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第四章
第八話 命の宿る水-1
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雑多なビル街の路地裏。汚い町のさらに汚れた場所。思春期の男子高生がベッドの下に猥本や精液で糊付けされたティッシュを隠すように、大人は路地裏に見られたくない物を押し込める。
ここでは吐瀉物も、酔いつぶれた人間も、風景によく馴染む。むしろそれらがないと味気ない。
青いポリバケツに入りきらなかった生ごみは、鴉に突かれ散乱している。
鶴井は、ブラッシングしたばかりの革靴で、生ごみの上に広がる吐瀉物を厭わず踏む。
路地裏は静かだ。鴉がビニール袋の上に乗るだけの音がやけに鮮明に聞こえる。
路地裏に人工的な匂いはない。あるのは、油や生ごみなどが放つ腐りかけの臭いだけ。
コンクリートで固められた都会の、唯一の自然はここだった。
鶴井は便所用モップや雑巾が突っ込まれたバケツに目を留めた。雨水を溜めたそれにヤモリの死体が浮かんでおり、約六ミリほどのボウフラが各々死体の肉を突いている。ボウフラが体を激しくくねらせながら餌を求める姿が、自ら足を開き悦んでいたセラピストの姿と重なった。
「ふむ。欲しいな、これ」
誰の所有物か分からなかったので、鶴井は地面に一万円札を落としてバケツを拝借した。経験上、ボウフラの相場はその程度だろうと判断した。
事務所の扉を開けた途端、男の叫び声が鶴井の耳を突き抜けた。あまりのうるさい声に、鶴井は耳の穴に小指を差し込む。
手足を縛られ四つん這いになった男の尻の中には、陰茎を模した道具がぐっぽりと収まっている。尿道バイブの振動に合わせて尻を振っているのが、跳ねている腐った桃のようで面白い。鶴井は跳ねている桃をスマホで動画を撮った。
「僕が外出している間に、随分慣れてきたようですねえ」
目隠しをされた男は、声をかけられてやっと鶴井が帰って来たことに気付いたようだった。
「抜いてくれっ! 頼むっ! 頼むっ!」
「どうしてですか? 気持ちよさそうにしてるではありませんか」
ディルドを出し入れすると、男は野太い声を上げた。
「あああああ。あうっ。うああ。んあ。んあ。あん。あん」
「ううむ。そんなに悦ばれたらやり甲斐がありませんね。嫌がると思っていたのに。残念だ」
しかしその男は、目隠しの下で泣いているようだった。歯が砕けそうなほど食いしばり、悪態と罵声を吐き散らす。初対面の男に全裸にされ、肛門と尿道に異物を差し込まれたことが余程屈辱的だったようだ。
「覚えとけよお前っ……! あとでぶっ殺すからなあんあんあん」
鶴井は煙草に火を点けた。こうして見ると、男の尻も女の尻とさほど変わらない。どちらも黒ずんだ肛門のまわりに毛が生えているが、奥に繋がる内臓は艶やかな臙脂色をしていて割と悪くない。
「どうです? 内臓を抉られる気分は」
気持ち悪い。痛い。内臓が損傷するから止めてくれ。男がそう叫びながら屁をこいたものだから、鶴井は腹を抱えて笑った。
ここでは吐瀉物も、酔いつぶれた人間も、風景によく馴染む。むしろそれらがないと味気ない。
青いポリバケツに入りきらなかった生ごみは、鴉に突かれ散乱している。
鶴井は、ブラッシングしたばかりの革靴で、生ごみの上に広がる吐瀉物を厭わず踏む。
路地裏は静かだ。鴉がビニール袋の上に乗るだけの音がやけに鮮明に聞こえる。
路地裏に人工的な匂いはない。あるのは、油や生ごみなどが放つ腐りかけの臭いだけ。
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「ふむ。欲しいな、これ」
誰の所有物か分からなかったので、鶴井は地面に一万円札を落としてバケツを拝借した。経験上、ボウフラの相場はその程度だろうと判断した。
事務所の扉を開けた途端、男の叫び声が鶴井の耳を突き抜けた。あまりのうるさい声に、鶴井は耳の穴に小指を差し込む。
手足を縛られ四つん這いになった男の尻の中には、陰茎を模した道具がぐっぽりと収まっている。尿道バイブの振動に合わせて尻を振っているのが、跳ねている腐った桃のようで面白い。鶴井は跳ねている桃をスマホで動画を撮った。
「僕が外出している間に、随分慣れてきたようですねえ」
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「抜いてくれっ! 頼むっ! 頼むっ!」
「どうしてですか? 気持ちよさそうにしてるではありませんか」
ディルドを出し入れすると、男は野太い声を上げた。
「あああああ。あうっ。うああ。んあ。んあ。あん。あん」
「ううむ。そんなに悦ばれたらやり甲斐がありませんね。嫌がると思っていたのに。残念だ」
しかしその男は、目隠しの下で泣いているようだった。歯が砕けそうなほど食いしばり、悪態と罵声を吐き散らす。初対面の男に全裸にされ、肛門と尿道に異物を差し込まれたことが余程屈辱的だったようだ。
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