強者にはなれなかったのだ。古球磨族に相応しくない最期を迎えた」
「はは…。それでも、あいつは、賢い奴じゃった。お前も、気づいていたろうが。本当は、あいつも…灰葬ノ眼が使える…事を」
「!!」
「灰葬楼族の血の濃いお前とサイクロス…」
「その血に眠る、灰葬楼族の一面が、同じその血の色の濃かったサイクロスの死を…ずっと、嘆いていた…」
「サイクロスは、灰葬楼族の…血が濃い事を隠し、あいつは…」
「仲間のために戦っていた」
「そうは見えない様にしている、つもり…だったろうが、俺にはわかっていた」
「元々、あいつは古球磨族にしては、優しかったんじゃあ…」
そんな…。
あいつは、サイクロスは。
「…俺はもう死ぬ。だから、、、」
「俺と、妹の…ハクナ。シブ達のために、灰葬楼族の鎮魂歌を」
「最期に、安らぎっていう…ものが、欲しくなっ…た」
「…メ、カ…リエ」
「…」
僕の血に眠る灰葬楼族の意識が、僕の心に訴えかける。
そうだ、僕は鎮魂歌を知っている。
でも、最悪最強の古球磨族の誇り、決して失う訳にはいかない。
僕達は、その道を多くの屍を乗り越えて進んで来たのだから。
今さら変えるつもりなどない。
僕の頬に伝うものが落ち、ゲルの頬に落ちると、ゲルの目はそれに呼応するかの様に、目の色を灰色に変えていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
社畜をクビになった俺のスキルは「根回し」だけど、異世界では世界最強の裏方でした
cotonoha garden
ファンタジー
派手な攻撃魔法も、伝説級のチートもない。
社畜生活で身につけたのは、会議前の根回しと、空気を読みながら人と人をつなぐ段取り力――そして異世界で手に入れたスキルもまた、「根回し」だけだった。
『社畜の俺がもらったスキルは「根回し」だけど、なぜか世界最強らしい』は、
・追放・異世界転移ものが好き
・けれどただのざまぁで終わる話では物足りない
・裏方の仕事や調整役のしんどさに心当たりがある
そんな読者に向けた、“裏方最強”系ファンタジーです。
主人公は最初から最強ではありません。
「自分なんて代わりがきく」と思い込み、表舞台に立つ勇気を持てないままクビになった男が、異世界で「人と人をつなぐこと」の価値に向き合い、自分の仕事と存在を肯定していく物語です。
ギルド、ステータス、各国の思惑――テンプレ的な異世界要素の裏側で、
一言の声かけや、さりげない段取りが誰かの人生と戦争の行方を変えていく。
最後には、主人公が「もう誰かの歯車ではなく、自分で選んだ居場所」に立つ姿を、少しじんわりしながら見届けられるはずです。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる