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第3択
隠蔽に追随する選択
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未来を想像する中で最低な人生とは何かを考えたことがあるだろうか。1つに大事な人との死別。1つに大貧困となって食もままならない生活。1つに犯罪者として余生を刑務所で過ごす人生。
俺はいよいよ殺人犯となってしまった。≪悪魔の脳≫によって引き起こされる最も最悪な展開。目の前でピクリとも動かなくなった詩奈の顔は、うつ伏せで見ることもできない。いや、それでいい。彼女の痛みに苦しんだ顔を目に映せば、俺はもっと気が狂いそうになるだろう。
「お、お兄……?」
ハッと俺は我に返った。いつの間にか学校から帰宅した茜が2階に上がって来ていたのだ。
彼女は廊下に転がった詩奈と床に広がった血を識別するや否や、腰を砕かせて尻餅をついた。
「あっ……! あっ……!」
声にもならない叫びとはこういうことを言うのだろう。俺は妹のそんな姿を見て、どうにも兄として冷静にならなければいけないと思った。お陰でパニック状態は抑えられ、静穏にこの状況に対応することができる。
「最悪なところを見させてゴメンな、茜」
「お、お兄が……やったの?」
「ああ。俺がやった。言い訳はできない」
「してよ!」
「へ?」
「言い訳してよ! その女に脅されていたんでしょ! その女がお兄を苦しめていたんでしょ!」
「あ、ああ」
「だったらお兄は全然悪くないっ! 悪くないよ!」
涙して語気を強めた茜の言葉は俺の胸をチクチクと痛めつけ、同時に熱いものに変わっていった。
帰宅したお袋がこの状況を見たとき、恐らく失神するだろうと思った俺だったが、その予想はものの見事に外してみせる。子がピンチのときの母親というものは、えらく強くて逞しい存在になるようだ。
「選択肢が出たんだね?」
「うん」
「それなら仕方がないよ。俊介は何一つ悪くない」
「お母さん、警察に通報する気? お兄、何も悪くないんだよ?」
「するわけないでしょ。ちょっと待って、お父さんに連絡を入れるから」
そういったお袋は、仕事中の親父へと電話を繋げる。2人の会話を聞こうとは思わなかった。親父がどういう反応をするのか気にならないわけではないが、俺の今の気持ちは申し訳なさで一杯なのだ。
「お袋、俺も電話をしてきていいか?」
「誰によ」
「長谷川先生に」
お袋は了解と言わんばかりに、小刻みに頭を縦に振った。俺は自室のベッドに腰を掛けて、スマートフォンから長谷川先生の名前をタップする。電話をかける手前、俺は一瞬の不安が過ぎった。
俺が殺人を犯したと聞いたら、長谷川先生は警察に通報するのだろうか? それとも――。
そんな不安を一蹴するかのように、電話のコールは途絶えることがなかった。
(それもそうか。まだ、昼下がりなのだし診察に勤しんでいるはずだ)
「お父さん、仕事を切り上げて帰ってくるって」
「あ、うん。わかった」
するとすぐに長谷川先生からの折り返し電話がやってくる。
『すまない。今、ちょうど仕事を終えたばかりだ』
「あれ、仕事では?」
『おや、知らなかったかい? 休みを返上して週に1日だけ講演日にあてているんだ。私はジッとしていられない質だからね』
たまたま本業が休みという奇遇が、長谷川先生にとって不運になってしまうのではないかと俺は言い淀んだ。
『どうしたんだい? なにか良くないことがあったようだね』
「……た。俺、人を……殺しちゃった……!」
俺の声はきっと震えていただろう。先生に告白することで、なんだか俺の不安が同時に発散されてしまったようで、涙が溢れ出てくるのだった。
『それはとても辛かったね。警察やご家族には?』
「今、家族と一緒にいます。警察にはまだ……」
『うん、警察にはまだ通報しないでおこう。私も急いでそちらに向かう。それまで、何もしちゃいけないよ。遺体にも触れないように』
「はい……」
『1時間ほどで到着する。くれぐれも何もしないように』
▽
