緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第4話 ふたりの告白

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 次の日、わたしは朝からそわそわと落ち着かなかった。

 あんなに待ちこがれていた母船からの迎えも、もはやどうでもよくなっていた。むしろ数日は来なくてもいいとさえ思っていた。

 アユムは大喜びするだろうな。トモミはやっぱり、笑うかな……。

 そんなわたしの興奮こうふんとは裏腹うらはらに、どんよりとした雲が空をおおい、昼すぎにはぽつぽつと小雨が降りだした。

 ふたりとも、今日は来ないか……。

 そうあきらめかけたとき、緑色の地平線にゆれる黄色い傘を見つけた。


「あれぇ、やっぱり今日は、トモミは来てないかぁ」

 ひょこひょことゆれる傘の中にいたのはアユムだった。

 アユムは小型宇宙船をよじのぼると、いつも通りわたしの左どなりに座り、
「約束していないのに、ここに集まるのが、ぼくらの決まりみたいになっちゃったねぇ」と笑った。

 わたしはその言葉が何よりうれしかった。

 銀河の果ての惑星に友だちができた。環境も習慣も文化も違う、どんな生物とだって友情は生まれる。その瞬間が、わたしは大好きだ。

 三人そろってから例の話を切り出すつもりだったが、わたしはアユムの笑顔を見て、すぐにでも話したくなって口を開いた。


「ハカセはさぁ、トモミのことどう思う?」

 が、先に話し出したのはアユムだった。

「わかってるよう。ぼくチビだし、運動も苦手だし、トモミとは不釣り合いってことぐらい……。ハカセはいいよねぇ。ファッションセンスは変わっているけど、わりとカッコいいからさ」

 うつむきながら話すアユムの横顔は、湯気が出そうなほど、まっ赤にほてっていた。

「ねえ、ハカセはトモミのこと、どう思っているのさぁ?」

「ええと……。とっても明るくて、にぎやかで、楽しい子だと思うよ」

 わたしはあたりさわりのない返事をした。
 トモミのことは好きだったが、異星人のトモミに、アユムと同じような感情をいだくことは、たぶんないだろう。


「そうだよねぇ。トモミ、学校では誰とも話さないくせに、ハカセとはよくおしゃべりしてるもんねぇ……」

「えっ、あのトモミが? まさか……」

 わたしは自分の耳を疑った。あのおしゃべりなトモミが、学校では誰とも話さないなんて、とても信じられなかったからだ。


「本当だよ。六年生のクラス替えで一緒になったときは、すぐにみんなの人気者になったんだけど、まぁ、あることをきっかけにね……。
 だからハカセ、どんなことがあっても、ぼくたちはずっとトモミと友だちでいようね!」


 アユムはずるずると小型宇宙船からすべり降りると、

「今日はこんな天気だから、ぼくもう帰るよ。ハカセも傘ぐらいささないと風邪ひくよ」

 と言って、走って行ってしまった。


 アユムが帰ってからも、わたしはさっきの話のことばかり考えていた。大好きな『全宇宙生物図鑑』の内容も、まるで頭に入らない。


 あの元気で明るいトモミに、そんな一面があったなんて……。


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