化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏

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第2章 ライオン☆ハート

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 瓦礫がれきが散乱する廊下を、ぼくたちは進んでいく。
 ノートPCを見つめながら先頭を歩くチャーシューの背中が、心なしか緊張しているように感じる。
 優斗ゆうとくんは電磁波センサーをかざして、一番うしろを震えながら歩いていた。

 美玲みれいちゃんは、ふたりに守られるようにして真ん中を歩いているが、ぼくが見た感じでは、三人のなかで一番落ち着いていた。廃病院のなかを見渡みわたしながら、ときおり左手で耳たぶを引っぱったり、戻したりしている。
 くわしくは話してくれないけど、どうやら美玲みれいちゃんは、左手で左の耳たぶを引っぱることで、霊との波長を合わせているらしい。

 ぼくはといえば、ガラスの割れた廊下の窓枠の上を器用に歩きながら、みんなのあとを追いかけていた。
 傍観者を気取ってはいるけれど、ぼくも少しは緊張しているんだ。

 だって、はじめてなんだもん。
 オバケモドキじゃない、本物のお化けと出会うのは……。



 廊下の突き当たりに、階段が見えてきた。
 暗闇にたたずむ階段を見上げて、三人は動けずにいた。

「この階段、窓がないから、月明かりもなくて真っ暗だね……」

 優斗ゆうとくんの弱音を無視して、チャーシューが気合いをこめて説明する。
「この階段を上がれば、例の診察室がある四階まで行ける。とはいえ、蜂谷はちやの姉貴が撮影した動画を見ても分かる通り、幽霊はその場にじっとしとる訳やない。どこから襲ってきても応戦できるよう、みんな、気張ってや!」

 すっかり覚悟を決めたのか、三人は、ゆっくりと階段を上がり始めた。

「ワイが赤外線暗視カメラの映像を見ながら歩く。きみらも、ワイの通ったあとをなぞるようにしてついてくるんやで? 瓦礫がれきにつまづかんよう気ぃつけてな」

了解りょうかい!」

 チャーシューの言葉に、ふたりが同時に返事をした。

 月明かりさえ届かない漆黒の闇のなか、がしゃり、ぎしりと、瓦礫がれきの上を歩く足音だけが響く。
 みんなの様子をうしろから見ていたぼくも、あとに続くため階段を見上げた。

 暗闇のなかに、ノートPCの画面の光に照らされたチャーシューの顔が、ぼんやりと浮かんで見える。
 まるで闇夜にさまよう生首だ……。そう思ったとたん、そいつは現れた。


 きゃあああああああっ!


 とつぜん響いた悲鳴に、ぼくらはパニックにおちいった。
 バランスを崩したチャーシューが、階段から足を踏みはずしたのをきっかけに、うしろにいた美玲みれいちゃんと優斗ゆうとくんが、雪崩のように転がり落ちてくる。

 なんとか二人を避け切ったぼくも、最後に転がり落ちてきたチャーシューからは逃げ切れず、その巨体の下敷きになってしまった。


「なななんや! 黒崎くろさきはん、どした?」

「わわ、わたしじゃないし! いま叫んだの、優斗ゆうとくんでしょ?」

「ぼ、ぼくじゃない! 女の人の悲鳴だったよ!」

「はやくどいてよ~。痛いよ、潰れちゃうよ、内臓が口から飛び出るよ~」

「だれや、誰の声や? 蜂谷はちややないんか? 内臓ってなんやねん?」

「ぼくじゃないってば! ぼくはここにいるよ! な、内臓?」

「痛いよ、苦しいよ~。どけってば、この焼き豚~」

「みんな、落ち着いて! とりあえず立ち上がりましょう!」


 みんなが立ち上がって、ようやくぼくはチャーシューの下敷きから逃れることができた。
 優斗ゆうとくんとチャーシューが、お互い、凍り付いたような顔を見合わせている。

「いったい、誰の声やったんや?」

「わからない……。なんか、子どもみたいなかわいい声で、痛いとか、苦しいとか……」

 チャーシューが、すかさず電磁波センサーを見つめる。

「ヤバい、数値が乱れとる……。出おったで!」

 その数値の乱れは、きっとぼくのせいだと思うけど、ぼくは踏みつぶされて腰が痛いから、もうその場から離れることもしなかった。

「みんな落ち着いて! さっきも数値は乱れたんでしょ? きっとその機械、壊れているのよ!」

 美玲みれいちゃんが、必死にみんなを落ち着かせようとした。

「それより、さっきの悲鳴、ほんとに優斗ゆうとくんじゃないの?」

 優斗ゆうとくんがこわばった表情で、顔をぶるぶると横にふった。
 そのとき、そいつはまた現れた。



「あなたたち、生きている……人間なの……?」


 階段の上から聞こえた、か細い声に、みんなが体を硬直させながら見上げる。
 暗闇の中に、高校生くらいのお姉さんが、ひとり立っていた。



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