とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

sayure

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その370裏

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一時的なものとは言え、予期せぬ機会を得た。

何かを解放させるかの様に、緩やかな息が口から溢れていく。

ああ…。

吐息が懐かしい。

指先まで感覚が研ぎ澄まされている。人差し指を少し回せば、魔法の粉が弾けるほどに。

先ほどの目覚めの時よりも、この体が妙に馴染んでいる。

きっと、彼が自分を顧みず、魔眼を使用して懸命に戦ったおかげもあるのかも知れない。

この体は、より東角猫トーニャ族の、このクェタルドの体に近づいたのだ。

しかし、俺にはもう残された時間はそう多くはないだろう。

それでも、また少しだけ俺という存在をこの世に繋ぎ、この様に生命の息吹を得た幸運に感謝したい。

高みから俺に影を作り、威圧をかけている死蛇デネク

遥か遠い昔に、エズアと共に倒した死蛇が、再び目の前に。

3匹いた死蛇の内、2匹を倒したのは実に見事だ。

矢倉郁人やぐらいくと

ハムカンデは執念深く、野心が強い事は前々から感じていたが、今はそれが仇となり、身を破滅させる道を辿っている。

この地にオーロフ族と東角猫族を引き連れ、新天地としたまでが限界だった。

真の指導者とは成り得ない存在。

そして、それを知りながらも、背を押し、オーロフ族の要求に従わせ、この北方まで同族の者達を同行させたのは、他の誰でもない。

この俺だ。

オーロフ族の中でも頭の回るハムカンデとホルケンダ、そして《冬枯れの牙》の標的となった古球磨ごくま族という危険な存在を、東角猫族の集落から追い出す機会を逃す訳にはいかなかった。

その結果、みんなには辛い思いをさせてしまった。

そして、自らの意思でその列に同行したエズアもまた、犠牲に。

俺が星の崩壊で宇宙に投げ出されなければ、もっと長く生きてさえいれば、きっと状況は全く違うものとなっていたに違いない。

それでも、俺は決断して行動に移した。

こう言ってしまえば、多くの者達から恨まれる事になるだろう。

俺は、一度決断したなら、後悔はしない。

この地に向かった多くの東角猫族を犠牲にしたとしても。

俺達の故郷にいる多くの東角猫族はオーロフ族の支配が崩れ、主従関係も形骸化し、徐々に平穏な生活に戻りつつある。

だから…。

俺は後悔をしていない。



「お前は、どんなに時が過ぎても、変わらないでいてくれたな…」



「エズア…か?」



「俺は、ここで終わったのだ。この街で…」



そう、お前はここで死んだんだ…。

お前がいれば、俺は例え地獄の底にいようと、這い出て、勇ましく戦う事ができた。

お前となら、何処までも戦えた。

お前が、俺を支えてくれた。



「ああ、エズア…」



「この私もまた、長くは現世に留まる事はできないだろう。ただ、またお前に出会えたのなら、悪くない奇跡だな…」



「そう…」



「悪くない、素晴らしい奇跡だ」



「この世に繋がる今こそ、その体の持ち主に、お前の意思を伝えたか?エズア」



「ああ。きっと、パルンガなら、この私の意思を継いでくれる事だろう」



「次世代を担うのは、この者達なのかも知れないな」



「そのためにも、やるか?クェタルドよ」



「ああ。この俺が。俺達が…」



「ハムカンデまでの道のりを開いてやろう…」



この特殊な霊力の備わった大剣を媒体として、我が愛槍である孔雀天成槍くじゃてんせいそうよ、今一度、力を貸してくれ。



ギギギギ…。



ザザザザザ…。



…。



ブー・・・ンッ。



「シャーーーーッ!」



俺が死蛇から目を離したこの隙を、絶好の機会だと判断した様だな。

だが、死蛇よ。

お前は最悪のタイミングで飛び込もうとしている。

この孔雀天成槍を手にした、この瞬間を狙ったお前は。

地獄へ舞い戻る事になる。




「死蛇よ、お前の脆弱な箇所は見切っているぞ!?」



ダッ!!



死蛇の動きの俊敏性は高いものと言えるのかも知れないが、俊敏性は東角猫族の特性でもある。

特に、俺の様に空を蹴り、動きを即座に変えられる者を相手にしては、お前もそう簡単に太刀打ちできまい!



「お前の弱点は、ここだぁッ!」



くらえっ、この孔雀天成槍による超高電圧の雨矢…。

貫けぇえッ!



紫龍乱殺衝しりゅうらんさつしょう!!」



ズザザザザザザザザンッ!!!



「ギ…シャーーーーッッ!!」



死蛇の頭頂板は弾力性もなく、耐久力も他の部位よりも低い。

幾多の槍の雨矢が、死蛇の頭頂板を貫き、体内に高電圧を流すと、死蛇の体は内側から破裂し、血肉がバラバラに吹き飛んだ。

もう、残された時間は費えようとしている。

辿り着けるのか?



「乗れ、クェタルド!!」



エズアが四つ脚の獣形に変形した。

かつて躍動した俺とエズアの一騎当千の形。



魔闘石ロワの暴走で変異したオーロフ族と東角猫族が襲ってくる!?クェタルド、この者達はどうするのだ!?」



得体の知れない魔闘石を装着したなれの果てが、あれか。

発している魔力は、もう俺の知っているオーロフ族、東角猫族じゃない。

何か別の者に乗っ取られている。



「魔闘石は、魔族が姿を変えたものだ。クェタルドよ、あの様な変貌ぶりでは…」



「いくぞ!エズアッ!!」



俺は決断した!



矢倉郁人とパルンガを、ハムカンデとの戦いの舞台にまで持っていく。



そのためには、その行手を遮る者がオーロフ族だろうと、東角猫族だろうと…。



躊躇いはしない!
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