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第1択
始まりの選択
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順風満帆な大学生活だと自信を持って送っていると言える。
すでに大企業からの内定を勝ち取り、残りの1年間は単位を確保しつつも自由に遊びまくる予定だった。
校内でも5本の指に入る美女を恋人にし、いわゆる陽キャとして複数人の友達と旅行やらBBQを愉しむ。卒業をして社会人になっても、ときどきは会ってバカをしようだなんて約束なんかしたりして……。
人生を左右するのは、その人の努力でも才能でもない。
どれだけ努力しようと、どれだけ天才であっても――自分に選択する権利がなければどうしようもない。
俺の華やかな人生は、ある日を境に壊れていくのだった。
▽
会社に遅刻しそうなことを理由に信号無視した男。そいつが運転していた――今でも覚えている、あの禍々しい黒色の軽自動車……。あれのせいで俺は病院送りとなった。あまりの衝撃に痛みを知る間もなく意識を失ったことは不幸中の幸い? いずれにしても、目が覚めたときには病室のベッドの中に身を置いていた。
「あ、目覚めた!」
恋人の優衣がいの一番で半べそを搔きながら飛びついてくる。そりゃ悪い気はしなかったが、事情を呑み込めない俺は呆然とした表情を緩めることはなかった。
「もう3日も寝ていたんだよ。本当に心配したんだからっ」
「マジ?」
「おう、マジマジ。それだけぐっすり眠っていたんだ。退院したら早速徹マンをしなきゃな」
優衣の隣からむさ苦しい顔の憲司が視界に割って入る。優衣の存在ばかりに気を取られていたが、詩奈にウーバー、ムラッセに緒方と、見舞いに来てくれていたことを鈍感ながらに気付く。
「皆、アンタのこと心配して3日前から毎日お見舞いに来てくれてるのよ。感謝しなさい」
「どうだ? 痛みや気分は悪くないか?」
ああ、お袋と親父もいたのか。どうやら、目の前の友達のためにコンビニエンスストアで昼食を拵えてきたらしい。どうにも頭部や腕に包帯を巻いた病衣姿の自分を見られるのは気分が良いものではなかった。
(気分は……まあ、普通)
下手な冗談でも気分が悪いなんて言えば、必要以上に心配されるだろう。俺がまさに正常であることを伝えようとしたときだった。
【最悪、吐きそう】
【全然、平気】
【まだ、微妙かな】
【悪いが、寝たいから出て行ってくれ】
どういうわけか、そんな言葉の羅列が目の先に浮かんで十字並びをしている。VRゴーグルを付けているわけでもないし、その状況は明らかに自身の欠陥を指し示していた。その言葉の羅列を振り払おうと、目を閉じ別の方向に向きを変え、再度開けてみる。
駄目だ、それは付きまとってやってくる!
もしかすると、脳の障害を負ってしまったのか……? それならそうと、すぐにこの場にいる皆に報せなきゃ。俺はこの現象を口にして説明しようとした。
「悪いが、寝たいから出て行ってくれ」
な、なぜだっ! 思ってもみないことを口が勝手に開いて声にする。すぐに訂正のセリフを吐こうとしたが、どういうわけか自身の意志に逆らい口が堅く結ばれる。
「あ、ご、ごめんねっ。まだ目が覚めて間もないのに、こんなに喋られたら困るよね」
優衣が焦った表情で固い笑みを引き攣らせる。申し訳ない気持ちと釈明したい気持ちで胸がズキズキと痛む。
「お前が早く目覚めて良かったよ。また、見舞いに来るよ」と、ウーバー。
「そのときは事前に連絡を入れてからだね」さすが、気の利く詩奈。
「まあ、安静にな」「またねー」ムラッセに緒方。
「それじゃあ、これいただきま~す」
最後は憲司がコンビニエンスストアで購入してきた袋をお袋から譲り受ける。頭を下げた一同は病室をあとにし、室内は一気に静まり返った。
「寝るでしょ? その前に先生に診せないと」