「頭部への外傷が幾度もあった場合、間違いなく殺人を考えます。つまり、彼女を事故に見せかけるのは不可能に近いことになります」
親父も合流した夕刻。長谷川先生は場慣れしているかのようにえらく冷静であった。俺を含めた家族はそんな彼の判断に委ねることにする。
「息子は捕まるのでしょうか?」
「このままでは。意思が働いていないと裁判で出張したところで、警察の管理下にある精神病院に送られるでしょう。正直、薬漬けにさせられて無理矢理大人しくさせられるので、普通の収容所に送られることをお勧めします」
そんな……。
俺の声でもあり、家族の声でもあった。長谷川先生の言葉は、今までの人生のどの言葉よりも冷たく棘があるように感じた。まあ、人殺しを見る目なんてものはそんなものなのかもしれない。
「今、俊介君が捕まらない方法は1つしかありません」
「なんでもします、先生! だから、教えてくださいっ!」お袋は縋った。
先生は俺や親父、それに茜に『聞く覚悟はあるか?』と視線を向けてきたような気がした。俺は思わずコクリと首を縦に振る。
「隠蔽をします」
なんとなくそうではないかと思ったが、実際に口に出されると、胸に重石を投げられたような痛みと重みを感じる。
「まずは隠せるものと隠せないものの判断をします。たとえば、彼女がこの家にやって来たという事実は隠せません。彼女が行方不明になってからの日にちを辿れば、必ず監視カメラやドライブレコーダーといったもので姿を捉えられているので」
親父はすかさず質問を投げる。
「彼女の足取りが此処で消えたと知った警察が我々を野放しにしてくれますかね?」
「そこです。足取りが消えないようにすればいいんです」
「というと?」
「茜さんでしたっけ?」
額に手を添え覆っていた茜がハッとして顔を上げる。先生は片手の指を全部使ってクイッと上げる。『立って』の合図だ。茜はそれに従って立ち上がる。
「やっぱり。彼女とスタイルがとても似ている」
「私がその女の人に扮装すればいいってことですか?」
「利口な方ですね。嫌かもしれませんが、すうすることで警察の目を欺けるかもしれません。お兄さんのために協力してくれますか?」
「……はい」
先生は茜から承認をもらうと、うつ伏せの死体となった詩奈の服を脱がせにかかった。
「黒色のTシャツで助かります。それに紺色のジーンズにも感謝をしなくては。お母さん、これを洗って乾かしてください」
「それを茜に着させるのですか?」
「もちろん」
「乾かしている間に日が暮れます。怪しまれないですか?」
「この家は子供が恋人を泊めることに寛容。お父さん、それでいいですね?」
つまり詩奈と俺は付き合っている設定で、寝泊りする関係になったと。先生に下着までも取り外された詩奈が滑稽だった。ほんの少し前まで俺に脅しを入れていた彼女が、今は好き勝手にされている。俺は全裸の詩奈から目を逸らした。
「えーと、下着もですか?」さすがに茜も口を歪ませる。
「いえ、必要ありません。ただ、血痕の付着を誤魔化し切れなさそうなので、細かく切って燃やします」
ホッと胸を撫でおろした茜。やはり他人の下着を身に付けるのに男性も女性も抵抗があるようだ。
長谷川は詩奈のバッグから財布を抜き取り、免許証を確認する。住所が大学近くの女子寮だということを認めると、彼は順調に事が進んでいるかのように、コクコクと頷いた。
「それで彼女の遺体はどうすれば」
お袋はすぐにでも詩奈を視界から消して、不安を取り除かせたいようだ。当然、俺を含め親父も茜も同じ気持ちである。
「詩奈さんが行方不明になったと判断されるまでに数日はかかるでしょう。その間に遺体の処分をしますが、それは此方に任せて頂いても?」
「も、もちろんです。先生にそこまでして頂いて、なんと御礼すればいいのやら」
親父は長谷川先生の手を握って深く頭を下げた。
(俺の気持ちも同じだよ、親父)
彼にも新たな研究として俺を助ける利害があるのだろうが、それでも殺人の隠蔽だなんてリスクが重いに決まっている。何故、彼がそこまでやってくれるのか皆目見当もつかないが、今は彼の助けが救いである。
