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第2話 アユム
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しおりを挟む「ハカセはさぁ、どこの小学校に通っているの? これ制服? 変わってるよねぇ」
アユムがわたしの服のそでをつまみあげた。わたしの服が、この地方の地球人学生が着ている、標準的な服装なのは調査済みだ。
なぜ学生の服を着ているかというと、擬態スーツは外見を地球人に変身させてくれるが、背丈までは変えられない。わたしの背丈だと、地球人では、ちょうど十二歳くらいの小学生の身長なのだ。
「なんかさ、大正時代? みたいな……。ハカマでしょ、これ?」
トモミがわたしのズボンを引っぱった。
確かにわたしの格好は彼らとは違うようにも見える。紺色のキモノという上着に、下はハカマというズボン、そしてゲタと呼ばれる木製のサンダルを履いている。
大学の書庫に保存されていた『超神秘! 魅惑の未開惑星 地球篇』という雑誌に載っていた、この地方の地球人学生がよく着ている民族衣装だ。
この星の時間に換算して百年ほど昔の雑誌だが、服装なんてそうそう変わらないはずだが……。
「なんかさぁ、タイムマシーンで現代にやって来た、昔の人みたいだねぇ」
「はいはい、また始まった。アユムって、なんでもかんでもSFちっくに妄想するのよね。タイムマシーンとかUFOとかさ。笑っちゃうわよ。ね、ハカセ?」
トモミが足をばたつかせて笑う。
その踵でゴンゴンと蹴っている銀色の半球が、じつは小型宇宙船の船体であることは、わたしだけの秘密だ。
「でもさぁ、世の中にはあるんだよ。科学じゃ証明できないような話がさぁ。
ハカセも知っているだろ? この丘の伝説」
「……伝説?」
「そう。この緑が丘の、龍の玉伝説!」
急にアユムが、神妙な顔をして話し始めた。
「いまから五千年ほど昔、すでに人類は文明社会を築き、豊かな生活をしていたんだ。だけどある夜、とつぜん空をおおいつくすような巨大な炎の龍が現れた!
怖れおののく人々をよそに、碧い炎をまとった龍は、やがて大きな断末魔とともに燃えつきてしまったけれど、その手からこぼれ落ちた光り輝く宝玉は、まるで小さな太陽のように熱くまぶしく燃えつづけて、世界中を飛びまわり、大地を焼きつくし、北極や南極の氷を溶かして大洪水を起こしたんだ。
それが原因で、超古代文明は、たった一夜で滅んでしまったそうだよ……」
まるで見てきたみたいな言い方ね。
と、トモミが笑った。
しかし、わたしには興味深い話だった。似たような事例を、わたしはいくつかの星の歴史で学んだことがあるからだ。
むろん『龍』という怪物は出てこない。宇宙から飛来した巨大な隕石が惑星に衝突したときの話だ。
その隕石の直径が数キロを超える巨大なものだったら、灼熱の爆風と大津波が大地を駆け巡り、アユムの話とそっくりな状況になるだろう。
昔の地球人が巨大な隕石を龍にたとえ、後世に言い伝えたのだとしたら、アユムが言っていることも、あながち間違いではない。
「そのとき、世界を焼きつくした宝玉『龍の玉』が、最後に力尽きて落ちたのが、この緑が丘だという言い伝えがあるんだ。
この丘の地中深くには、いまでも怖ろしい龍の玉が埋まっているんだって!」
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