6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

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6桁の数字と幻影ビルの金塊

048 だって化け猫だもん

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 ジョーの背中が黒い影になって、炎のなかに消えていく。
 その後ろ姿を見つめるだけだったぼくの視界が、ぐにゃりと歪んだ。

 まるで溶けていくように、ぼくの視線がどんどん低くなっていく。

「ミッケ……。なんで、いま……?」

 ぼくの視線に反比例するように、美玲ちゃんの体が大きくなっていく。
 困惑した表情で、ぼくを見下ろしていた。

 慌ててぼくは、自分の手を見つめた。

「げっ、ほんとになんでいま……?」

 ぼくの手が、まんまるいネコの手に戻っていたんだ。
 チャーシューは怖ろしいものを見たような目つきで、美玲ちゃんを見ている。

「黒崎はん、悲しいのはわかるが気を確かに持つんや。あんた、床に話しかけとるで……」

 化け猫のときの姿は、チャーシューには見えないんだ。

「違う、床と話してない。だめ、待って……。色々混乱してて説明できない……」

「美玲ちゃん、ぼく、行ってくる!」

 自分でも驚いたけど、ぼくは咄嗟とっさにそう叫んでいた。
 化け猫に戻ったいまなら、なんとかなりそうな気がしたんだ。

「なんでミッケまで……。もうわたしを困らせないで。あなたひとりで何ができるっていうの」

「姿が戻ったのにはきっと意味があるはずだよ。この小さな体なら行ける! ぼくも美玲ちゃんみたいに誰かを助けたいんだ!」

「……だめ。絶対に行かせません」

 普段口汚い美玲ちゃんが敬語になった。
 絶対に譲れない時にしか出ない口調だ。

 とっても静かに、めちゃくちゃ怒っている。
 でもぼくは、めげずに続けた。

「美玲ちゃんだってジョーを放っておけないでしょ? いつもの美玲ちゃんなら、考えるまえに助けに行ったよね?」

 美玲ちゃんが顔をそむけた。
 寂しそうな目をしたまま、黙っている。

 その様子に、ぼくはがっかりなんかしない。
 がっかりなんて、するわけがない。
 
 ぼくは美玲ちゃんが助けた、たくさんの人を知っている。

「ぼく、美玲ちゃんが大好きだ! だから悲しませるようなことは絶対にしないよ! ジョーを連れて必ず帰ってくるから、信じて待ってて!」


 そう言い放って、ぼくはエレベータを飛び出した。


  
      *



 燃え盛る炎のすきまを縫って、フロアを走る。
 この小さくて俊敏なネコの体なら、炎をかき分けて進むのは比較的に容易だった。

 ジョーはフロアの先のほうで大の字に倒れていた。
 ボロボロに服が破けて、体中から血を流している。

「……小僧、なんで来た」

 天を仰いだまま、目玉だけを動かしてぼくを見た。

「見えるのぼくが? てゆーか、わかるのぼくが?」

「目を見りゃあわかるぜ。頭を強く打ったせいで、なぜかネコに見えるが……」

「動けそう? エレベータに戻ろう」

 ジョーが首をかすかに振った。
 そして尖った顎で、空を指す。

「見てみろ、ここは文字通りの地獄だ。天から火の玉が降ってきてやがる」

 ぼくも空を見上げた。

 星でも落ちてくるように、次々と火の玉が街に落下する。
 その度に大きな爆発が起きていた。

「それにこの羽音はおとだ。ばかでけぇはえが、そこらをぶんぶん飛んでやがる。あいつに見つかったとたん、すっ飛んできてこのザマだ」

「ドローンにやられたんだね、爆弾を積んだ無人攻撃機だよ。それに火の玉はミサイル。ここはたぶん、近い将来の戦場なんだ」

「……なんてこった、お前らもじき戦争に巻き込まれるってのか。まさにこの世は地獄だな」

 一瞬だけ乾いた笑顔を見せたジョーは、呻き声をあげながらうつ伏せになった。
 顎をしゃくって、ぼくを顔のそばに呼ぶ。

「体勢を低くして進むんだ。急ぐと蠅に見つかるぞ。……そうだそう、上手いな小僧。ネコってのは戦場向きだな」

 そんな褒められ方をされたって嬉しくない。
 顔の横まで行くと、ジョーが前方に目を向けた。

「お前見えるか、あれが金塊だ」

 ぼくはジョーと同じ方向を見た。
 じっと見ていると、山のように積まれた金塊がうっすらと見えてきた。

「正確にはインゴット。本土決戦の資金として国民から集めた貴金属を溶かして固めたもんだ。だが敗戦が決定すると、進駐軍が上陸してくる前にあわてて隠した」

「あんな大量の重たそうなインゴット、ドローンに見つからずに持ち帰るなんて絶対無理だよ」

 そもそもインゴット一個の大きさが、ぼくの考えていたものより十倍くらい大きいんだ。
 大人の人間が頑張っても、一人で一つ、持てるかどうか……。

「落ち着け小僧、あれはフェイクだ。じっと目をらすんだぜ!」

 ぼくはじっと金塊の山を見つめた。
 すると半透明に見える金塊の山のなかに、きらりと小さく光るものを見つけた。

「あ、あれって……!」


「そうだ、ついに見つけたんだぜ。『地獄階じごくかい』のプレートをなぁ!」


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