別に眠くはないが、自分の症状について医師から聞きたいことがある。先程、視界に飛び込んだ文字の羅列は一体なんだったのか。最悪の場合、幻視の後遺症が残ってしまったことを考えなければならない。
(まったく、最悪な気分だ)
医師は30代後半ぐらいの肌艶の若い先生で、爽やかな笑顔は患者の多くを安心させる優男を強く印象付けた。もし俺が女であれば、下手すればコロッと心を奪われてしまっていたかもしれない。名札には”山口”と記されている。
「異常は特にないけどねえ~」
MRIでの検査を通して、山口という担当医は何度も首を傾げた。
「今は普通の視界なんだよね?」
「ええ、まあ」
「3日ぶりの目覚めということもあって、脳が目覚めていなかったのかなぁ~」
なんとも頼りなさげなセリフ。兎にも角にも脳や眼の異常を検査で見つけることはできなかったので、俺としては不安な気持ちと安堵した気持ちが入り混じる結果になった。
それから1カ月間は治癒期間と経過観察の意を込めて入院したが、頭蓋骨折も複雑なものでなく、事故当初の手術で無事に終えていたので割かし早くに退院が決まる。あれから奇妙な言葉の羅列は現れなかったので、どうにも先生の言うように脳が覚めていなかっただけなのかもしれないと俺は思うようにした。
――木野浜医療センターを退院後、俺は久しぶりに学校へと顔を出すことにした。まだ取り切れていない単位を埋めるためという理由もあるが、何かと暇を持て余している友人たちが屯しているのを知っていたからだ。
随分と久しい気持ちのせいか、大学に向かうのが少しばかりウキウキするような緊張するような変な感じだ。実のところ長期入院をしていないわけで、自分が思うよりも時間経過はしていない。
見慣れた建物に見慣れた送迎バス。見たことのある学生集団に教員。サークル活動で何やら撮影をしている者、スポーツで汗を流す者。端に置かれた喫煙スペースで友人と煙を愉しむ者、人口芝生の敷かれた広場で腰を据えるカップル。
どれもこれも俺の知っている風景。もう少し打ち所が悪ければ、俺は再びこの場に立っていなかったのかもしれない。不幸中の幸いとはよくいったもので、生きていることに感謝をしなければならないようだ。
「よう、久しぶりだな、八柳。お前、死にかけたんだって? もう大丈夫なのかよ」
同じ学年で同じ学科の奴が俺に気付いて声を掛ける。特に親しい間柄ではないが、何度かカラオケや居酒屋に行った程度の仲ではある。
「お陰様でな。今から授業か?」
「いや、今日はちょっと就職関係のことで来ただけなんだ」
「ほう」
「じゃあ、またな。機会があればまた飲みにでも行こうぜ」
恐らく彼と呑みに行くことは二度とないだろう。向こうもそれを分かっていてあえて口にしている。社交辞令とは本当に面倒なものである。
【今夜にでも行こうぜ】
【おう、またな】
【お前となんかと行くかよ】
――まただ!
言葉の羅列が目の前に並ぶ。今度は4つではなく3つだ。以前は急に出てきたから文字の羅列の意味が理解できなかった。だが、今回はその3つの羅列の意味を理解する。
(これは選択肢だ)
俺が答えられる頭の中で浮かべた言葉が、そのまんま3D映像として視界に飛び出してきたとでも言うのか? 笑えねえが、ここは素直にその選択肢の中から言葉を発してやる。勿論、ここでは【おう、またな】だ。
「お前なんかと行くかよ」
は? なんでだよ! 今、口が勝手に動いた。俺の意志とは関係なくだ!
「んだよ、それ。確かに俺とお前とは仲良くはないけど、そんな言い方は失礼じゃないか?」
そりゃあ、向こうも怒るだろう。早く謝罪をして冗談のように話を転換させなければ。ここはまず謝ろう。頭を下げて丁寧に……。
「端から仲良くないんだし別によくね? それとも、俺と仲良くしたいわけ?」
「っち、お前うざいわ。もういいよ、二度とお前とは話さねえ」
なんでだよ。どうしたら、こんな思ってもいない言葉を吐き出せるんだよ……。まるで俺の口が俺の口じゃないみたいに。あるいは誰かに操られているような。
(俺、おかしくなっちまったのか!)
