緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
6 / 63
第2話 アユム

02

しおりを挟む


「ハカセはさぁ、どこの小学校に通っているの? これ制服? 変わってるよねぇ」

 アユムがわたしの服のそでをつまみあげた。わたしの服が、この地方の地球人学生が着ている、標準的な服装なのは調査済みだ。

 なぜ学生の服を着ているかというと、擬態ぎたいスーツは外見を地球人に変身させてくれるが、背丈までは変えられない。わたしの背丈だと、地球人では、ちょうど十二歳くらいの小学生の身長なのだ。

「なんかさ、大正時代? みたいな……。ハカマでしょ、これ?」

 トモミがわたしのズボンを引っぱった。

 確かにわたしの格好かっこうは彼らとは違うようにも見える。紺色のキモノという上着に、下はハカマというズボン、そしてゲタと呼ばれる木製のサンダルを履いている。

 大学の書庫に保存されていた『超神秘! 魅惑の未開惑星 地球篇』という雑誌に載っていた、この地方の地球人学生がよく着ている民族衣装だ。

 この星の時間に換算かんさんして百年ほど昔の雑誌だが、服装なんてそうそう変わらないはずだが……。

「なんかさぁ、タイムマシーンで現代にやって来た、昔の人みたいだねぇ」

「はいはい、また始まった。アユムって、なんでもかんでもSFちっくに妄想するのよね。タイムマシーンとかUFOとかさ。笑っちゃうわよ。ね、ハカセ?」

 トモミが足をばたつかせて笑う。

 そのかかとでゴンゴンとっている銀色の半球はんきゅうが、じつは小型宇宙船の船体であることは、わたしだけの秘密だ。

「でもさぁ、世の中にはあるんだよ。科学じゃ証明できないような話がさぁ。
 ハカセも知っているだろ? この丘の伝説」

「……伝説?」

「そう。この緑が丘の、りゅうたま伝説!」

 急にアユムが、神妙しんみょうな顔をして話し始めた。

「いまから五千年ほど昔、すでに人類は文明社会を築き、豊かな生活をしていたんだ。だけどある夜、とつぜん空をおおいつくすような巨大な炎の龍が現れた!
 怖れおののく人々をよそに、あおい炎をまとった龍は、やがて大きな断末魔だんまつまとともに燃えつきてしまったけれど、その手からこぼれ落ちた光り輝く宝玉ほうぎょくは、まるで小さな太陽のように熱くまぶしく燃えつづけて、世界中を飛びまわり、大地を焼きつくし、北極や南極の氷を溶かして大洪水を起こしたんだ。
 それが原因で、超古代文明は、たった一夜で滅んでしまったそうだよ……」

 まるで見てきたみたいな言い方ね。
 と、トモミが笑った。


 しかし、わたしには興味深い話だった。似たような事例を、わたしはいくつかの星の歴史で学んだことがあるからだ。

 むろん『りゅう』という怪物は出てこない。宇宙から飛来ひらいした巨大な隕石いんせきが惑星に衝突したときの話だ。

 その隕石の直径が数キロを超える巨大なものだったら、灼熱しゃくねつの爆風と大津波が大地を駆け巡り、アユムの話とそっくりな状況になるだろう。

 昔の地球人が巨大な隕石を龍にたとえ、後世こうせいに言い伝えたのだとしたら、アユムが言っていることも、あながち間違いではない。


「そのとき、世界を焼きつくした宝玉『龍の玉』が、最後に力尽きて落ちたのが、この緑が丘だという言い伝えがあるんだ。
 この丘の地中深くには、いまでも怖ろしい龍の玉が埋まっているんだって!」

しおりを挟む

処理中です...