「万一、ルミノール反応で此処に広がった血液を警察に見つけられては困ります」
「はぁ」
「DIYは得意ですか?」
なるほど。彼の言いたいことをこの場にいる全員が理解した。とりあえず、俺が起こした問題事だ。面倒な役目はすべて俺が受け入れるつもりである。
俺はいよいよ殺人犯となってしまった。≪悪魔の脳≫によって引き起こされる最も最悪な展開。目の前でピクリとも動かなくなった詩奈の顔は、うつ伏せで見ることもできない。いや、それでいい。彼女の痛みに苦しんだ顔を目に映せば、俺はもっと気が狂いそうになるだろう。
「お、お兄……?」
ハッと俺は我に返った。いつの間にか学校から帰宅した茜が2階に上がって来ていたのだ。
彼女は廊下に転がった詩奈と床に広がった血を識別するや否や、腰を砕かせて尻餅をついた。
「あっ……! あっ……!」
声にもならない叫びとはこういうことを言うのだろう。俺は妹のそんな姿を見て、どうにも兄として冷静にならなければいけないと思った。お陰でパニック状態は抑えられ、静穏にこの状況に対応することができる。
「最悪なところを見させてゴメンな、茜」
「お、お兄が……やったの?」
「ああ。俺がやった。言い訳はできない」
「してよ!」
「へ?」
「言い訳してよ! その女に脅されていたんでしょ! その女がお兄を苦しめていたんでしょ!」
「あ、ああ」
「だったらお兄は全然悪くないっ! 悪くないよ!」
涙して語気を強めた茜の言葉は俺の胸をチクチクと痛めつけ、同時に熱いものに変わっていった。
帰宅したお袋がこの状況を見たとき、恐らく失神するだろうと思った俺だったが、その予想はものの見事に外してみせる。子がピンチのときの母親というものは、えらく強くて逞しい存在になるようだ。
「選択肢が出たんだね?」
「うん」
「それなら仕方がないよ。俊介は何一つ悪くない」
「お母さん、警察に通報する気? お兄、何も悪くないんだよ?」
「するわけないでしょ。ちょっと待って、お父さんに連絡を入れるから」
そういったお袋は、仕事中の親父へと電話を繋げる。2人の会話を聞こうとは思わなかった。親父がどういう反応をするのか気にならないわけではないが、俺の今の気持ちは申し訳なさで一杯なのだ。
「お袋、俺も電話をしてきていいか?」
「誰によ」
「長谷川先生に」
お袋は了解と言わんばかりに、小刻みに頭を縦に振った。俺は自室のベッドに腰を掛けて、スマートフォンから長谷川先生の名前をタップする。電話をかける手前、俺は一瞬の不安が過ぎった。
俺が殺人を犯したと聞いたら、長谷川先生は警察に通報するのだろうか? それとも――。
そんな不安を一蹴するかのように、電話のコールは途絶えることがなかった。
(それもそうか。まだ、昼下がりなのだし診察に勤しんでいるはずだ)
「お父さん、仕事を切り上げて帰ってくるって」
「あ、うん。わかった」
するとすぐに長谷川先生からの折り返し電話がやってくる。
『すまない。今、ちょうど仕事を終えたばかりだ』
「あれ、仕事では?」
『おや、知らなかったかい? 休みを返上して週に1日だけ講演日にあてているんだ。私はジッとしていられない質だからね』
たまたま本業が休みという奇遇が、長谷川先生にとって不運になってしまうのではないかと俺は言い淀んだ。
『どうしたんだい? なにか良くないことがあったようだね』
「……た。俺、人を……殺しちゃった……!」
俺の声はきっと震えていただろう。先生に告白することで、なんだか俺の不安が同時に発散されてしまったようで、涙が溢れ出てくるのだった。
『それはとても辛かったね。警察やご家族には?』
「今、家族と一緒にいます。警察にはまだ……」
『うん、警察にはまだ通報しないでおこう。私も急いでそちらに向かう。それまで、何もしちゃいけないよ。遺体にも触れないように』
「はい……」
『1時間ほどで到着する。くれぐれも何もしないように』
▽
「頭部への外傷が幾度もあった場合、間違いなく殺人を考えます。つまり、彼女を事故に見せかけるのは不可能に近いことになります」