交通事故の後遺症なのかもしれない。いや、明らかにそうだ。もう一度、病院に足を運んで診てもらおう。今度は単語ヤブ医者のところではなく、他の病院へ。
すでに大企業からの内定を勝ち取り、残りの1年間は単位を確保しつつも自由に遊びまくる予定だった。
校内でも5本の指に入る美女を恋人にし、いわゆる陽キャとして複数人の友達と旅行やらBBQを愉しむ。卒業をして社会人になっても、ときどきは会ってバカをしようだなんて約束なんかしたりして……。
人生を左右するのは、その人の努力でも才能でもない。
どれだけ努力しようと、どれだけ天才であっても――自分に選択する権利がなければどうしようもない。
俺の華やかな人生は、ある日を境に壊れていくのだった。
▽
会社に遅刻しそうなことを理由に信号無視した男。そいつが運転していた――今でも覚えている、あの禍々しい黒色の軽自動車……。あれのせいで俺は病院送りとなった。あまりの衝撃に痛みを知る間もなく意識を失ったことは不幸中の幸い? いずれにしても、目が覚めたときには病室のベッドの中に身を置いていた。
「あ、目覚めた!」
恋人の優衣がいの一番で半べそを搔きながら飛びついてくる。そりゃ悪い気はしなかったが、事情を呑み込めない俺は呆然とした表情を緩めることはなかった。
「もう3日も寝ていたんだよ。本当に心配したんだからっ」
「マジ?」
「おう、マジマジ。それだけぐっすり眠っていたんだ。退院したら早速徹マンをしなきゃな」
優衣の隣からむさ苦しい顔の憲司が視界に割って入る。優衣の存在ばかりに気を取られていたが、詩奈にウーバー、ムラッセに緒方と、見舞いに来てくれていたことを鈍感ながらに気付く。
「皆、アンタのこと心配して3日前から毎日お見舞いに来てくれてるのよ。感謝しなさい」
「どうだ? 痛みや気分は悪くないか?」
ああ、お袋と親父もいたのか。どうやら、目の前の友達のためにコンビニエンスストアで昼食を拵えてきたらしい。どうにも頭部や腕に包帯を巻いた病衣姿の自分を見られるのは気分が良いものではなかった。
(気分は……まあ、普通)
下手な冗談でも気分が悪いなんて言えば、必要以上に心配されるだろう。俺がまさに正常であることを伝えようとしたときだった。
【最悪、吐きそう】
【全然、平気】
【まだ、微妙かな】
【悪いが、寝たいから出て行ってくれ】
どういうわけか、そんな言葉の羅列が目の先に浮かんで十字並びをしている。VRゴーグルを付けているわけでもないし、その状況は明らかに自身の欠陥を指し示していた。その言葉の羅列を振り払おうと、目を閉じ別の方向に向きを変え、再度開けてみる。
駄目だ、それは付きまとってやってくる!
