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第二章 カケラの切手と不思議な壺

43 知識と情報の集まる星『木星』

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 木星上空。


 土星から、ターミナルを使って木星へと着いた。

 本当はそのまま飛んできても到着時間は同じだったが、食糧温存のためレンタカーを利用した。ちなみに、ターミナルの受付は人間ではなく、ロボットだった。

 その時の会話が、


「木星行きはこちら?」

「はい、こちらです。搭乗手続きをお願いします。爆発します」

「えっと、はい、これでいい?」

「確認しました。順番が来たら車に乗ってシートベルトを閉めてください。車内のスイッチを押したら射出されます。爆発します」

「あ、爆発は勘弁してね」


 とこんな感じだった。土星のロボットの口癖は「爆発します」だったようだ。

 私は土星での出来事を思い出しながら、木星全体を見ることのできる位置で宇宙遊泳をしながら眺めている。


「この星もまた大きいんだよね。あの縞々、もしかして木星も?」

「(うん、ほとんど水素だよ……あ、土星もだったけど、アンモニアも含まれていたかも!)」

「…………」


 夢羽は声にならない声を出しながら、ガタガタ震えている。


「次からガスマスク用意しよ……」

「(そうだね。私もあの臭いはきつい)」


 そう言いながら、ちょっとずつ木星に近づく。


「あの縞々って、なに?」

「(雲だね。あれは気流によってできるみたい。あの白い所は風速もすごいしアンモニアも濃いみたい。避けた方がいいね)」


 木星は茶色の層と白色の層があるみたいだ。専門的な事が頭に浮かんできたがスルーする。


「(赤道付近は避けて、北側の茶色の所に入ろうか)」

「なんで白じゃない?」

「白い所は寒いみたい、色々と凍っているそうだよ」

「じゃあ茶色ねー」


 そう言い、私は木星に向けて降下を始めた。


---


 木星内部。


 夢の世界に入る前の、現世の木星はめちゃくちゃ過酷な環境で、茶色のベルトに入ったが、暑いし風は強いし臭いしでとにかくヤバい。

 土星での降下中にも感じたが、何かが身体全体を包み込むように守ってくれている気がする。その間、飛んでいる感覚がなく、落ちているという感じがした。翼が私を守ってくれているのかな?

 そんなことを思いながらどんどん降下していくと、雲が晴れ、どこから太陽の光が入ってきているのかと言いたいくらい、快晴の空が見えた。


「やっと抜けた! 次に、木星と土星に入る時はガスマスクつけるさぁ……」

「(それがいいね。私達は、現世の事象で病気になることはないけど、念のためにやっておいて損はないね)」


 私は見下ろした。木星の夢の世界は樹海という感じで、全てが『木』だった。背丈の高い木々が色んな物を隠しているという印象を受けた。


「すごいね。全部緑! 目に優しい感じで、とても綺麗やっさねー


 私は景色を堪能しながら、木星にあるという大図書館を探した。

 一面緑で、建物らしきものは一切無い。大図書館と言われるくらいだから、木々より高いイメージがある。だが、見つからないと言う事は低いのかもしれない。私は、まさかなと思いながら更に降下し、樹海の中へ入った。

 そこには、高さはないが、横にとても広い建物があった。建物で地平線ができるくらい広い。


「何このしにとっても広い建物。もしかして大図書館?」

「(どうなんだろう? ルイさんに聞いてみたらどう?)」

「そうね!」


 そう言い、カバンの中から端末を取り出し、ルイに電話をした。


「はい、ムウさん。どうしましたか?」


 休みなのに、すぐに取ってくれた。


「お休みの所ごめんね」

「いえ、大丈夫ですよ」

「今木星にいるんだけど、地平線ができるほどしにとっても広い建物があるの。これって大図書館?」

「木星にいらっしゃるんですね。そうです、それが大図書館で、局員の通称大迷宮図書館と言われています。入り口は……正直の所、案内が1番難しいです。壁伝いで探すしかないですね」

「わかった! 探してみるねー。ありがとうー」

「いえいえ。気をつけていってらっしゃいませ」


 そう言い、通信が切れた。


「さて、壁伝いね。あの木が生えている部分からは入れないのかな?」


 私は所々建物を貫通して生えている木の内の、1本の近くに行った。

 木は建物を貫通しているというより、元々そこにあった所に建物を建てたようで、木をガラスで囲って中庭にした感じになっていた。本は日光に気をつけないといけないけど、この樹海だとその心配も無さそうだ。


