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6桁の数字と幻影ビルの金塊
029 一縷の望み
しおりを挟む状況が変わった。
美玲ちゃんの作戦は完璧のはずだった。
シショウからもらったロケット鉛筆の10本の芯のなかに、1本だけランタンで照らさないと見えないほどの極々小さな傷が付いていたのが始まりだった。
ライフル弾で言うところの、薬莢部分にその傷がある。
傷のある芯の先端を折ってから、ロシアンルーレットを提案。
奴隷が芯を詰めなおしたロケット鉛筆を、ぼくがランタンで照らして7番目にあるのを確認。
握手と瞬きで、その数をジョーに伝える。
その後、あえて先攻か後攻かを王に選ばせる。
それは先に有利な立場を与えて、後出しの条件を自然に呑ませるという心理作戦。
後出しの条件とは、先攻を取られたら押し出せる芯は2つまで。後攻だったら3つまで。
王が先攻を選んだので、押し出せる芯は2つまでという条件を自然な流れで提示して、必勝必至の勝負が始まった。
……はずだった。
「わしが最強の王であると証明するため、お前が有利な先攻でやるのだ」
ジョーがキャスケット帽を乱暴に脱ぎ捨て、額の汗を拭った。
顔を両手で覆っている美玲ちゃんも、予想外の展開に膝をついたまま硬まっている。
「お、お、おれからやんのかい? こ、後悔するぜぇ、あんたぁ……」
数字に強いジョーのことだ。
負けゼロの勝負から何パーセントの勝率に変わったか、すでに計算済みなのだろう。
「……まだ負けが決まったわけじゃない。あっちは7番目に折れた芯があることを知らない」
顔を覆った美玲ちゃんが、ぼくにだけ聞こえる声で小さく呟いた。
しかしその頰には、冷や汗が流れている。
「……最初は1つよ、それは絶対。ジョーもそれはわかってるはず」
ぼくは小さな手の指をこっそり曲げながら計算した。
さっきの話では、勝つためにはジョーが3番目の芯を取らなくてはならないんだ。
ジョーが間違って2つ取ったら、必然的に王が3番目を取る事になる。
「それじゃあよお……。遠慮なしに1つだけ頼むぜ。すでに頭の見えてる、安全な芯をなぁ!」
ジョーが数を申告した。
奴隷が最初の芯をロケット鉛筆の先端から引き抜く。
次の芯の先端は、透明な筒の先端に塗装されたパステルカラーの模様で見えない。
「おっとストップだ! そこまでなんだぜ!」
ジョーの怒鳴り声に、奴隷が肩をびくりとさせて動きを止めた。
「その引っこ抜いた芯を鉛筆のケツから押し入れるのはよぉ、王が数を申告してからだぜ!」
重要なのは、ここからだ!
王が『1』を申告すれば、そのあとジョーが3番目の芯を取って、ぼくらの勝率はまた100%に戻る!
ジョー:○ △
王 : ○
↑
「では申告しよう、わしが押し出す芯の数は……」
暗闇を包み込む沈黙ーー。
美玲ちゃんが唾を飲み込む音が、ぼくの耳にまで届く。
「……2だ」
その瞬間、美玲ちゃんが両手を床についた。
勝ちに重要な3番目の芯を、王が取った。
これでぼくたちの勝利は、王の申告する数に委ねられたんだ……。
次のターンでジョーが1つ、王も1つ。
それしか勝てる道がない。
ジョー:○ ○ ◎
王 : ○△ ○ ●
↑↑
奴隷がロケット鉛筆の後ろから1番目の芯を押し入れる。
先端から飛び出た2番目の芯を見て、暗闇が湧いた。
さらに2番目の芯を鉛筆の後ろから押し入れる。
飛び出した3番目の芯を、先端からそっと引き抜いた。
「見よ奴隷ども、わしの勝負強さを。2つとも芯は折れておらんぞ」
暗闇から、うらあ、うらあと声援が湧き上がった。
当然だ。
王や奴隷たちは、外れの芯が何処に入っているか知らない。
だからぼくたちも、何も知らない演技をしなきゃいけないんだ。
なのにジョーは、すっかり負けが決まったような顔をしていた。
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