もしかすると、脳の障害を負ってしまったのか……? それならそうと、すぐにこの場にいる皆に報せなきゃ。俺はこの現象を口にして説明しようとした。
「悪いが、寝たいから出て行ってくれ」
な、なぜだっ! 思ってもみないことを口が勝手に開いて声にする。すぐに訂正のセリフを吐こうとしたが、どういうわけか自身の意志に逆らい口が堅く結ばれる。
「あ、ご、ごめんねっ。まだ目が覚めて間もないのに、こんなに喋られたら困るよね」
優衣が焦った表情で固い笑みを引き攣らせる。申し訳ない気持ちと釈明したい気持ちで胸がズキズキと痛む。
「お前が早く目覚めて良かったよ。また、見舞いに来るよ」と、ウーバー。
「そのときは事前に連絡を入れてからだね」さすが、気の利く詩奈。
「まあ、安静にな」「またねー」ムラッセに緒方。
「それじゃあ、これいただきま~す」
最後は憲司がコンビニエンスストアで購入してきた袋をお袋から譲り受ける。頭を下げた一同は病室をあとにし、室内は一気に静まり返った。
「寝るでしょ? その前に先生に診せないと」
別に眠くはないが、自分の症状について医師から聞きたいことがある。先程、視界に飛び込んだ文字の羅列は一体なんだったのか。最悪の場合、幻視の後遺症が残ってしまったことを考えなければならない。
(まったく、最悪な気分だ)
医師は30代後半ぐらいの肌艶の若い先生で、爽やかな笑顔は患者の多くを安心させる優男を強く印象付けた。もし俺が女であれば、下手すればコロッと心を奪われてしまっていたかもしれない。名札には”山口”と記されている。
「異常は特にないけどねえ~」
MRIでの検査を通して、山口という担当医は何度も首を傾げた。
「今は普通の視界なんだよね?」
「ええ、まあ」
「3日ぶりの目覚めということもあって、脳が目覚めていなかったのかなぁ~」
なんとも頼りなさげなセリフ。兎にも角にも脳や眼の異常を検査で見つけることはできなかったので、俺としては不安な気持ちと安堵した気持ちが入り混じる結果になった。
それから1カ月間は治癒期間と経過観察の意を込めて入院したが、頭蓋骨折も複雑なものでなく、事故当初の手術で無事に終えていたので割かし早くに退院が決まる。あれから奇妙な言葉の羅列は現れなかったので、どうにも先生の言うように脳が覚めていなかっただけなのかもしれないと俺は思うようにした。
――木野浜医療センターを退院後、俺は久しぶりに学校へと顔を出すことにした。まだ取り切れていない単位を埋めるためという理由もあるが、何かと暇を持て余している友人たちが屯しているのを知っていたからだ。
随分と久しい気持ちのせいか、大学に向かうのが少しばかりウキウキするような緊張するような変な感じだ。実のところ長期入院をしていないわけで、自分が思うよりも時間経過はしていない。
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どれもこれも俺の知っている風景。もう少し打ち所が悪ければ、俺は再びこの場に立っていなかったのかもしれない。不幸中の幸いとはよくいったもので、生きていることに感謝をしなければならないようだ。
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同じ学年で同じ学科の奴が俺に気付いて声を掛ける。特に親しい間柄ではないが、何度かカラオケや居酒屋に行った程度の仲ではある。
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「ほう」
「じゃあ、またな。機会があればまた飲みにでも行こうぜ」
恐らく彼と呑みに行くことは二度とないだろう。向こうもそれを分かっていてあえて口にしている。社交辞令とは本当に面倒なものである。
【今夜にでも行こうぜ】
【おう、またな】
【お前となんかと行くかよ】
――まただ!
言葉の羅列が目の前に並ぶ。今度は4つではなく3つだ。以前は急に出てきたから文字の羅列の意味が理解できなかった。だが、今回はその3つの羅列の意味を理解する。
(これは選択肢だ)
俺が答えられる頭の中で浮かべた言葉が、そのまんま3D映像として視界に飛び出してきたとでも言うのか? 笑えねえが、ここは素直にその選択肢の中から言葉を発してやる。勿論、ここでは【おう、またな】だ。
「お前なんかと行くかよ」
は? なんでだよ! 今、口が勝手に動いた。俺の意志とは関係なくだ!
「んだよ、それ。確かに俺とお前とは仲良くはないけど、そんな言い方は失礼じゃないか?」
そりゃあ、向こうも怒るだろう。早く謝罪をして冗談のように話を転換させなければ。ここはまず謝ろう。頭を下げて丁寧に……。
「端から仲良くないんだし別によくね? それとも、俺と仲良くしたいわけ?」
「っち、お前うざいわ。もういいよ、二度とお前とは話さねえ」
なんでだよ。どうしたら、こんな思ってもいない言葉を吐き出せるんだよ……。まるで俺の口が俺の口じゃないみたいに。あるいは誰かに操られているような。
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