親父も合流した夕刻。長谷川先生は場慣れしているかのようにえらく冷静であった。俺を含めた家族はそんな彼の判断に委ねることにする。
「息子は捕まるのでしょうか?」
「このままでは。意思が働いていないと裁判で出張したところで、警察の管理下にある精神病院に送られるでしょう。正直、薬漬けにさせられて無理矢理大人しくさせられるので、普通の収容所に送られることをお勧めします」
そんな……。
俺の声でもあり、家族の声でもあった。長谷川先生の言葉は、今までの人生のどの言葉よりも冷たく棘があるように感じた。まあ、人殺しを見る目なんてものはそんなものなのかもしれない。
「今、俊介君が捕まらない方法は1つしかありません」
「なんでもします、先生! だから、教えてくださいっ!」お袋は縋った。
先生は俺や親父、それに茜に『聞く覚悟はあるか?』と視線を向けてきたような気がした。俺は思わずコクリと首を縦に振る。
「隠蔽をします」
なんとなくそうではないかと思ったが、実際に口に出されると、胸に重石を投げられたような痛みと重みを感じる。
「まずは隠せるものと隠せないものの判断をします。たとえば、彼女がこの家にやって来たという事実は隠せません。彼女が行方不明になってからの日にちを辿れば、必ず監視カメラやドライブレコーダーといったもので姿を捉えられているので」
親父はすかさず質問を投げる。
「彼女の足取りが此処で消えたと知った警察が我々を野放しにしてくれますかね?」
「そこです。足取りが消えないようにすればいいんです」
「というと?」
「茜さんでしたっけ?」
額に手を添え覆っていた茜がハッとして顔を上げる。先生は片手の指を全部使ってクイッと上げる。『立って』の合図だ。茜はそれに従って立ち上がる。
「やっぱり。彼女とスタイルがとても似ている」
「私がその女の人に扮装すればいいってことですか?」
「利口な方ですね。嫌かもしれませんが、すうすることで警察の目を欺けるかもしれません。お兄さんのために協力してくれますか?」
「……はい」
先生は茜から承認をもらうと、うつ伏せの死体となった詩奈の服を脱がせにかかった。
「黒色のTシャツで助かります。それに紺色のジーンズにも感謝をしなくては。お母さん、これを洗って乾かしてください」
「それを茜に着させるのですか?」
「もちろん」
「乾かしている間に日が暮れます。怪しまれないですか?」
「この家は子供が恋人を泊めることに寛容。お父さん、それでいいですね?」
つまり詩奈と俺は付き合っている設定で、寝泊りする関係になったと。先生に下着までも取り外された詩奈が滑稽だった。ほんの少し前まで俺に脅しを入れていた彼女が、今は好き勝手にされている。俺は全裸の詩奈から目を逸らした。
「えーと、下着もですか?」さすがに茜も口を歪ませる。
「いえ、必要ありません。ただ、血痕の付着を誤魔化し切れなさそうなので、細かく切って燃やします」
ホッと胸を撫でおろした茜。やはり他人の下着を身に付けるのに男性も女性も抵抗があるようだ。
長谷川は詩奈のバッグから財布を抜き取り、免許証を確認する。住所が大学近くの女子寮だということを認めると、彼は順調に事が進んでいるかのように、コクコクと頷いた。
「それで彼女の遺体はどうすれば」
お袋はすぐにでも詩奈を視界から消して、不安を取り除かせたいようだ。当然、俺を含め親父も茜も同じ気持ちである。
「詩奈さんが行方不明になったと判断されるまでに数日はかかるでしょう。その間に遺体の処分をしますが、それは此方に任せて頂いても?」
「も、もちろんです。先生にそこまでして頂いて、なんと御礼すればいいのやら」
親父は長谷川先生の手を握って深く頭を下げた。
(俺の気持ちも同じだよ、親父)
彼にも新たな研究として俺を助ける利害があるのだろうが、それでも殺人の隠蔽だなんてリスクが重いに決まっている。何故、彼がそこまでやってくれるのか皆目見当もつかないが、今は彼の助けが救いである。
「万一、ルミノール反応で此処に広がった血液を警察に見つけられては困ります」
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