「扉は無さそうだね。手入れとかはしてないのかもね」


 私は再び飛翔し、建物の端を目指した。

 平坦で、とても広くて大きい。それだけの蔵書があるのだろうか。

 しばらく飛んでいると、ようやく建物の端を見つけることができた。

 私はその端の部分に近づく。予想通り、ただの壁だった。壁を見た感じ、窓らしきものは一切無い感じがした。

 その壁を伝い、どんどん奥へと進んだ。

 進んでて気づいたことは、この樹海にはたくさんの生き物が住んでいそうという点だ。生物の痕跡が至る所に残されている。食べられるか知らないが、木星近辺の夢の星で食糧難になったら、ここで狩りをするのも一つの手かなと思う。


「あ、扉だ」


 壁に大きな観音開きの扉がぽつんとあった。扉の前には道などは一切無い。

 私はその扉の前に立つ。


「入るよ」

「(うん)」


 私は扉を引いて開けようとしたが開かなかったので押した。


---


 扉はギイギイと鳴りながら開いていく。少しずつ中の様子が見えてくる。

 身体1つが通れるくらい開いた後、目の前に図書館とは思えない広いロビーが姿を現した。スタッフなどがいるのかと思ったが、誰もいなかった。


「うわー! でぇじとてもすごい!」

「(ホテルみたいだね)」


 周囲を見渡していると、案内板のような物を見つけた。私はそれに近づく。


「広いね! それに、ルイが言ってた通り大迷宮やっさ!」

「(地図があるから親切だね。あ、右下にコードがあるね! あれをカメラで読み込んでみてー)」


 私は端末をカバンから取り出し、コードを読み取った。端末の画面がゴーグルに表示されたが、飛んでいないのでゴーグルを外した。


「あれ? 案内板はいいの?」

「(うん、飛んでないからね。とりあえずあの樹に向かってみようか)」


 通路になっている所は、木の人形のようなものが本をたくさん積んで運んでいる。

 よくよく見ると、何かを呟いている木の人形がたくさんいる。人間の姿は見えない。


 私はそんなことを思いながら、巨木の幹が見える位置まで歩いてきた。

 木漏れ日が少しだけ館内に入ってきているようだが、当たる所には本棚が設置されていなかった。

 そして今気づいたが、日光の動く速度が速い気がする。これはおそらく、木星の自転が速いからじゃないかなと思う。たしか、1日が10時間だったので、単純に考えると5時間だけしか日が当たらないということになる。


「(木星の夜か……。環境がどうなるかわからないから、早めに木の女神に会おう)」


 そんなことを思いながら、目的地にした巨木の近くに着いた。


「(何かあるかなーって思ったけど、何も無いね)」

「あれ? 風羽もわからないの? てっきりわかっていたものだと思ってた」

「(いや、私もわからないよ。んー……そこの木の人形に聞いてみようか)」


 そう言い、本を運んでいる木の人形に話しかけた。


「こんにちは。木の女神はどこにいるの?」

「こんにちはお客様。女神様は司書室にいます。司書室への行き方は、案内板をご覧下さい。現在の湿度は30%です」


 そう言い、木の人形は本を持ちながら丁寧にお辞儀をし、どこかへ去った。

 なぜか湿度まで教えてくれた。


「(もしかして呟いているのって現在の湿度なのかな? たしかに本の保存には重要よね)」


 私はうーんと唸る。


「案内板ね。端末で見れたよね」

「うん、そうね」


 私はカバンから端末を取り出し、さっきスキャンしたコードの画面を開く。

 すると、案内板の画像が表示された。名前一覧の中から司書室を探した。


「あったね。名前の横に紋章があるけど、なんだろう?」


 地図にもいくつか同じ紋章が描かれている。


「なんだろね? うーん……この案内板には司書室は載ってないね。あ! 案内板がこっちにもあるみたい!」


 地図の上の部分に別の案内板があるようだ。現在地から次の案内板までそんなに遠くはなかったので、あっという間に着いた。


「こっちにもコードがあるね。スキャンしておく」

「(うん。最初にスキャンした画像と繋げてみるよ)」


 ささっと操作し、2つの画像が1つになった。


「ここにも司書室はないね」

「(そうだね。でも別の案内板があるみたい。とりあえずそこに向かおう)」

「りょーかい」


 私は次の案内板のある所へと向かった。
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